気づいたらしずかちゃんだったので道具を借りパクしてみた 作:さわやふみ
「待って!この辺でもう一度『○☓占い』をしてみましょう!」
鏡の世界に入って相手の姿が見えないぐらい離れている現在、どこでもドアが使えない限り影がこちらに接近できる手段はほとんどない。
唯一あるとすれば『尋ね人ステッキ』で棒が倒れる方向に向かうことだが、尋ね人がいる方向に棒が倒れる確率は70%だからどうしても何度か試しながらになり遅れるはずだ。
だから余裕がある今、自分達と影との距離を確認し、あわよくば安全な距離から対話を試みたかった。
なぜ過去に来てまでしずかちゃんの人格を乗っ取りたかったのか。女性の影の動機を知ることで、自分がここに来た理由も分かるかもしれないのだ。
「影はここから100メートル以内にいる?」
○!
「50メートルは?」
☓!
「程よく距離を置けているようだね!」
「見晴らしのよい裏山に行って待ち構えましょう!」
「え?このまま逃げ続ければいいのにどうして?アイツはいきなり攻撃してきたじゃないか!」
「ダメそうなら諦めるわ。でもいま追ってきている影の女性はもう冷静になっているかもしれないし、話せば分かる人のような気がするの」
「しずかちゃんがそう言うなら……」
こうして
見渡すといつもの街並みが眼前に広がっていた。無音の世界ではあるものの心地良いほどの晴れ渡った空が遠くまで続いている。もうすぐこの世界からお別れと思うと急に寂しい気持ちが込み上げてくる。記憶がないせいか、本当は未来の人々を救うという使命に現実味を感じていなかった。
実際、今の俺を動かしているのは『この世界で生きているしずかちゃんの人生を守ること』と影の女性と俺の関係を知りたいということだけだ。だから出来ることならこのまま影の女性と和解して穏便に終わらせたかった。
しかし
丘の麓からガサガサと木々をかき分けて登場した影はその期待を打ち砕くには充分なほど禍々しい様相で山を登ってくる。
豪勢な椅子に座り、神輿のように見知らぬ人が担ぎ上げている。取り巻きも数人いるようだ。
「あ、あれは『王様の椅子』……」
座った人の命令は絶対に聞かなければならない凶悪な道具。あれを使って近づいてくるということは、王様としてしずかちゃんに命令して体を強制的に交換するつもりということ。
(手伝わせるために現実世界から人を連れ込んだのか。命令が届かない範囲で見つけられてよかった……)
影もこちらを視認したようで指をさしている。神輿を取り巻いていた人々が一斉にこちらに向かって走り出しているのが分かる。
恐らくしずかちゃんを捕まえるように命令されているのだろう。
影の並々ならぬ執念を感じまたもや対話をする気が削がれる。
「行きましょう……」
落胆しつつもこの場を離れるしか手段がない自分達は丘の反対側をかけ下って再び町中に逃げ込む。
「やっぱり会話は無理だよ。もうそろそろ2時間になるからこのままこの道具で逃げ切ろう!」
のび太が取り出したのは『やどり木』だった。これを使うと他人の家に泊めてもらえるようになる。
「のび太さん!ここは鏡の世界で住人もいないから家は使い放題よ!」
イライラがつのり、自分でものび太のボケに付き合っていられるほど心の余裕がなくなってきているのを感じる。
「あ、そうだった!ごめんくださーい!」
そんな気配も察することなくのび太は呑気に見知らぬ家に入り込んで行き、一気に奥の間へ駆け込んでいった。
「さぁこれで後は影が消滅するまで隠れるだけだね!」
確かにのび太の言う通りこれで時間稼ぎはできそうだが、何か重大な道具を見落としていないか不安になる。
「のび太さん、効かないかもしれないけれど、ここで『平和アンテナ』を使ってみましょう」
電波を出して平和な気持ちにすることで争いを止める。これを使って近くまで来ているであろう影と対話に挑戦してみるのだ。随分と時間が経過した今、たぶんこれがお互いにとっても最後のチャンスだろう。
押入れの中でジッとして外の音に聞き耳をたてる。周りは静寂に包まれ、一向に何かが来る気配はない。それが逆に不安にさせた。
「……消滅したのかな?ドラえもんに聞いてみる?」
「いま騒ぐと場所がバレるかもしれないし、消滅していたとしたらドラえもんが夢を終わらせるって話だったわ」
「そ、そうだね。あれ?しずかちゃん、何か顔が変だよ?」
「なぁに?のび太さんだって……」
のび太の顔が歪んでいる。
と言うより空間が歪んでいる。
「…………!」
歪んだ空間はそのまま原形を保てず崩れるようにして潰れていき、またたく間に暗い空間となっていった。
「のび太さん……いる?」
暗闇で見えない恐怖感から思わずのび太に声をかけてしまうが、返事はない。
目が慣れてくると天井には夜空のように輝く宇宙空間が広がっているのが分かってきた。
(何が起きた?ここはどこだ?ドラえもんが移動させた?)
ドラえもんの声はこちらに届かない。見知らぬ人の家の中にいることが危険と判断して、様子を見ていたドラえもんが機転を働かせて移動させたのかもしれないが、だとするとのび太がいないのもおかしい。いずれにしろこちらから確かめる術はない。
「一体どこ……」
言いかけたところで、俺はある道具を思い出し、冷や汗が一気に噴出してくるのを感じる。
地面には6畳のタタミが敷き詰められ目の前には古めいた襖があったのだ。
(これは……『あの人は居間』!!)
過去の思い出の人に会うため強制的に召喚する道具だが、これを
こんなに適した道具をなぜ今頃になって使ったのか、俺と同じように忘れていただけなのか気になったが、今そんなことを考えている余裕は全くない。
これを使ったのは間違いなく影だろう。
「くそ!通り抜けフー……」
咄嗟にドラえもんから預かっていたスペアポケットから道具を取り出そうとする刹那。襖が音もなく開き、隙間から大声が聞こえてくる。
「源静香!!!!」
(……なんだ!?)
グン!
名前を呼ばれたと思いきや、急に自分の体が何か大きな力で引っ張られ始める。引力は襖の方から出ているようで体が引き寄せられていくのが分かった。
「イヤ~ン!」
しずかちゃんぽい口調が染み付いていたせいかスカートがめくれる際、咄嗟にキモい声が出てしまった。
吸い寄せる力はどんどん強くなっていき、通り抜けフープの中に入るのも困難になっていく。
(何の道具を使った!?『ハイパー掃除機』か?)
瞬間的に『瞬間接着銃』で自分の足を撃ち固定する。これによりかろうじて引き込まれるのを防いだが、吸引は止まらない。
(このままだと……服が破り取られる!)
想像してハァハァ言いながらも次の打開策を考える。
襖の向こうには……やはり影がいることが分かった。そしてその手には金色のランプがキラリと光る。
(ランプの道具と言うと……『まじんのいない魔法のランプ』……!!)
足を固定して動かないようにしたことが裏目に出た。
かなりマズい。
この道具は名前を言われて吸い込まれると言うことを1回聞かないといけない代物だ。命令は100%体の入れ替えになるだろう。
ここに来て強力な道具を連発してくるあたり影も本気なのだろう。
(やはり安易に眠らなければよかったのだろうか)
反対を押し切ってまで貫いた自分の行いを後悔し、弱気になるほどこちらも追い込まれて来た。
一か八か『ストレートホール』で真下に穴を開け別の場所に自分を落とすか?
しかし、既に名前を呼ばれてしまったので吸引も続いており、接着剤が消えた瞬間にランプに吸い込まれる可能性がある。
考えても自分で打てる手が思いつかず、絶対絶命のピンチと言っても過言ではない状況だ。
しかしそんな中、再び空間が歪みだす。
「のび太!……さん!」
嬉しさのあまり思わずのび太に抱きついてしまった。
のび太が『あの人は居間』を自分に使ってくれたのだ。足の接着剤も消えている。
「し、しずかちゃん!ゆっくりしていられる時間もなさそうだよ!ここはさっきまでいた見知らぬ民家なんだけどどうやら影の声も聞こえるぐらい近くにいるようなんだ!」
「そ、そう。分かったわ」
確かに無人の世界の割には何やら外が騒がしい。2階の窓から周りをソッと覗いてみると家は群衆で取り囲まれているのが分かる。
(うわ……こんなに連れてきていたのか)
ガタガタガタ
そして、既に家にいることがバレているのか、玄関を開けて数人が侵入してくる音が聞こえる。
「しずかちゃん、どうしよう!もうダメだ」
「諦めないで!二階に隠れましょう!この道具を使うわ!」
侵入者達はそのまま家の中をくまなく探し始めるが、
「のび太さん逃げて!」
突然の声に、侵入者達は声が聞こえたほうに群がるように集まりだした。
「今よ!」
追跡は……ない!影の目も盗めたようだ。
「やったよ、しずかちゃん!『おそだアメ』で10分後に声が聞こえる作戦が上手くいったね!」
こんな簡単な道具で危機を回避できるとは若干拍子抜けだが、俺たちはそのまましずか家に降り立ち鏡の世界から抜け出すために部屋に戻る。
後は鏡面世界から出た後に念のために鏡を割っておけば影はこちらに到達する時間がほぼなくなるだろう。
やはり対話できなかったのが心残りだが最早仕方がない。一体あいつは誰だったのか。ドラミに問いただすしかない。
しかし
安心感と心残りが混ぜ合わさった複雑な感情のまま部屋に入り込んだ俺であったが、どこからともなく聞こえてくる声に絶望へと突き落とされる。
「戻って来ると思ったわ」
「!?」
のび太ではない女の声。まさしく最初に影が発した声と同じ声質だった。
だが見回しても影らしき姿は見えない。
(まさか……)
一瞬の出来事であった。
影は透明の布(透明マント)を取り払うように出現すると、手に持っているマイクに言葉を吹き込む。
すると横にいたのび太が突如、
『心吹き込みマイク』
この道具は射程圏内に入った対象の心に命令をマイクで吹き込み、あたかも自分の意思でやっているように見せかける事ができる凶悪な代物だ。まずは邪魔なのび太に何か命じたのだろう。
「のび太さん、やめて!あれは『心吹き込みマイク』よ!強い意志があれば抗えるわ!」
漫画でもジャイアンが何回か命令を耐えていた。強い意志があればある程度凌げるのだ。しかし、のび太はガッチリとしずかちゃんを抑え込み放そうとしない。
「しずかちゃんも影と話したかったんだろう?やっぱり逃げていないで今ちゃんと向き合うべきだよ!」
夢に来るまで散々対話を望んでいたのだ、命令を吹き込まれたとのび太が気づかないのも無理はない。
その様子を見て影はさらにマイクにボソボソと吹き込む。
ピキーン
マズい、命令された……。影と体を交換したくなってくる。望んでいないのにまるで自分の意志のようだ。
俺はそのまま導かれるように影が持つ『入れ替えロープ』を掴もうと試みてしまう。
だが、先ほど念のため手にかけておいた『スベールガス』のせいでロープを掴めない。
(た、助かった……しかしのび太を何とかしないと時間の問題……)
依然としてのび太は
「やっぱりあなた、源静香ではないようね」
次回が最終回です
ここまで読んで頂きありがとうございました