ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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事態は動く。


正論

『甘露』

 

 そのようなものではなかったと、自分のベッドの上で体育座りの姿勢でいたリアスは思い出した。目は赤く腫れ上がって虚ろ、冥界にいた頃に、サイラオーグに比され始めた頃の方がまだマシな状態であるが、少しづつ光が戻っていた。

 

 何度考えても結論は同じ、先日の件で自分の劣等感を煽っていたサイラオーグにシオンにした事をほぼ見抜かれた羞恥からすら気を紛らわせてくれる程、シオンが与えてくれたものはリアスにとって魔魅に満ちていたのだ。

 

 羞恥の概念を知らないでいた原初の男女が禁断の果実を食べた後にそれを覚えたと聞いた。

 

 烏滸がましいが、それは正に自分の事なのではないか?と、思ってはいた。

 

 恥も外聞も知性も良識無く、ただ味合わされたそれをありったけ甘受して掴み取ったものと知識を我欲のままに施行して、リアスは手に入れた。

 

 その気になれば、シオンを自分だけの愛玩人形で動物にまで出来る存在に作り替えた。

 

 禁断の果実を食べた弊害はどうなるか?

 

 恐らく、以前のままなら楽なのだろう。

 

 あくまで、リアスは手に入れた側なのだ。

 

 寧ろ、苦しむのは彼なのだ。天界に住む天上人の如く至宝の才覚を持った少年は本来、天界の危険に数えられる事とは無縁の事態に陥ったのだ。

 

『地獄界・修羅界・人界』

 

 天界とは、それ等のどこにでも落ちる危険も孕む世界ではある。だが、彼を苦界に落としたのは世界の理では無く、自分と言う愚者であったのだとリアスは震えていた。

 

(・・・・私は、いずれ報いは受けるわ、ただ出来ればシオンは・・・・シオン、だけ・・・・は)

 

 

 

 

 

 

 

「リアスは、まだ自室ですか?」

 

「はい、アーシアさんが絶対に入らないで下さいと頼んで来てましてね、尤も?そろそろ目の前の危機に動き出さないとなりませんがね」

 

「・・・・」

 

 リアスの自宅の居間に、朱乃、ビナー、アーシアが集まっていた。サイラオーグとの一件で漸くふさがり掛けた傷口が開いてしまったようになったリアス、そのリアスが以前のように暴走してしまわないか迄の危惧を抱いた者は関係者には多かったが、確かに今は先日にイリナ達から聞いた事態への対処が先だ。

 

「ビナー様、私なりに貴女に聞きたい事があります。貴女はどこまで把握しているのです?」

 

「そうですね、仮にリアス様が女性ではなかったとしたら、サイラオーグ・バアル様の拳による制裁を受けていたと言える程度」

 

 朱乃の質問にビナーからの率直過ぎる返答が来て、二人の表情は青ざめた。聞かされただけでも、あの獅子王の拳がどれだけの驚異かの想像は出来ているつもりだ。直撃を受けて無事にいられる者が若手にいるとは思えないのだ。

 

「加えて、シオン君が何か隠している」

 

「シ、シオンさんはそんな風に言われる事はしていません!!」

 

 たまらず叫ぶアーシアだが、ビナーはあくまで冷静だ。

 

「アーシアさん?私はシオン君に悪意があっての事とは言ってはいませんよ、善意で動けば良い結果になるとは限りません、それは貴女が一番思い知っているでしょう?」

 

「・・・・っ」

 

 アーシアは反論出来なくなった。例の悪魔に騙された自分の愚かさを知らされたのは、今月の事だ。

 

「良いですか?貴女達は例えば以前までのシオン君だけを頼るような在り方でいてはリアス様の件が無くても将来苦労します。自分なりに考えてみる事から始めなさい」

 

 ビナーは正論でアーシアを諭すように言い聞かせていた。掴み所が無いが、少なくとも言う事は真摯に受け入れるべきだと学園にいる悪魔達は認識していた。

 

「で、でも・・・・教会の中でばかり過ごして、最近漸く外の世界を見る事になったばかりの私が考えただけでも、今回の聖剣の件は堕天使の幹部が動いてるような事態では、例えシオンさんが最近は皆さんが言うようにどこかおかしい状態ではないとしても・・・・」

 

「ああ、そこに気付けるのは結構な事ですよ?素直に自分達の現状と敵の戦力を想像しての不安要素を受け入れられるのは悪い事ではありません、安心なさいとは言いませんが、何故グレイフィアお姉様と互角と言われた私がこの場に居るかも考えなさい、冥界も決して事態を甘く見てはいません」

 

 まるで生徒の良いところは公正に誉め、不安な点は包み隠さず答えてあげる教師のような振る舞いだと朱乃は思っていた。実際にこの女性と自分達は学校に通い始めた生徒と教師程度ではない差があるのだ。

 

 

 

 

 その頃、レイナーレの喫茶店では?

 

 

 

 

「随分と殺意が顔に出てるわねえ?私が疑わしいのはわかるけど、どの道コカビエルなんかが動いてるからには単独で動いてられる事態じゃないんじゃないのかしら、木場祐斗?」

 

 レイナーレはカウンター越しに向き合っている佑斗に歯に衣を着せない言い分で語った。例の聖剣で堕天使が絡んでるのは聞いたが、自分に関係無いなんて言った程度で引く程に甘い事態ではないのだろう、レイナーレは自分が姫島朱乃のように付き合いが長い訳では無いので、堕天使絡みで疑われないような身の上ではないと理解はしていたが、シオンの事以外は面倒くさいと言う考えしかないのだ。

 

「君は、本当にこの件は関係無いと言えるのかい?」

 

「当然、私はそもそも聖剣以前に赤龍帝絡みのウダウダで何故か上手く探りを入れられるかもしれないって美味しい立場になった身よ?余程のバカでもなければ私に何かしらの指令は出さないわよ、尤も?余程のバカばっかってオチがありそうなのが悩み所なのよねえ?」

 

 投げやりだが一理あるし、万が一が有り得るのを正直に語る言い分だった。これでは突破口が無い、それでも何か言いたそうな木場佑斗にレイナーレは予め用意していた手段を使う。

 

「はい、これ」

 

「メモ?この住所は?」

 

「サイラオーグ・バアルが滞在してる場よ、早くしないと、バアルの上層部絡みとかで帰ってしまうかもしれないわよ?まさか、勝算より私怨が大事なんて言わないでしょうね?」

 

「それは・・・・でも、何故?」

 

「私の偽装作戦のお相手には長生きして欲しいからよ、奢ってあげるからコーヒーを一杯飲む間に決めなさい」

 

 遠回しだが?

 

『私はシオン君が無事なら他はどうでも良いけど?貴方達だけじゃ不安だから、戦うならサイラオーグさんと組んで戦いなさい』

 

 そう告げていると祐斗は理解した。レイナーレが出してくれたコーヒーを飲んで決断を下した。仮にグレモリーやシトリー眷属達と合流したとしても自分達から見たリアスやシオンの状態を考えに入れて必然的に導き出される手段を。




徐々に決戦迄の段階って感じにはなったかなあ?

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