ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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他だってそれなりに考えて動く。


渦中に再び

サラリーマンやOLと言うのは昼休みに屋上で食休みやら何やらをしたりもする。だからこそ高いビルの屋上から遠くを見たり風に当たってたりしている光景は珍しくない、『目当ての一軒家』の方を屋上から様子見しても怪しまれない・・・・。

 

自分は何をしているのだろう?

 

生家が『旧魔王派』だから両親から純血悪魔至上主義の為なら汚れ仕事でも喜んでやるような歪んだ考えを押し付けられる日々を過ごして二百歳まで育ってしまったが、本当は・・・・そう、極端に言えば、新魔王派最強のサーゼクスがルシファーとなるのではなく歌のお兄さんになりたかったのだと戦争中に聞いた時、周りは冷笑していたが自分はその考えには内心で頷いたりした。サーゼクスの人となりは多少は聞いていて、その思いが真実とは思っていた。でなければ、あのグレイフィア・ルキフグス様が惚れて戦後に嫁いだりはしない、戦争なんかと無縁の事をしながら楽しく暮らす・・・・それが一番ではないか。

 

新旧魔王派の戦いが終わり、人間界に落ち延びて暮らしていた自分に回って来た仕事は・・・・あの赤龍帝の住んでた辺りを監視する事、人間界で言う『千里眼』をスケールアップしたような能力だけが取り柄な自分は騙し騙しでやっているが下らない・・・・何かやりたいなら堂々と戦いを挑むべきだ。自分が調べた限り今代の赤龍帝は普通に決闘でも申し込めば受けて立つだろうし、そうする気概すら無いの?と言いたいが、自分に言えた義理ではないかと冷めた考えで昼休みの終わり五分前になったから午後の仕事に向かおうとした・・・・嗚呼、例のグレモリーの稼ぎ頭にでも遠回しに何もかもぶちまけたいところだが、例のリアス・グレモリーの暴走の件があるからやり方が問題か?パソコン以外の方法が良いか?

 

そう考えてたら女の意識は暗転した。感覚も何も無いと疑問に思ったが、惨めな俯瞰風景から解放された。飛び出す事は出来たと思ったのが最後の記憶だった。

 

その日、会社の近くには屋上から投身自殺をした平凡な女性社員を装った『悪魔』の遺体が頭部から流れて出来た血の海に沈んでいた。

 

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

 

イリナとゼノヴィアは一旦教会に戻っていた。

 

回収した聖剣の返還、今回の戦いではコカビエルが黒幕とされて出向いたのだが?当のコカビエルはビナー・レスザンに事も無げに倒されて冥界に送られ、聖剣計画で暗躍したバルパー・ガリレィも木場佑斗にこれまた事も無げに斬り捨てられた事で結果的に悪魔側が成果をほぼ独占したようなものである。堕天使側にしても例の横流し品の管理すら出来ていない失態の末にバラキエルがシオンに助けられる結果になった為に面子は潰れているであろう。そして?

 

「味気無いな・・・・」

 

「・・・・」

 

町外れの公園で支給された携帯食をかじりながらゼノヴィアはイリナに問いかけたが、同じく味気無さそうにかじりながら茫然自失としている。栄養が不足してはイザと言う時に困るから口にしているが、日本の何種類もあるバランス栄養食とは味からして遥かに違うし劣るものだから味気無い・・・・あの晩にビナーが用意した料理の時も機を見てシオンに神の死について聞いた時に見たもののせいで気が気で無かった為に今程ではないが味が良くわからなかったのだ・・・・シオンがあり合わせと言いながら出してくれた料理の滋養に満ちた味が恋しく思えた。

 

『神の死』

 

それについて報告したが、答えは無言のものであった。沈黙の肯定と言ったところだが、明らかに自分達は異分子扱いを始められる気配が見えた・・・・皮肉な事に大した成果を挙げれなかった事で特に知られても問題無いレベルと判断しているのかもしれないとも見えた。

 

そう、正に自分達は単に場に混じっただけである。そもそも冷静に考えてみればコカビエルが聖剣を盗み出した情報が簡単に漏れすぎな気がする・・・・これはリアスも薄々気付いてはいたのだが、まだ整理を初められてすらいない。

 

挙げた成果は精々がイリナの奇策だが?悪魔側の力と情報あってのものであり、最上級悪魔のロイガンまでが出向いたからには傍目には他に代えが無かったと思っては貰えない範囲だ。無言で釘を刺されたがオーフィスの件を報告するか否かについては言う機会すら外した。

 

教会にしても悪魔側に何かしら打診しようにも、あの辺りの管轄者であるリアス・グレモリーが少なくとも三日も眠ったまま、冥界も何か慌ただしいらしく話が始められないらしい・・・・二人には心当たりがある。シオンとリアスの成果はそれ程のものだ。

 

ここで幸いか否かなのは、当初はイリナとシオンの関係からイリナが抱いている想いを知った上層部は揺さぶりを兼ねてリアスに接触させた事だが、二名にはそれを見通せる程の洞察力は無かった事だ。それに関してはリアスの評価が今回の件で激変する事になるので上層部にとっても冷や汗ものとなった。

 

「どうする?干されるだけになる可能性が濃厚だが、私達はここで座して時を待つか?」

 

ゼノヴィアは現状と今後について問いかけた。実際は口封じも検討されているが、現魔王の身内であるリアスにソーナ、一部しか知らない秘密があるビナーを含む一団と仮にも共闘した二名の価値は貴重である為扱いに右往左往しているとも知らないが、イリナにはある算段が密かにあった。

 

「ゼノヴィア?周りには誰もいないわね?」

 

「あ、ああ・・・・そのようだが?」

 

イリナは自分なりに慎重に事を運ぶべく動き出した。神や教会が絶対の拠り所でなくなった今は自分には・・・・。

 

「私は、シオン君の『あの状態』の真相を知りたい・・・・貴女もそうでしょ?」

 

ゼノヴィアは思わず頷いた。そう、神について質問した時にシオンがなった状態は明らかに危険なものだが?

 

「だが、どう調べる?私達だけでは手に追えないだろうし・・・・何かツテでもあるか?」

 

「そうね・・・・私ね?シオン君のご近所だった時から今までで気付いた事があるのよ、遠回しにその辺りに近付くつもりよ」

 

「気付いた事?」

 

ゼノヴィアはイリナの述べようとする事を待つが、その内にイリナの表情は殺気に近いものが宿っている事に気付いた。

 

「断っとくけどもしも、もしもよ?変な事になったりしたら?私達は・・・・多分?いえ・・・・絶対に・・・・そう、絶対『シオン君に殺される』・・・・それでも良い?」

 

ゼノヴィアは青ざめた。自分はまだしも幼馴染みであるイリナがこう言うからにはただ事ではない・・・・だが、自分なりの勘でこの誘いに乗ったのだ。

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

「と、言うワケでまた日本に向かっているワケだが・・・・どうする?旅費だけで無一文な計算のワケだが?」

 

「うぅ・・・・これじゃペドロ様の絵が見つかっても今度は買えない」

 

「違うだろ!着いてもまた物乞いでもするくらいしかないぞっ!?」

 

とても年頃の乙女の会話内容ではない・・・・だがイリナは不敵に笑う。

 

「ふふふ・・・・甘いわね、実は『ツテと保険』があるのよ!こんな事もあろうかとね?」

 

相棒の話を聞き終えたゼノヴィアは最初の辺りでゲンナリしていた。妙な事をしなくてもイリナはいずれシオンに殺されるかもしれない・・・・いや、一辺殺されるべきだ。

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

 

物騒な会話をしている娘達が日本にまた来るのを予期していたのは駒王学園の保健室で表向きの仕事をキリ良く終えたロイガンである。あの逞しいと言うか何と言うかな娘達は神の不在を上に報告した結果、恐らくまたシオンを訪ねるだろう、それは都合が良いとしていたのだが?

 

「つまり・・・・シオン君の実家周辺に潜んでたのが私達以外の誰かに殲滅させられている?」

 

眷属からの報告を聞いて、正直戸惑っていた。ただ殲滅させられているだけなら良いが、問題はそのやり方である。

 

曰く、高いビルから飛び降りた自殺者に見せかけている。

 

人間界の暴走族やオヤジ狩りの過程での死者が出たに見せかけている。

 

女性に対する暴行から略奪の果ての殺人に見せかけている。

 

(・・・・やり口からして・・・・人間界での一般人の間で有り得る事ばかりねぇ、悪魔が絡むにして・・・・はっ?・・・・そうか『悪魔』)

 

ロイガンは急速に仮説が立てられた。

 

『悪魔』

 

要は『悪魔』が例えばディオドラのようにアッサリ始末されて冥界に送られ、人間界に影響が出ないようにさせない形に・・・それをやるのは?

 

(・・・・ま、不味いわね・・・・イリナさんとゼノヴィアさんが危ない!)

 

自分のように渦中に飛び込んで上手く行くとは限らない例を実現させてはならないとしてロイガンは次の予定を早目にする事を決めた。




日常に潜むなんとやらからだな。

いや、冒頭の重さがなあ?

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