気づいたらしずかちゃんだったので道具を借りパクしてみた 作:さわやふみ
この回は大人な表現が含まれます。
辞書に載っていないような直接的な表現は使わず、あくまで連想される程度の描写に留めていますが、念のためご注意ください。
村上春樹さんの小説ほど描写激しくないので普通に大丈夫だとは思いますが('ω')
「万が一寝てしまう可能性もあるということ?」
奥歯に物が挟まったようなドラミの言い方に俺は違和感を持ち問いただす。
「憑依マシーンは未来でも試作段階なの。余り試せてもないし、憑依時に対象を眠らせる機能を有している可能性もあるわ」
「なるほど。もし俺が寝てしまった最中に女性の憑依が開始された場合どうなる?まさか俺の人格と締め出し合いが始まるのかい?」
「察しの通りよ。夢の中でひみつ道具を使ったしずかさんの体の奪い合いが始まるわ」
半分冗談で聞いたつもりだったのにドラミは真面目に回答してきた。
「道具を使って……?まさか夢の中で『トッカエ・バー』とか使って体を取り替えてくるわけじゃないよね?」
「いいえ、そのとおりよ。厳密には恐らく『入れ替えロープ』を強引な方法で使ってくるわ。しずかさんの夢の中だから
「抹殺って……相手が殺しにかかってくるのか?俺は死んだらどうなる?」
「……文字通り死よ。あなたの人格は消滅して無になります」
「マジか……」
安易に請け負ったが死が伴うと聞いて一気に足がすくんでくる。
「ま、まぁ寝なきゃいいんでしょ……?というか何でひみつ道具を使ってくるんだ?もっと本格的な未来の兵器とかあるのでは?」
「しずかさんの脳内が戦場だからあくまでしずかさんの常識や情報に限られた物しか使えないの。あなたが漫画の内容を覚えて行ったのもしずかさん自身が知っている道具を把握するためよ」
「な、なるほど。『入れ替えロープ』は漫画でしずかちゃんも使っていた。ちなみにこちらもひみつ道具を駆使して乗っ取りを阻止するということか」
「ええ。しずかさんが知っている道具ならばこちらも使えるわ。ただ、道具によるこちらの攻撃は相手に効かない可能性が高いわ。だから夢の中では相手の人格が消滅するまで逃げ続けるしか手はないかもしれない」
「ええー……相手の人格は未来技術で防御されてるってわけか。ちなみに侵入してきた人格はいつぐらいに消滅するんだ?」
「現実時間で約1時間だから夢での体感はおよそ2時間でしょうね」
「2時間も?その間、道具を使って逃げ続けろってことか……」
まぁ寝なければこの夢の中の鬼ごっこは発生しない。そこまで気にする必要はないだろう。
やはり問題はその後だ。
ミッションが成功したら俺の悪事は帳消しになり元の体とやらに戻って記憶も蘇るのか、そこだけはどうしてもハッキリさせたい。
「終わった後、俺がどうなるのかもミッションの成否に関わっているのか?」
「……あなたのやる気を削がないためと思ったのだけどやはり知りたいわよね。私も伝えるべきと思っていたので1つだけ関連する重要な事項を教えます。恐らくこれはあなたの今後にも共通しているわ」
「なんだい?」
「ロボット戦争が起きてしまった歴史だとしずかさんはすぐに亡くなってしまったの」
「何……!出木杉くんのロボットにやられたのか?」
「いいえ……。自ら命を絶ったのよ。最後に『誰か私を止めて』と言い残して」
「どういうことだ?乗り移った女性の人格が乗っ取っていたんだろう?」
「それが……どうやら憑依機能は完全ではなかったの。恐らく女性の人格は時が経って自然消滅したようよ」
「じゃあしずかちゃん本人が体を取り戻せたんじゃないの?だとするとなぜ自殺なんかしたんだ……」
「しずかさん本人の人格に戻ったのは間違いなさそうよ。しかし侵入した女性の人格が消滅した後、負の感情がしずかさんの心の中に残り続け、しずかさんはその感情を自覚しつつも制御出来ずに悪行を繰り返してしまったの。出木杉くんを誘惑し絶望させたのもしずかさん本人がやったものだと錯覚していたかもしれないわ。だから良心の呵責に苦しみ自ら命を絶ったのよ」
「なんてこった……。ん…?ドラミ……それじゃあまさか……」
「ええ。あなたにもしずかさん本人の習慣や趣味嗜好が徐々に戻ってきているでしょう。あなたの人格も残り時間がなくなってきているかもしれないの……」
「そ、そんな……」
自分が原因で未来のロボット戦争が引き起こされたわけではないことを知り、希望が見えてきた矢先の非情宣告。無事にミッション終了後、どこかの世界で平和に生きていけるだろうと勝手に期待していた自分がいた。それが脆くも崩れ去り一転して絶望感が心を支配する。
「そのことは……転移する前の俺も認識していたのか?」
俺は絞り出すようにドラミに問いただす。
「ええ。あなたは自分の命を顧みずにこの任務に志願したの。だから私も真実を打ち明けたわ」
「……」
(分からない……。動機が思い出せない。人類を救うために俺は命を投げだすような男だったのか?)
かと言ってさすがにドラミがここで嘘をついているとも思えない。
「何か戻る方法がないのか……?」
「望みは薄いけれど一応いま未来で確認中よ」
「そ、そうか……」
記憶がない現状、しずかちゃんを堪能した自分にバチが当たったとしか思えてならないが、後はドラミ達に任せるしかない。取り敢えず今は目の前のことだけに対応する。どうせ死ぬならば皆に感謝されながら消えるほうがマシだからだ。
「……もうドラえもん達を呼んでいいかい?寝ないための道具の相談をしたい。彼らには俺がしずかちゃんに憑依していることが最後までバレなきゃいいんでしょ?」
「そ、そうね」
ヤケクソだがやってやる。ミッションも簡単だ。ドラえもん達に協力してもらって女性の人格が憑依しにくる期間だけ道具で寝ないようにすればいいだけだ。
『瞬間昼寝ざぶとん』で一瞬だけ寝ることも可能だし、完全に寝ない条件なら『ケロンパス』で自分の疲れを吸い取ればいい。
なんなら『記念日シール』をカレンダーに貼って、その女性の人格とやらが来襲する日を指定すればいい。しずかちゃん自身への道具の使用については未来技術で妨害されないはずだ。
ドラえもんとは大体の意識合わせが出来た。憑依日前後の3日間をまったく寝ないで過ごすことにし、もしものために横にドラえもんとのび太が待機して自分の状況を見ておく算段だ。
相手が強引に眠らせようとしてきた場合はこちらも強引に起こすまで。
後はその女性とやらの人格がこちらに憑依してくる日に備えて、寝貯めとは言えないまでもたっぷり睡眠を取っておく。
準備は完璧。3日間寝ないと体に負担がかかる事はしずかちゃんには申し訳ないが、乗っ取られるよりはマシだろう。俺もこれが終わったら早々に出ていくつもりだ。
しかし、思えばしずかちゃんはまさに理想通りの女の子だった。成長した大人のしずかちゃんも楽しみたか……見てみたかったが、俺の邪な心がしずかちゃんに悪影響を及ぼすかもしれないし、賢者な気持ちになっている間に退散するとしよう。
少しの間だったけど美少女に成り代わった人生を見せてくれてありがとう。
ただ、最後の……思い出と言っちゃなんだが今夜のお風呂だけは楽しませてほしい。
認めよう。俺は変態だ。半ば自暴自棄になっているが、こんな状況でも……いや、こんな状況だからこそ『美少女に憑依した』というあり得ないシチュエーションを男として存分に味わってからひっそりと消え去りたいのだ。
決心がつくと駆け込むように風呂場に入り手慣れた手つきで身にまとっている衣服をサッと脱ぎさる。
そしてバスチェアに座り、鏡を見ながら貪るように体をなで始める。
最初は胸だ。先端をたまに指で弾きながら優しく包み込むように丁寧に愛撫する。
しずかちゃんの弱いところは最早熟知しているのだ。しばらくすると体が暖まり、徐々にほぐれてくるのを実感出来る。
自然と吐息も荒くなり頭もボンヤリしてきた。
鏡に映る少女はそのまま抵抗する事もなく自ら足を開き、大事な部分をまさぐりだす。
ツルンと指が入りそうなほど準備が整っていることが分かるが、今後の事を考えると中は傷つけたくはない。だから外側を中心に円をなぞりながらなめるように触れる。時折つまんだりすると、まるで電気が体を駆け巡ったように下半身から快感の波がこみ上げてきて、制御できない声が出てしまう。勝手に発声されるしずかちゃんの声を聞いて、自分がこの子を気持ちよくさせている錯覚に囚われ、さらに興奮を掻き立てる。まさにしずかちゃんと一心同体となって一緒に感じている感覚だ。
そして、やがて来る至高の瞬間が近い事を悟り、先ほどまでの優しい動作と打って変わって、激しく責め立てる。
「もう……イッ……」
のけぞりながらも恍惚とした表情で最高潮に達しようとしていたその時。
ピンクのドアが目の前に出現し、ガチャリと扉が開く。
(え……?うそ?もしかして……)
「のび太さ……んーーーー!!!!」
卑猥な声が浴槽に響き渡った。
恐らく突如のび太が『どこでもドア』でしずかちゃんの浴槽へ飛んで来たのだろうが頭が飛んで何も考えられない。
「わわ!ちょ……しずかちゃん、かけないで!」
一体のび太は何を言って……シャワーなら止めていたはず。
兎に角、辱められたしずかちゃんの心境が急激に伝わってきてさすがに胸が痛い。まだのび太は興味津々でビクついているしずかちゃんを凝視しているではないか……
心配して『どこでもドア』で駆けつけたとのことだったがこいつは必ずお風呂に来る奴だということをすっかり忘れていた。
この日落ち着いた後、のび太を無茶苦茶にしてから記憶を消去したのは言うまでもなかった。
そして……女性の人格が未来から憑依しにくるXデー前日があっという間に訪れた。
『日本標準カレンダー』を使って予め平日を3日連休に設定しておき、友達の家に泊まるふりしてのび太の家に集まることになった。
「しずかちゃん!僕たちがついているから安心してね!」
先日の事はとっくに忘れてのび太が息巻いているが恐らく何か頼むことはないだろう。万が一でも眠気が起きないように疲れて体力を失うようなことはしない。
ひたすらドラえもん、のび太、
「のび太さん!?」
のび太が座ったまま白目を向いているのだ。
(まさか、
「ああ、暇で寝ちゃっただけだと思うよ」
なんだ。そういうことか。紛らわしい奴だ。
しかし、今のところ何か起こる気配はなく、暇なのは頷ける。
「やっぱり明日ぴったりに来るのかな?今日は暇かもしれないわね」
「そうだねぇ……じゃあこれを使おう!『驚時機』〜!これでこの部屋だけ時間の流れを早く出来る」
さすがドラえもん。体感時間が縮まれば精神的な疲労も溜まらない。寝ないで乗り切れそうだ。
こうして前日は何事もなく過ぎ去り、あっという間に当日を迎える事となった。
運命の日だ。
ここで人類の命運が決まると言っても過言ではない。そんな日だと言うのに今日は何だか耳鳴りがひどい。心なしか頭の奥底で女の声がまとわり付くように響いている気がする。一日寝ていない疲労が現れ始めているのかもしれない。
「どう?何か変化はあった?」
ドラえもんとのび太は交代で見張りについてくれており、しずかちゃんに定期的に話しかけてくれていた。
「うーん、ちょっと耳鳴りがしているけどおかしな事は起きていな……」
全てを言いかけて俺は異変に気がついた。
『寝なさい』
声だ。女の声が聞こえる。
しかもそれは頭の中からだ。
これは幻聴ではない!
ついに来た。仕組みは分からないが、思念体のように物質を持たない状態で既にしずかちゃんの中にまで来ているのだろう。
過去の美少女であるしずかちゃんに目をつけ体を乗っ取ろうとしている謎の女。素性は聞いていないが負の感情を残すほどだし、人の体を乗っ取ろうとしている時点で悪意がある。(俺も人の事を言えないが)
しずかちゃんの体まで来たものの一向に睡眠状態にならないしずかちゃんに焦りを感じているはずだ。頭の中で喋りかけられるのはうっとおしいがこのまま起き続けて消滅させてやるぜ。
「来たわ!」
年のためドラえもん達にも知らせて備えてもらう。
『寝なさい。なぜ寝ないの?もうとっくに夜中なのよ?』
大分、大胆に語りかけてくるようになってきたが、どうやら強引に寝かせることまでは出来ないようだ。このままタイムアップに持ち込んでやる。
女の声はこの後も聞こえ続けるが、年のため『驚時機』で時間を早めることはせずに様子を見ることにした。
すると女は消滅の気配を察したのか懇願するようになる。
『お願い、時間がないの。早く寝てくれないと……』
自分が消えてしまうって言いたいのだろう。しかし、それは自業自得だ。間接的であれロボット戦争に繋がる時空犯罪になっているんだ。見逃すわけにはいかないし、俺はしずかちゃんを純粋に守りたい。
『そうか……。やはり私は……』
急に女の声がしおらしくなる。
(何なんだこの女は)
同情をするつもりはないが、何かどこかで聞いたことがあるような声でもある。
「……ドラちゃん。ドラミちゃんにタイム電話してくれる?」
ドラえもんは何も言わずにドラミに電話を繋いでくれた。
「しずかさん!?もしかして今きているの?」
「ええ……。頭の中にいるわ。私はこれから敢えて寝て、この女の人と会ってくる」
「どうして!?寝ると危険なのよ?」
確かにひみつ道具を使った攻防は検証した所、逃げる側は不利で危険だった。しずかちゃんが把握している道具に限定されていても防御や回避系の道具より攻撃系のほうが強く、しかも相手には攻撃が効かない可能性が高いからだ。
「でも私は会わなければいけない気がするの。危なくならないようにドラちゃんとのび太さんにも協力してもらうわ」
「しずかさん……」
「ミッションが無事に終わったら全てを教えて頂戴ね?」
「……!!」
突然、何かを悟ったような俺の言葉にドラミは言葉を返せず絶句していた。