「・・・それで、ダージリンさん。今日はどういった用件で?」
「まずは、決勝戦進出おめでとう。西住さん。」
準決勝で黒森峰に敗れたダージリンは、大洗女子学園を訪れていた。
「そしてね、みほさん。あなたが決勝で戦う黒森峰のことで来たの。」
そう言って紅茶を1口飲むと、ダージリンは相対する人物を再び見つめる。
おっとりした雰囲気があり、自分より1つ年下で隊長を務めている西住家の次女。大洗女子学園の隊長、西住みほだ。4月に戦車道を始めた初心者集団を纏めあげ、かのプラウダ高校をも破ってみせた、元黒森峰の副隊長。
そして見た限り、彼女に率いられる大洗の生徒達も類稀な成長をしている。各戦車は最初に見たあの塗装が剥がされ、明らかに動きも良くなっている。学園艦存続がかかっているとはいえ、驚くべきことだ。
が、それは今回伝えにきた人物とある意味では似ていた。
「あなたの姉、西住まほと、その副官達は確かに強大だったわ。でも、あなたは《黒森峰の猟犬》火筒さやかさんを知っているわね?」
「・・・はい。」
申し訳なさそうに縮こまるみほ。ダージリンは1呼吸おいて、
「彼女の情報は、私達聖グロや他校にとって、取るに足らないものだったわ。・・・今年の4月までは。」
みほが不意に顔を上げる。
「それって・・・!」
「えぇ。みほさんがこの学校に転校して、戦車道を始めた頃。その頃から彼女は頭角を現して、技量と一部からの嫉妬を集めつつ、今に至るわ。」
「・・・。」
「あなた方の戦車道はとても興味深いわ。でも、学園艦を存続させるのだったら、火筒さやかに注意しなさい。彼女は西住流とは違う物を、そして何か狂気的な何かを持っているわ。」
そう言って、ダージリンは大洗女子学園を後にした。
*
これで良い。既にちょっとした時の人だが、火筒さやかをなお大洗は警戒するだろう。彼女はその西住流に囚われずに動き回る。未だデータは十分に無い。そのデータを集める為にも、大洗女子学園に警告したのだ。
辺りに人がいないことを確認してため息をつく。他の子達には到底見せられない。
本当に残念だった。また大洗女子学園と決勝戦で戦いたかった。あの頃からどれほど成長したのか。アッサムやオレンジペコ、ルクリリ達も再戦を望んでいた。だがそれは叶わなかった。そして私達は、準決勝で何か恐ろしいものの片鱗を味わった気がした。狙われた時のあの鋭く、突き刺すような感覚は一体何だったのか。
何はともあれ、切り替えなくては。いつまでも引き摺るのは優雅とは程遠い。決勝戦を観に行く準備をしなくては。西住さん達がどう立ち回るのか、あの火筒さやかにどう立ち向かうのか、黒森峰の隊長達は彼女をどう思い
、指示を下すのか。ダージリンは想像を巡らせ、それはアッサム達が迎えに来るまで続いた。
*
いよいよだ。大洗女子学園は決勝戦まで駒を進めた。3回戦の相手はプラウダ高校。みほさんは雪辱を果たしたと言えるだろう。だがみほさんは戦車道に強制的に引き戻され、未だ戦い続けている。わざわざ黒森峰を去って、無名校と化していた大洗に向かったということは、戦車道から身を引きたかったに違いない。
何を言われたのか、何か人質に取られたのか、何かされたのか。みほさんは押しに弱い人だ。きっと辛いトラウマを抱えながらいるに違いない。
「戦車道という檻の中で、獄死する友人を救うんだ。」
火筒さやかには交友関係はあまり無かった。共通の趣味が無く、話題を作れず、群れの外縁で生きてきた。戦車道繋がりで逸見エリカと知り合い、共に黒森峰女学園に入った。西住みほや乗員とも親しくなったが、それ以外にはこれといった友人はいなかった。彼女は西住みほに関する問題で上手く立ち回れなかった。解決の方法を知らず、無謀な程にただ単身で立ち向かった。
「私にはこれしかない。だからこれで今度こそ。」
そうして、今日も練習に打ち込む。ひたすら照準器に目標を捉え、撃鉄を落とす。それが友人を救うと信じて。
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