ハイスクールD×D 見初められし『赤』   作:くまたいよう

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 一旦は区切りになる回です。


アーシアは見た

 フィリスさんと会うのは二度目。

 

 先週末のお食事回に唐突に訪ねて来たビナーさんの知り合いで、何代か前の赤龍帝のお友達だったと説明された女性・・・・食事の仕方や食べ物の種類すらまだわからない子供のようで、外見より年下に思えました。教会にいた頃に遊んだりした子供達を思い出す程した。私もシオンさん達と一緒にフィリスさんに色々手伝いしながら楽しいお食事会になりました・・・・本当に楽しかったです。リアスお姉さまも一緒にいて欲しかったです。シオンさんの部屋でカレーをご馳走になった時以外は、本当に楽しくしてる時が無いように感じていましたから、きっとリアスお姉さまは喜んでくれたと思います・・・・でも何故訪ねて来たのでしょう?

 

「アーシアだった?」

 

「え、はい・・・・私はアーシアですよ」

 

「我と来る」

 

「え・・・・待って下さい。皆さんが・・・・」

 

 私は部室内にいる皆に目を向けた。状況がわからないけど、皆さんが意識を無くしたようになっているので、何か対応をしなければならないからと言おうとしたのですが?

 

「我がああした」

 

「え?」

 

 私は驚いて目を丸くしました。フィリスさんが皆を?何故なのですか?

 

「来る」

 

「え、ええ?」

 

 手を引かれて、私は驚きました。凄い力で逆らえない・・・・全然逆らえないです。初めて学校に連れて来てくれた時のシオンさんくらいはあるかも。本当にこの子は一体?と思いながら手を引かれて歩く内にハッとしました。ビナーさんが『以前の大戦』で何度かと言いました。もしかして凄く強い御方なのでは?と思った時に私はまた気付いてしまいました。

 

『今更過ぎる』

 

 多分、他はそれくらいは考えていると思います。私は考えが甘いから・・・・それでシオンさんがああなったかもしれないのにと考えた時でした。

 

スッ

 

 フィリスさんが私の目の近くを指で触れた。いつの間にか出てた涙を拭ってくれたと理解しました。

 

「女の子、泣いてるとこうしてあげる・・・・我、前の赤龍帝がそうしてるところ見た」

 

「あ、あの・・・・」

 

「シオンの方が良かった?」

 

 お礼を言おうとしたら、凄い事を言われてしまいました・・・・シオンさんが私の涙を拭ってくれたら・・・・と顔が熱くなってしまってどう言ったらわからなくなった時に、フィリスさんの目は何故か厳しくなった。

 

「我、これから・・・・前の赤龍帝と今の・・・・シオンに怒られる事をやる」

 

「お、怒られる?」

 

「そう、アーシアみたいなのを泣かす。一番悪い事・・・・だから怒られる。でも、我やる」

 

 何故かポーっとした瞳に真剣な色が灯っています。少なくとも私にはフィリスさんが覚悟をしたように感じました。そして、また手を引かれて私は従って歩きましたが?

 

「フィ、フィリスさん・・・・此処は?」

 

 フィリスさんに連れて来られたのは、あの場所でした・・・・丁度、今くらいの時間帯でしたから余計に思い出してしまいます。

 

 そう、リアスお姉さまが暴走してシオンさんが戦って・・・・私達の前から離れて・・・・皆で駆け付けたら、リアスお姉さまは元に戻ってシオンさんは悪魔に転生していた・・・・その時の桜の木の下です。何が起きていたかは、私も朱乃先輩に聞きました。ビナーさんに促されてシオンさんが語った内容はリアスお姉さまが危険な状態になっていたので輸魂法と言う秘術を使って元に戻してくれたのですが、代償が大きすぎてリアスお姉さまの悪魔の駒で転生したのだと。

 

「違う」

 

 フィリスさんの声で思考が中断され、思わず彼女の目を見ました・・・・けど、私は腰を抜かしそうになった。震えが止まらない・・・・フィリスさんの目には何か恐ろしいものが宿っていた。何故か思考を読まれていた事を考えるくらしいか出来ませんでした。

 

「我、この場の思念と気を読んだ」

 

「え?」

 

「アーシアなら見せて大丈夫かもしれない、他のだと・・・・あの女、危ない」

 

「フィリス・・・・さん?」

 

「アーシア、我の見せるものを見てシオンの力になる」

 

 

『シオンの力になる』

 

 

 それは、私にとっては、一番望んでいる事です・・・・思わず頷いてしまったと気付いた瞬間でした。

 

「え?」

 

 空間が僅かに歪んで、私の目に映ったのはリアスお姉さまを桜の木に押し付けて、何か荘厳な気を放つシオンさんの姿。

 

『今、元に戻します・・・・先ずは、自分の眷属に詫びて来て下さい!』

 

 シオンさんがリアスお姉さまを何かの術で元に戻そうとしている?おかしい・・・・聞いていたのとは何かが違うと思った時、リアスお姉さまがシオンさんの左腕を掴んで?ゾクッとする気を放ち始めて間も無く、シオンさんから放たれた気が消えて・・・・身体からは赤い粒子が弾けた次の瞬間でした。

 

ドシュっ!

 

 嫌な音が響いて、私はその恐ろしい光景から目を離したかった・・・・本来そうされたら動いていないハズのものが、何故か動き続ける光景も見てしまったのです。リアスお姉さまが・・・・シオンさんの左胸を貫いて・・・・掴み取った心臓が動いている光景、そして左胸を貫いた右腕は肩が当たるまでに密着する形になって抱き寄せ、恋人にするように、シオンさんに身体も顔も刷り寄せて口付けをし続けるリアスお姉様は人間がイメージする魔女と、捕らえた獲物を補食する前に思い思いにいたぶり味見をする肉食系の獣を掛け合わせたような姿でした。

 

 

 

 肉食系の獣・・・・例えばライオンさん。

 

 

 

 ライオンさんは狩りをします。

 

 

 

 他の動物さんを食べてしまいます。

 

 

 

 でも、それは生きる為です・・・・。

 

 

 

 生きていく為に他の動物さんの命を奪わなければならないのです。

 

 

 

 とても悲しい事だけど、それが生きると言う事なのですと、私も教わりました。

 

 

 

 けど、アレは違います。

 

 

 

 生きていく為じゃありません。

 

 

 

 言うに絶えないものを満たす為だけにやっている事です。

 

 

 

 聞いただけだけど、私を陥れたディオドラ・アスタロトのような事・・・・いえ、それよりヒドい事をリアスお姉さまが・・・・シオンさんにやっている。

 

 

 

 優しくて・・・・きっと・・・・私と同じでシオンさんが大好きなのに・・・・それを言えなくて、寝る時には私に毎日のように泣いて縋りながら夢の中でシオンさんにひたすら謝っているリアスお姉さまが・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアの目からは止めようもなく涙が溢れていた。目を逸らせば良いのにとすら考える余裕すらなかった。いや、思考すら止めてしまいたいと思う程に何もかもが止まり掛けている。

 

 

 

『繋がったからだ』

 

 

 

 何故、リアスがああも毎日・・・・夢の中でシオンに泣いて謝り続けているのか?

 

 自分に悪魔の駒を使うような可能性を逡巡された時に泣き崩れて許しを求めるまでに取り乱したか?多分、この瞬間と次にやろうとした事を思い出してしまうからだと。

 

 悪魔の中には、非道な仕打ちで眷属を増やす者もいるらしい事は聞いている。正に自分が似たような事をされ掛けた。

 

 抱いていた疑問が、これで真相に繋がった。今ハッキリと自分の中で。

 

 見てしまったからだ。嘘ではないと何故かわかる・・・・だが、更なる真相の奥もある。

 

 リアスに何故か口付けをしたシオンから暖かい何かがリアスに送られるのを感じた。アレが聞いたところの輸魂法だろうとはわかる。

 

 だが、問題はリアスだった。

 

 送られたものが余程心地好かったのか、貪欲に吸い付くすように喉を鳴らしてそれを甘受しながら身体を震わせ、表情は何かに酔いしれたようになった。

 

 そして、自分の知る表情に戻ったリアスはシオンの心臓を掴んだ自分に驚いていたが、その内に心臓もシオンの身体も光の粒子となり、リアスは悪魔の駒を夢中で使った。そして粒子から元に戻ったシオンはただ悪魔の駒で転生させてもらったような言い分でリアスに口付けしてしまった事を謝罪していた事にアーシアは打ちのめされていた。リアスは自分達が目撃したようにシオンに膝立ちで泣き縋り、ひたすら謝罪をし始めていた。

 

 次の瞬間には、周りが元に戻り・・・・フィリスと思われているオーフィスはアーシアに無慈悲に告げた。

 

「アーシア、わかっている・・・・今のが真実・・・・何となくだけどわかっている。シオンとリアスの使った術、我でも・・・・わからない・・・・わかったのはシオン、考えられなくされてる・・・・わからなくされている。された事をただ輸魂法の不備としか思えなくされた」

 

 そう、シオンはリアスを庇う為に嘘をついているのではない。肝心な部分を明かさないようにされてしまっている。

 

「アーシア・・・・これが、真実・・・・シオンはあの女に・・・・」

 

『やめて下さい!』

 

 そう叫ぶ事も耳を塞ぐ事をする気力すらアーシアには無かった。

 

 ただ無慈悲に、敢えて告げられた事がアーシアに響くのみだ。

 

 

「『リアス・グレモリーに殺された』」

 

 真実だ。アーシアは呆然と立ちずさんで次の言葉を聞いた。自分が本能で悟れた事を。イリナとゼノヴィアが出すのを忌避した結論の真相も理解してしまった。

 

「そして、リアス・グレモリーの為だけに生きていかなければならないものに・・・・『作り替えられた』」

 

 今もシオンとリアスがそこにいるように桜の木の下を見つめるアーシアの両目からは改めて涙が溢れ出した。何も言えず。何も考えられない・・・・それ以外は不要とばかりに、自分が此処にいる理由である二人の間にある事、自分が大好きな二人を結び付けた事の真相にただ泣き続ける事しか出来なかった。




 どこかで信じた時が続くと、思ってたとやらか。

 近づいてくるものを、見ないようにしていただけだという事に、気づかなかったってとこでもあるかな。ハードモードキャラ多数は偽りじゃねえか。先ずは立ち直れると良いな。

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