「ああぅぅうっ!熱い、こんな・・・・これ、熱いですぅぅ」
「声だすんじゃねぇ!堪えられるようになるワケじゃねえんだぞ?」
「で、でもおおっ・・・・こんなのがまん、無理だよぉぉ」
「それでも我慢しねえかっ!こういうのも少しずつでも慣らしとかねえと、だらしねえことになるぜ?」
「は、はひぃぃいい・・・・」
・・・・・・・・。
熱いお湯だけで耐えられないギャスパー君は入浴にも悪戦苦闘している。旧校舎に引きこもってた代償は大きいと思った。
匙君が面倒見てるけど、まだ先は長い・・・・僕達はマンションの最上階近くで何故か直ぐに用意できる大浴場で入浴中です。泊まる場が学校から移った結末ですね。
結論から言えば、シオン君はまだ冥界に留まるらしい・・・・例のサイラオーグさん付きの執事さんが代理でロスヴァイセさんにそう連絡してきた。
ミスラ様がどうなったかは知らないが、先週末の戦いでサイラオーグさんに協力してもらった代価だから口を挟みようが無い。
部長はシオン君の部屋から出てきたら何故か怪我は完治していたが、詳細は守秘義務とされた。
フェニックス家の涙でも使ったのかくらいにしか考えられないけど、僕達と出会う前のシオン君の活動を考えると契約者様から一つ二つ支給されていて可笑しくは無いかもしれないけど、今は探るのはやめておこう・・・・やはりシオン君の契約者絡みは危険な域だ・・・・肝心なシオン君がまだ暫く冥界に留まる理由も恐らくは・・・・守秘義務で済まされてしまうだろうね。
『守秘義務』
思えば、先週末の戦いで改めて思ったけど。
僕達は普通に暮らしている者達や例えばソーナ会長を王とするシトリー眷属からしたら余りにも歪な集まりになっている。
一歩間違えば聖剣絡みな過去の私心を優先させてはぐれにでもなっていたであろう僕が言えた事ではないけど、隠し事や不用意に触れられたくない過去が多いし・・・・何かのキッカケであっと言う間にバラバラになってしまう・・・・今のところ特に不安なのは部長とシオン君だ。
今回の件で、やはり部長に『真相』を聞き出すべきだとして、周りもそんな空気になったらロイガンさんに止められた・・・・。
『逆効果になる』
そう、最初から部長は真相を話さない結果として僕達に去られても構わないとまで言い切っている。
それだけでも問題だけど、部長に真相を聞き出せたとしても?
手に負えない事ならどうする?
次に・・・・他に探られたら?
赤龍帝がいる以前に魔王の身内相手に生半可が来るワケは無い、現に部長が初めてシオン君に会った時だ。あの時、部長が複数掛かりと言っても半殺しにされる程な敵が来ていた。
搦め手で来られたら十中八九バレてしまうからとも・・・・イングヴィルドさんにあしらわれた以前に今日だけでどれだけ外部からの絡め手を仕掛けられた事か・・・・アーシアさんは拐われ、ロイガンさんがいなければどうなっていたかの事態を防げなかった僕達には反論の余地が無い。
改めて思う、僕達は魔王の身内とその眷属という立場を甘く見ていたんだ・・・・コカビエルやバルパーはそこを突くのを視野に入れて聖剣の情報を敢えて漏らしたと部長は推測していたが、此方の戦力がたまたま過剰になっていたから上手くいかなかったに過ぎないという点も今回の件で痛感した・・・・駒王町に来てから少しの間それなりに過ごせていたのは運が良かった以上に敵側の準備がまだ整ってなかっただけなのではとも・・・・。
・・・・・・・・。
男子より先に入浴を済ませた女子の中でリアスは暗い気分を晴らせないままシオンの部屋で感じた事をまとめていた。
そう、以前アーシアと一緒に訪ねた時はシオンの存在がバリアとなっていたせいなのだろうか気付かなかった。細部は知らないが台所と客間に続く寝室・・・・万一に見られても構わないシオンの部屋の隣に細工をした構図である『もう一つの寝室』・・・・僅かに残った気配でわかってしまった。
『イングヴィルドの部屋』
知る限りで最低三ヶ月もあそこでシオンと過ごしていた事にドロドロと渦巻くものがある。彼女を模した物に敗れた事で更に複雑なものとなり始めた。
バラキエルの誤算はイングヴィルドの力が想像以上だった事に尽きた。直接対決は無いと踏んでしまっていたが、あの防犯装置を知っていたとしても真に迫れるものを出せるとは用意したセラフォルーの想像すら越えていたのだ。
大人達の意図を知る由もないリアスには恐怖があった。
今の状況打破の為には連絡が取れた場合、シオンに何もかも打ち明けてアーシアだけでも助けてと懇願するのが無難かもしれないのだが、自分が悪影響を与えたままのシオンではファーブニル単体でも驚異なのだが、彼が持つ財宝の中には今のシオンに致命的な類いの物が多くあるだろう。
ならば・・・・やるべき手段は冥界に帰って、両親に兄に義姉相手に全てを話してシオンとアーシアを助けて下さいと頭を下げるしかないと考えたが取り下げた。そうした結果として自分が裁かれるのは構わない、但しシオンにとって最悪の事態に繋がるかもしれないのだ。
それだけは避けなければならない!
他にどう誹謗されて堕ちるところまで堕ちてもそれを避ける事だけが今のリアスの存在意義になってる。
しかし、今日だけでどれだけ打ちのめされたかの震えだけならまだしも?つまるところ、自分がやれるのは時間を稼いでシオンに何とかしてもらうまで真相をひた隠しにするしかない現状、その結果として自分に都合良い流れを期待してしまう甘さに屈しそうになっているも。
既に知る中ではアーシアは見てはいるが術の原理が理解はしているか判断が難しい。
真相に迫っている者は自分が知る中ではイングヴィルドにサイラオーグにレイヴェルの順で少しずつと増えて来ているので、そこも注意しなければならない。
(シオン、アーシア・・・・アナタ達なら・・・・アナタ達が無事で、私を裁いてもらえるなら・・・・私は何だってやるわ・・・・)
救いと裁きを同時に求めてしまっているリアスが長い夜を越すのにはある関門が残っていたのだが、その事は直ぐに知らされた。
「リアス?男子が入浴終わったけど、ロイガン様が」
「わかったわ」
平静を装いながらソーナに応える。ソーナも敢えてリアスの様子を気付かぬフリをしたが、正しいのかはわからなかった。
「さて、結局は不安だらけだろうけど?夜遅いし寝るのが良いわね・・・・マンションの結界と私をアテにしてもらうわ」
集まった学生達に年長者らしい物言いで語るロイガンである。今は敢えて言ってあげるべき事と判断していたのだ。
「ロスヴァイセさん曰く、客人が使って構わないそうで、必要なものは揃ってると言われてるそうよ?先週末も教会の二人と小猫ちゃんがそうしたようにこの階の部屋を使わせてもらうけど、先ず部屋割り決めるわよ」
唐突に始まった泊まり掛けで新任とはいえ先生らしく話を進めるロイガンの言葉にリアスはギクッとなってしまった。
泊まる?
つまり、誰かと少なくとも近い場で寝る・・・・。
自分はアーシアに縋り付かなければ録に眠れなくなっている・・・・それがバレるのは構わないのだが、仮に誰かに毎晩見ている悪夢の内容を知られてしまったら?
微かに震え出すリアスを見て取ったロイガンは部屋割りの一つ目を決めた。
部屋割りの一つ目はリアスと・・・・。
当たりを引いた人は夜中に泣き出してたら、冷静にあやしながらミルクをあげるか履いてるものを新しいのに変えてあげるか・・・・。
その手のシミュレーションゲームみたいな言い方してるんじゃねえっ!