(い、いけ・・・・な・・い・・・・ですっ!部長!)
ギャスパーはマンションの玄関から見ていて、この後を予想した。シオンから立ち昇った魔力とはどこか違う類いの炎から感じた事・・・・そして、リアスがこの後にどうする気なのか?だけど、それをやらせたくはない!自分に出来る事がある!初めての決意をしたギャスパーは全力で自分の神器を発動させた!これで、リアスを早まらないようにしてもらう他は無いとした。尤も、シオン頼みであるが。
(っ!?これ、は・・・・)
シオンは周りの異変と、異変を起こした力の出所に気付いた。マンションの玄関・・・・恐らく、自分が知らない存在・・・・配置上で、味方とは理解した。時間を止める力とは規格外だが、それを全力でやる理由は直ぐに察した。
そう、自分に歩み寄って来た存在が変質してしまっている。恐らく、自分が不備だらけの輸魂法を使ってしまったからだと・・・・あの男、吸血鬼の類いのようだがはともかく、真意の方は自分に何かを訴えるような気配で察した。
その一方で、シオンを見るリアスは涙を堪えられなかった。
そう、シオンは・・・・考える事が出来なくなってしまっているのだ。
『リアスに都合が悪くなる事』をだ。
シオンは・・・・自分がこうなった理由を恐らく、自分が不備だらけの輸魂法を使ってしまったせいと考えていると理解した。そして、何より自分の変質の予兆を察せなかった不覚を恥じている。
・・だが、真相は違う・・自分がシオンから『奪ってしまった』からだ。彼の力の根底を・・・・本来の彼なら、自分の異変等は真っ先に気付いているのだ。そう、ある意味でリアスの一番に数えられる才覚を実証する犠牲にしてしまったからそうなってるとは考えられなくなっている。自分がそうしてしまった。
どうにか平静を取り戻すキッカケはないかと、ギャスパーが停止させた他に目を向ける。新顔はともかく、目を引いたのはサイラオーグとロイガンであった。明らかに、自分に戦慄している・・・・シオンと出会う前、又は?いっそ外道として生きられたら、さぞかし溜飲が下がる思いをしてたのだろう。最上級悪魔と自分の劣等感を煽らせた相手が自分に戦慄しているのだ。
・・・・だが、最早どうでも良い。リアスはそう思っていたのだ・・・・自分はこの後にどうするかは決めていた。コカビエルにしてやられていたのが良い薬になったのだ・・・・自分の足掻き等は生兵法にすらならない・・・・ビナーのような都合良い存在に来てもらわなければ、眷属や親友達を守る事すらままならないのだ。そう・・・・そうすると決めたのだ。
『皆に話す』
シオンに何をしたのか・・・・自分に対し、シオンに本当に何をしたか聞き出したいのを堪えていたのだと言うシトリー眷属の本心に後で幾らでもと答えた事に偽りは無いのだ。
(シオン・・もう、私に未練は無いわ・・)
朱乃と共にバラキエルを支える姿で理解した。自分が踏み入った朱乃の確執を解決してくれたのだと・・・・親友、眷属、何もかもをシオンに託し、シオンにすら自分がした事を全て話して、元のシオンに戻る手段を実行してもらうのだ。
「部長」
呼び掛けられたリアスはシオンの目を見た。何かを察している。嘗て、自暴自棄になり掛けた時にグレイフィアから向けられた目とアーシアに自分の秘密を知られたかもしれない事で殺意を向けてしまった時にあるがままに自分を受け入れてしまった時の目が同時に浮かんだ。
「何を考えているのかはどうでも良いです。けど、アーシアをどうします?」
アーシア・・・・シオンが連れてきたから出会えた妹のような存在・・・・否、それ以上に自分が縋る対象でもある存在・・・・けど、シオンならば・・・・アーシアが本当に慕う存在ならと考えた時。
「駄目なんですよ、部長の代わりになんか誰もなれません」
「・・・・っ!」
ふざけないで!
以前ならそう言ってしまっただろう、だが自分を見据える目には偽りは無い・・・・あの日に自分を元に戻そうとした時に発した気に全てを委ねたくなってしまった時を思い出す。だが、それが烏滸がましいのだ・・・・何故なら、自分が選択したのは。
そう思った時に、自分の両手はシオンが添えた手に捕まれた。目を見開く自分に真っ直ぐに告げた。
「部長?貴女が自分なりに何をしようとしてるのか、何となく想像付きますけど、駄目なんですよ・・・・部長が今回の騒動の前のやり方で通すべきです」
「・・・・本気?わかっているんでしょう?私のやってる事は正義とかの反対よ?」
正義、陳腐な言い方・・・・だが、自分を救おうとしてくれただけでシオンはそうだ。だからこそ思える反面、自分は最低最悪の所業を行った愚者、悪そのものなのだ。そのせいで、シオンもアーシアも親友に眷属に身内・・・・そして、世界すら。
「そうです」
キッパリと言い切られた。寧ろ心地好いくらいだ。
「貴女のやる事は正義なんかじゃない、都合良く埋め合わせ出来る機会が残ってるだけの事ですよ・・・・『それ』のように・・・・貴女なんかが正義であるものかって言い方しか出来ません」
正しい、あまりにも正しい見解だ。だが、どこかで甘えたかった対象に厳しくされる事から感じる甘えからの寂しさもあった。だが・・・・。
そう考える内にシオンはリアスの身体の何ヵ所かに指を当てた。次の瞬間、リアスは身体の力と意識が徐々に失われて崩れ落ちるがシオンに支えられた。
「これで俺も共犯です。目が覚めたらそれなりにやって下さい?」
共犯・・・・これが共犯?
余りにも優しい言葉と所業。
だが、リアスはあの日からシオンに全てを委ねたいとした願望が僅かでも叶えられた事に安堵してしまっていた・・・・このままでは駄目だ。自分は甘えるだけでは終われない、だけど・・・・今、今だけは。
離れて見てたギャスパーは、ほぼ自分の意図通りになってくれた事に安堵したが、リアスの涙の意味を確信した。確かに、リアスが言ってた事、一番起きないようにしてあげたいと言っていた事態を防がなければならないと。
そして、時間が動き出して意識を失ったリアスをお姫様抱っこで抱き抱えたシオンを目の当たりにした面子の中でイリナやイングヴィルドが騒ぎ出そうとするが、バラキエルが制した。
「シオン君・・・・だったか、先ずは娘との件のお礼を言わせてもらう!心から感謝する!・・・・だが、君は察しているのだろう?『この後の事』を」
「ええ、下手したら大戦が再び級の事態に発展しかねない事になりますよ?」
余りにも真剣なやり取りに口を挟めないし、事態を飲み込めない・・・・二名が危惧する事は何なのか?と他が考えた時である。
「確かに、バラキエル様やサーゼクス様ですら不可能な事を成し遂げた成果の影響は凄まじい事になりますよ」
ビナーが指差した方向、シオンは隠し得ないとしてリアスの左腕で隠した脇腹辺りのものを見せ、その場にいた皆が戦慄した。そこにあったのは?つい先程にバラキエルが、過去にサーゼクスすらがしてやられたもの『堕天使陣営の横流し品』である。効力を失った事と先程にリアスが消滅させた者で皆が察した。
リアスは・・・・『自力で破ってしまった』
堕天使陣営屈指の武人は愚か、最強の魔王サーゼクスすら自力で破れなかった恐るべきものを誰の手も借りずにだ。
その事が広まった際の事態を察する事が出来ない愚か者はいない、それがリアスが自暴自棄になって、全てを打ち明け、シオンに全てを託そうとした理由でもあったのだ。
アーシア嬢も情勢を勉強しておるからこその皆と同じ認識よ。
相変わらず。意地悪なようで真っ当な方向の事を取り上げるよなお前は?