ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

85 / 161
 そう簡単に事態は好転したら苦労は無い展開は多い。


弱気

「夕焼けか・・・・」

 

 黒歌は屋根の上で呑気そうに座り込み、夕焼けを見ていた。和風の着物を来ているせいか、日本の文化に多少興味があって『歌』を気ままに聞いた事もあるが、その中には夕焼け何とかの歌があり、歌詞の意味がわかると怖いし細部が違ってはいるが他人事ではないと感じた。

 

「ねえ、白音?冥界じゃ私の背中で・・・・おんぶとか言ったっけ?な体勢から夕焼けとか見る機会はあったようななかったような・・・・まあ、良いにゃ・・・・悪いけど、中から赤いものと一緒に余計なもの出るのを祈るにゃ」

 

 一人で独白しながら酷薄なようでどこか寂しげに笑む黒歌は猫のように気ままに違う場所にお気に入りを探しに行くのみであった。

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・んっ」

 

 搭城小猫は目を覚ました。何故こうなったかを思い出そう としたが、それは傍にいたリアスの声に阻まれた。

 

「良かった・・・・思ったより大丈夫そうね」

 

「部長?私・・・・」

 

「待ちなさい、今から私の言う事を良く聞いてね?貴女は突然身体の内部から、何ヵ所も血を吹き出して重症だったけどレイヴェルが持っていた『フェニックス家の涙』で即座に治療したから助かったの」

 

『フェニックス家の涙』

 

 言わずと知れたフェニックス家独自の製法で造り出される即効性の回復アイテム・・・・確かに、フェニックス家の令嬢であるレイヴェルなら一つ二つ持ち歩いていても不思議ではないと小猫は納得した。

 

 レイヴェルが先週末に使わずに済んだものをそのまま持ち歩いていたのだ。

 

 バラキエルを救おうとして精神をバラキエルの内面世界に飛ばしたシオンの残った身体の異変を見ていたレイナーレが即座にアーシアを連れて来た恩恵であるが、レイヴェルはそれを説明しなかった。こうなったのは性急にリアスに事の真相を自分なりに知った事を伝えた結果として猛省し慎重に徹しただけではない、朱乃に知られない為でもある。

 

 真相は実は誰も知らない、バラキエルの精神世界で何かがあったとしている。朱乃が知ったらショックが大きいだろうからと伝えてはいない。

 

 ある意味で正しい、あの時に自分がシオンに?実はアーシアだけでなく念入りにレイヴェルの持っていた涙を頼る程のダメージを与えていたと知った場合、今のシオンへの想いを強くした朱乃には計り知れない影響が出る。

 

 それ等を知らないにせよ、素直になれない小猫は思わず毒を吐いてしまう。

 

「アーシア先輩がいるのに?涙は取っておいた方がよいハズでは?」

 

「アーシアが動揺しているのを見たからよ、もう少し遅れていたらこの程度じゃ済まなかったかもしれないから悪く言わないでね」

 

 そう、確かにアーシアに治療してもらえば涙を節約出来ただろうがリアスの言うように動揺した状態では即座に涙を使った結果程な回復は出来なかった。

 

「携帯やネットは使えるように復旧した。ロスヴァイセさんには連絡がついて、貴女の見たドロップ缶は彼女が持ってた。その通りだとしたら事情を知ってる何者かの仕業ね、私達は予定を変えて、オカルト研究部と生徒会室に泊まり掛けを決定したのよ」

 

 気になっていた事の説明を続け、漸く本題に入る事にした。リアスも多少落ち着いて話したい内容だからだ。

 

「貴女が眠り始めてから、一般生徒に混じって過ごす陰陽の関係者・・・・シオンが仕事で親交がある者がいたから調べてもらったところ、貴女には『呪い』の類いを施されていた。恐らくは貴女が喋ろうとした事に対して、身体が穴だらけにされるだけではない形で発動する呪いよ!何を話そうとしたか、更に貴女に呪いを掛けたのは誰なのかは聞かない事にしたわ!恐らくだけど、そっちにも反応する可能性があるって危険があると結論が出てる!良い?呪いを解除するまで絶対に話しては駄目よっ!紙に書いたりの遠回しでも絶対に駄目!でなければ、今度は何が起きるかわからないわ!」

 

『呪い』

 

 黒歌が、動けない自分に気付かれないよう施したとすべき流れ。姉である黒歌の意図はわからない、また裏切られたのとも何か違うが、傷付けられた事には違いないとした小猫は気付いたらに両目から涙が溢れていて声を殺して泣き始めた。リアスはそんな小猫をただ優しく抱き締めてあげるしか出来なかった。

 

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

 

 オカルト研究部の部室で普通に着替えるついでに予備のパンツを履いたアーシアは自分の無力さを痛感していた。

 

 数時間前にも考えた事だが、『聖母の微笑』を持つ人間だから重用されているワケではなく、他と自分の不祥事が絡み合って政治的な事まで含む事態になっている為に取り敢えずリアスの元に置いてもらっている状況。

 

 だが、結局は非常時には自分の回復と治療を担当出来る特性あっての事だと考え直さざるを得ない。

 

 実際はリアスにとって精神的な支えの一つになれてはいるが、やはり戦闘に役立てないのが痛い。

 

 極端に言えば、ビナーやシオンが先程の・・・・直接目の当たりにしたのは初めてなフェニックス家の涙を一つか二つ持ってさえいれば自分は必要無い、寧ろ近くにいたら足手まといになるのはビナーとコカビエルの戦いの時に理解している。これはリアスや朱乃ですらそうだったからより理解せざるを得なかった。

 

 藍華に貰った箱も何故かパンツが無くなったのはさておき、使いこなす以前に解析も出来ていない・・・・アーシアは、せめて?と、考えようとしてしまった事を全力で止めたが遅かった。辛い記憶が蘇ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 それは、リアスに頼んで転生悪魔にでもなればとの考え、僧侶の駒が余っているリアスには丁度良いかもしれないと遠回しにリアスに提案した事があるのだが?

 

『アーシア・・・・許し、てっ・・・・お願い・・・・だから、許して・・・・下さいっ』

 

 リアスは青ざめて泣き崩れ、アーシアに膝立ちで縋りながら許しを求めた。シオンにそうしていた時のように。

 

 シオンを眷属にして以来、リアスは悪魔の駒に関しての話題を避けている。恐らく、今のままでは空いている駒を使って眷属を揃える以前の問題、仮にアーシアが瀕死になって転生悪魔にするしか救う手段が無いとしても今のリアスではやれないかもしれない、事情は知れないがそれ程のトラウマと化している事だけは何とか理解したアーシアも泣きながら気付かずにトラウマに触れてしまった事をリアスに謝罪して抱き合った。

 

 シオンにそれがバレた時には、部室の床に正座で向かい合い、自分の目を見てただひたすらに良く考えるんだと言われ、悲哀の色が浮かぶシオンと一時間は向き合った。ただ怒られるだけより辛い時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアは始めてしまった回想を何とか終えて、今回の自分の問題に思考を切り替えた。

 

 非常時に動揺して使うのが遅れる有り様では万が一が有り得る点だ。そこから考えたのは、例えばグレモリー眷属やシトリー眷属が全員重症を負っても動揺せずに神器を即座に使えるようにならなければならないとと考え、そんな事は自分には・・・・と弱気になった時。

 

(だ・・・・駄目、駄目ですっ・・・・怖い・・・・凄く、怖いけどっ・・・・やらなきゃ)

 

 そう、どんなに怖くても?アーシアは自分がそれをやれるようになれば皆が助かる可能性が飛躍的に伸びる。シオンとリアスの助けになれる・・・・自分をそう奮い立たせて、一呼吸置く為にソファーに座る朱乃達にお茶でも淹れようとした時。

 

「え?」

 

 朱乃、ギャスパー、木場にレイヴェルは座ったまま微かに俯いていた。目は開いているが、何故か光が無い・・・・寝ているのとは何かが違うが意識が無いようだ・・・・何故なのか?と落ち着いて考えて、先ずはリアスやソーナ達に連絡しようとした時である。

 

「っ・・・・これは?」

 

 リアスに肌身離さず持ち歩くよう言われた箱がまたしても黄金の気を放つが、直ぐに沈静化した。

 

『ゴメン』

 

 どこからか、知らない無い声が聞こえた気がしたと思ったら部室のドアがゆっくり開いた。

 

リアスが戻って来たのか?とアーシアは思ったが、入って来たのは先週末に会った相手。

 

「我、お邪魔?します」

 

「フィ・・・・『フィリス』さん?」

 

 アーシアからしたら正体は愚か、偽名を使っているとも知らない相手『無限の龍神オーフィス』であった。




 誰かさんみたいに愛情やらをわかりやすく伝えて欲しいと思われる前が勝負なのを理解出来れば良いのが複数やな。

 嫌な共通点持った相手が身内にいるのを気付くのも嫌だしなあ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。