ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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ビナーさん怖いです(笑)


狂気VS善意

『レイナーレの喫茶店』

 

 マイルドで初心者向けなコーヒーとシオンがレシピ考案に絡んだ家庭的なようで、実は店ならではな利点を活かして凝った味の料理で、そこそこの人気がある店。流石に人数が多いかもしれないが、一息付ける場としては選択肢の一つと思っていたら?

 

「地下室ですか、大規模なパーティーが出来る広さもあるし、細かい部屋もある。確かに最適でしたね?」

 

 ソーナが語るように、分散して喫茶店の周囲に到着した各組は直接喫茶店内に入るのではなく各所の入り口から喫茶店の地下室に到着していた。本当にシオンの契約者とは何者なのか?

 

 まだ目を覚まさないリアスは別室でアーシアに付いていてもらっている。そして?

 

「・・・・シ、シオン君?」

 

「・・・・っ」

 

 朱乃はシオンに近づこうとしたら、イングヴィルドに阻まれた。半々の理由で咄嗟の事であるが、イングヴィルドの危機感は最高潮に達している。単に独占欲だけではなく、ビナーやリアスのように場合によってはシオンにとって最悪の結果を招く者を目の当たりにしているのだ。その事から発する激情を押し殺した視線に朱乃は完全に気圧されてしまう、シオンの側にいた新顔とした知らないが、明らかに自分では敵わない相手と悟らずにはいられなかった。

 

「姫島先輩、細かい事は後にしましょう」

 

「こ、小猫ちゃ・・・・っ!?」

 

 朱乃は自分を引き離す小猫の手が震えていた事で危機を察し、この場は引く。一方で小猫は朱乃に何が起きたかを何となく察して申し訳なく思っていたが、今は駄目と思っていた。イングヴィルドとは持っているものも積み上げて来たものに差が有りすぎるのだ。離れて見ていたバラキエルも流石に娘への同情よりイングヴィルドから感じる底知れないものに戦慄していたが、親バカとしては複雑であったのだ。

 

 ゼノヴィアとイリナもシオンに神の不在に関して聞き出したかったのだが、ロイガンに止められた。迂闊に広めてはならない事なのだ。ともかく分散していた各組が新顔について簡単な自己紹介を始めた。流石にイングヴィルドが正統なレヴィアタンの血筋と人間の混血と言う点とシオンと約一年同居してたと言う点は伏せた。妙な時間を取るのは後回しだ。

 

「さて、皆様は自己紹介と自分達の側で起きた事は話しましたね、先ずは死傷者も出ずに他への目立った被害が無くてなによりです。規格外の助っ人が来てくれたのも幸運としましょう」

 

 ビナーが一段落着いた事を述べる。

 

 言った本人であるビナーだけでもそうだが、バラキエルにロイガンだけでも驚愕ものだ。しかも、北欧の主神の付き人だったロスヴァイセにサイラオーグの母を始めとした何名かが掛かっている眠りの病で百年も眠っていたと言うイングヴィルドに時間停止と言う規格外の神器を持つギャスパー・・・・下手な勢力では到底敵わないメンバーが揃っている。懐疑的になる程の過剰さだ。話を進めるビナーにも他は疑念が無い訳ではないが、あのコカビエルを単身で撃破して他を優位にしてくれた存在、どこか掴み所が無いが彼女が今回の勝因の一つなのは間違いが無い。

 

「さて、私が言うまでもないですが?リアス様が恐らく?『堕天使陣営の横流し品』を自力で破ってしまった。あの場を他に見られてない保証は無いので、今後が心配です」

 

 ビナーが敢えて言った事に反論の余地は無い、別室でアーシアに付いてもらいながら眠り続けるリアスを巡って各勢力がどう動くかと、大半が改めて考え始めた時である。

 

「ですが?リアス様の前にも問題となる事があります・・・・シオン君?予備知識があったとは言え?問題になってる品にやられてしまったバラキエル様を貴方は救うのに成功した。嘗ての大戦で現魔王の三名とそれに匹敵するグレイフィア姉様が力を合わせてやっとだった事を成し遂げた。リアス様だけでなく、貴方も今回の件でこれまでより注目される事になるでしょう」

 

 何名かはリアスの衝撃で見落としていた事に気付いた。確かにビナーの言うようにシオンも堕天使陣営の横流し品を破ってしまっている。圧倒的な力と仮定される類いではなく、朱乃と言う最適な仲介役を使ったのを含めた知識と技術による形でだ。

 

「ある意味、リアス様より厄介ですよ?各勢力からしたら、あの赤龍帝が?こんな器用な事をやれると知ったら驚異でしょうね」

 

 赤龍帝に関しては次元違いの力の象徴と言うイメージがある。それが今代のは知力と技術までが飛び抜けた存在としたら、人間界での例えで虎が翼を得たようなもの・・・・北欧を始めとした各界の魔獣で言えば飛べないのが救いの何かが飛べるようになったようなものだ。少し考えただけで空恐ろしいものがある。

 

 理由もわからない喧嘩の飛ばっちりが戦争の真っ只中である三大勢力に手を結ばせる事になった二天龍、その二天龍を何とか倒して、その魂を神滅具とする事で封印出来た理由は、喧嘩の邪魔された事に怒り狂って周りが見えなくなっていた二匹に総力戦を挑んだお陰でどうにか出来たからとまで言われている。その一角がビナーの言うような器用さを持っているとしたら嘗ての災厄の二の舞を恐れる側にしたら最大級の驚異と映るであろう。

 

「そして、今回のリアス様の功績ですが、それをやれるまでになったキッカケを他が仮定するとします。状況からして、リアス様が力を増したキッカケが何とするかは?」

 

 ビナーの問いに、大半の視線がシオンに集中する。

 

「そう、シオン君を眷属にしたのがキッカケでリアス様が爆発的に力を増した。そう取られる事でしょうね、とすれば?リアス様と貴方の事を改めて徹底的に洗うでしょう、只でさえ赤龍帝を転生悪魔にして眷属にした経緯を疑われていましたから」

 

 結局、先ずはそこに行き着くのだとしたビナーのまとめ方である。だが、自分達からしたら、そこをどうするのか?と言う問題を皆が考え始めたのを見て取ったビナーは事も無げに次の話題に移した。

 

「そこで、シオン君?この場にはリアス様が近くにはいますが意識がまだ戻らない、このままでは私達だけでなく、全ての勢力の今後が危ない、私を含めて力技で真相を聞き出しに来たら今の貴方では抗えない実力者が何名かいる等の状況を?この場にいる全員に考えてもらった上で、次の事をお願いします・・・・『何故、リアス様の眷属となったか』・・・・これを教えてもらえませんか?」

 

 ビナーに即座に待ったを掛けられる者はいなかった。

 

 どこかで、期待してしまっていたのではないか?と大半が思ってしまったからだ。

 

 ビナーのように、シオンですら抗えないであろう誰かがこの流れに持ち込んでくれる事を。

 

 それを大なり小なり考えてしまっていた者が大半であり、直接聞きはしたイングヴィルド達もバルパーと向き合った時のシオンを目の当たりにして疑念が再燃していた為に、この流れを止められる者はいなかったが?

 

「まあ、恥ずかしい事ですが・・・・」

 

 シオンは周りの空気なんか関係無いように、ビナーからの質問に即座に答えた。内容はイングヴィルドにせがまれて語った事である。目を丸くした者もかなりいたが、イングヴィルド達=以前聞いた側は果たして本当にそれだけなのか?と言う疑問が湧き出ていた為に何かしらの再発見がないかと、改めて聞いた。尤もシオンが素直に答えた事と、どこでそんな術を覚えたかの質問は契約者絡みの守秘義務なので答えられないを聞き入れたビナーの意図を全て理解出来た者は片手で数えられる程度なのだが。

 

「ふむ、輸魂法とは・・・・また器用・・・・ですがそれも問題ですね、他に知られたら危険な事ですよ、使い手が限られてますから・・・・ふふ、何者なのでしょうね貴方は?」

 

 ビナーは妖艶に微笑みながらシオンに近付き、頬に両手を添えて顔を除き込むように近付けた。

 

 その態勢はまるで?

 

「ビ、ビナー様?その態勢は・・・・あの?」

 

 朱乃が慌てて待ったを掛けた。レイヴェルもあたふたして、かなりの数が顔色を変えてしまっているが、ビナーは事も無げに答えた。

 

「あら?別に慌てる事はないでしょう?当のシオン君が平然としてます。失礼ながらリアス様の裸に狼狽えたままではないか確認しておきたかったのです。これがバレた場合、シオン君に色仕掛けの搦め手等を仕掛けられかねません、その対策も必要ですからね、お見合い話の持ち掛けラッシュ程度では済まないかもしれないのですよ?」

 

 一気に温度が下がった。確かにシオンが恥ずかしい事として語るように、原因の一つがリアスの裸に狼狽えたからとあってはビナーが至極正しいと言わざるを得ない。

 

「し、しかしビナー様?先程の態勢は?」

 

 レイヴェルが言おうとしているのは、アレはまるで、これから唇を奪おうとしたような状況であったのだ。イザベラも以前の事を思い出して気まずそうである。

 

「ああ、それも探りを入れたのです。どうやらリアス様に不用意に術を掛けた結果のようですから、其方に対しても変に付け入られる危険がありますから」

 

 お見通しとして語るビナーの態度にシオンは覚悟を決めて自分が把握してる事を皆に告げた。流石に朱乃とレイヴェル、レイナーレにイザベラですらもわなわなと身体を奮わせた。

 

 その空気に真っ先に反応した者がいた。

 

「おい姉ヶ崎!?つまり、お前は成り行きでリアス部長の唇を奪っちまっただけじゃなく、そのままペース握られちまって、死霊やサキュバスの姉ちゃんにされるのが生易しいくらいに限界寸前まで吸われ尽くされるまでにされ続けてリアス部長の眷属になっちまったって事かあ!?ぬあんっって羨ま・・・・ち、違った!何と破廉恥な!だ・・・・」

 

 匙からの場違いではあるが、間違いではない発言が繰り出された。流石におバカ過ぎで気まずいのかソーナが釘を刺そうとするが?

 

「だけどよ?それで大抵の説明は付いちまうよなあ?まだ全然未熟な俺が言うのはアレなんだが?『奪取『譲渡』二天龍の特徴を合わせたものみたいな能力を多少使える『黒い龍脈』が力の一角な俺から言わせたら、そんな経緯で安全無視に過負荷全開にしながら悪魔にした側となっちまった側なんて図じゃお互い滅茶苦茶な影響出るに決まってるぜ」

 

 突然の真面目な意見に納得する者も出た。確かに五大龍王の一角であり、変則的な力が特徴のヴリトラを宿す匙の意見には若手の何名かは頷くものがある。その光景にロイガンは多少感心していた。

 

(赤龍帝君は良い友達を持ってるわね、素で三枚目出してるようで、自分の能力を話術に組み込んで上手く場を凌ぐように持ち込んでるわ)

 

(お、俺って・・・・もしかして、とんでもなく危ねえ橋を渡ってるかもなあ・・・・相手はビナー・レスザン様だぜ?現魔王級だぜ?多分サーゼクス様くらいしか確実に対処出来ないぜ?何やってんだろなあ?)

 

 匙は内心で、例えば貴族や武家において立場が遥か上の御方に意見した結果、即座に無礼討ちか処刑でもされかねない下っ端な平民の心境であった。ビナーが語るように、この問題はリアス部長の裸云々の部分で誤魔化しようが無い、下手したら、確実に各勢力の今後を動かしてしまう・・・・自分程度が上手くあやふやに出来るとは思えないし、場合によっては不味い事になるかもしれない。

 

(け、けどよ?有耶無耶にして後回しにするだけになるかもだけど?姉ヶ崎がどうにかされちまうのは黙ってられねえ・・・・こいつは、俺達と付き合い長いし、世話になってるし?学園じゃ友達付き合いしてるって、言われたりする仲だぜ?・・・・)

 

『友達』

 

 そう、実力的には遥か格上だが、誰とも面と向き合う奴、しっかりしてるようでどこか抜けてるとこもある奴なシオンはプライベートでは持ちつ持たれつなとこがあるからこそと。

 

(おうよ!手が届かない可能性特濃だから、そう言えるかも不安だけど目標だ!友達だ!友達が不味い事になりそうなんだ!自分なりに助けなきゃならねえ!俺だって会長を堕としたり先生になったりする夢くらいある!ここでビナー様の邪魔した事でどうかされるかもだけど、友達のピンチを見て見ぬふりしてるようじゃ夢もくそもねえんだっ!)

 

 自分なりの勇気を振り絞った匙、ビナーがこの後にどう切り出すかに注目が集まるが?

 

「ふむ、確かにそれではシオン君を問い詰めても『本人が何が起きてるか理解出来てない』と言うオチに終わりかねませんね?リアス様に矛先を向けても?『一方をどうにかしたら、もう一方に悪影響が出そう』と言う危険がありますか」

 

 何気無く言うが、何名かは心臓に悪い思いである。ビナーが言う事は傍目には匙の意見を受け入れつつも多少の可能性を推測した程度・・・・だが、何名かは察していた。これはシオンとリアスの関係についての結論を見事に言い当てていたのだ。特に『ビナーの過去』を知っているバラキエルは戦慄している。

 

(ア、アザゼルよ?お前と親しい私が居る場でこうも踏み込むとはな、確かにビナー・レスザンのさじ加減次第で今の冷戦状態は悪い意味でおしまいだぞ)

 

「失礼しましたシオン君、私も後が心配でしたので・・・・匙君の言った事やそれからの推測迄を考えて、私が浅はかでした」

 

「いえ、後が大変になりそうなのは事実ですから」

 

 シオンに謝罪するビナーは、傍目には焦ってしまった事と考えが抜けていた落ち度を恥じながらのものだ。それを気にもしていないシオンには苦笑を浮かべて顔を背けた。その光景に他は一先ずは事態が急変しなかった事に安堵していたのだ。流石にシオンが言うような大戦再びのキッカケになりかねない事が急に動き出すのは避けたいのだったが、シオンに宿る存在、ドライグだけは見抜いていた。ビナーが求めているものをだ。

 

(中で語り合うにはまだまだですね、ですが?そろそろ良いかもしれませんよ?シオン君の方から力技でリアス・グレモリーから奪い返す気になる展開の種くらい蒔いといても良いかもしれませんよ?)

 

 ビナーは『その時』の展開を後の楽しみにしたがっているのだ。自分は新旧魔王派の事等は知らない、姉のような願望も無い・・・・だが、赤龍帝は別なのだ。

 

(中に取り込めば、触れられる者としては、いなくなってしまう・・それでは寂しいですからねえ?気持ちは良くわかりますよリアス様?精々足掻きなさいな、但しイングヴィルド様には気をつけなさい?いざとなったら・・・・『私があなた達を  させて・・・・い゛だだぎま゛ず・・ので、そうなりたくないのならね♪♪』)

 

 場に集まった大人数に見られないよう浮かべたビナーの苦笑は、狂気染みたものが抑えての形であったのだった。




要点1。

いつまでも有耶無耶にしてはいかん、さあ言うのだ。正直に何されたかを。

アホかあっ!!こういう時にこそ、周りの誰かが待ったを掛けるものだって言えよっ!!


要点2

原因と結果を完全に把握する際には不確定要素への対処が肝である。後でショック受けたくなければ不用意な事は控えましょう。

じゃあ、これは自分のせいなのか?って結果になりたくないのなら尚更だぞ?(マジ泣き)

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