「♪♪~~~やっても駄目な事~~何とやらの後に?駄目なら酒飲んで、寝ましょう~でしたっけねえ?」
ビナーはコカビエルを片付けて、学園から出ようとした。
普通に出口を通る道筋を歩いたら何故か旧校舎の前、次は半壊した体育館の裏口。見事にコカビエルと言う名の『いたちの最後っ屁』を見舞われた。結界を上書きされてコカビエルの異常を感知したら、内部が迷宮と化す術が施されていた。それ以前にリアスが脱出した後に、冥界を始めとする異世界から此方を見渡せるようなものすら通じなくなるモノまで施すのは流石だった・・・・尤も、先程のをあまり見られたくはなかったので再起不能にした敵に少々見られはした程度に留める好機をまんまと活かしたのだが。
「まあ、良いでしょう・・・・立場上の義理は果たしましたし、コカビエルは倒したがこの結界のせいでリアス様達に合流が遅れたビナー・レスザンで良しとします」
シオンが近くにいたら、自分の意図は勘づかれるであろうが、別に構わないと思っている。多少事態を加速させるのも悪くはない。
「何より私が出張りすぎてはかえって危険だから、これで良いのだ♪♪ですね・・・・後は、お酒か紅茶にするかの違いしかありませんよねえ?両方人類だけの友ではありません」
飄々とするビナーは明後日の方向に手をひらひら振るったが、それは意味の無い事ではなかった。学園の外の電柱の上に座りビナーに応えるように手をひらひらさせる少女の姿をした絶対の存在は暫し昔を重き浮かべてながら、こう漏らした。
「お酒か、紅茶・・・・我、ミルクティー・・・・ミルク、せい・・ろん風?な・・・・ロイヤル?な甘いミルクティーが良い」
そう、ビナーも知る赤龍帝はミルクの類いが大好きだった。自分も一緒に飲んだ。甘くて、温かい・・・・冷たいのも良い。
『友』
そう、友だ・・・・自分と友達になるか?と言ってきた者が・・・・。
「違う、我・・・・今、我が考えるのは・・・・」
そして、オーフィスは別の方向に目を向けた。気付きはしないだろうが、今の自分に必要になるかもしれない予感を大いに感じた存在を私物化してしまった『あの女』のいる場所を。
・・・・・・・・。
コカビエルをビナーに任せたリアスは、ソーナ達と事前に決めていた地点に向かった。相手が堕天使の幹部レベルなので転送系の妨害等も有り得る為に、徒歩である。
これまでで判明した事だがシオンに初めて出会った時のように異次元に迷い込んだか引き摺り込まれたかな罠に嵌められた時のようにその類いの手段を探知するものを敵に当たる者達が確立してると踏んでいるのだ。現にあの時に待ち伏せ場所に転送して間も無くリアスだけが引き離されて知っての通りの結果を招き、その後に何度かその仮説が正しいとする形の小競り合いが起きたのだ。アーシアと封印から解き放たれたばかりのギャスパーには転送系の手段は不具合が多い事を除いたとしても不用意には使えなくなっていたのだ。
余談だが、違う場所でイザベラが使っているのは個人用の改良型であり、ある程度は安定したものだ。
周囲を警戒しながら校外に脱出したリアス達は予め決めたルートに歩を進めていた。ビナーは尚も結界の張られた学園の校庭で戦っているのだろうが、今は任せるしかないとしていた・・・・尤も、既に決着が付いてるとは知りようがないのだが・・・・一度だけ振り向いて学園の方を見ると、外部からはいつもと変わらない光景、結界内では戦いの余波で無惨な状態であるのにだ。
リアスは思い返すと、学園にはそれなりの愛着はあった気がしていた。
冥界において、気が付いたら身内と比較され始めて凡庸の烙印を押され、自分なりの負けん気を出して研鑽を積み始めたが?やればやるだけ両親に兄との差を実感してしまえるようになっていた。それに気付いてからは、周囲の視線と態度に耐えるしか出来なくなっていたのだ。
その事を考えると駒王学園に居場所があると思うのは、眷属達やソーナ達に学園内の悪魔と関わりがある者達は除いて、自分を持ち上げるような者達ばかりであったからと情けない事を考えてしまっていたのだ。人間界での日常を善意で守りたいのかどうかと懐疑的になっていたのだ。
・・・・シオンとアーシアに出会う前まで。
(・・・・シオンを自分の眷属として・・・・眷属、として・・・・)
思考中にあの事を回想するだけでもリアスは内心では揺らいでしまう、だが耐えなければならない・・・・今のリアスには学園への愛着を確認はしたが、自分が真相を知らずにいる状態にしてしまったシオンを救い、あるだけの償いをするのが何よりも優先なのだ。
徒歩で進みながら、周囲の安全を確認できたリアスは先ずはソーナにスマホで連絡を取る事にしたが?
「ソーナ?先ずは其方と合流して、状況を・・・・え?も、もう一度・・・・」
聞いたのは驚くべき内容であったが、仮に?仮にだが?コカビエルと同等かそれ以上の驚異が潜んでいたとしたら、今の自分達には地獄に仏であろう、だが、ある一名にとっては・・・・今の自分の前に兄や両親が現れるような事態となるが、どうするべきなのだ?としたが、迷っている暇は無い・・・・例え自分が大事な存在を失おうと。万一に自分達が全滅して、恐らく此方に向かっているシオンに悪影響を与えてしまうよりはとして、スマホの通話を切ったリアスは覚悟を決めつつ予定地に向かった。今、リアスは自分なりに今の状況でなるべき存在に。
『鬼となったのだ』
・・・・・・・・。
そして、学園から離れた小山の麓・・・・昔は山頂に神社があったらしい場、やはり『知っている場』を一瞬思い出してしまっている親友に憎まれる覚悟でリアスはソーナ達と合流した。レイヴェルはともかく。初対面のレイナーレ達が同行してかなりの大人数になってた為に驚いたリアスにソーナは彼女等の紹介をした後にイザベラがシオン達に連絡しに行った事を説明して学園の状況を聞いた。ソーナは話に聞いていた僧侶の封印を解いた事を驚いたが、今の不安要素はそこには無い。
「状況は把握しました、私達は先ずはシオン君のマンションに向かいましょう、彼処は内部の状況が身を隠す絶好の場になると聞いてます。全員で固まって逃げ込めば時間が稼げるでしょう」
基本的に同じ意見だったリアスとソーナはお互いに頷く、そこにあるべき案を出す者が二名の想像通りに動いた。
「待って、この状況では私達だけで逃げ回るだけではなく、何とか冥界に助力を頼む方法を探す方が良いのでは?ビナー様に何かあったり、コカビエルと同等な敵が来ていた場合、駆け出しの私達だけで戦うには荷が重いですわ」
朱乃が言うように、本来ならサーゼクスやセラフォルーに助力を乞うべきな状況、朱乃が何処か気まずげにしているのはリアスの境遇を考えてだとわかる為に逆に罪悪感を覚えた・・・・だが?
「朱乃?それなら、此方には訳ありだけど強力な助っ人が既にいるのよ・・・・」
「既に?」
目を丸くする朱乃と状況を知らないアーシアにギャスパー以外、リアスとシトリー眷属と堕天使達は複雑そうにしている。どう切り出すか言葉を濁していた時だ。
「ええ、そうよ?飛びっきりの!特に誰かさんに飛びっきりのがね」
シトリー眷属の後方に控えていた堕天使達のリーダー格であるレイナーレが話を切り出す。朱乃の目が鋭くなるが、気にせずに皮肉を込めた口調で続けた。
「おぉ怖い・・・・けど?気付けないようなら、尚更大人しくしてなさい、先ずは命あっての物種にしないと駄目、取り敢えず物陰ならぬ木陰に隠れてる御仁に何とかしてもらうしかない状況なんだから?では、どうぞ?猶予は有りませんですので」
促されて、木陰から現れた男の姿を見て朱乃は今度は仇敵を見るような表情となった。
そう、忘れたくても忘れられるハズのない存在であった。
「久しいな、朱乃・・・・」
申し訳なさを隠すように張り詰めた表情で現れたのは、がっしりとした体格の硬質な外見の大人、堕天使陣営屈指の武人にして『朱乃の父』バラキエルだった。
朱乃は会いたくもなかった存在が突然現れた事態に、普段のおっとりした表情が嘘のようになり、瞳に暗い光を宿していた。事情を知らない者の中で特にアーシアは右往左往するがリアスに落ち着くように背後から肩を抱かれて成り行きを見守るしかなかった。
「何故、貴方が・・・・?」
「仕事だ」
「仕事・・それは?」
「話せぬ、我等の陣営の極秘事項だ。私がお前達に手を貸すのは成り行きに過ぎぬ。今はお前達を赤龍帝の居住する場に送るだけだ」
余りにも事務的だ。周囲は二人が父と娘と知る事関係無しにバラキエルからは一切の情を感じない事に批難の色すら滲ませていたが、間に入る事は出来なかった。尚も食い下がろうとする朱乃にバラキエルは厳しい口調で告げた。
「朱乃よ?状況を見よ!今はお前達の安全を確保する事が最優先だ。言いたい事がお前と仲間達の命より重いと言うのならばそれも構わぬ!だが、お前がそれをやるのか?」
バラキエルの言葉には私的な感情論以外は一切反論の余地が無い、この場で暴発して自分が悪い意味で認識する父を遥かに上回る過ちを犯してしまう訳にはいかない、最近の朱乃は間近に堕天使がいる状況に私情を押し殺し、親友であるリアスが詳細が明かされてはいないが、何か最悪の事態を想定して自分なりに足掻く姿を目の当たりにしていたが故にその事を理解出来てしまったのだ。
「わかりましたわ・・・・」
話は終わりとばかりに全員がシオンのマンションに向かって歩を進める。詮索しようにも、確かにバラキエルに告げられたように自分達の命が優先である。
(・・・・朱璃・・・・朱璃よ!許してくれ!)
バラキエルは『亡き妻』に内心で謝罪し、胸が張り裂けそうな思いを必死に耐えていた。娘と話がしたい・・・・あの時の事を責められるだけでも構わぬと覚悟を決めた日々を過ごしてきたのだ。だが、それに時間を取って『アレ』が災厄をもたらしてしまえば?娘と話す機会すら失われかねない、だから今やるべきは娘と仲間達の安全を確保事するのみである。
そんな父と娘の間近にいるリアスは、少し前の自分では想像もしなかった有り様をしている事からの罪悪感に苛まれていたが・・・・最早、引き返せない・・・・自分はこの先に、今回以上の所業を平然と行わざるを得ない、今更だと思う、自分は既に最低最悪の過ちを犯した。これからも今回のような事を積み重ねる事で何の違いがあるのかと割り切った。
・・・・・・・・。
一方、サイラオーグの滞在する場の森林地帯から街までの間にある空き地と言うべき空間。
そこは正に激戦区であった。
転送したイザベラが事態をサイラオーグに伝えようと森に入ろうとした足を踏み入れた瞬間、背後から無数の矢が襲って来た。結界に入る瞬間に僅かな違和感があるが、それに気を取られる可能性を考慮しての事であるが、イザベラにはアッサリと回避された。そして、はぐれ勢力と思わしき集団が千に近い数でイザベラに問答無用で襲い掛かってきた。
戦闘力はさておき、今も間断無く放たれる矢には『毒』が塗られていた。それを考慮して消極的に戦うイザベラには『臆病』『それでもフェニックス眷属か?』等々と有りがちな挑発と野次も飛んでいたが、今のイザベラはそんなものに惑わされる女ではなかった。
そして、イザベラの後方に広がる森から大砲のような衝撃波が飛んで来て敵の中心に着弾、直撃を受けたか余波を受けた者は戦闘不能となり、次は分散した者達のかなりの数が散弾かマシンガンのような無数の衝撃波に撃ち抜かれて同じく戦闘不能となった。
「これは、かなりの数ですね」
「うむ、先程の不届きな放火魔だけで済まないとは思っていたがな」
イザベラと合流したのはサイラオーグとシオンであった。結界を出ると同時に二名は拳圧のみの衝撃波、前者が重い一撃で砲弾の如く後者が速度と数重視のモノを撃ち込んだのだ。
イザベラが安心して、敵が動揺を沈めた頃には残った女性陣も合流していた。
改めて向き合う両側ではあるが、襲撃を掛けた者達は戦慄していた。サイラオーグ・バアルが事も無げに森から出てきた事は足留めが失敗した事だ。数を頼みに押し潰そうとしても情報からして赤龍帝に教会側の聖剣使いとグレモリー眷属が二名ずつ、情報に無い二名もきっと一筋縄ではいかないのだろう・・・・どう切り抜けようかと思案を巡らせた時である。
「な、何故・・・・?」
自分達の側から何名かが、驚愕の表情で敵の側に歩み寄り始めた。
「お、おい?どうしたのだ?」
同志の異常に気付いて呼び止めようとするが、聞こえずににらみ合いをする両側の中間にまで進んだ。引き留めようにも先程の攻撃を仕掛けた側が構えている為に動けない。
(・・・・やれやれ、茶番劇だよなあ)
シオンは内心でうんざりしているが、それは自分達そっちのけに視線を向けているからには相手のお目当てな対象も同じような気分だろうとした。先程の力の発現で何故か身体が動くようになっていたと誤魔化しながら同行した存在が取り敢えず声を掛けた。
「貴方達は?」
「わ、私達を覚えてはおりませんか?何故、貴方がここにいて・・・・そのような『偽りの魔王達の下っ端共』と一緒におられるのです?ど、どうかお教え下さい!『イングヴィルド・レヴィアタン様』!?」
誘導術は成功するまでが勝負だ。あっぱれぞと言ってやるのは暫し待つように。
それの成功者を見るような目をやめてくれませんかねえ?
それはそうと、親子の確執絡みなせいで石抱きの拷問受けてる側はそろそろ限界みたいよ?まあ、自業自得だけど。