ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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それなりに事態は動く。


光明

「失礼します」

 

 アーシアは隣の教室を訪ねた。

 

 リアスがまだ目覚めず他も所用で出向いたりしている中、自分だけでは理解しきれない件で相談出来そうな相手として、ロイガンは来たばかりだから判断が出来ず。天野夕麻・・・・自分に取っては噛み合わせ次第で最悪の関係となってしまったであろう堕天使レイナーレを頼る事にしたのだが、返って来た答えは?

 

「天野さん?誰よそれ・・・・」

 

「え?」

 

 教室内のレイナーレの席の方を見ると、席が無くなっていた。

 

『まるで最初から無かったように』

 

 アーシアはワケがわからない、何か勘違いしているのかと考えられたのか、一先ず落ち着いては?と諭されて退散し、教室に戻って考えてたが?

 

「何よアーシア?旦那様が留守で気になってるの?」

 

 声を掛けて来たのはクラスメートの桐生藍華であった。転入して来てから何かと気に掛けてくれている存在、だがアーシアは藍華の発した単語にあたふたしていた。

 

「だ・・・・だだ『旦那様』?」

 

「姉ヶ崎よ・・・・何よ、まだ全然なの?」

 

 眼鏡を光らせ、ふんぞり返ってからかうが、今更と微笑ましく思ってもいた。アーシアが姉ヶ崎詩音に抱く思いは見え見えだが?『転入から数日前』まではある理由により、周りには少し気の毒に見られてもいたが途中からリアス先輩のせいで泥沼方向でもあったとも。

 

「隠れた良心さんは、世話好きな彼女がいなくなったのをまだ知らないからね、まあ『一般生徒は忘れてるけど』?あんたみたいのは、今がチャンスかもよ?」

 

 アーシアは目を丸くした。

 

『一般生徒は忘れてる』?

 

 何を言っているのかはわからないが、そんな言い方をするのは?

 

「ふふん♪♪『転生悪魔にすらなってない人間』同士だからちょっとね?」

 

 理解した。

 

 桐生藍華は・・・・『悪魔や堕天使の事を知っている』・・・・その真意は?と身構えた時。

 

「そう警戒しなくて良いわよ、一般生徒の間でレイナーレさん絡みの記憶が消されてる理由に関して話したいだけなんだし?」

 

 そう、取り敢えずの疑問も聞かねばならないとしてアーシアは藍華と話を始めた。

 

 

 

 

 

 その頃、シオンのマンション。

 

 

 

 シオンの留守を頼まれたロスヴァイセは、レイナーレから預かったコーヒーの入った容器を見ながら複雑な心境だった。

 

『味見に付き合ってもらったから』

 

『シトリーの顔見知りにも宜しく』

 

 何気なく言っていたが、心中穏やかで無かったのは理解していた。上司の唐突さに苦労させられた者同士であるが今の自分は彼女よりはマシだろう・・・・正直、先日の戦いで目の当たりにした面子の中で比較的年長者として振る舞うような自信はロスヴァイセには無かった。

 

 レイナーレ達も不用意に戦いに巻き込まれるより『栄転先』・・・・そう、多分オーディンよりはマシな上司の元で今後を考える方が良いだろう、会えなくなった訳ではないし・・・・寧ろ離れてるからこそ、違う陣営にいるからこその利点があるので真にシオンの助けになりたいのなら好都合とは言え、聞いた限りを推測するとシオンの傍に居れなくなったのがレイナーレには本心では苦痛であろうと、ロスヴァイセは自分なりにまとめていた。

 

「と、それより・・・・私はどうすれば?留守を守るにしてもやる事が無いですよおぉぉっ?」

 

 理知的な考えから一転して、泣き崩れた。

 

 留守中の家事代行気取りをしようにも、ほぼ完璧な掃除状況・・・・シオンは勿論、イングヴィルドもリハビリを兼ねて頑張っていたのだから隙が無い・・・・外からの敵は例の結界が再度張られて自分にシオンと一部以外の者が制御出来る装置まで渡されているから、当面は心配無い。強いて言えば?

 

(・・・・私の論文については、保留ですし、オーディン様の飴玉缶、いえドロップ缶?に混じった一部だけじゃ確かにですけど・・・・せめて、あの中の飴玉が全部何かしらの魔力の宝玉か何かなのな、ら・・・・っ!?・・・・この、飴玉?)

 

 ロスヴァイセは妙案が出来た!そう、飴玉だ!このサイズの飴玉こそがヒントだ!と。

 

「ふふふふ、仮にも年上なお姉さんの面目躍如をして見せますよぉぉっ!!」

 

 先日の酔いどれ振りで特に学生達には白い目、暖かい目で見られたのを気にしているロスヴァイセは逆襲?への一手を決意してみせたのである。

 

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

 

「良かったんですか?」

 

 ミッテルト達は『呼ばれた場』に向かう途中でレイナーレに問い掛けた。レイナーレの偽装工作のおこぼれを預かった身である以上に彼女の想いはわかっていた・・・・が?

 

「別に?折角の『栄転』だしね・・・・それと?今はそれが都合良いでしょ」

 

 レイナーレが言うように、目的地に向かっている者達は『アザゼル総督』直々にお呼びが掛かった。意図はある程度推測出来るし・・・・先日のように魔王級が参戦するような戦場は荷が重い、コカビエルが自分達を使った搦め手を仕掛けて来たらどうなっていたか、今後そのような事態になったらどうすれば良いのかわからない・・・・ならば、今回の話は好都合とすべきであろうとしている。喫茶店の件は任せてあるし学校の一般生徒達の記憶は消してもらっている。

 

 元々茶番だったのだし、命を長らえたどころか総督自らのお呼ばれを受けられた・・・・万々歳であろうとした・・・・が?

 

「・・・・」

 

「レイナーレ様?」

 

 無言になった上司に一声を掛けようとしたカラワーナはドーナシークに止められた。部下達に顔を見せないでいるレイナーレの目からは涙が止めようもなく溢れていた。人間の姿でシオンと過ごした日々だけが頭によぎってしまうレイナーレは堕天使以前に只の女でしかなかった。

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

「と、言うワケで?レイナーレさんは栄転だった。それだけなんだけど、堕天使絡みの記憶が残ると不味い部分多いからね」

 

「そう、だったんですか・・・・」

 

 アーシアは複雑であった。偽装と言い切っていたがレイナーレのシオンに対する想いは実際はどうなのか言うまでも無いからだ。学園内でもシオンと一緒にいるレイナーレは自分で気付かなかったようだが、どんなに楽しそうにしていたかも目の当たりにしている・・・・そんなアーシアに藍華は釘を刺した。

 

「アーシア?他人事じゃないわよ、魔王級が絡んだ戦いが起きた以上?次はどうなるかって問題があるけど・・・・それくらいの規模が無しにしても?あんた。姉ヶ崎達に混じって他のお荷物にならないって言い切れる?」

 

「・・・・っ」

 

 そう、アーシアは非力な人間。

 

 『聖母の微笑』という神器があるから、リアス達に重用されているワケではないのだと自分で実感している。

 

 ディオドラやフリード達の陰謀がアッサリ頓挫した今となってはリアスの管轄地内で人目に着く場で不用意に神器を使うご法度を犯してしまった者として保護と言うより監視下に置かれているような身というのが現実だ。

 

 ディオドラはあっさり死亡、フリードは重症で冥界の隔離施設に送られた為に・・・・肝心な調べが停滞している。シオンのような強力な戦闘力や他との人脈も無いようではソーナに言われたように場合によっては、リアスの管轄地内で最大の火種になりかねないし、それを予防する手段が自分だけでは立てられない身だ。

 

 事態がある程度落ち着いているとも言える今となっては、もしもアーシアを引き渡すような要求が教会や他の勢力から来たら?

 

「~~っ」

 

 アーシアは震え出した。もしもシオンやリアスの元から去らねばと考えただけで身を引き裂かれそうだった。そんなアーシアにバツが悪い思いをした藍華であるが・・『自分が最適』・・と言う事に賛同してしまったのだから仕方ない。

 

「状況は理解してるようね・・・・じゃあコレ」

 

「え?」

 

 藍華は『頼まれた品の入った箱』をアーシアに渡した。判断を任されたからとすべきか、こうなってると見透かされたとすべきか?

 

「詳細は守秘義務!これは絶対ね?その中にはね?多分だけど、下手な準魔王級くらいが来ても何とかなりそうな品が入ってる・・・・後はあんた次第よ?」

 

「は、はい・・・・」

 

 アーシアは普段通りの顔になった藍華に安心して、その箱を受け取った・・・・言葉が上手く出ずに何度も感謝を込めて頭を下げた。




比較的影の薄い面子にサブタイ通りのものが差した回になったと思います。

微妙に失礼な言い方してんな~。

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