気づいたらしずかちゃんだったので道具を借りパクしてみた 作:さわやふみ
未来から来た人は女性?
自分の一人称は‘’俺‘’だから、やはり別の人なのか?
……いや、ドラミが俺を油断させるために言っている可能性もある。
気を張る自分をよそにドラえもんが質問する。
「その女性って誰か分かるのかい?」
「いま過去ログや映像を追っているからもうすぐ分かると思うわ!対策案はいま練っているけどもうすぐ決まるそうよ!」
やはり未来技術があれば対策は時間の問題のようだ。自分が捕まることが先延ばしされている現在、ここでカミングアウトして楽になったほうがいいのかもしれない。
「だからしずかさんは申し訳ないのだけど少しそのまま待機していてほしいの!」
突然ドラミが
この時が来た。
ドラミはやはり今のしずかちゃんが既に憑依されていることを知っているのだ。
でなければいまこの場に拘束する意味なんてない。すぐに打ち明けてこないのは、逃げたり暴れられないようここに釘付けにするためなのかもしれない。
ドラミはそのまま続ける。
「これから対策についてしずかさんと二人で話したいから、お兄ちゃんとのび太さんはちょっと席を外してくれないかな?」
ドラえもん達に知られないようにしているのだろうか。さすがに子供ののび太にはショックが大きいと判断したか。しかしそれだとドラえもんまで席を外す意味はない。だとするとしずかちゃんの尊厳を守るためヒッソリと俺の人格を処理するつもりということか。
……または俺の人格を排除せずにどこかの受け皿に逃がすことで穏便に済ませようとしている可能性もある。それは俺がしずかちゃんの体を人質にとることを恐れたからかもしれないが、恩赦があるのであればこちらも最初から協力的に行きたい。
(どっちだ……)
ドラミの顔は見えない。あの愛くるしい顔で作られた黄色いロボットはいまどんな表情をしているのだろうか。
ドラえもん達は特に抗議することなく部屋を出ていき、タイム電話ごしに
「…………」
出方を見るため大人しくしているとドラミが切り出す。
「ちょっと待ってね。……いまそちらに飛び立ったわ。憑依移動は成功よ」
「……?」
(何を言っている。探りか?慎重に言葉を選ぶ必要があるな)
「混乱するだろうけど落ち着いて聞いてね。順に説明していくわ。まずは確認だけどあなたは今
「!!!!」
やはりバレていた……!くそ!ドラミめ!今まで演技しやがって!
怒りと焦りの気配が伝わったのかドラミは慌てて説明を続ける。
「あ、ごめんなさい!あなたが悪意を持って今しずかさんに憑依しているわけではないことは知っているので安心して!しずかちゃんでいた間の多少の悪事も記憶喪失だったから免除されるわ」
(ぜ、全部ばれている……!!)
悪意がないなんて言うが、俺は既に道具を借りパクしたりしずかちゃんの体を堪能したりと、充分悪事を働いている。
しかし最早ここで抵抗する意味もない。
「なぜバレているのか分からないが……俺はしずかちゃんではないはずだ。それだけは分かる」
「……良かった!やはりしずかさんへの憑依が成功していたのね!あなたは先程、
「……!?」
いったいドラミは何を言っているんだ?
俺がエージェント?全くピンと来ないし自覚もない。
そんな自分の心境を代弁するようにドラミは続ける。
「未来から現代に意識を飛ばした際に持っていける記憶は潜在記憶だけだったからほとんど記憶喪失のはずよね。でもこれから説明することによって顕在記憶も少しだけ再構築出来るわ。ミッションが成功するかどうかはここにかかっているの」
相変わらず理解に及ばない言葉を並べている。
しかし、潜在記憶と顕在記憶……。この意味は言われてみるとその意味を思い出してくる。
記憶は大きく2つの種類に分類できる。
例えば『沖縄旅行に行った』、などのエピソード記憶や『沖縄の場所』、などの意味記憶は意識的な想起を伴う記憶であり顕在記憶の分類となる。対して海水浴する際の『泳ぎ方』、など経験の記憶は潜在意識と言う。
確かに走り方や箸の使い方など技能を伴う行為、いわゆる潜在記憶はしずかちゃんになった最初から苦労しなかった。しかし顕在記憶は一向に思い出せていないのだ。
とはいえドラえもんの漫画の話や道具の性能は川のせせらぎが如く自然と頭に湧いてきた。
あれらは知識という事実の記憶という意味では顕在記憶ではないだろうか。
「あなたの本当の名前を言っても思い出せないかもしれないけど、まずは心を落ち着かせるために伝えておくわ」
「あ、ああ……」
ゴクリ……。
「あなたの名前は
「……!!」
衝撃的だった。名前のダサさもそうだが年齢もそれなりに重ねている。唯一男だったことだけ納得した。そして何より自分の個人情報を聞いても何一つピンとこないことにも驚きを隠せないでいた。
「やっぱり思い出せないようね。あなたの個人情報は転移するにあたって優先される情報ではなかったから再構築対象でもなかったわ」
「こ、個人情報が重要じゃないって……」
「あなたは今回未来で引き起こされたロボット戦争を阻止するためにしずかさんに憑依したのよ。その目的に必要な情報を厳選して潜在意識となるまで頭に叩き込んだの。急いでいたしあなたは個人情報は二の次にしたのね」
意味が分からない言葉をドラミは平然と喋り続ける。
(一体ドラミは何を言っているんだ……)
自分がしずかちゃんに憑依したことでロボット戦争を引き起こしたと思っていたのに、実はロボット戦争を阻止するために現代に憑依してきただと?
「そちらの時代で言うと今から一週間後にロボット戦争を引き起こすきっかけをつくる女性がしずかちゃんに憑依するため移動してくるわ。それを阻止するためあなたは
「なんだって!?ということは出木杉くんを暴走させたのはしずかちゃんにこれから乗り移ろうとしている人格ということなのか?」
最早、自分が男だと分かり俺は口調も気を使わずに話し始める。
「記録を調べた限りそのようよ!転移した女性の人格はしずかさんに憑依した後、出木杉くんを振り回していたわ。最終的に出木杉くんは弄ばれて捨てられたの!出木杉さんはしずかさんは元よりのび太さんやお兄ちゃんを憎んだあげくやがて人類そのものを憎むようになり、破壊ロボットの基礎を作っていくことになるの!」
何という話だ。それが本当なら俺は時空犯罪者から一変して、大事な使命を帯びた者になるではないか。
しかし、引っかかることがある。
「だったらその女性がしずかちゃんに憑依する前に取り押さえればいいだけじゃないか?」
「それが、未来の技術を使って妨害されているのよ。歴史が変わってしまった今、タイムパトロール隊もいないし、止めるにはこの手段しかなかったの」
なるほど。自分を送るしか手がなかった理由としては少し納得がいく。
そして自分は出木杉くんに関わる任務についていたことで、こちらの時代で無意識に出木杉くんに興味を持ったのも頷ける。
しかし、自分の個人情報を捨ててまでしずかちゃんに憑依することを選ぶ動機が自分にあったとは思えない。
「なぜ俺がしずかちゃんに憑依する人員に選ばれた?自分から志願したのか?任務が終わったらそちらに帰れるのか?」
正直、記憶のない未来に帰りたいとは思わなかったが本来の自分に戻りたい気持ちはあった。美少女のしずかちゃんの体に対して32歳の男の体など比較するまでもないはずだが、何かこう懐かしくも戻れない遠い故郷のような存在に見えて仕方がないのだ。
しかし、ドラミはこちらの希望とは裏腹に回答を拒否する。
「任務成功のため、今は自分から志願した、ということしか言えないわ」
肝心な部分を言ってくれない分、やはり100%ドラミを信じてよいのか判断がつかない。
何か大事な事を煙に巻いている感じだ。
ただ、俺自ら志願したのならばそれが自分の信念に繋がっているからなのだろう。この時代に来て多少の悪事を働いてしまったが、やり遂げればまた本来の自分に戻れるかもしれない。挽回できる機会はあるのならば今はそれを信じてロボット戦争の阻止はしなければならないと思った。
「分かった……。で、何をすればいいんだ?」
「女性が憑依してくるのは今から約一週間後よ。あなたはその間、睡眠を取らないでいてほしいの!」
「え、それだけ?しかし一週間なんて人間には無理だろう。……いや、ひみつ道具を使えば何とか可能か」
「さすが天衣さん。話が早いわ。道具の使い方を潜在記憶になるまで頭に叩き込んだだけあるわ」
「なるほど。だからひみつ道具のことを詳細に覚えていたのか」
「そうよ。お兄ちゃんがそちらの時代に行った話は未来では漫画として玩具の説明書になっているわ。そしてあなたはお兄ちゃんの道具を使って女性の憑依を迎え撃つの」
「迎え撃つと言っても、寝ないだけなら簡単だろう。しかし、なぜそれが対策になるんだ?」
「憑依はノンレム睡眠中に実施されるからよ。だから憑依される期間に寝ないでいれば女性の人格はしずかさんを乗っ取ることが出来ずに消滅するの」
確かに自分が憑依した際も睡眠中だったのかもしれない。
「ふーん。それだけでいいのか?それだけだったらひみつ道具の使い方を頭に叩き込む必要なかったよな。というか俺が憑依する必要がなかったのでは?ドラえもんに連絡してしずかちゃんに協力してもらえばいい」
「……そ、それは万が一寝てしまった際のことを考えたからよ」
急に声のトーンが変わったドラミに俺は違和感を覚えた。
なんだこの話www
って思うかもしれません('ω')