気づいたらしずかちゃんだったので道具を借りパクしてみた   作:さわやふみ

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最終回


12.未来へつなぐ

「なんで俺がしずかちゃんではないと分かった?」

 

俺はのび太が近くにいることなどお構いなしで影に喋りかけた。対する影も静かに語りだす。

 

「こちらに来て源静香本人とは別の何かが邪魔しているような感覚は最初からあった。それにある程度、現地の抵抗があるかもしれないと()からも聞いていた。ここまでひみつ道具を使って対策を取ってくるなんて訓練されていないと一般人には到底無理だしね」

 

影はさらに続ける。

 

「それと……あなたがそのまま起きているだけで私は消滅したのに、なぜ敢えて寝てまで私と喋りたかったのか気になった。そちらも話したそうだったし興味が出たから付き合ってあげることにしたのよ」

 

一瞬の静寂が走った。影が少しだけこちらの声に耳を傾けてくれそうな気がしたので、俺もこうなったらもう正直に話すことにした。

 

「気づいていたのか。俺は……君の声に聞き覚えがあるんだ。君は一体誰なんだ?なぜこんなことをする?」

 

影は間をジリジリと詰めながら質問に答える。

 

「時間がないから少ししか答えてあげられないけど、私は未来から来たジャイナと言う。もしかしてあなたも未来から来たの?」

 

ジャイナ……。初めて聞く名前ではない。

やはり俺は彼女を知っている。

しかも俺はその子と悔いの残る別れ方をした。その証拠に名前を聞いた瞬間、何かホッとしたようなまた会えた嬉しさがこみ上げてきているのだ。

 

「そうだ。俺は未来から君の憑依が発端となって起きたロボット戦争を止めに来たエージェントらしい」

 

これにはさすがのジャイナという影もユラユラとし動揺している様子が分かる。

 

「なぜ私が過去の一般人に憑依した程度で戦争が起こるわけ!?……なるほど、嘘をついて思いとどまらせようという魂胆ね?」

 

「いや、本当なんだ。相乗効果なのか分からないけど、君の憑依は結果的に戦争に繋がった。でも俺にとって最早そんなことはどうでも良いのかもしれない」

 

「言っている意味が分からないわ。それになんで阻止しに来たあなたがどうでもよくなるのよ!?」

 

ジャイナとは対象的に俺は悟りを開いたかのように落ち着きはらって聞き返す。

 

「憑依してくる前の記憶を覚えているか?」

 

「は?覚えているわよ!私は自分の容姿のことで婚約者の彼とケンカしたあげく、勢いで彼が開発した憑依マシーンでこの時代に憑依しに来たのよ!」

 

ズキン……

 

初めて聞くとあまりにも現実離れしたお笑い話に聞こえるが俺はこの話を信じた。

 

狼狽えながらも真実を話しているであろうジャイナの挙動に何か強烈な既視感を持ったからだ。しかし思い出そうとすると頭痛となって頭に響く。

 

「惨めでしょう?だから私のことを誰も知らない時代に行って、実在した源静香という美女に成り変わるしか私には方法はなかったの!それが彼のためにもなると言われたわ!だからもう邪魔をしないで!」

 

さっきから出てくる“彼”とは一体何者なんだ。聞いているとその男が開発した憑依マシーンで婚約者のジャイナをこの時代に送ったように聞こえる。開発者ならば憑依後にやがて彼女の人格が消滅してしまう可能性があることも予想出来たはず。

 

そんな事があり得るのか?

ケンカ別れをして憑依マシーンで自分の彼女を過去の時代に葬ったと捉えてもおかしくないやり口だ。

 

「君は……憑依できたとしても人格がいずれ消滅してしまうことは知っているのか?」

 

「……!またそうやって嘘で騙そうとしているのね!」

 

この反応……。やはりこの後、待ち受ける運命を彼女は知らない。俺はもうこの子に本音だけを語ることにする。

 

「嘘じゃない。俺も先にしずかちゃんに憑依こそしたが残り時間は僅からしい。今は記憶がなくて君の事を思い出せないが、せめて最後は君を悪人にすることなく一緒に消え去りたいんだ」

 

「〜〜〜……!!もう時間がない!あなた一体誰なのよ!?」

 

明らかにジャイナは事実を知ってから思いとどまっている。既に人間の原型を失いつつあり、影が部分的に消えかけているにも関わらずだ。やはり根本的に悪い人間ではないのだろう。

 

「すまない。俺は何も覚えていないんだ。……いや、天衣酢流蔵という名前だけは最近知ったぐらいか。あとはもう何も分からない。だから……俺がとやかく言うより、結局最後は君が正しいと思う選択をしてほしい」

 

結局自分も記憶がないからドラミに言われたことを信じて動いているに過ぎないのだ。

また、ジャイナが制圧しているこの状況においては最早彼女の判断に任せるしかなかった。

 

だが、俺の言葉に影は予想もしない反応を見せ始める。

 

「す、酢流蔵さん!?……うそ……本当にあなたなの?」

 

「……俺のことを知っているのか?」

 

「知ってるも何も……なんであなたまでこっちに来たのよ……!あなたはブスな私なんか放っておいて憑依マシーンを完成させていれば良かったのに!」

 

「な、何を言って……」

 

「もしかして……結局私を追いかけてきてくれたのね……。あの時ひどいことを言ってごめんなさい。やっぱり私は……あなたと一緒に生きていたかっ……た……」

 

そう言ってかろうじて残っていた影の最後の一部分は目元をキラリと光らせると、何もせずに

目の前で消え去っていった。

 

 

 

 

「………………まさか…………」

 

激しい頭痛が襲いかかり、汗が滝のように滴り落ちる。

自分の中で疑問に思っていたことや辻褄が合っていく。

 

 

 

俺が憑依マシーンを作って彼女であるジャイナをしずかちゃんに転移させた張本人……?

 

 

 

喧嘩した婚約者の彼女ジャイナを憑依マシーンで転送したあげく、結局未練が残って後を追うようにしてしずかちゃんに憑依する役目を担ったというのか?

俄には信じがたいがどうしても思い出せていない記憶と繋がっていく気がする。

 

 俺は未来で取り返しのつかないことをした。

恐らくジャイナとケンカ別れをした際に彼女の容姿を中傷したのだ。そして勢いで自分が開発していた憑依マシーンで『美女にでも成り代わって来い』とけなしたんだ。ジャイナは傷心のあまり未来で生きていく希望を失ったが、それでも天衣酢流蔵()のために憑依マシーンの被験者になってくれた。

そんな彼女に謝りたくて俺はこの時代まで追って来ることを選んだのかもしれない。

 

 

それなのに……

謝れなかった

思い出せなかった

 

もう彼女はこの世から完全に消え去ってしまったのだ。なぜ彼女が消える間際まで記憶が戻らなかったのか。悔いても悔やみきれない。

 

絶望に打ちひしがれる中、これまでのドラミの行動も理解出来てくる。

 

 

ドラミはこのことを知っていたからこそ俺に真実を告げられなかったんだ。

婚約者を消滅させる任務なんて知ったら確実に迷いが生じていただろう。

ドラミは未来のため、俺のために敢えて本当のことを言うのを避けたのだ。そんなドラミを俺は責めることは出来ない。そもそもそんな資格はない。

 

 

 

夢から覚めた俺は無言でドラえもんからタイム電話を借りてドラミに話しかける。

繋がるまでの発信音が一際長く感じられた。

 

「ドラミちゃん……。聞こえる?」

 

「……ええ、聞こえるわ。いま未来の改変を検知できる機能を使っているからミッションが無事に成功したことも把握できているわ」

 

「はは。さすが仕事が早いね。ということはそちらの未来は平和に戻っているんだな?」

 

「ええ、こちらは戦争前の平穏を取り戻しているわ。清らかな心を持つあなただからこそこのミッションを達成出来たのよ。本当にありがとう」

 

「清らかねぇ……。ま、取り敢えず俺の役目も終わりってわけか」

 

「ええ、そうなるわね。そして天衣さん、言いにくいのだけれど、やはりそちらの時代から魂を戻す術は現状では見つからなかったわ……」

 

「そっか……。俺はこのまま消え去るんだな」

 

清々しさよりも何かをやり残した未練の気持ちが強い。だからどちらかと言うと早く消え去って無になりたい心境だったのでちょうど良かった。

 

そんな中、ドラミが重い口を開く。

 

「……だからせめて最後にあなたがなぜそちらの時代に行くことになったのか全て伝えるわ」

 

「ドラミちゃん。もういいんだ。教えて貰う必要もなくなった。たぶん俺はもう真実を聞くのが耐えられないと思う」

 

「もしかして……記憶を思い出してきているの?」

 

「ああ、何となくね。これは報いなんだろ?せめてロボット戦争を止めたという明確な事実だけを噛み締めながら終わりにしたい」

 

「天衣さん……あなたがどう思っていようと、あなたの良い心はきっとしずかさんの奥底で生き続け、明るい未来に繋がっていくことになるわ」

 

「ありがとう。ただしずかちゃんに迷惑掛けないといいけどな……。そうだ、最後にこの時代で一回だけ道具を使いたいのだけど見逃してもらえたりするかい?」

 

「……ええ。あなたのことだから任せるわ。お兄ちゃんには私から説明しておくわね。ついでにのび太さんの記憶も消しておくわ」

 

 

 

 

 

 

こうして俺はドラミ達と別れ、急ぎ足で剛田商店へ向かう。言わずと知れたジャイアンの実家である。

ただ、用があるのはジャイアンこと剛田剛ではなくジャイ子であった。

 

もうすぐ俺の人格が消滅しようとしているのか、意識が飛びそうになる。

そして朦朧としながらも必死にチャイムを鳴らす。

 

(頼む……。いてくれ……)

 

いつものように公園にスケッチに行っていたら間に合わないだろう。

最後だけでいい。正しい行いがしたい。

 

 

ガチャリ

 

玄関の扉がゆっくり開き、出迎えてくれた子を見下ろすと俺は自然と目頭が熱くなっていた。

そこには懐かしげのある子が立っていたからだ。

 

ジャイナ……いや、ジャイ子……

 

顔を思い出せないのに面影がある。

溢れそうになる涙を我慢しつつも、急いでジャイ子の手を取り『かならずあたる手相セット』を使う。

 

躊躇うことなく書いた手相は“子孫繁栄”線だった。これでジャイ子の子孫であるジャイナ(・・・・・・・・・・・・・・)は未来で俺みたいな奴に巡り合うことなく幸せに暮らしていけるはずだ。

 

本当に最後の最後だったけれど、ひみつ道具を希望がある使い方が出来た。

しずかちゃん、今まで迷惑をかけて済まなかった。およそ一ヶ月ほどだったけど夢のような体験をさせてくれてありがとう。これからも末永く幸せに生き……くれ……

 

爽やかな風がしずかちゃんのスカートをたなびかせて通り過ぎていった。

 

 

 

 

「しずかさん、ボーッとしてどうしちゃったの?」

 

ジャイ子は呆けているしずかちゃんに声をかけた。対するしずかちゃんはハッと我に返ったようにジャイ子に気がつく。

 

「あら?ジャイ子ちゃん、こんにちわ。私なんでここにいるんだろう。何か色々あった気がするけど思い出せないの……」

 

「大丈夫?お家に帰って休んだほうがいいよ」

 

「うん、そうするわね。ジャイ子ちゃんバイバイ」

 

こうしてしずかちゃんはいつもの可愛らしい笑顔を見せるとそのまま帰路についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

未来 数日後

 

 

 

 

空にはフライングカーが飛び交い、路上は立体の広告映像が映し出されている。そしてその間を所狭しと人が行き交う。まるでロボット戦争があったことなど忘れているかのように活気溢れた光景だ。

 

そこに一組の男女カップルが談笑しながら歩いていた。

と言ってもほぼ女性が一方的に話しかけているが男性のほうは少し愛想笑いをしている感じだ。

 

そこに突如サイレンを鳴らしながらパトカーと思われる車両が飛んできてカップルを囲むように着地する。

 

辺りが騒然とする中、現れたのはドラミだった。

ドラミはそのまま男性のほうに声をかける。

 

「天衣さん!あなたを重大な時空犯罪の疑いにより航時法に基づいて逮捕します!」

 

急な宣告であったが男も我に返って反論する。

 

「あんた達何を言っている?証拠はあるのか?私が誰か知った上での発言か?」

 

「その口調は天衣佐背流(てんいさせる)のほうね。ちょうどいい。証拠も今から見せるわ」

 

ドラミはそう言うと携帯映写機で映像を映し出す。

 

そこには口論している天衣とジャイナが映っていた。

 

『お前は野比家の方と違って本当に醜い女だな!お前のような奴は私の作った憑依マシーンでも使って、誰もいない時代の美女にでも成り代わればいいんだ!』

 

『何よ!天衣さん……ひどいわ……分かったわよ!過去にでもどこでも行ってやるんだから!』

 

この映像を見せられた連れの女性は青ざめて呆然としている。ドラミはそれに気づくと女性に声をかける。

 

「あ、ジャイナさん!落ち着いて聞いて。今の天衣さんはあなたが愛する酢流蔵(するぞう)さんではないの。天衣佐背流(てんいさせる)という発明家であり別の人格なのよ!天衣さんは二重人格(・・・・)だったのよ!!!」

 

「え……え?」

 

ジャイナと呼ばれる女性が返答に困っている中、ドラミは続ける。

 

天衣佐背流(てんいさせる)さん、あなたも未来改変把握装置を使っているでしょうから何が起きているか把握しているでしょう。もう言い逃れは出来ないわよ!」

 

追求を受けた男はこれまでの動揺ぶりが演技だったかのように、急に落ち着いた様子で喋りだす。

 

「……くくくく。まさかジャイナごときの憑依移動が歴史改変にまで発展するとはな……。酢流蔵(するぞう)も葬れて一石二鳥だとは思ったのだが裏目に出たわけか」

 

「あなたはこの映像を酢流蔵(するぞう)さんが見えるところにワザと置くことで、酢流蔵(するぞう)さんがジャイナさんの後を追うように仕向けたのね」

 

「ああ。勝手にジャイナなんかと婚約しやがって酢流蔵(するぞう)は迷惑な人格だった。かなりジャイナに入れ込んでいたようだったので送ってやったのだ!もう二重人格の生活にはウンザリしていたんだよ!俺は憑依マシーンを開発した勝ち組なのだぞ?それなのになぜこの女なんかと結ばれなきゃならないんだ!」

 

「あなたの事情は知りませんが、憑依マシーンは憑依先と元の人格に致命的な影響を与える欠陥品であることが判明しましたし、歴史改変が重大な犯罪であることは変わりません。本来ならば即確保となりますが、あなたの体には無実である天衣酢流蔵(てんいするぞう)さんもいます。そこでこれを使わせて頂きます」

 

ドラミが取り出したのはひみつ道具の1つである『心つき出ししゅ木』であった。

 

「これで頭をたたくと、その人の迷う二つの心が、黒と白の化身となって出てきます。その二人が戦って勝ったほうが、強い意志として残ります。もうおわかりですね?」

 

「貴様……まさか」

 

「ええ。あなたの発明に対する思いが強いか、ジャイナさんを思う気持ちが強いかこれで決めて頂きます。今回のために少し改良しているので負けたほうの人格は一生表に出てこれなくなります」

 

「ふ、ふざけるな!この体は俺の物だ!ブス好きの酢流蔵(するぞう)よりも価値のある発明家を残すほうが人類のためだろう!」

 

酢流蔵(するぞう)さんは見た目ではなくジャイナさんの心を好きになったのよ!つべこべ言わず決着をつけなさい!」

 

そう言ってドラミは問答無用で天衣をぶっ叩くと、その場には黒と白の天衣に似た化身が現れる。

 

天衣が戸惑っていると、頭の中から声が聞こえてくる。

 

佐背流(させる)。不便ながらも同じ体で共に共存して行こうという昔の約束は嘘だったんだな」

 

「お、お前……酢流蔵(するぞう)か?」

 

「ああ、そうだ。転移の際、丁寧に俺の記憶を消して失敗を狙ったようだが、『ドラえもん』の漫画のおかげでロボット戦争は阻止することができた。このまま完全にお前を封印する」

 

「黙れ!貴様のような二流の人間に私がやられるはずがない。貴様こそこれで今度こそ終わらせてやる!」

 

こうして騒然とする街の真ん中で黒と白の天衣による運命の戦いが行われた。

両者一歩もひかない壮絶な戦いとなったようだが、日が暮れる頃には決着がつくこととなる。

 

そしてその数日後。

天衣とジャイナが楽しそうにデートしている傍らで、ドラミは微笑みに満ちた表情でその様子を見守っているのであった。

 

 




……はい!ついに終わりました(; ・`д・´)
このような作品に最後までお付き合い頂きありがとうございました……

素人的な考えですけど、内容はともあれ一番のハードルである「完結」が出来てホッとしています。

投稿して批評を受けたほうがいいと思い、誰もが知る原作と人気なジャンルタグに手を出してみました。しかも駆け引き、エロ、シリアス、バトルとゴチャ混ぜを上手く料理できるか試し、結果としては反省点が大いに残る感じになりました( ;∀;)
が、次回作に繋げる何かを得られた気もしています。

何度も色んなとこで書いてしまいますが、序盤の黒しずかのワクワク感から後半の急展開は予想のナナメ下を行っていたと感じる方が多かったかと思いますw
しかし、全て書きたかったことなので個人的には内容も一応満足しています。
本当は間に出来杉君との駆け引き話やジャイアンスネ夫が絡む話も構想にあったのですが、長くなるほど完結が怪しくなりそうなのと諸事情により思い切って短くしました。

最後にお時間ありましたら評価・感想など頂けると嬉しいです!
今後の参考にさせて頂きます

それでは、またどこかでお会いしましょう
さようなら(`・ω・´)ノシ
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