「そ、そんな・・・・バカな・・・・」
木場が信じられないものを見て、戦いを見守る側全員の思っていた事を表した事を口にしてしまう。
勝てない・・・・イングヴィルドの実力は自分達の想像を遥かに越えていたと痛感していた。
何度もそう思ったが、リアスの出した新技はシオンやサイラオーグを知る自分達から見ても驚異に映ったが、それすら全く通用しない事で決定的だった・・・・シオンとやっていた訓練がどういうものかはわからないが、言った通りだとしたら二人にはリアスの力は通用しない・・・・それ無しにしても、理由はわからないが、今の時点でリアスを殺さないよう戦っていると言うのだ。
向き合っているリアスも戦意が失われてた。
冥界に居た頃に、どれだけ鍛練を重ねても身内との差を痛感するだけだった日々を思い出す程の力の差を見せ付けられたからだ。
「戦意が無くなったようね?なら、来てもらうわ・・・・」
『来てもらうわ』
ビクッと身体を震わせたが、リアスはその一言で持ち直した。今は駄目なのだ・・・・自分がどうなっても良いのだが、イングヴィルドの言う『ベター』の形では駄目なのだ。
何とか、この場を凌ぐ手段を考え出さなければならないのが、頭が回らない・・・・何より、シオンへの負荷を考えから除けば案外上手く行ってしまうのではないのか?と思ってしまうのだが・・・・やはり駄目だと判断してしまった。
これこそが、疑似世界のまで含めたドライグの意図の一つだ。リアスがシオンに求めるものが強くなればなる程に安易な解決でも良い思考から遠ざかってくれる意図だ。そして、シオンからリアスを殺す事は当面は無いだろうとしている。
しかし、当面でリアスが地力でこの場を切り抜けられる可能性は断たれている。イングヴィルドにシオンの前に連れて行かれて事実を話されればリアスには『最後の手段』を使う他は無い。
(・・・・だっ駄目よ!それだけはっ・・・・けど、どうすれば良いの?せめて、最後の手段を使わないで済む形にしながら真相を全て話すしかないわ・・・・けど、それをシオンに知られたら・・・・)
覚悟を決めようにも、リアスにはどうにも出来ない。
何より、本当は自分に都合良い結末に行き着きたいだけなのではないかと考えてしまっている。
自分でどうにもならない現実に立ち往生し、他を頼る事も出来ないリアスを予想通りと見かねた事で本来なら真っ先に一人で向き合うべき存在が重い腰を上げた。
(年貢の納め時かもね・・・・いえ、私も学校ってのを満喫してみたいから、足掻きますか・・・・)
「はい、そこまで」
パン!パン!と両手を叩きながら、まるで学生の痴話喧嘩の仲裁に入るような声色である。これにはイングヴィルドすら呆気に取られてしまった。
「貴女・・・・ベルフェゴール家の?」
「気付いてなかったフリは却下!私を水龍で抑えたり一対一だからって手を出さない内にヤンチャしてるなんてシオン君に知れたら、リアスさんみたいにお尻百叩きされるわよ?」
イングヴィルドが苦渋の表情をする。実はロイガンの『やってくれていた事』を知っているのだ。仮にロイガンがそれから遠ざかればシオンにとって致命的になるからこそ、敢えて水龍を使って足止めしていた。
ロイガンは相手の顔色から上手く行きそうな気配を見て取れて一安心したが、他はそうなっていない。この鉄火場で飄々としていられるロイガンに任せるしかない自分達が情けなかったからだ。
「引いてもらえる?」
「貴女は・・・・何故、その女を庇うの?」
「必要だからよ、貴女の算段では言った通りにベターではある。けどね?ベストを目指さないといけないのよ・・・・最低でもそこを抑えないと駄目!でなければ、シオン君は?『白龍皇に勝てない』」
皆の注目が集まった。言い分からしてロイガンもシオンについての事をある程度知っている事と同時に『白龍皇』について知っている?では何故教えてくれなかったのだ?と疑念が浮かぶ。特に小猫に起きた事で黙っていられなくなりそうだ。
「『勝てない』・・・・まるで白龍皇と絶対戦わなければならないって言い分ですね?貴女ならば『知っているハズ』ですよね?」
「正しく、だからこそ言えないのよ!私は仮にも冥界のそれっぽい家系・・・・機密くらいは察して欲しい」
『機密』
そう、今の冥界は決して安定しているワケではなく綻びだらけだ。例えば魔王に就く悪魔が世襲制でなくなった以外は大して変わったワケではないのだ。否、肝心な部分が一つ変わったからこそ始末に悪い部部があるのだ。例えば現魔王達が迂闊に冥界から動けないで若手を使っているのが一例だ。
この場にいる若者達には機密のようにそれっぽい事を言えば警戒してはくれるから詳しく言うのは避けられる言い分から始めたロイガンは内心ではグダを巻いていた。
(嗚呼・・・・嫌な女嫌な女嫌な女!・・・・なんっって嫌な女なの私は・・・・先週に酔っ払ってロスヴァイセさんみたいになったフリしてシオン君に何もかも遠回しにぶちまけるだけぶちまけるべきだったかもね。でも彼女みたいに素でやれるようなのには敵わない、今思うと?やる機会潰してくれたあのヴァルキリーさんに感謝するべきね・・・・)
場違いにも程がある思考をしながら様子を伺うロイガンはイングヴィルドの殺意が薄まるのを感じていた。結局は自分が出向きさえすればこの場を収めるには最適な出来レースである。セラフォルーに頼まれたように、リアスが痛い目に遭う機会があったら様子見をするようにしたが気乗りしたワケではないのだ。
結局、最終的にどうするべきか考えていた時である。
~~~~~・・・・・・・・っ
「空間が歪む・・・・?いえ、戻った?」
ロイガンが述べたように、マンションの一階に戻っていた。何事かと思ったが、イングヴィルドは状況を把握していた。
「結界の効果が・・・・『上書きされた』・・・・やっぱり凄い人だわ」
『上書き』
何の事かわからないが、イングヴィルドは階段の方に目を向けて次第に姿が薄れて消えたと同時に何かの宝玉が落ちた。
「その宝玉・・・・アーティファクトとは違うようですね」
階段から降りて来たのは、シオンの留守を任されたロスヴァイセであった。見ると顔が恐ろしく憔悴していた・・・・。
「どうやら茶番劇に巻き込まれたようね?」
「えぇ、兎に角リアスさんをシオン君の部屋に運んで下さい・・・・怪我を治してから、話をしましょう」
狐に摘ままれたどころではない時間であったが、確かにリアスのダメージはかなりのものだ。どう治すかはさておいてリアスを背負ったロイガンに続いて学生達は上の階に向かった。
だが、マンション内部で起きた事は外部からは詳しくは把握されてはいないが、ロスヴァイセが『上書き』で一瞬生じた隙間を覗き見逃さずにいれた者は歓喜に歪んだ表情をしながら、次の戦いの火種を生じさせていたとは知る由も無かった。
「見つけた・・・・ついに、ついに見つけたよ・・・・絶対迎えに行く・・・・迎えに行くから・・・・待ってて、待っててね・・・・『姉さん』」
立派なストーカーの気配を持って最後に現れたクソシスコンだけが原作の面影残しとるのう?
・・・・もう少し言い様はないんかい・・・・。