それと、追加したタグの理由説明?
桜の木の下でリアスは笑っていた。
恍惚とした笑み。
艶を帯びた吐息が、右肩の辺りにある詩音の顔に掛かる。
左手を腰に回して引き寄せていた。
『手に入れた』
『掴んで引き寄せた』
『自分のものだ』
『彼は、これで自分のものだ』
後頭部から背中、腰の辺りを思い思いに撫で回し、頬を寄せて、密着して潰れた胸を始めとした身体を擦り寄せて詩音の身体の心地好い感触を堪能するリアスの右手には心地好く動いているものがある。
リアスはそれを掴み取った事で身も心も歓喜に震えている。それは、まだ動いていた。
『姉ヶ崎詩音の心臓』が。
詩音の左胸はリアスの右腕が肩が当たるまでに貫通し、手には掴み取られた心臓が動き続けていた。
左胸から溢れ、飛び散った血の暖かさも、埋まったままの腕が感じる血肉の感触も心地良く感じながらリアスの顔は艶かしい喜悦に染まっていた。
(・・・・・・・・何故こうなった?)
詩音はリアスを取り抑えて元に戻す為の術を施そうとしたのは覚えている。左手を掴まれた瞬間に意識が無くなり、何を見ていたか?気付いたらリアスの生い立ちを把握していた。そして、左胸を貫かれて彼女に抱き寄せられ、愛玩動物にするように頬や身体を刷り寄せられていた。
理解したのは、自分がこれまでなのだと言う事実、心臓を奪われているのに痛みすら感じないのはドライグが痛覚を遮断してくれたようだと思い至った。
気付いたら、リアスは自分の額や頬に口付けをし続けている。
唇で吸い付き啄む音と、リアスが漏らす感極まったような声が耳に響く、死が近付く自分に物好きな事だと呆れたが、本能で感じた。リアスの身体に走る亀裂が深さも数も増している。このままでは砕け散ると・・・・何故そうするか理解しかねるが自分に口付けし続けるリアスがこれから何をするかで、ある結論を出した。
しかし、このまま自壊されては『最後のチャンス』すら無になってしまう・・・・そして、詩音は最後の賭けであるが自分の気分的に最悪の選択をした。
感覚すら定かでない両手で強引にリアスの身体を抱き寄せた。気を取られ、自分の顔に向きあったリアスの唇を強引に奪った。
そういうことに有りがちな意味は無い、これから施す処置に口同士の『粘膜接触』がてっとり早いからだ。
そうして、全ての気を集中して『輸魂』の一種と言うべき術を開始した。自分の魂そのものをエネルギーとしてリアスに送って彼女の何もかもを修復する・・・・せめて、リアスを身体だけでなく思考までも元に戻しておかないとならないのだ。自分を力ずくでも手に入れたがったリアスは、正気に戻って死にかけた自分がいれば話に聞いている『悪魔の駒』で転生させるくらいはする可能性がある。リアスの記憶と生い立ちを把握した詩音の最後の手段である。
ドライグは呆れていた。
ギリギリのところで人が良く、頭の回転が速いと思っていたが、まさかこれ程とは、と・・・・だが?詩音の意図とは違い、流れた記録を見たドライグはリアスの現状すら考慮してこの後を見透かしていたのだ。
違和感はあった。()・・・・
しかし、いずれ自分からしようとしていたリアスは、それまでを含めて思考力が低下していた。姉ヶ崎詩音が何故自分から唇を合わせて来たのかを考えるのが遅れたのだ。
そして・・・・目を見開くリアスに『ソレ』が流れ込んだ。
(・・・・・・・・温かい)
身体がビクッと震えて、流し込まれたものの味の美味しさに酔う。
(甘、いっ!)
口中で味わっものが胃に流れ込み、そのままリアスの身体中に染み、甘美さに震わせて満たす。
『甘露』
そのようなものではない、自分の何もかもを満たしてくれるものをリアスは更に求め始めた。
(・・・・もっと!)
もっと、もっと!もっともっともっともっと もっともっともっともっともっともっと、もっともっともっと・・・・もっと!・・・・っ!と、リアスは自分から喉を鳴らし、シオンと唇を合わせながら何もかもを吸い始めたのだ。
お互いの唾液と吐息、左胸を貫かれた為に口中に溢れる血液・・・・何より詩音が送り込むもの全てが心地好くリアスを満たし続け、更に痴れ狂った思考に落ち続ける。
このまま、何もかもを自分のものにしてあげたい、それに見合うくらい自分の全てをあげたいと。
そう・・・・腕に抱く少年はもう自分のもの、だから・・・・自分も少年のものと。
「ぅむ、んぅ・・・・んん・・・・っ!・・・・あむ、ううん・・・・っ(・・・・ああ、この後・・・・に、どうしよう・・・・どんな事でも私は・・・・けど、今・・・・は、何故か送られ、るもの・・・・をもっともっと、飲ませて、欲しい)・・・・ぅぅん・・・・っ?」
遅かった。
いつからか、普通に行為に酔っていた自分が左胸を貫き、手にしていたのは彼の心臓だと気付く・・・・驚愕する間もない、正気に戻った時には、闇に落ちた間に詩音の記憶を把握してリアスは、嘗て彼が見たものを再現してしまっていたのに気付いた。
何故リアスが詩音の心臓を掴み取っていたのかは、詩音の記憶から読み取った術の触媒が対象相手の心臓だったからだ。無意識の内に再現が完了して握った心臓は光の粒子となり詩音を包んだ。
「わ、私は・・・・私は!?」
詩音の身体も光の粒子となり再構成される。元の身体へと、だが?
(・・・・だ)
リアスは理解した。彼が嘗て合間みえた悲しき武人。
その武人が、何故悪鬼の如く豹変し、一つの世界を破滅させんとした邪神の傀儡となったのかを。
(・・・・よ、お前が『』したのだ)
「あ、ああああ・・・・」
その元凶となった術を本能的に理解した自分は使ってしまったのだ。光が落ち着き始める。
改めて、詩音としては打算的ではあるが?輸魂法で魂を分け与えてリアスを正気に戻してリアスの『悪魔の駒』で転生するしか生き延びる手段はないと考えた。
半ば賭けである。
それは正しい、仮にリアスが・・・・詩音本人が不完全な転生とドライグに施された封印で把握していない記憶を見なければリアスは状況を理解して詩音を悪魔として転生させたであろう。
誤算は詩音が覚えていない惨劇の記憶、リアスが貪欲に彼の魂をほぼ吸い付くす半ばで発現させた隠れた資質。最後に詩音が前世で打ち倒した邪神の悪足掻き・・・・全てが揃い、姉ヶ崎詩音は。
『作り替えられた』
光が収まれば完成する。ただリアスのものになった存在として。それを拒もうとしても手遅れだ。リアスは、せめて詩音が自分の意思を持つ存在でいれるようにと、本能的に自分の持つ『悪魔の駒』を呼び出して向けたが理解してしまった・・・・それこそが最悪の手段だったのだ。
「上手く、行ったか・・・・」
一瞬で元に戻った詩音の声にリアスは全身を震わせた。詩音から得た記憶と自分の所業への恐怖の余りに腰を抜かした自分を見下ろす詩音の声で全てを把握した。
『完璧』
あまりにも『完璧』だと。
詩音は自分に起きた事を理解してはいない、ただ自分の思惑通りに行ったとしか認識していない・・・・つまり、そうとしか考えないようにする処置も成功した。
「あの・・・・非常時とは言え・・・・申し訳、無いです。女の人の?・・・・唇を」
「ち、違う!あなたは間違っていない!間違っていたのは・・・・私・・・・」
リアスは言葉を詰まらせた。
何を言うか?
『許して』
『気にしないで』
仮に自分がそう言ったら詩音はそのままリアスの思い通りになる・・・・自分がそのようにしてしまった。
詩音は・・・・もう、詩音は自分の何もかもが自分のものではない、リアスのものになった。
自我を持つのはリアスがそうしたからではない、この術は元々そういうもの・・・・更に、リアスがやった事が問題だ。
リアスは完成させてしまったのだ。
詩音のいた世界で存在した。死した者を自分の傀儡にする為のおぞましい術を自分の世界の技術で再構成し、更にはソレ以上の成果を加えた術。
これがアレば、例えばフェニックス家の涙等は不要になる・・・・ただ自分の見初めた者を自分の思うままに不死の存在とする方式。
かの邪神がせせら笑っているようだった。
(リアス・グレモリーよ?何故、悲しむ?望みが叶ったではないか)・・・・その者は、そなたの者だ。そなたの私怨を張らす道具にするのも良し・・・・思うままに愛でるも良し・・・・だが、同調していればそなたと一つになるまでになるが、それも良し・・・・そなたは私の世界であるハズであった存在として新たに?)
最早、リアスの罪は自分だけに留まらない。全てを滅ぼす為の鍵を手にした。これの延長にある手段、それに最適な鍵としたのが見上げている少年、使えば・・・・例え兄サーゼクスが自分を大罪を犯した愚者として討伐しに来ても恐るるに足りないとも理解した。
「あ、あ・・・・あ・・・・ああああああっ!」
リアスは涙した。
泣き出したリアスを気遣う目を向ける詩音、その目はリアスが自分を傷付け、悪魔にしてしまった事に涙しているとしか思えていない色と理解出来るようになってしまった事実がリアスの心を更に抉る。
生きなければならない。
リアスに都合の良い存在として。
生きなければならない。
姉ヶ崎詩音は生きなければならないのだ。
『リアス・グレモリーの為だけに』
「っ・・・・な、さい・・・・」
漸く恐る恐る選んだ言葉、リアスはただひたすら自分の非を認める言葉を声を殺した謝罪を始めた。
嗚咽混じりに涙を流して、立ちずさむ詩音の腹部に膝立ちで抱き付き、泣きすがってひたすら謝罪を・・・・具体的な事は詩音の自我を奪うが為に言えずに自分の非を認める内容の言葉を繰り返す他は無かった。 今は、それしか出来なかった。
「ぅ・・・・ぇっ・・・・え・・・・っ!ご、めん・・・・なさいぃぃ・・・・ごめん、なさぃぃ・・・・ひっ、ぅ・・・・うう、うぇぇ・・・・ええ・・・・んっ」
子供の方がまだマシな謝り方と泣き声。
悪魔の少女と悪魔となった少年には、ただ一連のやり取りの影響で散った桜の花びらが舞い落ちるだけであった。
元ネタはさておき、要はそうする為の術。