Eの黙示録   作:Jeep53

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ものっすごく短いです。


束の間の休息

 クライゼル帝国側の野営地に無事に着いた俺たちは現在工作班に車両を診てもらっているところだ。俺以外の奴らは全員疲れ切って死んでる(寝ている)。正直俺も倒れそうだ。

 今日予定されていた敵野営地への攻勢、それに俺らが参加することはなくなった。精神的、肉体的疲労がピークなこと、搭乗車両が何で動いてるのか分からないレベルで壊れかけなことを加味した上での判断らしい。大隊長が気を利かせてくれたみたいだった。

 

 「小隊長、よく生きてたなあんた」

 

ぼうっと考えてた思考が車両背面を点検していた工作班のおっちゃんの声で現実に引き戻される。

 

「…どうしたんです?」

 

顔だけ向けるとおっちゃんは苦笑した後、真面目な顔で言った。

 

「90mm徹甲弾が半貫通していた。完全貫通してたら今頃あんたたちはこの世にいなかっただろうよ」

 

…どうやら俺たちは気付かない間に被弾していたようだ。死んでいたかもしれないと言う事実に俺は身震いをした。

 

「それと、後の整備はやっておくからさっさと寝るんだな。そんなんじゃ本当に死ぬぞ」

「あぁ、そうさせてもらうよ。…そろそろ限界かな」

 

そう言って俺は愛機に背を向けて休息用のテントへと歩き出した。

 

 

 入口の布をそっと持ち上げて中を見渡す。中は思ったよりもちゃんとしており、簡易的なものではあるがベッドも人数分あるようだ。

みんなはすやすやと…訂正、カールは大いびきをかきながら寝ている。

風呂は先ほど入っておいたので、あとは横になるだけだ。久々のベッドだ。休めるうちに休まねえとな…

そう思いながらベッドにもぐりこむ。どうやら自分で感じていたよりも疲れていたようで、すぐに意識が遠のき始める。

 

あ^~眠れるぅ^~

 

俺は意識を手放した。

 


 

 「…ここか。本拠地にしちゃあ車両数が少なくないか?」

 

野営地の外、森の中で隠れるように様子をうかがう兵士がいた。

 

「車両数が少ないに越したことはないのでは?」

 

その傍で双眼鏡を覗いている兵士が言った。

白色迷彩代わりのシーツ(現地調達)を被っているため敵に気づかれることはないだろう。

 

「いつ仕掛ける?見た感じ強そうなのはいないが」

 

後ろで待機している戦車のドライバーズハッチからもう一人顔を出した。

 

「本来の指示通りあと数時間してから、つまり…夕方くらいになるかな」

 

それを聞いた双眼鏡持ちが顔をしかめる。

 

「それって最悪夜戦になりませんか?こっちに暗視装置はないんですよ」

「それは向こうだって同じさ。それに奇襲になるんだ。そう心配することはない」

 

最初の兵士が不敵に笑った。そして背後を振り返って言った。

 

「コイツ…AMX 50 120もいるんだ。敵に120mmオートローダーの恐ろしさを教えてやろうじゃねえか」

「クライゼルのやつらきっと驚くでしょうね…車長、最終確認してきます」

 

双眼鏡持ちはフロンティエール陸軍のマークをそっとなでながら車体後部へ向かう。

 それを見届けた最初の兵士…車長はクライゼルの本拠地を睨み、昨日の夜のことを思い返した。

 

ーー

ーーー

 

 『敵はEの何か…デカい方だ。軽戦車ではない!ちょこまかと逃げやがる!』

 

戦友の声が無線から響く。どこか焦りを含む言い方が気になり、尋ねる。

 

「どうしてそんなに焦る?敵は一両なんだろう?」

『速いんだ!今全速力で追いかけてるんだが、それでやっとだ!…時速70kmとかイカれてるぜ!あんなでかい図体でよく走れるもんだよ!』

 

どうやら敵はかなりの高速で逃げているらしい。

 しばらくしたのち、また無線が入った。

 

『森を抜けた!これで…うわぁっ!?』

「どうした!?何があった!?」

 

無線に向かって叫ぶも、聞こえてくるのは金属と金属がぶつかる音と、搭乗員の悲鳴のみ。それからどのくらいたったか、青ざめた顔で無線を握りしめる俺に通信が入った。

 

「セザール、大丈夫か!?状態は!?」

 

俺は食い気味に叫ぶ。無事であってくれ…!

しかし、そんな思いに反して返ってきた通信はいい物ではなかった。

 

『こんなこと言いたくはなかったが…後は…任せたぞ。アルベール』

「おい!?なんてことを言うんだ!今助けに行く。場所は…」

『無理だ。助からねぇよ…崖から落ちたんだ。足の感覚がねぇ…いてぇよ…』

 

戦友のすすり泣く声が無線を通じて聞こえる。戦友が苦しんでいるのに自分にできることは何もない、なんと悔しい事か。

 

「セザール!セザール!落ち着いて状況報告を…」

『アルベール、今まで…楽しかったぜ、ありがとう』

「やめてくれ!そんなことを言うのは…」

 

 

直後、爆発音が響いた。

 

 

「おいセザール!応答しろ!セザール!」

 

俺は必死に呼びかけたが、それに応える声はなく、聞こえるのは不快なノイズだけだった。

 

ーーー

ーー

 

「あのどこかに…昨日死んだ戦友(セザール)の仇がいるはずだ。待ってろ、すぐにそっちに送ってやるさ」

 

そのつぶやきは誰にも聞かれることなく、日が傾き始めた冬の空に消えた。




ーー次回、戦闘開始ーー

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