駒王町に残るメンバーがリアスの豹変振りに揺らぐしかない一方、シオン達に加勢する形で現れた『最上級悪魔』の存在は旧魔王派を心底戦慄させていた。只でさえ想定外の若手組だけでも問題なのに、何故かは知らないが?あのレベルの実力者に出向かれては泣きっ面に蜂等と言うレベルではない。最早、なりふり構ってはいられぬ!そう判断したリーダーと思わしき存在が先程に使うのを躊躇した『切り札』を用意しようとした時である。
『待て!まだ早い!』
今度はシオン達が敵の最後尾からの声に気を取られた。その声の主である眼鏡をかけた小太りな老人を確認した木場祐斗が凄まじい殺気を放ちながら声を漏らす。
「バルパー・ガリレイ!旧魔王派と手を組んでいたのか?」
「ほう、計画の生き残りか・・・・だが、此方の事を非難できるのか?お前の側こそ、別の場所で戦っている者達を除いても無節操極まるではないか?」
それはシオンも否定は出来なかった。茶番や成り行きを含めてもセラフォルーから聞いた『あの組織』に迫るくらい多種多様な集まりであったのだ。それはともかく、何故このタイミングでコイツが顔見せするのか以上に聞き逃せない事を洩らしたのかを問うた。
『バルパー・ガリレイ』
聖剣計画において、悪辣な手腕を振るった忌むべき男、木場の憎悪が膨れ上がるが迂闊に仕掛けるまではいかないのを確認したシオンは取り敢えず有りがちな対応で様子を見る。
「わざとらしいな、別場所で戦っている者達だと?つまり、部長の側にも襲撃を掛けているとわざわざ教えてくれた理由は何だ?」
シオンは敢えて推測出来る相手の意図に乗る事にした。リアスの方で何かあったか=有り得る事態くらいで慌てる程ではないのだが?考えてみれば『少し前』から妙に頭脳戦が地味に展開されていたが、シオンに不利なのは『自分がどうなってしまっているのか』を把握出来てない事だった。
「くく・・・・ハハハハハ!」
何故か笑い始めたバルパーの意図は何だと怪しむシオン側であるが、バルパーは思惑通りだとして煽り始めた。
「愉快愉快!『理由は何だ?』だと?リアス・グレモリーに何をされたか、まだ知らんが?私が調べた貴様ならば、今頃は此方の意図を読み取って、とっくに私は殺されていたところだ。あの無能姫に感謝せねばなあ?」
バルパーの嘲笑に木場と小猫はいきり立ちかけるが、短期間だが近くで目の当たりにしている二名には思い当たるところが多すぎるので、即座に黙らせるのを躊躇してしまった。その間にもやり取りが続く。
「『無能姫』・・・・か、身内に比されてはそう見えるのは部長自身が自覚しているが、貴様等に比したらどうなのか?って考えられないのが不運と知れれば良かったんだがね」
シオンの言う事は正論であり、仮にリアスがシオンにあのような仕打ちを行わずか未遂に終わった後に親交を深めていれば心から感謝したような本心からの言葉だ・・・・だが、程度は違えどシオンの味方側に立つメンバーは、この対応に違和感から不吉な予感すら感じてしまった。
特に、公園でオーフィスに出会った側のメンバーは彼女が言った事が真実だと、確信せざるを得なかった。
確かにシオンではない。
知っている限りでシオンならリアスを擁護するような事は良い意味で言わない、そもそも自分達が知らない部分のせいとしても、やはりシオンは積極的にリアスを擁護するような性格ではないハズだ。付き合いがロイガンの次に短いロスヴァイセも自分にオーディンの意図を推測出来た限りを語ってくれた時のシオンと比べてどこか違和感があるとしていて、その場に同席していたゼノヴィアも悪い予感がしていた。
中でも最近のシオンとは付き合いの長さが飛び抜けているイングヴィルドには、シオンがまるでリアスに都合の良い存在となってしまったように見えていた。
サイラオーグとイザベラは悪い予感が近い将来に現実となるとは思っていたが、その兆候が早速出てしまったとし、ロイガンも『シオンの契約者から聞かされた事』の意味がわかってしまった。
(ふむ、悪くない)
シオンの左腕に宿るドライグは取り敢えず及第点としていた。見片側は経験が浅いが、違和感に気付けてそれなりに本質を見れるとして面子だとしてドライグは状況を整理していた。
バルパー・ガレリィがこの後に何をするかはまだ不明だ。
だが、少なくとも『敵側にバレてはいない』味方で言えばシトリー眷属とアーシアは違和感を感じているが、どうやらリアス・グレモリーに眷属にされた不備かそれと同レベルが関の山。目の前のバルパーもその範囲だ。ビナー・レスザンは一思いには行動には移さない。
そう、シオンの傍目には身体能力だが、真相は『 』が衰えている。
表向きのものをわかりやすく言えば、特殊な戦い方や基本的な能力に恩恵をもたらす能力がこれまでが最大に近い数値から大幅に減少しているが、真相が問題だ。
実は、それこそがドライグがリアスを一思いに抹殺しない理由であった。仮にも大当たりとした相棒にあのような仕打ちをした者を許す程にドライグは甘くないが、リアスは夢の中で皮肉られたように運が良かった。良すぎたのだ。実はシオンには悪いが、ドライグから見て今のシオンは実に都合が良い、弱体化している今の方が危険が少ないのだ。
仮に、この状況を一部からしたら寧ろ歓迎な危険は承知で改善したいのならば、オーフィスが言ったように?
『シオンがリアスを殺す』
これが手っ取り早い手段である。
それについて、シオンに償いをする時間が欲しいリアスにとって僥倖なのは、実は周りが心配しているような事。
『シオンが、リアスを本当はどう思っているのか?』
これについては、実は受けた仕打ちからしたら極めて良好な事だ。シオンなりに自分を振り返る際にはリアスがこれまでの自分に肝心な時に足りないものがあったが為に、一種の敬意さえあった。それが上手く作用するのを期待している事がドライグが基本的に静観を決め込んでいた理由。
(さて、当面はバルパーの揺さぶりだが?誤算だったなあ?こいつらはお前の意図に引っ掛かる事はあるだろうが、中途半端な分始末に悪いかもしれんぞ?)
ドライグの意図を知る由もないが、ある意味でバルパーは哀れな道化のダンサーとして舞台に上がってしまったのである。
・・・・・・・・。
『・・・・リアス』
リアスには二階に歩を進めながら、脳裏に父の声が聞こえていた。つい最近に届いた父からの手紙の内容だ。
『お前の眷属である以上に仲間であり友達である者達を大事にするのだ』
(大事、に・・・・してます)
『それがお前の一番の事であろう』
(はい、これが私の一番・・・・です)
『・・お前は今のお前の周りにいる者達を大事にする事を第一に考えるのだ』
(大事にします。だから・・・・私は、私の一番を守ります。シオンが、シオンさえ無事なら・・・・私のやった事に清算がつけられます)
二階に着き、次の階への階段に向かいながら顔を上げたリアスの目からは涙が流れ、身体には恐ろしい負荷が掛かっていた。
崩れ落ちる訳には行かない、他のメンバーを欺いてまで同行させなかった理由。
『二階以降に進むと、侵入者の身体に掛かる負荷』
これは普通に伝えた。しかし、二階以降に掛かる幻術の複雑さは一階の比ではなく、次の階へ行く時間も掛かってしまうので、他を・・・・特にアーシアを連れて来る等はもってのほかだ。自分だけで苦痛に耐えながら歩むしかない、上手く行っても五体満足でいられるか怪しい・・・・後でアーシアに回復してもらえれば良い等と言う考えが汚いものとしか取れない・・・・シオンに危機を伝えて体よく頼るのもだ。
けど、そんなのが何なのだとリアスは思う、このマンションの幻術が自分に通用しなくった理由、親友の心情を無視する仕打ちを行う痛み、今頃、自分のせいで出た弊害に苦しんでいるかもしれないシオン、それを考えれば何と言う事もない。
その内に涙は赤く染まり、流血と成り果てていた。その内に涙は赤く染まり、流血と成り果てていた。身体の苦痛か内心の痛みか、リアスはそれを考えるより歩を進めるのを優先した。
ツッコミとは即座にやれば良いわけではないの例は多々あるのだ。
お前の場合、俺に向けて言ってますって顔くらい隠せや!