『怖い』
子供の頃、何かにつけて自分に構いたがる父と兄に、一人で寝れると言いながら夜は自分だけで寝ると宣言した。
その時の父と兄のショックな表情、それを私と一緒に見た母と義姉の呆れた表情は今でも覚えている。
けど、今思えば・・・・大人ぶるのがもっと後の時期ならばと考えてしまった事もある・・・・それから、漸く経って一人で色々覚えたりやれたり出来るようになった頃だった。
『凡庸』
そう言われ出した。
回想はさておいて・・・・問題は誰と同室になるか・・・・アーシアに縋らなければ一人で寝れなくなった私は・・・・頭が回らずに一人部屋を希望する事すら出来なかった・・・・そうしている内に割り当てられた相手は・・・・。
「部長?怪我は大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ、貴女こそ・・・・」
「いえ、お気になさらず・・・・」
小猫だった。
自分から何も言い出せない意気地の無さは情けなかったけど、小猫なら夕方の事があるから多少は調子が保てる気がした・・・・そして私は体裁の為に賭けに出た。
「・・・・んっ」
もう日付が変わる少し前だろうか?
食料の買い置きが無いので、ロスヴァイセさんから渡された日本古来の戦場食、確か『兵糧丸』・・・・シオンが普通に食事を取れない時の為にアレンジを加えて作り置きしといたものと『熊笹のお茶』でお腹を満たした後、小猫は私に縋りながら寝付いていた。夕方の件で不安なのを計算して添い寝に誘った・・・・ダメージは負っても三日も寝たきりだったのだから、今晩は寝れなくてもそう負担は無いとして・・・・このまま小猫を胸に抱きながら一晩過ごすだけでも気分が落ち着けるハズ・・・・。
合う寝間着が無いのと、元々裸で寝ている私だから・・・・一糸纏わない同士で同じベットに寝ている図になった。自分に甘えるように寝付く小猫の感触に心地好さを感じる。久しぶりにお姉さんらしく振る舞えている気がするわ・・・・アーシアにもシオンにも自分の方が年下のように感じてしまっていたから。
・・・・出来れば、出来れば私がいずれ二人を年下として扱いたいと・・・・二人に私が実年齢通りに年上として・・・・。
一方、ロイガン自身はロスヴァイセと共にシオンの部屋に泊まり、シオンとイングヴィルドが作り置きした伊達巻や鰆の西京漬けを焼いたもの等で晩酌を楽しんでいた。因みにロスヴァイセはノンアルコールである。
「上手い部屋割りだったようで、凄い事をやりましたね」
「原理はわかったんでしょ?極端に言えば、話したとこのイングヴィルドさんもどきがリアスさんの寝込みを襲うよりはマシでしょう?・・・・しかし、この糠漬けは良いわね・・・・野菜も豆腐も・・・・」
「基本はシオン君が作って、途中からはイングヴィルドさんがリハビリを兼ねて世話を頑張ったものらしいですよ、留守中に私が朝と晩に上下をひっくり返して平らにするのを頼まれてます」
あれま?日本でそれをやるのは・・・・まあ、あの娘は付き合いの長さと質ではイリナさん以上でしょうしねえ?
「と言うか・・・・保存の効く作り置きが多いわねえ?」
「イングヴィルドさんが、リハビリ中に大量に作れば幅広く使える牛肉を煮て数日置くだけのとかまで頑張ったらしいのでシオン君もイングヴィルドさんの事を考えて、キャベツと塩だけのザワー・クラウトから先程の兵糧丸のような自家製保存食とかまで手を込んだらしいです」
リハビリや訓練だけじゃなくて・・・・ってとこねえ?何名かには気の毒だけど、分が悪いのは戦闘力だけではないわ・・・・。
「まあ、御馳走様な話は置いといて?貴女は何も言わないのかい?」
「・・・・ひどいとは思いますよ、けど今のままでは学生達は『自滅』します・・・・」
流石はオーディン様のヴァルキリー・・・・多分リアスさんよりは強い・・・・けど、自滅程度に済ませてあげるのは少し甘いわね・・・・リアスさんがああなってる以上、もしもの時は?
『私が引き込む』
算段を整えながら、今晩のリアスさんに起きるであろう事に御愁傷様と思ってあげるくらいはしてあげる事にした。それに、ロスヴァイセさんは何気なく気付いた事を他に漏らされくないし。
大人であるロイガンと、それにある程度近いロスヴァイセの意図を知らずに男子達は一緒の部屋、朱乃はソーナと一緒の部屋、それ以外は無難に割り当てられていた。一番冷静なソーナは泥々とした感情を高めて行く朱乃を危惧していたが、流石に直ぐに暴走は無いとした・・・・先週末にバラキエルの危機を招いた軽率さを悔いているからだ。
(・・・・正直、姫島さんに関してもレイナーレさん達が残ってくれた方が良かったかもしれませんね・・・・今迄の清算をすれば気も晴れる)
朱乃は堕天使に関しては頑なな態度を取ってしまっていた負い目はあるので、其方に気を回していた方が良かったのではと考えた。レイナーレの性格ではあしらわれるだけだろうけどを含めてもだ。
(・・・・と言うより、私の考えが正しければ・・・・これは・・・・)
ソーナもソーナで仮説は立てているが避けていたのだ。
『シオンの契約者の正体』
もしも、正しければ結界と防犯装置の謎が全て解決するがそれだけなのだ。次の懸念は?
(リアス・・・・貴女はもうシオン君とアーシアさんが無事ならそれで良い思考になっているようですが・・・・その後をどうする気です?)
夜更けの時間になり、リアスは他の思惑等は露知らず小猫を胸に抱いて落ち着きを取り戻しつつあった。このように扱って、自分の本質である情を抱く対象に猫可愛がりをしたがる欲求が満たされたからかもしれない。
しかし?
「水・・・・」
「喉が乾いたの?ああ、私も乾いたから待ってて?」
小猫がピクッと身体を動かして目を開いた。何事かと思ったリアスは小猫の呟きに喉が乾いたのだと理解した。ミネラルウォーターが余っているから、それを取って来て与えようとしたリアスは身体が硬直した。
「部長・・・・水・・・・で、良いんです・・・・か?」
ベットで上体を起こして俯く小猫からは猫耳と猫の尻尾が飛び出していた。そして身体からは猫又特有の気が僅かにだが出て来て・・・・暗がりの中で自分を見据えた光る目はリアスには恐ろしいものに映った。
「こ、小猫・・・・どうしたの?」
「現実が見えませんか?」
彼女とは違った声色に身体を震わせて、腰を抜かして尻から倒れ込んだ・・・・喉がカラカラとなり声すら録に出ない、仮に悲鳴をあげられても部屋には簡要な結界が張られているので他には伝わらない・・・・これこそが、ロイガンの意図であった。
「怖いんですか・・・・水じゃなくて・・・・あの時、あの時・・・・に・・・・思いのままに吸ってしまったたものを・・・・『俺に求めれば良いのに』」
ベットから降りて、床に崩れ落ちた自分を見下ろす小猫に何が起きたか理解した。
「アーシアは・・・・貴女を信じたがっているんです。その貴女が・・・・それで良いんですか?・・・・貴女が自覚している存在は?弱気や諦めが一番似合わないんですよ・・・・だから、悪役ってものが人気あるんです。搭城が良く見てるものの世界ですけど?」
そう、自分は言われたように、思っていたように・・・・間違っても正義ではない、悪そのものなのだ・・・・その自分が内包し、増大させ続けていたものだ・・・・即ち?
『邪気』
それを一番当てられやすい存在に当ててしまっていた。
程度はまだ理解出来ないが、リアスの邪気の中に封じられていて一時的に小猫に憑依したもの・・・・それは自分が最も知ってしまっていて、奪い尽くし・・・・見方によっては内部に取り込んだ存在であった。
「シ、シオン・・・・」
添い寝相手が二人で幸せそうやのう。
ごっつぅプラス思考やなあ?そうなれるかは未定やろっ!