リアスに怒りの一撃を放ち、追撃を掛けるイングヴィルドに立ち向かった仲間達ではあるが、魔王級の力の前にはあしらわれるばかりであった。イングヴィルドの殺意が向くのは自分にのみであった為に一人で戦う事を提案しつつ、せめてアーシアの事をシオンに伝えて欲しい願い出るリアスではあったが、自分の甘さを指摘されるだけであった。
「リ、リアス・・・・」
「手を出さないで・・・・私だけで戦うわ」
「そうね、巻き添えを受けたくないなら下がっていた方が良い・・・・それに、殺さない程度の加減を間違えてしまいそうだから・・・・下がっててくれた方が貴女達の主の為よ?」
イングヴィルドの無慈悲な言葉の意味はわかるのが朱乃達には改めて悔しかった。自分達が加勢した結果、リアスへの攻撃が加減を間違えるものになっては巻き添えだけで危ないし、下手をしたらリアスと何名かが命を落とすかもしれない。
しかし?だからと言って黙ってはいられない、先週の件で力を増してはいるが安定していないのが見て取れるリアスにどうにかなる相手ではない程度は理解出来ているのだが?
「下がりなさい」
いつの間にかロイガンが自分達の傍に来ていて冷徹な声で告げた。
「今から言う事は、それが最上級悪魔ともあろう者の発案か?って罵ってくれて構わないさ、でも今はタイミングを見計らってイングヴィルドさんをどうにかする事を考える方が安全よ・・・・『連絡が通じないんでしょ?』・・・・次に長期戦に持ち込めば眠りの病の後遺症があるかもしれないから、そこを突ける可能性もある」
ロイガンの言葉には真剣な色しか無いために納得せざるを得ない、薄々勘づいてはいたが現魔王にでも来てもらわなければ手に負えない相手と認識せざるを得ない為に密かに花戒が連絡を取ったが、通じなかった。そもそもここは本当に人間界なのか不確かだ。
加えて、ロイガンが言うように詳細が不確かな眠りの病に百年も掛かっていたからには何かの後遺症があるかもしれない可能性がゼロではない為、長期戦に持ち込めば突破口があるかもしれない甘い期待もあるにはある。
だが?佑斗と小猫は先週に何故か唐突に車椅子無しに動けるようになったのを目の当たりにしているので場合によっては裏目に出るかもしれない危惧があった・・・・かと言って打開策は無く、先ずは言われたように様子見をするしかなかったのだ。だが・・・・姑息と言われざるを得ない算段だ。主の盾になる事も叶わない、負けるにしてもせめて・・・・と思った時。
「せめて戦士やらそれらしくとか言うなら、今は尚更黙って見てるべきよ?主が一騎討ちやろうとしているのだからね」
自分達の考えを読んだかのような言い分にも反論のしようが無い、下がるように言われた全員が無力を痛感する他は無かったが、ロイガンは更に皮肉な事を看破していた。
(・・・・て言うか、運が良いのか悪いのかな状況でもある。この場で自分達の勝機に繋がる要素が実はあるのよ・・・・それは、ずばり?
『アーシア・アルジェント不在』
実はイングヴィルドさんの狙い通りにするにはリアスさんを即死させては駄目、言ったようにシオン君のとこに無力化して連れていかなきゃね?
他について、特にソーナさんは多分傷付けては駄目だろうね、他に関してもアーシアさんがいれば即死さえさせなければ回復してくれる。
とんでもない皮肉だよ、ファーブニルがアーシアさんを連れて行った事が敵さんの足枷になってくれている。見たところ強力過ぎる力を持て余してるから適当な形にするには不安があるだろうしね)
後ろめたさの塊になったロイガンには、立ち向かうだけで眩しく見えるリアスには顔向け出来ないとしていたが、当のリアスは覚悟を決める他は無かった。
(魔力系の技術戦で勝つのは無理ね、命掛けで突っ込んで、格闘戦に持ち込むしかない・・・・けど、仮にイングヴィルドさんがそれすら死角が無いのならもうどうしょうもない)
リアスは、雑誌に書いてあったようにサイラオーグクラスが格闘戦に持ち込むくらいしか勝つ手段が無いかもしれないのは、場合によってはこの場の何名かが既に命を無くしていたであろう事で理解出来ても最悪の結論に行き着きがちな思考に偏る。だが、もう自分にはやるしかないのだとするしかないリアスに対して相手は先に動き出す。
「来ないなら、此方から行くわよ?」
歩み寄って来た。やはり躊躇してられないとして、リアスは今の実際にやれる事を実行に移した。
「部長っ!?」
木場は思わず声を出した。あろうことか、リアスはイングヴィルドに正面から走って突っ込んだ。幾ら何でも無謀過ぎると映ったが、何処か引っ掛かる・・・・その意図は直ぐにわかった。迎撃として放たれた水龍三体はリアスが全身から放つオーラで散り散りになった。
既視感がある。
シオンが暴走したリアスの攻撃に使った技術を教わっていたのは知っている。
コカビエルの時に、ビナーに任せて撤退する際に同系統の技を朱乃と一緒に使ったとも全員が聞いていた。近距離に飛び込んだリアスに対して展開された水の防御壁、リアスは、それに全力で滅びの力を込めた右拳を敢えて打ち込んだ。防御壁は持ちこたえきれず破壊され、そのままイングヴィルドの顔面に拳がと、皆が確信した時だった。
「~~っえ?」
イングヴィルドさんは、身体を右に逸らし、そのまま左回りに身体を返しつつ空振りさせた為に虚空に伸びたリアスの右腕を取って背負い投げに近い形で海に向けて放り投げた。
見守っていた皆が唖然とする。手腕が見事過ぎる事以上に滅びの力を纏ったリアスの拳に触れるかもしれない恐怖が微塵も感じられない動き、格闘技の技術と胆力すら持ち合わせていた事には絶望する他は無かった。次に何故海に放り投げたのかを理解して『いけない!』と内心で叫んだ。
リアスは屈辱からの震えを堪えながら冷静を保とうとしていた。
『屈辱
そう、屈辱的な形で自分の乾坤一擲の一撃を返されてしまった。だが、無様な姿だけは見せられないと立ち上がったが・・・・足が動かなかった。
「♪♪~~♪♪」
リアスは、イングヴィルドが歌い始めていたのと、淡く光る海が何かの反応をさせられ始めた事で理解出来た。
『終わる翠緑海の詠』
海を操る力・・・・津波を起こしたりする以外にも海そのものを何かの触媒にする事も不可能ではないと判断した。
(・・・・いけないっ!)
瞬時に力を解放して上空に飛んだ。あのままでは魔力を纏った海の中でどうかされていたとはわかる。再び浜辺で対峙したリアスは突破口が無いとしていた。格闘戦に持ち込めば勝てるかもしれないのはあくまでもサイラオーグやシオンくらい。自分にはあの二名程の力も技も無いのでかえって危険と証明されたのだ。
ならば!と、リアスは決断をした。
見守っていた側は僅かなやり取りだが絶望的な展開にもう見てはいられないして大半が手を貸そうとした瞬間だった。リアスの周囲に無数の魔法陣が展開され、身体に凄まじい力が収束している。自分達が知らない新技だろうか?としたが、一対一で戦う時にあの類いの事をやるのは危険と思った時、リアスはイングヴィルドの水龍の体当たりで弾き飛ばされてしまった。あれはそこらのはぐれ悪魔程度なら一撃で骨を砕かれるパワーがある。実際にそうなって捕縛された者達を木場と小猫は、先日見ている・・・・だが、リアスは倒れ付したまま再度力を収束させ始めた。
「攻撃されるのも構わずに力を溜めているようね、大したものだわ」
ロイガンが言うように立ち上がったリアスは再度の水龍の攻撃に敢えて吹き飛ばされつつ距離を取り、今度は巻き付いた水龍に身体を締め付けられるのも構わずに力を溜めている。言葉を失っている木場達が目の当たりにしたのは、巻き付いた水龍を完成した技の余波で弾き飛ばし、全身の半分を血に染めながら攻撃に転じたリアスだった。
「これが、私の・・・・答え。今出来る事の全てっ!」
『あの過ち』を犯した時以来、夢の中でドライグに何度も会い、その度に自分なりに感じたものを基にリアスは作り上げた。シオンや佑斗に前衛を任せるなら、後衛から強力な一撃を放つ役割を自分が担えるようになればと、いきなり自分が伏兵に襲われる事も考慮して、多少痛め付けられても気絶さえしなければ途中で中断せずに構築出切るようにとも考案しながらしたもの・・・・リアスは、それをこの場で放つ。
「消滅の・・・・魔星!」
ボロボロになったリアスから放たれたのは凄まじい力だが、スピードが無いものだ・・・・それをイングヴィルドが向けた水龍が飲み込もうとするが、逆に黒と紅の色の気を発した球体に引き寄せられて消滅し、イングヴィルドに向かっていく。これはいけると思った次の瞬間であった。
球体から何かが発せられている。
消えた水龍・・・・否、水龍になった魔力の核である。
それが内部から発せれ、海を背後にしたイングヴィルドと海そのものが薄紫色に光る。単に魔王の力ではない、悪魔の力でも神滅具の力でも無い、それ等は副次的なものだと全員が理解した時には、あろう事か球体を両手で掴んで、そのまま何かをこね上げるように動かして行くイングヴィルドが全員の目に映った。
「中和・・・・された?」
ロイガンですら唖然とする他は無かった。
徐々に勢いを無くした球体はイングヴィルドの両手の中で消え失せた時、イングヴィルドは理解した。リアスが得た力の正体・・・・他にとっては驚異だが、自分には通じないと確信した。これは赤龍帝の力に関係したものだ。だから通じないと。
「シ、シオンも・・・・」
絶望的な光景、それに関してリアスは思い当たる事があって口に漏らしてしまった。
暴走した時、僅かに残った記憶・・・・自分が佑斗に放った滅びの力を凝縮させた魔力弾をまるでドッジやバスケットのボールを取る程度に受け止めたシオンの図、思えばおかしいと今気付いた。あの後に自壊しかけた程の力を込めた魔力弾も赤龍帝の鎧は砕けたのにシオン本人は無傷だった。
「・・・・察するに?シオンにも滅びの力を込めた攻撃を放ったけど通用しなかった事があるようね、シオンと訓練していた私にも今わかった。私とシオンには、貴女の力は通用しない・・・・」
イングヴィルドは、漏らした事から推測される事を述べた。そう、使い方が違うがシオンとイングヴィルドが半年も学んでいた防御の前には規格外な威力でも急拵えでは敵わなかったのだ。
イングヴィルド嬢の防御については、遠回しな原作アンチタグに関係している要素が肝だから徐々に明かす予定よ。ご期待しないで下さい。
いや、して下さいだろ!