(さて、どうしたものか・・・・)
シオンは対応不能となっていた。
(・・・・先輩は?俺に亡き母の面影を見て、それをキッカケにして長年拒絶した父に歩み寄る気になった?どう思えば良いんだ?
イリナに振り回された時期におかんポジション呼ばわりになってた。
アーシアがカレーをもう少し食べたそうにしてたから、お代わり用意したら、部長にお母さん呼ばわりされたなんて次元じゃない。
・・・・否、最早?考えたら負け。負け!大負け!だから・・・・そう、後回しだ!)
シオンからしたら、朱乃が父との和解を求めているのは人道的に歓迎すべきだが?実はこの状況では皮肉極まる事態なのだ。一部だが、セラフォルーから予め聞かされて、実際に触れて理解出来てきた先にコレとはと・・・・実は、この後に立てていた予定は?
やむ無しでバラキエルの精神を破壊して犠牲になってもらうよう方向の事柄を告げる。
朱乃に恨み言を言う機会が無くなるのは気の毒ですが?とでも偽悪的に言いつつ反発してもらう図を演出して、娘を今とは違う意味で悲しませる者への怒りでバラキエルの自我を更に呼び戻すであった。
実際に把握して確信した。この術式は前向きに自我を取り戻す事はまず不可能と言う、正に人道の敵な代物なのだ。
考え方や言い方に違いはあるが、感情に込められるものは大まかに分けて『正』と『負』がある。
洗脳されたりした者は、他に邪魔されない場合だが?傍目には正義と呼べる形で自我を戻すのが様式美ではある。だが、原理は知らないがそういった『正』の感情で自我を取り戻しかける。つまり、今のような状況に持ち込むと更に呼び掛けるのが一見は自然な流れだが?この状況の原因である術式には、そこに更なる罠がある。そこから封じるか揺さぶるかの力が極悪に働く仕様な為に戻せたと思った時には、精神が破壊されて死んでしまうも同然になると言う恐るべき代物。
だが、対象が『負』とすべき感情には働かないと言う落とし穴があったのだ。
実は、サーゼクスはグレイフィアや現魔王達の説得に応えて正気を取り戻すのに前向きになったと思ったら苦しみだし、内容をたまたま新旧魔王派のお偉いさん達への不満を煽る内容のものにした途端に負荷が和らいだのを居合わせた者達が途中で気付いて、そこからは?
『とても美談?なロマンスとして語れない形で元に戻したんだよん♪♪』
セラフォルーが、頭を掻きながらにゃはは笑いして語るのをシオンは聞かされていた。
確かに、現政権が安定して落ち着いたら後世にブラックユーモアを含むコメディみたいに語られるであろうが、今は駄目かもな流れ、現にあのロマンスも現在の政権の支持率に絡んではいるのだ。
だが、朱乃がこの調子では?とてもそのような流れには行かない・・・・泣きながら述べたように、朱乃には最早父を罵るような事は二度と不可能だ。
それに、バラキエル視点では、自分の精神を破壊する事を敢えてやらせる発想に入り兼ねない路線にもなりかねない・・・・今までのせめてもの償い、せめて無事でいて欲しい娘に自分を裁かせると言う、如何にも武人らしい思考になりかねない。
(相棒?お前はいまいち非情にも偽悪的にも徹しきれてねえなあ?最初から、駄目ならバラキエルに犠牲になってもらうとか言っちまえば良かったんだ)
(そうかもな・・・・)
そう語りかけてもドライグはシオンがそれをやらない事は察していた。嘗てのドスケベ相棒程ではないが、この宿主も甘さが致命的に働いてしまう場合が多い、現にリアスとは・・・・だからこそ・・・・。
(兎に角、ドライグ?今はバラキエルさんに術式が働かない形で自我を向けてもらうしかないな、あの類いの武人や父親とかがそうするのとはどんな展開か考えないとな)
(そうだな?不自然に姫島朱乃を?鬱陶しがって、邪魔するなとか罵倒したり痛めつけたりしても、流れは把握されちまうかもだろうから不味い、何か余程に衝動的なものならなあ?)
(衝動か・・・・武人と言うより、父親とか言う人種が、せめてエゴ、と・・・・か?)
シオンは途轍もない、自分の今まで見た中で嫌で嫌で仕方ないものを見て聞いて来た経験が元での算段が急速に立て始められた。
(仕方ないか、そもそも部長の時に躊躇したのが不始末の原因でもあるんだ)
そして、決断をした。
先ずは、自分に泣き縋る朱乃を強引に引き離して、先程のように屈んで目線を合わせる。そして目を見開く朱乃に自分の不本意な言葉を聞かせ始める。
「先輩?不用意に『何でもします』なんて言わないで下さい!俺が『赤龍帝』だって忘れましたか?」
赤龍帝、伝説の二天龍の片割れ・・・・各界において、人間界の一般人は例外として、歴史等を多少学んだ者の中で、赤龍帝の重要さを知らない者は存在しないであろう。
だが?シオンが語り始めるのは、如何にもな部分ではなく敢えて自分が避けて来た部分だ。
「先輩も少しは聞いたりしたでしょ?俺が例の『おっぱいドラゴン』の因子まで受け継いでたらどうする気です?何を要求するか保証は出来ませんよ?」
ドライグは唖然とした。シオンが言う時は遠回しにしか言わずにいた嘗ての相棒の別称とその関連をはっきり口にしたのは初めてだったからだ。
(あ、相棒!お前は・・っ)
(黙っててくれ!)
そう、シオンはこの際、やむを得ずとした。『娘想いな父親』が衝動的に動く場合の一つはコレだ!と、娘に妙なもんが纒わりつく事だとしたのだ。
推測だが、バラキエルも例の何代か前の赤龍帝の事は知ってるだろうから、頭の片隅にでも危機感はあったハズだと、女の胸を糧にするとかを始め、女の敵とされる概念が全て具現化したようなのの因子があるかもしれん存在、場合によっては?娘をそれの餌食にしかねないのが傍にいるだけじゃなくて、妙な流れになる程に大人しくしてられない考えがあるだろうか?これなら善悪関係無しな流れで此方に意識が向くだろう。
(未熟者めが、お前の考えは俺から見てもあながち間違ってはいねえどころか、バカらしいけど一理あるって評価は出来る!だが、その算段にはとんでもねえ穴があるんだっての!)
ドライグが思った事は、直ぐ様に朱乃が実証し始める事になった。
「良いよ?」
「?」
「シオン君が、そういう事への願望がおありなら、わたくしの胸だけでなく・・・・殿方が女性に何かを欲する箇所の全て、いえ・・・・身体の全て、心の操も、全て・・・・貴方に、差し上げますわ」
そう、朱乃は見てきた。
フリードの罠に嵌まった自分の元に駆け付けてくれた時にも揺らいだが、この空間に強引に連れ込まれ、底冷えするような冷徹さを味合わされたが、行動を共にして数時間、最初に会った時から見てきた年下と思えない頼もしさと強さ、冷徹でドライなようで、その実は人が良く・・・・どこか不器用で微笑ましいところがある好ましい性格。
そして、母を思わせる安らぎを与えてくれた。この少年ならば自分は・・・・と確信した。
「父様をそれで助けてくれるならば・・・・私は、貴方の何にでも・・・・なりますわ・・・・ですから、私を貴方の傍に・・・・」
(・・・・馬鹿野郎が!男女のやり取りの面倒さを考えてねえからだ!まして、その女は?実は何かに依存したがる傾向が強い典型だ!違うもんを釣るつもりが女を釣りやがったなんてのはだな?某国の神話に残る何だったか?な兵がアンソロとやらで、招いた状況を思わず表現したジョークくらいにしやがれ!)
吊り橋効果と言うのもある。
時に強引で明け透けな言葉や態度が不意討ちになる事もあるとドライグは歴代の宿主を介して見たもので多少理解している。
話に聞いた幼馴染みのイリナ。
武闘派らしい発想から時間を掛けたイザベラ。
頼るものが他に無いが故も手伝って特に思い入れが強いイングヴィルド。
如何にもな出会い方をして、最悪の結末から救われたアーシア。
この娘達はドライグからして、シオンに向けるものは真っ当かもしれないと考えている。
それらとは違う状況であるが、条件が多く整った際には長続きするかはまだしもこうもなるのだ!と呆れた。普通の男性ならば卒倒ものの言葉を熱に浮かされ、艶っぽく等の見本と言える表情で向けるが、その類いの感性に無縁な為に先程とは違う種類の涙を流して知識に無い類いな顔色と笑顔を自分に見せる先輩の変化にわけがわからなくなるしかないシオンではあるが?
~~~~っ!?
嘗てない悲鳴のようなものが響いて、二人は我に返った。先程のシオンの一撃とは比べものにならない何かが感じられ、シオン達の周りに凄まじい落雷が次々に落ちた。
ズゴゴォォォォォォォォ・・・・ン・・・・っ!!
轟音が遅れて響き、そして?落雷が落ちた各所に残る雷光が激しく膨れ上がり、徐々に一ヶ所に集まり形を成して現れたのは?
「娘から離れてもらおう!女の敵、赤龍帝!」
戦闘態勢に入ったバラキエルである。
「一発で・・・・戻って、しまったのか?」
(おっ・・・・おぉ、多分一番面倒な形でな)
シオンとしては、まさか意図せずこうもアッサリ事が進むとは思えずに、ドライグすらも親バカの力を甘く見ていた現実に唖然とした。
朱乃嬢は?今の自分の気持ちを、あんまり本気にしない方がいい・・・・が、一応は関係に変化がある展開もありと言えば、ありやもな。
おぉ・・・・真っ当?な一言。