ズルズルと麺をすする音を出して食べる。
敢えて音を立てるのは異端に数えられるらしい、尤も私はマナーの類いも不得手だが。
しかし?それ自体が味わいのある麺の歯ごたえの良さはどうだ?縮れに絡む濃厚なスープの味と合わさり、噛むと口の中に広がるまろやか?な世界を堪能した後に飲み込むと喉から胃が心地好く震えるぞ!
日本の『味噌』は外国からしたら素晴らしい栄養食だ。塩分さえ気を付けていれば毎日味噌汁を飲むだけで健康に良いらしい。
その味噌味以外の種類の多さに定評がある国民食の一つがこれ。
『ラーメン』
札幌の熱い熱い味噌バターコーンラーメンとやらは実に味わい甲斐がある!日本は外国の食文化を取り入れて独自に発展させる事は世界屈指であり、中華料理の麺を自国の食べ物として変形させたラーメン一つ取っても最早全国で何種類あるかわからないらしい。
濃厚なスープを飲み干した満足感は正直たまらん、シオンが出してくれた味噌汁とは違った意味で身体に染みるぞ!
「満足のようですね?先日は何か落ち着きが無いようでしたから」
やはり見透かされてしまっていたか、だが?この御方に関しても詳しく知りたかったからな・・・・いや、先ずは。
「いえ、美味いものを食べさせて頂いた事に感謝します。それはそうと・・・・貴女はここにいて大丈夫なのですか『ビナーさん』?」
私、ゼノヴィアとイリナが並んだ席の反対側にいるのは同じく味噌ラーメンを完食したビナー・レスザンさん。先週末に顔を合わせた現魔王級の悪魔だった。何でも知人を訪ねていたらしく、その帰りに鉢合わせた。
『ある筋』でラーメンを自分で作るレシピからして凝りながら嗜む?のと知り合っていたらしい。
その縁で食べ歩こうとした場で出会った為に袖すり合うも?とやらのノリで奢ってもらったのだが、現魔王の妻である御方の妹が妙に庶民的と思ったのだが?私とイリナはそれが頭によぎった時に考えるのを辞めた。ビナーさんの事を教会の上層部に報告したら?
『レスザン家の事について触れなかったでしょうね?』
そう、ビナーさんは実家の事に触れられたくないらしいのは有名らしい・・・・触れたらどうなるかも知っているらしい教会の上層部は心底震えながら私達に念入りに問い質して来たのだ・・・・そう言えば、コカビエルがどうなったか?ビナーさんに倒されたらしいが、どう倒されたかも私達はまだ知らなかった。
そうして、街中を回りながら少しだけ話した。実は傷心旅行として札幌に来たのだとだけ説明した・・・・『神の死』には触れなかったが、先日の戦いで悪魔側に比べた私達の成果は見劣りするからその関係だと言うまでも無い相手だとした算段だ。
敢えて私達の事情は深入りされなかったが、この御方は信用して良いものかわからないのだ。ビナーさんと別れた後に、イリナが言うには近所で知り合いに出会った際に何かを奢ってもらった感覚らしいが、何か引っ掛かるものがあったらしい・・・・それにしてはと考えたが、私達には今はイリナが訪ねようとしている人物が優先かとした。そう・・・・私達には今は、と。
・・・・・・・・。
「姐さん、どうでしたか?」
「中々ですね、不用意に口を滑らせないだけで合格点です。年相応なようで少しは心得ていますか・・・・流石に『トリック』を即座には見抜けないようでしたが・・・・あのイリナと言う娘は何かが引っ掛かってるようね」
「ふむ・・・・」
・・・・・・・・。
そう、ソレは冥界でシオンがイングヴィルドと共にヴェネラナから渡されたメモに示された場に向かおうとした時の事、イザベラと合流する一時間程前の事。
竹林を背後に剣を交える二名・・・・格好と使う剣が西洋風である事以外は時代劇に良くある光景だ。
間合いに入り様に右手に構えた剣でシオンの右腹部を逆胴の形に薙ごうとした斬撃は彼の立てた剣に阻まれて、そのまま前方に移動しながら自分の右腹部を薙ごうとした一撃を自分も左前方に飛んで回避する女性。
観戦するイングヴィルドは意図を図りかねていたが、恐らく彼女は・・・・と考えて思考を中断した。
再度向き合う二名の間に風で揺れ落ちて来た一枚の葉が落ちた瞬間に視界を僅かに遮ると同時に次は両者の斬撃がぶつかり、そのまま女性が足払いの蹴りを前足に放つがそれを足を上げて回避したとほぼ同時に放した手を魔力を込めた掌底にした一撃をシオンが放つが、それは腕のガードで受け止めるよう見せ掛け、勢いに逆らわずに後方に飛ばされながら魔力を込めた剣から衝撃波を用いた一芸を放とうとしたが、相手も追撃の一撃を放とうとしていて・・・・お互いに撃つのを止めた。
「ふむ、これ以上は周辺に被害が出ますからここまでにしますか・・・・流石ですね」
「いえ、ビナーさんには及びません」
シオンと手合わせしたのは、近くにいたビナー・レスザン。時代劇の一幕に興味があったついでに剣での手合わせを申し込んだのだ。
想像以上だった事と推測される事態がまだ出ない段階だった事に安堵したが、次の目的地に向かおうとしたシオンがすれ違う時に囁いた一言には少々驚かされた。
だが?
「お気遣い感謝します・・『グレイフィア様』」
二名が去ったのを見届けたグレイフィアにヴェネラナが近付いて来て声を掛けた。
「『双子トリック』は通用しなかったようね、想像以上かしら?」
「はい、あの若さで・・・・と思いますが・・・・奥様?」
「今はお義母様で良いのですよ?疑問は帰ってからにしましょう、長居は無用です」
ヴェネラナにはシオンがグレイフィアとビナーの違いを見抜けた理由は『二つ』あるのをグレイフィアには黙っているのを申し訳なく思っていたが、今はこれで良いとしていた。
・・・・・・・・。
「赤龍帝も周りも粒揃いで何よりですが、姐さんにまで遠回しな動きをさせる意図は何でしょうね?食事を一緒にしてたと同レベルの情報しか得られてないから綱渡りに近かったでしょう?」
「私もわかりません、ですがまた荒れるでしょう。リアスお嬢様から離れた場にいるから利害は一致しています」
意味深且つ遠回りでもある。まあ、冥界は勿論シオンとリアスの近くから遠ざけられている理由は理解している。多分双子トリック?とやらを展開するのは2組目な『グレイフィア・ルキフグス』は夫の眷属の一名に語る程冷静さを保ててるか不安ではあるのだ。
「ところで姐さん?」
「何でしょう?」
「姐さんは『ラーメン』なんていつから知ったり食べるようになったんです?日本では国民食でも歴史はそう長くないのでは?まあ、此方は悪魔だから尚更そう感じているんですがね」
「ああ・・・・『妹の趣味』ですよ」
「・・・・」
姿を見せない存在は沈黙した。
妹とは、グレイフィアが幼い頃に遠縁の家の養子に出された双子の妹ビナーの事と理解したが、未だに掴み所が無いのだ。近年は多少興味がある事について語る程度の交流があったくらいだ。尤も自分も気に入りはしたがビナーのラーメンを始めとした趣味は少ない分熱意の塊であり、グレイフィアすらサーゼクスの次くらいにペースを乱されていたのだが。
サーゼクスも日本の庶民的な食べ物には興味を持っているのだが?例によって、リアスが影を落としてからは以前のフリーダムさが薄らいでいる為にビナー程は手が掛からない。
とにかく、グレイフィアにとっては『これから起きるであろう事』で不穏な気配しかしないので早急に次に移る事にした。
(姐さんが距離を置かされる理由か・・・・心当たりはある。場合によっては・・・・恨みますよ?)
気配も姿も消してグレイフィアに追従する者はくじ運の悪さを皮肉るしか出来なかったのである。
まあ、思わぬとこで会ったら火遊びしてましたよりはマシよのう?
そういう世界とは無縁やろがこやつらは!