ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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語り方は肝心。


語り方と聞こえ方

『奪われてしまっている』

 

 イングヴィルドの悲痛な叫びが響くが、直ぐに理解は出来ない流れだ。最初に心当たりが浮かんだ小猫から質問が発せられた。

 

「『奪われてしまっている』ですか?それが最近のシオン先輩の不調に関係しているのですか?」

 

「不調?」

 

「どう言う事だ?」

 

 事情をまだ知らない二人に小猫はシオンの顔を見て、別に構わないと言ってもらえたような気配を感じて説明を始めた。

 

「先輩の戦闘力は、実際に少し目の当たりにしただけの私達からしても驚異的でした。ですが、グレモリー眷属になってから・・・・先輩は、佑斗先輩に言わせたら病人の動きになっています。私達より先輩と付き合いが長いシトリー眷属の皆さんもそのように見ています。先輩にも自覚はあるでしょう?」

 

 四者の目がシオンに向かう、イングヴィルド以外は先日にサイラオーグがシオンを間近で見て何に気付いたかわからないが、少なくともリアスに怒気を露にするに足るものを感じたと目の当たりにしている。そして、先程のイングヴィルドの恐るべき内容な物言いだ。もう躊躇してはならない。シオンに真っ向から真相を聞かねばならないと全員が判断した。

 

「シオン、お願い・・・・私、もう我慢出来ないよ・・あの夜に、リアス・グレモリーの眷属になって、帰って来た・・あの日に、何が起きたのかを教えて、よ・・・・」

 

 イングヴィルドは涙を流しながらシオンに懇願した。あの日以来・・・・ひたすら泣くのを堪えていたのだ。

 

「それは、だな・・・・」

 

「シオン君!言いなさい!イングヴィルドさんは心から心配してるのがわかるでしょ!?それに、幾らシオン君が強くても聞いた限り、そんな状態で?いきなりコカビエルとかが襲って来る事態とかになったら危険よ!?先ずは自分と周りの安全が優先よ!皆の不安を少しでも和らげてあげる為にも言うべきよ!知らないよりはマシかもしれないでしょう!?」

 

 イリナの正論であり真剣な叱責とも言うべき物言いにシオンは一息置いて『一部を除いて』あの夜に起きた事を語り始めた。

 

「わかった。話せるだけの事を言う・・・・搭城以外は知らなかったが、何故かリアス部長が学園で暴走してな、俺はそれを止める為に戦った」

 

 そして、居合わせた者達が疑問に思っている事を話し始めた。リアスに突貫して勢い余り、後方の校舎の裏側の桜の木にリアスを叩き付けた後に自分が始めた事を・・・・一部と自分が把握出来ていない事を『無意識に』除く形で。

 

「居合わせた何名かは予感はしてただろ?あの時、部長は荷が勝ちすぎる力を使ってしまってた。現に自壊寸前だった。不可抗力を含めてだな?部長を助けつつ正気に戻す為にやむ無く俺はある意味で掟破りを使ってしまったんだ」

 

「掟破り?何だそれは?」

 

「我流だらけだが・・・輸魂法だ」

 

「ゆ、輸魂法・・・・せ、先輩は・・・・部長の為に自分の魂を分け与えたんですか?」

 

 たまたまであるが、知識はあった小猫が真っ先に恐る恐る訪ねてシオンは頷いて肯定した。

 

「え?な、何それ?」

 

「魂・・・・」

 

「そ、それが理由ですか?本来なら輸魂法の代償は何年もの眠りから何もかもが退化してしまう等と様々です」

 

「ああ、我流だらけだからあくまで身体の修復程度な代物なハズだが?状況含めて術のやり方が不味かったのか噛み合わせが悪かったのか、搭城の言うような代償が出る限界寸前まで吸われるような羽目になって、このザマってワケだ。要は死にかけたが、部長が咄嗟に悪魔の駒を使ってくれて最悪の事態は免れた」

 

 あくまで、シオンの視点から一部、何故かリアスに左胸を貫かれて心臓を奪われた。リアスが自分の意識を飛ばしてしまった何か・・・・把握してない何かを無意識に除いての事だから、話せるだけと言う事に偽りは無かった。

 

 そして、聞いていた側には衝撃的だった。シオンがそのような術を使ってしまった事・・・・小猫からしたら、リアスがあのような形でひたすら謝罪していた理由としては納得出来た。恐らくリアスは自分を救ってくれた相手に掛けさせてしまった代償が大き過ぎた罪悪感に苦しんでいると、一部正解の結論を暫定的に出した。

 

 何より、四人はシオンが嘘を言っていないとわかっていた・・・・そう、シオンは嘘は言っていない。

 

「な、成る程ね・・・・ま、まあシオン君らしいわね?昔から人が良くて、貧乏くじ引いちゃう傾向だったから」

 

「いや、聞くところによると?昔とやらのは、お前が原因だろ?」

 

「な、何よ・・・・っ、もう・・・・」

 

 一応は納得したイリナはどうにか気分を前向きにしようとしていた。疑念の一部が解消はしたのだが、内容が内容なのでまだギクシャクしている。

 

「まあ、納得はしました。大分疑問は溶けましたから」

 

 小猫の言うように、確かにシオンの話した事で、当面の疑問は大分解けた・・・・だが?

 

 インクヴィルドは他と違って、先程とは違う重々しい空気を醸し出していた。

 

「?イングヴィルド、どうしたんだ」

 

「シオン・・・・つまり、私の考えが正しければだけど・・・・シオンは・・・・リアス・グレモリーに?『キス』したの?」

 

 ピシッと空気が張り詰めた。

 

「ああ、部長には申し訳なかったが・・・・だが、何故わかったんだ?」

 

「輸魂法は簡単にやるにはそれが一番に数えられるけど、相手次第では?例えば相手が我欲が強すぎたりすると死ぬまで吸われ尽くしてしまうって聞いた事があるの」

 

 事も無げに答えるシオンに、悲痛さを交えた解説をするイングヴィルド・・・・イリナ達の側もこみ上げたものが漏れ始めた。

 

「ふ、ふふふふ・・・・っ!不潔!不潔、不潔!不潔よおおっ!!」

 

「あ、あの・・・・本来なら?最低です。なんですが、非常時だったのですし」

 

「な、何よ!聞いてみたら?リアス・グレモリーを出来るだけ無事に助けようとしたからそうなったんでしょ?別に五体満足で助けなきゃならないワケじゃなかったじゃないの!?」

 

 イリナと小猫が自分なりの感想を述べるが?

 

「まあ、エチケット?とやらに反してたもので部長には悪かったから、もっと上手いやり方を学んでおくべきだったよなあ」

 

 シオンはまるで意に介していない、更なる暴発の予感にゼノヴィアは待ったを掛けた。

 

「ま、まあまあ待て!非常時とやらだ。さしずめ?人口呼吸と同じような展開だろう?」

 

「まあ、お前達からしたら他の勢力で?知らないか場合によっては敵なのが勝手に無茶な迷惑行為を始めて自滅しかけだけだったんだから、本当に自滅しても自業自得って程度な考えなのはわかる。だが、そういう考えばかりだと視野が狭くなっちまうぞ?」

 

 一番真っ当かもしれないゼノヴィアに比すると、毒舌だが中立寄りな考えから二人を諭そうとするシオン、あくまでリアスは自分の知人にいらぬ負荷を掛けた迷惑娘でしかないのだろうと、赤点ギリギリか否かの物言い・・・・しかし?

 

「わ、私の・・・・計画・・・・」

 

「うくくく、クリスマスとかとかにロマンチックにって・・・・」

 

 何を口走ってるかわからないシオンと、付き合いが長いイリナにそのイリナと同じ想いをシオンに抱いているであろうイングヴィルドな程度は自分なりにわかっているゼノヴィアは、脳筋と呼ばれる自分よりヒドいかもしれない朴念仁振りを見せるシオンに呆れるが、冷静に考えれば先程に説明されたように、リアスを無事に元に戻そうとしたのは木場と言う自分が傷つけられても主を気遣う騎士の気持ちを組んで無茶をしたり、この場に眷属の一名がいる事を考えて、自分なりに話しをまとめようとする人の良さには好感を抱いたのだった。

 

 

 

 

 

 

(・・・・やれやれ、相も変わらず運が良いのか悪いのか・・・・知らぬがなんとやらってとこにせよなあ?)

 

 ドライグからしても、シオンがリアスに心臓を奪われた末の非常手段であるのだが、仮に全てを本当に打ち明けられる状態でも?

 

 せめて、シオンからした暴走したリアスに詳細がわからない術を掛けられて上手く立ち回れなかったくらい言わないでいたらどうなるか?を考えないシオンの落ち度である。

 

 シオンの言い分を知らない者が場を思い浮かべたら、訳有りにせよ取り押さえて?イリナの言うように五体満足で助けられないでも良い理由はある。即ち後でアーシアにリアスのダメージ回復してもらえば良いと機転を利かさずに、いきなり唇を奪ったような言い分だったのである。何が何でも輸魂法を使わなければならない理由が薄いのだ。

 

(・・・・まあ、良い・・・・今回は当面の危機を上手く乗り切るのが先だ。真相を知るには早すぎだしなあ)

 

 ドライグは女達が取り敢えずの結果になっただけで良しにしたが、傍目から見たら気楽すぎるまとめ方とまだまだ続く痴話揉めに溜め息を漏らしていた。




試作を見てもらったら、シオンとリアスの温度差が良く言われたが、それは今までとこれから考えたらな考えが肝。

とにかく、私的な輸魂絡みとイングヴィルドの台詞の一番肝心な部分は次回以降。

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