尚も続く立食パーティー染みた食事回の中、教会の二名はある作戦を立てて実行した。
「あの、シオンさん?・・・・リアスお姉さまの分のご飯・・・・どうしましょう?」
先ず話を持ち掛けたアーシアに、シオンに眠り続けるリアスに食べ物を差し入れてあげようかと提案させる。
イリナが知るシオンの性格を考えた場合?
「そうだな、食べ易いものを詰め合わせて、置いておくか・・・・食事中に目を覚ますとは限らないから先にやっとこう」
何か察していながらも食べての頑丈と言う昔ながらの心得を大事にするシオンはイリナの思惑通りに動いてくれた。そうして、アーシアと共に用意した軽食程度の詰め合わせを持って行こうとした時。
「じゃあ、私も行くわ、最初会った時に気まずい形になったから目を覚ましてた場合も考慮して、顔見に行く」
「では、私も・・・・」
これ迄は計算通り、リアスが眠る別室に繋がる通路が頭にあった為に立てた作戦だが、それを見送るビナーは苦笑し、ロイガンは仕方ないとばかりに目を瞑りながらソフトドリンクに口を付けたのは見落としていた。
そして、書き置きと詰め合わせを残して戻るタイミングで本題を切り出した。
「ねえ、シオン君?聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「何だ?」
「シオン君は『神』について、何か聞いていない?」
イリナの狙いはコレだ。聞いた状況からして恐らくアーシアも知った可能性があるかもしれないし、真相を知りたがっている事だとして切り出したのだ。教会側の人間が心はそこから抜け出せてない側も引き込んで迄を考えに入れた計算である。
イリナはアーシアがリアスの元に行った経緯とシオンの性格上で、彼がアーシアにはかなり甘いだろうとしていた。聞き出せるのに有利になる一因になってもらうにはうってつけだろう、アーシアもこれまでの経緯でシオンにアホと言われたままではいられない危機感を持って、打算的な考えも勉強したので何となく察したのであるが、三名の目に映ったのは?
「イヤ・・・・ベツ、ニ?」
瞳から光を無くし、片言のように告げるシオンであった。
実はリアスですらそれに関してシオンに影響を与える要素があると思ってなかった。その類いで後日、更に打ちのめされるのである。
目を見開き、震え出すイリナとアーシアを制したゼノヴィアが何とか場を凌ぐべく有りがちな質問をした。
「そ、そうか・・・・そうだ。トイレはどこだ?戻る前に済ませたいのだが?」
「・・・・?ああ、そこ曲がって左だ」
「わ、わかった・・・・先に戻っていてくれ」
数瞬遅れて普段の様子に戻って質問に答えたシオンが戻るのを見送りながら三名はスーパーや雑貨店に良くある広さなトイレに駆け込んだ。直ぐに自我が戻った理由がわからない事も含めて冷静になろうとするゼノヴィアにイリナが怯えを隠せずに話を振り出す。
「ゼ、ゼノヴィ、アぁぁ・・・・シオン君・・・・シオン君があぁぁっ・・・・!」
「わかって、いる!落ち・・着く、んだっ!」
二名は見た。アーシアもあの状態はいけないものだと判断している。シオンに対する私心が二名とは程遠いゼノヴィアが何とかまとめるしかない。
「あ、あの・・・・シオンさんの状態は?わ、私にはまるで・・・・」
アーシアが言わんとしているのは、今まで自分が治療した人々の中に何人かいた死に行く寸前の者がそのまま動いているような・・・・イリナとゼノヴィアが感じたのは今まで何度も戦った事がある存在・・『傀儡にされた死者』に近いものが先程のシオンにあったのだ。あの類いは傀儡にした者からの呪縛が付き物だ。つまり、今のシオンは?
「今は考えるのはやめろ!私達の手に負える事ではない!そう・・・・シスター・・・・い、いや・・・・駄目だ!そ、そうだ。ロスヴァイセさんがいるんだ!例えば北欧の・・・・主神であるオーディン様のような・・・・・・・・ま、まだ私達が顔すら合わせた事が無い誰か・・・・誰か頼れそうな最適な存在を探すんだっ!」
そう、教会に広めては駄目だ!上層部がどう動くか・・・・下手をしたら自分達にシオン、更にはそれに関わるグレモリー眷属を討伐しろと指令が来かねない、流石にゼノヴィアも時間にして一日程度だが、衣食住を無償で提供してくれた相手と、その関係者にそんな事をしたくはない・・・・それに関して『神の不在』を知る前ならまだしもと考えてしまって、それも頭から振り払った。何と言う最低さだ!と自己嫌悪に陥り掛けていたのも冷静になれる理由だ。
「で、でもぉぉっ・・・・」
「イリナ!オー・・っ!?い、いや・・・・とにかく私達も、何かおかしいとはわかっていただろ?シオンが本当にそうする理由があるのか?とかも整理してから始めるんだっ!」
ゼノヴィアはアーシアの手前でオーフィスの名も、そのオーフィスがシオンがリアスを殺すよう言い出したのを話題に出すのは止めた。イリナもそれを察して冷静になるよう努めた。確かにあの少女が出向くような事態になっているからには、恐ろしい何かに鉢合わせる予感はしていたのだと、震えを堪えていた。
「ふ、二人・・・・っ?あ、あの?」
アーシアが何かを言おうとした時にゼノヴィアが二人を抱き寄せた。咄嗟にだが、ゼノヴィアもギリギリであるのだ。
「い、良いか?この件は他言無用だ。シオンの為だけじゃない!私達全員、いや?各勢力の今度の為だ!決して単独で迂闊に何かしようと思うな!?耐えるんだ!耐え、るんだ・・・・っ!」
状況を理解できる要素が不足しているときは自分なりに率先して考える傾向があるゼノヴィアはそれに全力で傾き、その必死さに二名は同調した。耐えなければならないのだと、教会に関わる三名は暫く三名で抱き合って、落ち着きながら食事の場に戻り、ソフトドリンクを飲み干して何とか一息付いた。
三名を見たビナーは笑みを浮かべていた。
(ふむ・・・・浅慮は禁物と学んだようですね?結構・・・・さて、あの中からは・・・・全員見込みはありますが、まだ早い・・・・暫く自分達なりに頑張りなさい?)
ロイガンはビナーは優しいのか否かとしながら食事を続けて考える。
敢えて渦中に飛び込んだが、成果は想像を絶した。
シオン、イザベラ、木場、イングヴィルド、ビナーにリアス、ギャスパー・・・・各勢力の均衡を崩す要素だらけではないかと・・・・他も有望だらけ、もしもここに居る者達が・・・・。
(これは、身体を動かしたくなったからどころじゃないわねえ?・・・・)
そう判断したロイガンは一つ『楽』をさせてもらう為の算段を立てた。丁度条件が揃っているからだった。
・・・・・・・・・・・・。
姫島朱乃は複雑であった。父と和解するキッカケとなってくれた少年・・・・意図はどうあれ、自分の心を大いに揺るがした少年と改めて向き合いたかったのだが、その少年シオンに歩み寄るのを阻止するよう立ちはだかった少女、イングヴィルドの様子を見ていたが、大人数に戸惑うイングヴィルドはシオンに助けられ、逆にシオンがイングヴィルドを助けてるのが実に馴染んでいた。まるでそうするのが当たり前な家族のように・・・・。
『家族』
そう、邪魔をしてはいけない・・・・家族かどうかはまだしも、イングヴィルドには恐らくシオンしかいないのだ。シオンしか・・・・嘗て、両親以外は録に知らないのを疑念に思わなかった自分寄りかもしれない何かがあるのだとした。シオンにしても、もしもであるが・・・・彼自身が家族と言うものに対して抱くものが・・。
(だ、駄目っ!私は・・・・っ)
そう、朱乃はシオンに過去を見せられた時に何をしたか?
今は知らないが、アーシアとレイヴェル・・・・後者は手持ちのものが未使用で済んだがというのを除いても場合によっては最悪の結果を招く事をしたのだ。レイナーレに指摘されたように自分が忌み嫌うあまりに親友の暴走した時にすら使わなかった雷光の力を本格的に使ったのがそれではと身震いしてしまう・・・・まして、これも指摘された事、シオンがリアスに何かをされたのは明らかだが、それを防げたかもしれない可能性は、あの時に自分が本来の力を使っていれば・・・・自分が傍に行きたがっている相手は自分の意固地の皺寄せを受けたと言えるシオンなのだ・・・・浅慮は控えなければならない。
そんな娘の心情を察して頭を撫でる父バラキエル、道中で漸く謝罪出来て、漸くやり直しを始められた父は無言で語りかけてくれた。
『それで良い』と。
・・・・そう、まだ始まったばかりなのだ。自分が歩み寄りたくなったシオンの事を知る事も・・・・イングヴィルドの事を知る事もだ。
そう考えていた朱乃であったのだが?シオンに思わぬ急接近を唐突に実現させた者がいた。
「全く!私以前のヴァルキリー達もどれだけ泣かされた事か!あの老人は全知全能でも福利厚生とかが頭に無い!組織人に最低な類いな全知全能(笑)なんれすよぉぉ!」
ビナーの用意した食事の中にはアルコール入りの飲み物、つまり酒が混じっていて、一杯飲んでしまっただけでロスヴァイセは?
『酔いどれヴァルキリー』
そんな痛々しい女と化してしまい、仕える主神への鬱憤を吐き出し始めて皆の注目を集めてしまっていた。算段があってこの場にいるよう誘導されたとシオンが看破したが、それまで溜まってたものが晴れたわけではない、事情を知らずとも見た目がいかにも才女と言える美女がそんな有り様では台無しである。流石に宥めに入ったシオンに泣き付き、完全に手中に捕らえて更にくだを巻く。
「ふにゅううぅっ!もう本当に、私は君みたいにゃゆうぼおなのをいたらいれぇ?本っっ当~に?各界の綱渡しになっちゃいたいのれぇすよおぉぉっ!どうれす!この私にお婿さんにされる前提でマロ~~ンリックな美らんのネらになるのはっ!?」
唐突に、嘗てオーディンが匿名希望の名義で自分の写真だけのお見合い話をシオンに持ち掛けた事も漏らしたりとカオスな状況に入った。
シオンは流石に昼間に思った自分の実はホワイトな環境の雇われ振りとロスヴァイセの境遇に思うところがあってされるがままである。それは正しい、これに下手に歯向かったら何を言われるかわかったものではないのだと察した。そんな光景に流石に酔っ払いに冷や水ならぬ水龍を浴びせようとしたイングヴィルドはビナーに阻まれていた。
「そっとしておいてあげるのです。ロスヴァイセさんの気の済むまで」
ビナーにしても話さない実家絡みでロスヴァイセにあんまりな形のシンパシーがあった。その悲哀を本能で察したイングヴィルドは素直に頷かざるを得なかった・・・・勿論、この類いの定番に数えられる結末は間も無く訪れた。シオンにトイレに付き添われながらお約束をかましたロスヴァイセは?
『ゲロ吐きヴァルキリー』
そんな異名まで付いた。だが、そのロスヴァイセが今後の重要な鍵となる事を一部を除いて予想だにしなかった面々であった。
・・・・・・・・そして?
コンコンコン。
リアスの寝室に繋がる通路のドア、ドアの向こう側からノック音が三回響いた。食事場にいる者達は、リアスが目を覚ましたのか?と注目した。
「どうぞ」
ビナーが入室を促す声を上げた。ドアが開き入って来たのは・・・・。
「我、突撃!・・・・隣の、晩・・ご、はん・・・・?」
昼間、サイラオーグの滞在場に向かったシオンと、それに同行した組が出会った存在。
『オーフィス』であった。
パーティーにはサプライズが付き物よのう。
ギャスパーの神器がある世界にしても時間が止まっちまうレベルは勘弁だよ。