気づいたらしずかちゃんだったので道具を借りパクしてみた   作:さわやふみ

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10.夢の中の攻防

「寝たらあなたは夢の中で体を取り替えられて殺されてしまうかもしれないのよ?このまま寝なければいいだけなのになぜ!?」

 

ドラミの言い分は分かる。何よりロボット戦争を回避する使命がある中でそのような危険を犯す必要性がない。

 

「でも……私はこの女の人の知り合いなんでしょ?声を聞いて何となくそう思うの」

 

「天衣さ……」

 

思わず口に出た本当の名前を言いかけてドラミは固まった。

 

「一応道具を使って逃げ切るシミュレーションをしてきたわ」

 

憑依日が近づいてくる期間、念の為に俺は道具を使った逃走劇のイメージも行っていた。抵抗する間もなく体を入れ替えられてしまうような最強道具があると太刀打ちできないが、幸い相手の意思関係なく何でも出来てしまう『ソノウソホント』や『魔法事典』をしずかちゃんは知らないから夢の中では使えない。

効果が強力である『もしもボックス』はしずかちゃんも存在を知っているが、この道具は使った人が選択した世界に連れて行く方式なので周りの人間に影響を及ぼす物ではもなかった。

 

「ドラちゃん、念のため『みちび機』を使わせて」

 

みちび機は、人を導くおみくじで、悩み事を言ってからボタンを押すと、おみくじが飛び出てきて、それに書かれている助言に従えば必ず良い結果が得られる。

 

その結果を見ても夢の中で決着をつけたほうが良いと出た。

後は夢の中で行動するに当たって入念な計画をたてるだけだ。

 

しずかちゃん()は『ユーメー人』を使って見たい夢を見る。

のび太には『夢はしご』でしずかちゃんの夢に入ってサポートしてもらう。いざとなったら身代わりにもなってくれるだろう。夢の中だし死んでも問題ない、はず。

ドラえもんには『ゆめグラス』、『ユメテレビ』でしずかちゃんの夢を覗いてもらい『ユメかんとくいす』と『ゆめコントローラー』を使って場をコントロールしてもらう。そして『ゆめスピーカー』で夢の中にいる俺とのび太に指示を出す。

 

夢を操る道具のオンパレードだ。だが相手も道具を使ってくる以上、万全を期しておくことに越したことはない。

 

「じゃあのび太さん、行きましょう。ドラちゃん、指示お願いね!」

 

「うん、オッケーだよ。気をつけて!」

 

こうしてしずかちゃん()とのび太は満を持して女性の人格が待ち受けているであろう夢の中へ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくとそこは一面を見渡せる草原であった。ドラえもんがしずかちゃんの夢をコントロールして不審者の接近に気づけるよう最初の場面を敢えてそうしたのだ。夢の中という実感ができないほど意識はハッキリしており横にはちゃんとのび太もいる。

 

「誰もいないね……」

 

のび太は恐る恐る辺りを見渡した。

 

 

 ついに危険を承知でここに来てしまった。もう後戻りは出来ない。

未来の運命を託されている身として何もせずに失敗することだけは許されない。

 

「のび太さん、今の内よ」

 

夢の中で女性の人格が姿を現して攻撃を仕掛けてくる前にやるべきことをやっておくことにした。

 

 

 

そして数分たった頃

 

「ふぁ〜あ……。来ないね。ここの場所が分からないんじゃないかなぁ」

 

のび太が大きなあくびをしながら気の抜けた声を出す。確かにここは実在しない場所だ。

 恐らく女の憑依者は最初に源家を訪ねているかもしれないが、相手もこちらを探している時間はあまりないはずだから効率的に向かってくるはずだ。

 

となると使ってくる道具は……。

 

シュルルルル

 

突如、目の前にピンク色のドアが出現する。のび太が風呂場に来て以来、若干トラウマのようになっている道具だ。

 

(やはりどこでもドアで来たか!“しずかちゃんがいる場所”を指定したな!)

 

「わっわっ……来たよ!どうする!?」

 

「のび太さん、落ち着いて!まずは話しかけてみるのよ!」

 

全容を現したドアは静かに開き始める。

 

一体どんな女の人なのか。姿を見たら俺は思い出すのだろうか。

 いずれにしろお互い消え去る可能性が高い身だ。憑依を狙っている女の人もいくらなんでもロボット戦争は望まないだろう。事実を話して可能であれば平和的に解決したかった。

 

しかし

 

ドアから姿を現したのは黒い影のようなシルエットであり、かろうじて人の形をして髪型が分かる程度ではあるものの、とてもじゃないがそこから誰かを連想できるような様相ではない。

 

「ゆ、幽霊!?」

 

のび太が驚いてそう表現するのも無理はない。表情すらないその影はこちらを視認するなり、四次元ポケットを召喚する。

 

(早速道具を使う気か!?ということは対話は無理……)

 

こちらの考えがまとまる前に影はポケットから『入れ替えロープ』を取り出すと、しずかちゃん目掛けてムチのように飛ばしてくる。

 

突然の攻撃にしずかちゃんは為す術なくグルグル巻きにされた。

 

ロープに縛られることで、小ぶりの胸がさらに強調されている。

そして抜け出そうともがくことで見る見るとスカートはまくしあげられていき、大自然の草原の中で妖美な白い生足が少しづつ公開されていく。

実に艶めかしい光景だ。

 

「ああ!しずかちゃん!」

 

のび太が興奮しながら声を上げた。

 

影はそのまましずかちゃんを手繰り寄せると無理矢理に手を取って『入れ替えロープ』を持たせる。入れ替えロープの端をそれぞれが触ることで対象の者同士が入れ替わるという条件が早速揃ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

どういうこと?

 

入れ替わりが発動した様子もなく、影が言葉を発した。

 

そして、スカートからはみ出しているしずかちゃんの桃尻の部分。そこに張りつく白いシルクの布地から尻尾のような物が伸びているのに気がついたのだ。

 

「やいやいやい!このロープをほどきやがれ!てやんでぃ!」

 

さらにしずかちゃんは急に江戸っ子の言葉づかいで文句を言い出した。

明らかにいつものしずかちゃんではない。

 

その尻尾に口調と赤い鼻……まさか『コピーロボット』を使ったわね!?

 

影は荒々しくのび太のほうに振り向く。

 

「しずかちゃんを複製していたことがバレちゃったよ!逃げるね!」

 

のび太は自分の胸ポケットを見ながらどこでもドアで移動を開始する。ポケットの中には一寸法師のように小さくなったしずかちゃんがいた。当然、これが本物のしずかちゃん()だ。

『スモールライト』で小さくなってのび太のポケットに退避し、女の人の影の出方を見ていたのだ。

 

影は明らかに攻撃的であり問答無用でしずかちゃんと入れ替わろうとしてきた。

対話が出来る余地が見えない。

 

どこでもドアでのび太家に移動したのび太はオロオロとして動き回る。

 

「どうする?しずかちゃんロボットを置いて来ちゃったけど……」

 

「夢の中だし気にする事はないわ!それより『かげながら』と『ガードマンロボット』を発動しましょう!」

 

どちらもボディガードの機能を有する道具だ。相手が攻撃的である以上、こちらも防衛せざるを得ない。

するとやはりピンクのどこでもドアが目の前に出現し始める。

 

「来た来た来た!」

 

「のび太さん落ち着いて!こちらも同じようにどこでもドアで次の場所に逃げればいいだけなのよ!」

 

どこでもドアを使った追いかけっこが始まった。しかしこれは一応想定通りだ。このためにしずかちゃん()はスモールライトで小さくなり、一人の移動だけで済むようにしていた。2人で移動しているとその分ドアの出入りが増えていつか追いつかれるからだ。

のび太家としずか家を往復する形で逃げ続け、影を振り切る。どこでもドアより早く相手の元へ行く手段はないため、地味だがこれが最良の手となるはずだ。

 

 そして、どこでもドアを使った鬼ごっこは数回続いたが、しずか家に来た所で影による追跡がピタリと止まった。

 

「はぁはぁ……。しつこい奴だなぁ!追いかけて来なくなったけど諦めたかな!?」

 

「うーん、緩急をつけてるだけかもしれないわ。それより話せる機会が全くないわね」

 

「そうだね!一体何なんだあいつ!」

 

あの影のシルエット……。自分は明らかに会ったことがある気がするのだが、やはり思い出せない。会話することで糸口があるかもしれないのだが、全く相手はその気がないようなのでどうしようもないのだ。

 

(『メッセージ大砲』で言葉を遠隔で送ろうにも相手の名前が分からないから送れないし……)

 

何か手がないか考え込んでいるといつの間にか足下に見覚えのない手紙が落ちている。

 

「のび太さん……これ、あなたが置いた?」

 

しずかちゃん()はその手紙を拾い上げて開封する。

 

ドラえもんであれば『ゆめスピーカー』で直接話しかけるはずだから作戦外のことはしないはず。とすると差出人は影の女かもしれない。

 

向こうから手紙を使って話しかけてきた?

 

一抹の期待を胸に、手紙の内容に目を通した俺達であったが、その希望とは逆の文言に驚愕する。

 

あなたの体を盗みに行きます 怪盗X

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

ジョジョの効果音が聞こえてきそうなほどの衝撃だ。

 

(こ、これは……『怪盗セット』!!)

 

怪盗になりきって狙った獲物を盗む道具だ。これで身体能力を上げてどこでもドアの追いかけっこに追いつく算段なのだろう。

 

(すぐに来なかったのはこのためだったのか!早くもどこでもドアの追いかけっこを無効にしてくる辺り、道具を熟知しているか、予め予想して動いてきている……!)

 

「のび太くん、しずかちゃん!『ゆめコントローラー』で場面を変えようとしたけど作動しないんだ!影が妨害しているからかもしれない!」

 

天からドラえもんの声が聞こえてきた。

やはり未来技術で影に影響がある行為は無効化されているようだ。

 

(待てよ……。しずかちゃん()がいる場所なのに場面転換が無効化されてるってことは……)

 

「ドラちゃん!『○☓占い』を出してくれない?」

 

ドラえもんは呼びかけに応じて『○☓占い』を目の前に配置してくれた。

そして俺は間髪入れずに質問する。

 

「今すぐここを逃げたほうがいい?」

 

答えは……○!

 

「影は私達の半径30メートル以内にいる!?」

 

○!!

 

「まずい!既に近くまで来ていたんだ!」

 

ガシャーン!!

 

叫んだと同時に怪盗シルエットの影が窓を突き破り部屋の中に侵入してくる。

 

「あ、あ、『あい手ストッパー』オン!」

 

のび太くんが道具を掲げる。

 

「のび太さん!影への直接足止めは無理よ!」

 

「そ、そうか!」

 

この一瞬のやり取りが次の行動への遅延となる。

 

影が『空気砲』を撃ってきたのだ。

激しい衝撃が部屋の中を駆け巡りカーテンがたなびく。

 

ただ、のび太としずかちゃん()の周りはその衝動でボロボロになっているが、本人達は無傷だ。

 

「さ、さすが『バリヤーポイント』だね。見えない壁が守ってくれてるや」

 

のび太が先程仕掛けておいた道具に感心している間にしずかちゃん()は鏡を指さす。

 

物理攻撃である空気砲は防げたが、間接的な攻撃は防げない。命令系の道具を目の前で使われたらアウトだ。

 

のび太は我に返って『入り込み鏡』を使い、鏡の中の世界に退避する。

そしてそのまま走って外に逃走を開始した。

 

「部屋に仕掛けていた『ガードマンロボット』が防いでくれている間に遠くまで行きましょう!鏡の中では『どこでもドア』は使えないわ!」

 

「わ、分かった!」

 

「それと私を元の大きさに戻して!」

 

最早、のび太の胸ポケットに入っているメリットもないため、しずかちゃん()は元の大きさに戻る。

 

「このまま逃げ切ろう!」

 

「そうね!」

 

返事はしたものの、やはりどうしても影の存在が気になる。このままヒッソリと影を消滅させてしまっていいのだろうか?

 

人類の事を考えると選択する余地はないが、しずかちゃん()は何か心に引っかかるものを感じていた。




ここまでお付き合いください、ありがとうございました。
終わりまであと2話となりました
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