ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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リアス達の現状から?


ビナーの送り物

 駒王学園の校庭、念入りに外部に騒ぎが漏れないようにした結界が周囲に張られた場、そこでは現在人間界に滞在する者の中での頂上決戦と言える戦いが行われていた。学園内の建物はその余波で大半が崩れ落ちていた。

 

 戦うのは、知る限りの力を遥かに増大させた堕天使の幹部であるコカビエル。

 

 

 

 何と、普通の客人気取りで正面から訪ねて来て最低限の挨拶と言葉を交わした後で邪魔だから死んでもらうと襲い掛かったコカビエルを迎え打ったビナー。

 

 ビナーはコカビエルの光の柱を始めとした攻撃を見事に捌きつつタイミングを図って取り出した剣による攻撃を加えるが、其れをコカビエルも見事に回避する。

 

「はははは!流石に魔王級!しかも、あのビナー・レスザンとはなあ?あの忌まわしい紅髪に嫁いだ尻軽女の身内で瓜二つな女を血祭りに上げられる機会が早目に来るとは嬉しいぞ!」

 

「昼間から何かに酔っ払うのは休日のお酒でも感心しません、酔い醒ましを見舞ってあげます」

 

 姉への罵倒で揺るぐようなビナーではない、そもそもコカビエルが吐いた言葉は今に始まった事ではない、鞍替えした者への言い分はそんなものだ。

 

 後方に控えるリアスもビナーに任せる以外に手が無かった。ギャスパーによる時間停止はギャスパーが先程の悪魔爆弾達のショックから立ち直れていてもタイミング次第では最悪の結果になりかねない、下手に動いては流れ弾だけでも自分達程度では只では済まない、仮にダメージを受けてもアーシアが無事なら回復は出来るのだが、当のアーシアが茫然自失とはいかなくても精神面の揺さぶりを掛けられていたのだ。精神面が大きく作用する神器を扱うには不安定に繋がる。

 

『神は死んでいる』

 

 堂々と乗り込んで来たコカビエルが言い放った事だ。

 

 先の三つ巴の戦いに置いて極秘とされた事、現在の体制で新魔王達が君臨する冥界ですら実際は波風が激しい事を知っている者ならば、神が死んだ後の他の勢力がどうなるかは想像に難しくはない。神を信仰していたアーシアがショックを受けたが? 

 

 敵の言う事を鵜呑みにしないようにする事への注意に関する事と?

 

『そんな事ではまたシオン君にアホと言われますわよ?』

 

 リアスと朱乃がそれを言い聞かせたお陰で立ち直ったが

シオンの名を出したのは失敗だった。

 

『そのシオン君も知っている事だ』

 

 それからコカビエルの続けた言葉は自分達の痛い部分を的確に突き続けた。

 

 そもそも活躍の場が広すぎて、その程度は知っているスポンサーがシオンに付いていても自然な事・・・・これは自分達がシオンに聞き出せてはいない要素の一つだ。真相はまだしも流れ的には充分有り得る。

 

 そんなシオンを何故か眷属にしてしまったのが、シオンとの力の差が有りすぎて不可能と見るべきリアスと言う懐疑的になるべき事実。

 

 そして、眷属にした手段が相当に悪辣なものだったと推測されてもいる現実。

 

 ドライグを除けば下手人である為に唯一真相を知るリアスには覚悟はしたつもりでもギリギリの部分では先日にイリナに問い質された際のように揺るがされてしまうのた・・・・真相は知らなくても特に庇ってくれているアーシアにすらも、それを知られてしまったら?仮にアーシアに自分を打ち倒す程の何かがあるなら即座にそれを向けられているだろう。

 

 内容的には大半が今までの焼き増しだが、アーシアには神の死もそうだが、シオンが隠し事をしていたのは推測出来てもまさか神の死を知っていたかもしれないと言う事はショックがあった。クラスメートとなり何かとシオンと接する機会が多い故の過信が仇となった。ここまでで戦闘力の不足する自分にとっての頼みとしたギャスパーとアーシアが大きく揺さぶりを掛けられて不安定となった。

 

(・・・・私の考えも、決断なんかも、生兵法程度にすらならない・・・・けど、耐えるのよっ・・・・皆を守るのっ!)

 

 まんまとしてやられてしまったリアスは自分なりに現実と向き合うしかない、そう出来るのは既に最悪の過ちを犯してしまった産物である事関連への早まった思考すら厳禁としてビナーとコカビエルの戦いの余波で他の三名を守りながら身構えるしか、今はそれが精一杯である。

 

 だが、今のリアスにはそれと同時に重大な事柄に向き合わなければならない、戦いの余波で自分達がやられないようにする事と同時に?

 

 

『コカビエルが何故単身で乗り込んで来たのか?』

 

 

 リアスには思考と決断が迫られていた。

 

 リアスの苦悩を他所に尚も校内で続く激戦、ビナーの剣でコカビエルの攻撃は悉く阻まれてはいるが、ビナーにはある不安要素があった。言うまでもなく後方で固まっているリアス達である。リアスと朱乃でさえ戦闘の巻き添えだけで命が危ない、まして身体能力が説明不要なギャスパー、癒しの力を持つだけな人間であるアーシアに至っては戦いで生じるだけの気の余波だけでも危険である。ビナーは絶えず後方を守りながら戦わざるを得ないのだ。

 

(コカビエルは、それを知っている・・・・けど、逆を言えば、そこに付け入る隙がある・・・・っ)

 

 そして、再度校庭でコカビエルと戦うビナーが剣を肩に担 ぐ姿勢を取る。それが予め決めていた行動が取り敢えずやれると判断した時の合図である。

 

(き、来た!)

 

 最初の役割担当であるギャスパーは泣きそうな表情をしていたがそのままにしながら内心で意を決していた。

 

(ぼ、僕だって男なんだ!男なんだから!)

 

 そう、どんなに弱くて役立たずでも自分は男なんだと、ありったけの勇気を振り絞りながらギャスパーは行動した。

 

「も、もぅイヤですぅぅぅっ!」

 

 そのままギャスパーは左後方に一目散に走り出した。傍目には恐怖に耐え兼ねての情けない行動、それを嘲笑いながらコカビエルは逃げ出したギャスパーに右手から光の槍を放ったが?

 

「何ぃっ!?」

 

 槍はギャスパーに届く前に消滅していた。見下していた相手への攻撃が無効化される事態には流石に驚愕させられてしまうものだ。

 

 これこそが、リアス達がコカビエルと言うより自分の力にある程度驕るような戦闘狂に分類される性格を考慮した手段、一瞬の隙を生じさせるだけであろうが、それだけで充分、驚愕し、いかなる手段かを考えた程度の隙を突いたビナーの剣がコカビエルに迫った。

 

 回避が間に合わずに残ってた左手を咄嗟にかざして全魔力を込めた防御壁を展開したが、間に合わずに斬り落とされた。その隙にリアス達はギャスパーと合流して、そのままリアスと朱乃から放出された魔力が球体となって四名を覆って砲弾のように校外に飛び出した。

 

 これは、あの日・・・・シオンがリアスの魔力弾に正面から突っ込んだ技を緊急脱出用に応用したものである。リアスと朱乃とて、この短期間に何もしてなかったワケではない。自分達の非力さを実感して、戦いに置いて非力なら非力なりに打てる手段について恥を承知でシオンに教えを受けた。シトリー眷属から聞いたのだが、彼は何故かそういう手段と考えにも精通していたのだ。

 

『虚を突く』

 

『逃げる』

 

 それをやれるか否かで、特に集団戦においては幅が拡がるのだ。

 

 そして、ビナーを交えて今のような事態を想定した手段を幾つも用意した。ギャスパーの身を守ったのも防御用の魔力を込めた宝玉を予め用意して、それを全て渡していたお陰だった。

 

 

 

 

 

 

 校外に脱出したリアス達は周囲に敵がまだいないかを確認して予め定めていたルートに向かっていた。

 

「ギャスパー?」

 

 無効化したと言っても、流石に堕天使の幹部の攻撃に晒されたギャスパーは歩きながら震えていたがリアスはそんなギャスパーを優しく抱き締めた。

 

「ぶ、部長~~っ」

 

「ありがとうっ!お陰で、助かったわ」

 

 そう、この作戦で囮を自分から引き受けたのはギャスパーなのだ。自分の情報を知られてる可能性についてからの流れで、いざと言う時に自分がこうする事を自分から申し出た。

 

「怖かったです!本当に怖かったです!でも良いんですぅぅ・・・・僕、部長の言う人の・・・・」

 

 リアスはギャスパーの肩を押して、泣きそうになりながら首を横に振った。

 

『言わないで』

 

 ギャスパーはリアスが無言でそうお願いしたと理解が出来た。

 

 そう、言っては駄目だ。何処から秘密が漏れるかわからないのだ。

 

 傍目には、リアスは都合良い存在に危ない事を任せて体よく逃げただけだ。

 

 だが、そんな決断を下せるようになれたリアスと自分なりに体を張れたギャスパーの出した結果はどんなに無様であろうとも、当人達には大きな一歩であった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・おのれぇぇ、仮にも現魔王の妹とその下僕共ともあろう者達が何と姑息なっ!!」

 

 校内に残ったビナーとコカビエルの戦いは片腕を失った痛みに耐えるコカビエルが鬼の形相でビナーと向き合って先程の事を毒づくが、それこそがリアス達の策に嵌められた原因である。ギリギリのところでは見栄を張りたがる小娘と踏んでいた事がこのような不覚を取った原因である。

 

「姑息ですか?誉め言葉になってますよ、後退するのも勇気が必要ですからね」

 

 ビナーは剣を構えながら、斬り落とされた腕を拾い脇で抱えたコカビエルを冷ややかに見据える。そう、戦いには時に逃げなければならない時があるのも事実。

 

「さあ、片腕を失くして勝ち目が無くなった側はどうします?今度は貴方が後退する勇気を見せるべきでは?」

 

 ビナーの言葉は正しい、元々地力で勝っていてマトモな戦いなら有利なビナーの重荷になっていたリアス達が無事退却したからには万全でも勝算は低い、コカビエルには引くか否か決断が迫られていたが、コカビエルが取ったのは違うだった。

 

「ふははは!まだ勝負はこれからなのだぞ!ビナー・レスザン?これが何かわかるかな?」

 

 コカビエルは小瓶を取り出して自慢気にビナーに見せつけた。その中身をビナーは正確に看破する。

 

「ほう?『フェニックス家の涙の密造品』ですか」

 

 コカビエルはビナーが『密造品』と知っているのに動揺したのを内心で隠した。答え云々より先ずは治療が先だ。小瓶の中身を振り掛け、たちまち脇に挟んでいた腕が元通りにくっついたのを見届けたビナーは『筋書き』が整ったのを満足し早期に決着を付ける事にした。

 

「ならば、こちらも手札を一枚」

 

「な、何を?」

 

 コカビエルは見た。

 

 目の前の女性が、注意しなければわからない速度でだが?微妙に『身体が縮むと同時に細くなった』・・・・顔の方も面影を残しながらも美女から美少女と変化して行く、そうして全身から赤いオーラを漂わせたと思ったら、今迄のスーツ姿ではなくなって紅いマントを羽織り、紅い龍を思わせるような趣向が施された仮面が装着されていた。

 

「さあ、覚悟は宜しいですね?」

 

 ビナーが一声掛けた次の瞬間、予備動作無しで懐に接近したビナーは身体の捻りのみの左ショートアッパーを脇腹に見舞って肋骨を三本へし折り、崩れ落ちたところを次は顎へのアッパーで粉砕しつつ体を宙に打ち上げた。

 

「~~っ」

 

 悲鳴すら上げられないコカビエルは宙に舞うが、次の瞬間には至近距離からの瞬速拳を無数に放たれて後方に飛ばされてしまう。

 

 そこからは正に一方的な殺戮劇であった。

 

 身体が何故か若返り、仮面とマントを装着したビナー、コカビエルは視認出来ない程の・・・・時折、亜光速に達しているかもしれないだけではなく、緩急を付けながら死角に移動して振るわれるビナーの剣で身体中を斬り刻まれ、一撃で内臓が破裂する程の蹴り、又は頭蓋骨が割れる程の拳を打ち込まれて延々と痛め付けられた。

 

 何とか形勢を変えようとフェニックス家の涙の密造品を使って回復しては再度ビナーに挑むが、同じ流れを繰り返すだけ・・・・最初のを含めて四つも使ってしまって、完全に実力が違う事を認識しつつ涙を使っても残る僅かにダメージに苦しみがらビナーを見据えていた。フェニックス家の涙とて例えば今の自分のように腕を斬り落とされて回復させたとしても即座に余韻が消えるワケではない、実力が近い者との殴り合いで僅かな隙が出来る程度のものが残る。内臓と脳に多大な損傷を受けては直ぐに動けない、何とか突破口をと考えていたが、自分を観察するような視線を仮面越しに感じてコカビエルは思わず叫んだ。

 

「き、貴様!直ぐにトドメを刺さぬのは、もしや『涙の効能』を確認しているのか!?」

 

 先程から涙を使う度にビナーは一先ず攻撃を中断してコカビエルが再度仕掛けるまで動きを止めている。その理由と推測される事への問いにビナーは平然と応えた。

 

「密造品の出来を観察しておきたかったのですよ。ですがそろそろ充分、残っているものは回収させて頂きましょうか」

 

「ふ、ふははは!大したものだなあ?養子とは言え、あのレスザン家の女が?」

 

 背筋が凍るような声色に自分なりに返すが、最悪の選択である。悪意込みで引き取られた家の話題は彼女には厳禁なのだ。

 

「ふふ、誉め言葉に聞こえますよ?では、場違いな演者には退場を願います」

 

 そうして、気付いたら眼前に迫ったビナーがコカビエルの胸辺りを掌を添える程度に触れたと思ったら距離を置いた。何の真似か?と思ったらコカビエルの纏う黒いローブが弾け飛び、一糸纏わぬ姿にされていた。そして、ローブの下に隠していた涙の小瓶八つがビナーの元に飛んで行った。

 

「な、何だと!?わ、私の特注品のローブが?ハッ!?な、涙の小瓶・・・・がっ」

 

 対魔力を強化する等で、かなりの特注品だったローブが四散し、秘蔵の品が奪われるのに気を取られたコカビエルには不意に凶悪な一撃が見舞われた。

 

「~~~っ」

 

 声にならない悲鳴、ビナーの人差し指から発せられた衝撃波がコカビエルの  を撃ち抜いていた。

 

 余談だが?丁度、この時間では何となく人間界のテレビを付けたりすると季節次第で学生野球とやらの金属バットで硬球を打った快音等が響くだろう。

 

 

 『キーン』と。

 

 

 崩れ落ちたコカビエルが本格的にうめき出す前にビナーからの拘束と転送の処置が整って冥界への義理の為の『送り物』にされたコカビエルは社会的な死への旅路に送られた。

 

「失礼、見苦しかったもので?精々拭いようのない恥を堪能して下さいな」

 

 間も無く普段の姿に戻ったビナーはせめて隠すのを優先して欲しかったと思っていた。

 

(・・・・ふむ、これは恐ろしい技ですねぇ?コカビエル自身が消耗してなければ上手くいかなかったかもしれないですね・・・・ですが?『譲渡』無しにしては上出来です)

 

 回収した密造品を眺めながら、在りし日を思い浮かべた。悪魔としては若年?な自分だが、この技を使っていた相手は余りにも早く逝きすぎた。

 

(全く・・・・短い付き合いでしたが、貴方の残したものは興味深い・・・・ですが、今代の子には少々静観をおねがいしますよ?貴方とは相性が良かったかもしれない若手達がハードなのはキツいでしょうが、もう少し自分を見詰めないと、特にリアス様には厳しい事になりますからねぇ?我慢して下さいね?

 

 

・・・・

 

 

・・・・

 

 

・・・・

 

 

・・・・

 

 

・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・イッセー君♪♪)




例の技はシオンは使えないが、出さぬとは言ってはおらんかったな?・・・・む?どうした?後書きに出る事になったのだから仕事をせぬか。

いきなり、一発目から・・・・・コレは、ねえだろ・・・・・。

↑股関を抑えて青ざめている。

因みに衝撃波については、魔力込みだから例のリリカルな非殺傷魔法のように衝撃だけのようなものに仕上がってる技になります。

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