俺様がカイドウだ!!!! 作:ヘルスパイダー
なあ知ってるか? 最近天空闘技場で暴れ回っている怪物のことをよ。
けっこう巷じゃ有名な話だぜ。まず、ソイツは身長が5mを超える巨人でよ。
って、待て待て! 噓やホラ話の類じゃなくて真実なんだよ。
続けるぞ。っで、問題なのはソイツの身長じゃなくて強さなんだよ。
最初にソイツの試合を見た時に俺はビビったね。あれはまだ奴がデビューしたての頃なんだけどよ、風の噂でトンデモねぇ新人が入ったって聞いてソイツの試合を見に行ったんだ。
何でも、初試合で睨み上げただけで相手に負けを悟らせて勝ったって話なんだ。
それが噂が噂を呼んでドンドン話が盛り上がっていって、俺が聞いた時にはドラゴンのような凄まじい威圧感で対戦相手を威嚇して、ドスの聞いた声で話しかけただけで相手は白髪の爺になって降参したってことになってたな。
まあ、あんまり噂と事実が変わんねぇが。
ともかく、俺がその噂を聞いて160階の試合のチケットを買って見に行ったんだ。
ソイツの対戦相手のモーリアって選手は常に試合で好成績を納める実力者で、対戦相手の組み合わせさえ悪くなければワンチャン200階へ進めている実力者だったんだ。
けど、今回は組み合わせが最悪過ぎたんだな。見た瞬間にっていうか、入り口をぶっ壊して入ってきた瞬間に理解したよ。
あれは人間っていう生物じゃ勝てないカテゴリーの生き物だってことがな。
あぁ? 試合の結果はだって? んなモン、その化け物が勝ったに決まってるだろ。
え、内容を詳しく話して欲しいだ。ん~、別に内容を語るのはいいんだけどよ……。
まずあれは試合じゃねぇな。なんて言えばいいのかな? 虐待? いやお遊びって言った方が正しい気がするぜ。
どんな試合内容だったかと言うとな、ソイツが記念とか言って一発モーリアに殴らせたんだ。
その挑発を受けてモーリアは思いっきりソイツの顔面を拳でぶん殴ったんだ。言っとくがジャブなんて甘いもんじゃねぇ、全体重を乗せた本気の一撃だったね。
そしたらどうなったと思う? 試合会場全体にガン! って音が鳴ったのさ。最初は一体何の金属音だって俺は思ったね。
でも違ったんだ。その音の発生源はリングの上で戦っている2人からだったんだ。
リングの上を見れば殴ったはずのモーリアが拳を押さえて苦悶の声を上げながら困惑した表情でソイツのことを見上げていたんだ。
最初は俺もソイツが噓をついてモーリアに攻撃したのかと疑ったがそうじゃない。よく見ればソイツの鼻の辺りが薄っすらと赤くなっていたんだ。
つまり、信じられねぇことだがモーリアの拳よりも、ソイツの鼻の方が硬かったということだ。それも金属音が鳴るほどのな。
そういや、ソイツはそん時に妙な事を口走っていたな。俺は奮発して最前席のチケットを買ったから何とかギリギリ聞こえたんだが、『念による硬どころか練すらしてないってのにこの程度か……』ってな。
何のことかよく分かんねぇが、そん時のソイツが酷く落胆した顔をして喋ってたんで印象に残っちまった。
それから試合がどうなったかだって? 多分もう理解できてるとは思うが、そっからのモーリアの扱いは悲惨というしかなかったな。
お前らは子供の頃に人形遊びってしたことあるか? 女の子ならお上品に人形を丁寧に扱ったりするだろうが、男の子はそうじゃねぇだろ。
例えばヒーローと怪人とかの人形を持ったらさ、乱暴に振り回したり叩きつけたりするだろ?
あれと同じことをソイツはモーリアにした訳さ。
痛がって手を押さえるモーリアに対して、ソイツは無警戒に近づくいていきやがった。
そんな隙を160階選手が見逃すわけもなく、モーリアの奴はソイツの胴部に向けて蹴り、それも最も威力の高い後ろ回し蹴りを決めたんだ。
でもそんな技が効くようなタマじゃねぇ、蹴りが決まったってのに平然とした顔で蹴りつけたモーリアの足を握ると、そのままモーリアを片手で持ち上げてぶん回したのさ。
こう右へ左へブンブンと振り回して遊んでさ。最後にはポイって上空に投げ飛ばしちまってよ。
ありゃ可哀想だったな。投げ捨てられたモーリアがリングに叩きつけられた様なんてもう……。
俺は涙なしには見れなかったね。もうあれだ夏場のアスファルトの上で死に掛けてるセミのようだったな。
ん? ソイツの名前はなんていうのかだって?
ああ……、そういや言ってなかったか。ソイツの名前はな『カイドウ』っていうんだ。
♦
あれから200階へ行くのに数日とかからなかった。軒並み対戦相手はボロ雑巾のように軽く捻ってやったが、それが原因か近頃じゃ俺様のことを怪物と呼んでくる連中が増えてきやがった。
まあ別にそれはどうでもいい。問題なのは200階へ着くなり新人狩りが現れるもんだとばかり思ってたんだが、どうやら調べてみた結果、新人狩りの奴らの名前はまだ部下共と同じ100階層付近で戦っていた。
どうやらまだ原作が開始する前の世界のようだな。それでも少しは似たような奴らがいると思たんだが、俺様があまりにも強すぎたせいで慎重に様子見に徹しているようだ。
まあ、別に急いでいる訳でも何が何でもフロアマスターになりたいわけでもねぇ。
だが、なれるのならば早めになっておきてぇ。
何故かって? そうだな。どうして俺様がフロアマスターになりたいかの理由は3つある。
1つ目は名声を得る為だ。これは流星街以外のマフィアにも使えるネームバリューを獲得するためだな。そのために試合は圧倒的かつ残虐に行わなければならない。ここで慈悲や甘さを見せればマフィアなんかに名が通用しねぇからだ。
2つ目のこれはただ単純に俺様が強い奴と戦いたいからだな。この世界に転生して強くなったせいか、かなりの戦闘狂になったと自覚している。
3つ目はフロアマスターになった際に得られる人脈といったところか。
この天空闘技場200階クラスにいる奴らは金、強さ、地位と様々な目的でやってきている。そして、それらの目的を達成するにはそれなりの人脈というものが必要になってくる。
それ故、この階層に至るまでに、あるいはこの階層にやってきてから
以上の理由により、俺様はフロアマスターを目指している。
だがまあ、こんなのは別にフロアマスターにならずとも叶えられる内容だ。
とはいえ、このまま試合せずに失格は少しばかし味気がなさすぎるな。
さてどうするか……。適当に200階クラスの闘士に挑発なり脅しなりかけて試合するか?
俺様が今後のことを考えていると、廊下の奥の方から見知った1人の男がこっちに向かって歩いてきた。
「お初にお目にかかります。カイドウ殿」
「オメェは確か最近フロアマスター挑戦間近(まぢか)と言われているカルヴァンじゃねぇか」
見た目は20代後半の優男だが、見る者が見ればよく分かる。鍛え上げられた肉体とそれを凌駕する念の完成度は、彼の積み上げた実績が虚構の物ではないと物語っている。
「ふっふっふ、あの怪物カイドウ殿に名前を知っていただけるとは、光栄ですな」
「へっ、スカした言い方しやがって。んで? 何の用だ俺様によ」
「何の用とはまた……。決まっているじゃないですか。7月10日に試合の申し込みを行いました。もしお暇でしたら私と一戦交えてみませんか?」
張り付けたような笑みの下から獰猛な獣の一面がチラリと顔を見せる。
「ウォロロロォォ!! 随分と面白れぇお誘いじゃねぇか。いいぜ、ちょうど暇してたとこなんだ。受けてやるよその挑戦をよ!!」
まさに棚から牡丹餅ってところか、幸運の女神ってのは本当にいるもんだな。
なにはともあれ、これで試合のことは問題無くなったな。
初の200階クラスの闘技者、それもフロアマスターへの挑戦権を目前にしている奴との勝負だ。
こいつは少しばかし歯応えのある戦いになりそうだ。
♦
そうして時は瞬く間に過ぎ去り、念願の対決の日がやってきた。
『さあ、皆様方大変長らくお待たせいたしました。今宵遂に我々はあの男の真の実力を目にすることができる!! 僅か数試合という驚きの回数で200階まで登り詰め、怪物の異名を勝ち取った男、カイドウ選手!! だが、真に驚くべきはその試合内容と言えるでしょう。今までの戦績は対戦相手の棄権か蹂躙としか呼べないような圧勝しかなく、5戦5勝2KOという破格の試合結果!! ですが、今回戦うはフロアマスターへの挑戦権獲得間近であり、200階での対戦成績は13戦9勝4敗という好成績!! 更に、この4敗のうち2敗は怪我の治療の為の不戦敗であり、残りの2敗は200階に来たばかりの頃と、現フロアマスターであるヴァイオレット選手との激戦の末の敗北であります!!』
テンションの高い司会者の声を入場の合図とし、それぞれの出入口から今宵のメイン選手たちが姿を現した。
それと同時に観客たちから凄まじい声音の歓声が響き渡る。
それはもはや怒号レベルの域にまで達しており、観客がどれだけこの対決を待ち望んだかが推し量れる。
「ウォロロロォォ!! ようやく天空闘技場もバリアフリー活動に乗り出して来たな。おかげで廊下や入り口が広くなって楽に出入できるぜ」
「目の前に立つ私の事は眼中に無しですか? まあ、こうしてリングの上で対峙してみてよく分かります。肉体と念、そのどちらもが世界最高峰と言っても過言ではない程の逞しさだ……」
見惚れるように俺様を見つめてくるカルヴァン、一応念の為に補足しておくがホモの目ではなく武人としての目で見ているということを理解してほしい。
それから審判が退屈なルール説明を始めてはいるが、リングの上に立つ2人はそんなこと耳には入れずに目の前に立つ相手の事のみに集中している。
そのことを理解しているからか、審判の方もいつも以上に早口で説明を終えると、即座にリングの外へとダッシュで離れる。
「これでようやく邪魔者がリングから消えて2人きりなったが、毎度の恒例ではある
カイドウの言うアレとは試合が始まった際に行われる無抵抗の状態で相手の攻撃を1発だけ受けるという挑発行為のようなものだ。
最初は相手への記念ややる気を起こさせる為に始めたことなのだが、今ではカイドウがこの行為を気に入ってしまった為に恒例行事として取り入れてしまったのだ。
だが、カルヴァンにとってそれはプライドを刺激するのに充分なものだった。
「それは、私を舐めているということでいいのか?」
今まで丁寧な言葉で接してきたカルヴァンの口調が怒りの混じったものに変わった。
だが、カイドウはそれに言葉ではなく行動で答えた。
『纏』
念による基本的な防御の構えともいるもの。それを腕を組んだ状態で棒立ちのまま行った。
それはつまり、先ほど口にした言葉を変えるつもりも引っ込めるつもりもないということだ。
「──―っ、いいでしょう。なら、こちらも最初から全力の一撃を叩き込ませてもらいます!!」
「ああいいぜ、俺様はこのままテメェの一撃を喰らってやるよ」
ふてぶてしく傲慢に、されどそれが全て許されるような強者のオーラを放っているカイドウを前に、カルヴァンは全力の練を始める。
ゴゥ!! っとカルヴァンを中心にして謎の突風が吹き荒れる。
念を知らない一般人でも肌で直感してしまうような危険な雰囲気を放っているカルヴァンに、カイドウは威風堂々とした態度を崩すことなく立ち尽くしている。
「これが最後の忠告だ。今すぐ先程の言葉を取り消して全力で私と戦え!!」
「ウォロロロォォ!! 随分と甘い事を言うじゃねぇか。それとも、このまま勝負がつくとプライドが許さねぇってか? なら安心しな。
確信を持った態度で言い放ったカイドウのその言葉に殺しの覚悟を決めたのか、練によるオーラの上昇が更に跳ね上がる。
もはや一流と呼ばれる念能力者でさえ耐えられるかどうかも分からない程の圧倒的なオーラの質と量を前にして、リングの近くにいた審判は一目散に観客席前まで避難した。
それは最前席で見ていた観客も同じで、カルヴァンが全力で練を見せた瞬間から得体の知れない恐怖に襲われて即座に後ろの席まで退避する。
だが、あくまで後ろに退避するだけで逃げ出す観客は全くいなかった。それだけこの場にいる人間全員がこの世紀の一戦の目撃者になりたいという表れだということだ。
やがて、最前席から観客が全て後方へ移動したのと同時に、カルヴァンのオーラは100%を超えた120%の本気の全力を出す準備が完了する。
ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。それは隣に立つ誰かか、もしくは自分だったかもしれないが、そんな小さな音でさえ響いてしまいそうになるほど試合会場は静寂に包まれており、実況を担当する司会者でさえマイクを持つ手に力を入れるだけで喋ることを忘れてしまったかのように、2人の動きに注目している。
「ウォロロロォォ!! 中々に見応えがある練だったぜ、それなら俺様に傷ぐらいはつけられるだろうよ」
「ほざけ! この私もここまで高めたオーラを人にぶつけるのは初めてだ。死んでくれるなよ!」
練によって高められたオーラが全てカルヴァンの両手へと集中してゆき、そのオーラが変化して紫色の炎と変貌を遂げる。
ここでカルヴァンのこれまでの過去についての話をしておくとしよう。彼は200階に来た直後に洗礼として念による深手を負わされた。
その際に、その対戦相手にこれまで稼いできた多額の賞金を報酬にその強さの秘密を聞き出すことに成功したのだ。
それにより、彼は念に目覚め水見式によって自身のオーラの系統が変化系だということを知った。
その後、念についての基本的な講義までという条件で教えを乞うていたので、そこから先は全て自分なりの独学で研鑽を積み重ねていった。
基礎トレーニングと共に念の四大行の発以外の3つを自分なりに極めたと自負した為に、試合で使える自分専用の発つまり能力の開発に取り組んだ。
その過程で自分にとっての強さは何かを考えた。
かつて、幼少期の頃の自分にとっての強さとは尊敬し憧れを持っていた父のような存在だった。
父は格闘家であり戦士でもあり優しい人だった。子供ゆえに強さと優しさを
だけど、父は自分が大人になる前にあっけなく死んでしまった。死因は毒ヘビによる噛み付きによるものだった。
あれだけ強かった父が青白い顔をして苦しみの表情のまま死んでいったのは子供心に深く突き刺さり、トラウマを植え付けるには充分だった。
それからほどなくして故郷を飛び出して自分探しの旅に出た。
強さとは何かという疑問への答えを探す為の旅は苛酷を極め、野盗や犯罪者程度なら父からの教えを受けていた為に問題無く対処できた。
だが、問題はそんな自分でさえ尻尾を巻いて逃げ出してしまうほどの化け物と遭遇してしまうこと。
それはビルほどの猿や鉄の塊をも嚙み砕くワニに100を超える大ネズミの群れとの遭遇は生死の境を彷徨った。
だが、ある日そんな強烈な体験を色褪せたものにしてしまう程の存在に出くわしてしまったのだ。
それは、物語の勇者や英雄が信頼する仲間と共に決死の思いを
口から吐き出す炎の攻撃は森を焼き払い、その爪や牙はあらゆる生物を刺し貫く鋭利さを持つ。
だが真に恐ろしいのはその眼光だった。あらゆる生物の頂点に君臨するドラゴンの睨みは死を覚悟させるにあまりに充分だった。
その時は幸運にも自分のような矮小な存在が目に入っていなかったのか、そのままなにもされずにドラゴンは飛び去ってしまった。
それ以来、自分の中に燻っていた強さへの疑問はすっかりと消えていってしまっていた。
アレを倒すことこそが真の強さに繋がると確信を持ったのだ。その為に、ただ単純な身体能力を強化させただけダメだ。
それだけではアレには到底敵わないと優に想像できる。
だからこそ、自分と同じような存在が集う場所、野蛮人の聖地たる天空闘技場へと足を運んだのだ。
そして、200階で戦い抜くことで手に入れたのだ。かつての
『
それがカルヴァンをこの200階で連戦連勝に導いている必殺の拳だった。
その必殺の構えを見てようやくフリーズから立ち直った実況がマイクを片手に口を開く。
『おおっと!? 初っ端からカルヴァン選手お得意の必殺技である毒蛇龍炎拳だぁ!!! マトモに喰らえば大火傷の致命傷、防御やかすり傷程度でもその手に纏った炎の毒により動けなくなるという、なんとも凶悪無比な技!! まさか、本当にこれを無防備に受けるというのかカイドウ選手!!?』
カルヴァンの変化した両手のオーラや、実況の解説を聞いてもカイドウは動きを見せることもなく仁王立ちの状態のまま立ち尽くしている。
「ぬぅ、なおも動きを見せぬか。ならば、その傲慢な慢心のまま地獄へ落ちるがいい!!」
ドン!!!
怒りが込められた重い一撃が無防備なカイドウの胸へと突き刺さる。
掌底がぶち当たった瞬間、その手の紫炎がカイドウの体全体に瞬く間に広がってゆき、ほんの一瞬で誰の目から見ても分かる焼死体が完成した。
『なっ──―!!?』
「──―っ!!?」
これには実況者を含めた観客全員が驚いた。
まさか、空前絶後の絶戦を期待していたというのにあの怪物の2つ名を持つカイドウがあっけなく一撃の元で殺されてしまったのだから無理も無い。
そして、驚いたのは何も実況者や観客だけではない。リングに立つこの男カルヴァンもその例に漏れずに驚いていた。
だがそれはカイドウが自らの一撃であっけなく焼死体に変貌したことではない。
ここに立つ以上、多少なりとも人殺しの覚悟は出来ているし、あの技を真っ正面からマトモに喰らって無事で済むことは無いというのは能力を作った本人だから当然のこと理解している。
そんなカルヴァンが驚いたのはカイドウの体のことだ。
ここで戦った人間とはまるで違う肌の感触、まるで鋼鉄の塊を殴ったのかと錯覚するほどの硬い感触に本当に倒せたのかという一抹の不安を拭い切れずにいた。
そして、その不安を察したかのように、さっきまで微動だにせずに今も炎に包まれて微動だにしなかったカイドウが声を出した。
「ウォロロロォォ!!! なるほど、毒と炎の2重攻撃とはシンプルながらに強え手を使ってくるじゃねぇか」
「なっ……!」
確かに、仕留め切れていないかもしれないという不安はあった。だが、まさかここまで余裕のある声で喋れるほどとは思ってもいなかった。
「──―っふん!!」
全身からオーラを放出することで、体に纏わりついた炎を吹き飛ばすと、首をゴキゴキと鳴らしてまるで堪えていないかのような態度のカイドウ。
それを見て観客達はスゲェ! と歓声を湧かすが、カルヴァンはそれとは真逆に若干青ざめた顔でカイドウを睨む。
己の全力の一撃がまさかここまで効いてないという事実に心が折れかけていた。精神の敗北はすなわち念能力者にとっての圧倒的な弱体化を意味する。
今のカルヴァンの練は先程までの見事なレベルのものとは打って変わって、不安定で揺れ惑っている程にガタ落ちしている。
「しかし中々に強烈な攻撃だったぜ。俺様も纏に加えて鉄塊を使用してなけりゃ流石の俺様も危なかったかもな」
「──―っ、そうですか。鉄塊……聞いた感じからすれば肉体を鋼鉄の強度と同等にまで高める技といったところですかね?」
「ウォロロロォォ!! どうやら肉体や念だけじゃなく頭の方も優秀そうじゃねぇか。その通り、鉄塊は自身の肉体を鋼鉄の領域まで外功を高める硬気功の極みの1つ。俺様の肉体と念と技、この3つを組み合わせた状態の俺様に傷を付けるのは至難の業だぜ!」
なるほどそういうことかとカルヴァンは胸中で安堵の息を吐く。あのただ無防備にしか見えない立ち姿はある意味フェイクであり、実際にはこれ以上ない防御の型の1つだったということ。
その事実が折れたカルヴァンの心を多少なりとも立ち直させる。
だがしかし、いくらガード状態だったとはいえ、真っ正面から喰らって多少の火傷痕があるとはいえほぼ無傷の状態に近いのは事実。
つまり、カイドウを倒すには戦いの最中に念も技も使用する前の隙を突いて攻撃を決めなければならない。
なんだそのクソゲーは! と思わず叫びたくなってしまう内容だが、敵は自身よりも格上の存在。
むしろ、目標であるドラゴンに匹敵するやもしれない相手とこうして何の邪魔もなく一対一で戦うことが出来るのだ。
それに、これは殺し合いではなく試合なのだ。必要以上に怖れるのは辞めよう。
ふぅ~っと息を吐きだすと、何時の間にかこわばっていた肩の力が抜けてゆき、諦めの色が見えていた瞳から勝つという意思が湧き上がっていた。
「ウォロロロォォ!! どうやら心は折れなかったみてぇだな。降参だなんてつまんねえ真似をしてくれずに済んで良かったぜ!」
「あっはっは……、それならあんなふざけた真似はしないで欲しかったけどね」
軽く先程の行為に愚痴を飛ばす。どうやら少なからず根に持っていたようだ。
再び両手に紫炎を纏わせ、蛇のようにしなやかに、龍の如く力強さを体現したカルヴァン独自の構えを取る。
「いくぞ!」
「ウォロロロォォ!! 悪りぃがこっからはさっきみてぇなチャンスはもうやらねぇぜ!」
そこからの戦闘は一般人ではとても視認することが出来ないレベルの次元の戦いだった。
一瞬の間にリング上で複数の箇所が破損し、会場全体に響き渡る轟音が発生する。
見ている観客は勿論のこと、日頃から様々な試合を見ている実況者でさえマトモにその内容を口にすることが出来ない。
見ている側の視点からは何が起こっているのか理解不能だろう。
ならば、ここからは実際に戦っている選手であるカイドウ目線で語るとしよう。
ウォロロロォォ!! 原作や二次創作で天空闘技場選手は念能力者の中じゃ最底辺に位置する実力者ってのが相場だったが、中々どうして骨のある奴がいるじゃねぇか。
もう既に3回は俺様の拳を受けたってのに骨にヒビが入った程度の感触しかねぇ。コイツの得意な系統は変化系統の筈なのはほぼ確定してるっつのに、随分とバランス良く鍛え上げてやがる。
「ウォロロロォォ!! 存外楽しませてくれるじゃねぇか。これならもう少しペースを上げても大丈夫そうだな!!」
「大丈夫なわけないでしょ!? こっちはギリギリの状態で捌いてんだぞ! ってか、炎は別として何で毒が効いてないんだ!? 喰らえば大の大人はおろかゾウなんかの大型生物さえぶっ倒れるモノだぞ!!」
「アホがぁ! 流星街出身の俺様が生半可な毒で動けなくなるかよ。俺様が今日まで何を食って生きてきたか教えてやろうか?」
「結構だ!」
轟音鳴り響く戦闘の最中に軽い世間話程度に語りかけるカイドウと違って、必死の形相でカイドウの攻撃にくらいつくカルヴァン。
「オラオラ! どうした? 守ってばっかじゃ勝てねぇぞ!!」
「ぐっ、この化け物め……!」
笑いながら攻撃こそが最大の防御だと言わんばかりに果敢に攻めたててくるカイドウの攻撃は1発1発がカルヴァンの神経を大きくそぎ落とし、息をすることすら億劫になるほど追い詰められていた。
そして、決着の時はあっけないほどあっさりと訪れる。
「久方ぶりにちゃんと体を動かせた気分だ。礼として苦しまねぇように一撃で沈めてやる」
先ほどまで至近距離で戦っていたカイドウが一気に後ろに飛んで距離を取った。
恐らくはこの距離を使っての大技が来るということ、一気に距離を詰めて技を潰すか? それともこっちも距離を取って技を見切って避けるか?
2つの選択肢がカルヴァンの脳裏によぎるが、カイドウが腰を下げて踏み込みの態勢に入った時に本能的にか理解してしまった。
(これを潰すのも避けるのも無理! なら、私に出来るのは全力で受け止めることのみ!!)
すぐさま腕を交差させて堅による防御の構えを取る。
「こい! 全力で受け止めてみせる!!」
「ウォロロロォォ!! 面白れぇ、これでお前が受け止められることが出来たなら俺様の負けにしといてやるぜ」
自信満々の顔でそう宣言するカイドウに、最初と違って怒りは湧いてこなかった。
もうこの試合中に理解してしまった自分とカイドウの実力の差、そしてこれはカイドウなりの後の事は考えずに精一杯自分を楽しませてみろというメッセージだと受け取った。
なら、もう後の事は考えない。今日だけじゃない、明日の分と更にその先の分も今ここで使い果たす。
その覚悟がカルヴァンに120%以上の力を引き出させた。これはある種の制約と誓約の1種に属するもので、カルヴァンは無意識ながらにおこなったのである。
「ガッハッハッハ!! ここにきて更に成長をみせやがったか。なら、俺様ももう一歩先の技を披露してやるか」
グッと足に力を込めて一歩を踏み出す。
バキッ
カイドウの足の踏み込みにより、リング全体に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
『り……リングがバキバキだぁ──―!!』
2人の動きが一時的に止まったことにより、ようやく理解できながらも衝撃的な展開に実況者がマイクを手にとって声を上げる。
「っ──―」
カイドウが使っているのは震脚と呼ばれる武術の動作、踏み込む力が強いほどに技の重さは増してゆくもの。
たった一歩目からリングを破壊するほどの踏み込みに、恐ろしさが腹の底から湧き上がってくるが、覚悟は既に済んでいるカルヴァン。
ドンドンとゆっくりと近づいてくるカイドウの動きを見ながら次の動きを脳内で予測する。
足技でくるか? いや、震脚は八極拳に使用する技の1つ。なら使用する技は八極拳によるものか? そうした考えが短い時間の中で頭の中をグルグルと渦巻く。
もうあと2歩で拳が届く距離にまで近づくとカイドウが握った拳から人差し指のみを伸ばしてみせる。
「……?」
なんらかのパフォーマンスか? いや、カイドウはもうチャンスは与えないと口にした。
ならアレは攻撃の為の予備動作か? 指1本で出来る事など眼球への刺突や耳からへの鼓膜破壊が考えられるが、あのカイドウがそんな狡い真似はしないという謎の確信があった。
ならば単純だがやはり突きによる刺突攻撃か?
そう確信を持ったカルヴァンは堅による防御から腕への凝へと切り替える。
「いい判断だ。正解だぜ、
常人をはるかに凌駕する巨体を持つカイドウの指の太さは普通の人の腕の太さに匹敵する。
そんなゴツイ指で人体を貫通させる威力を持つ技を使用すればどうなるか? 答えは単純に砲弾を軽く超えた殺傷能力を発揮する。
「──―っがはぁ!!!」
カイドウの指銃がカルヴァンの防御した腕に衝突する。その衝撃は数トンもあるトラックに跳ね飛ばされたかと錯覚するほどで、元々カイドウの攻撃によってヒビが入っていた腕の骨は完全に折れてしまった。
そして、腕の骨を折った程度では終わらず、カイドウの指銃はカルヴァンの腕を貫通する勢いのまま胴体に直撃し、そのままカルヴァンはリングから後ろの客席まで弾丸のような勢いで吹き飛ばされていった。
幸いなことに、最初のカルヴァンの錬によって観客は全員後方の席に退避したおかげで、吹き飛んだカルヴァンにぶつかって怪我を負う者はいなかった。
『おおっと! す、凄い!! 一撃です!! たった一撃でカルヴァン選手がリングから場外アウトしてしまいました。っていうか、指一本であの威力っておかしくない!?』
「す、スゲェー! あのカルヴァンが手も足も出てねぇぞ!?」
「やっぱ次期フロアマスターはカイドウで決まりか!」
「「「「カ・イ・ド・ウ!!! カ・イ・ド・ウ!!!」」」」
実況の声と共に、先程まで静まり返っていた会場が盛り上がってゆき、ほとんどの人間がカイドウの勝利を確信して勝者へのスタンディングオベーションを送る。
『カルヴァン選手気絶により戦闘不能! よって、この試合はカイドウ選手のKO勝利!!!』
何時の間にか客席に隠れていた審判が吹き飛んでいったカルヴァンの容態を確認し、この試合の勝者であるカイドウの勝利宣言を口にした。
「ウォロロロォォ!! 見たかお前ら、これが俺様の実力だぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
『まさに圧倒的! 強靭、無敵、最強☆怪物の二つ名は伊達ではないことが今試合を通して証明されました。次にカイドウ選手と戦うことになる選手は誰か? 次回の試合も楽しみにしましょう!!』
戦闘シーンはカイドウの圧倒的な描写にしたいがために、何回も書き直ししたんですが、満足のいく出来ではないかもしれません。
これでいい!とかこういうのが見たかったという読者諸君は感想欄で返事下さい。