ウマ娘97 ゴールデン・ホイール・トラック 作:まろ茶量産型
昔から...そのレースで勝つウマ娘がオレにはわかったんだよ
お袋に初めて連れてってもらったレースもそうだったなぁ...
そいつの走ってる先が光って見えて...それからずっとそのまんま一着だ
正直便利だぜ? 勝ちウマに乗るって言うだろ?
ただ一つ残念なのは...
俺の行く先がよ...腹が立つくらい光らねぇんだよ...
運命なんか信じたかぁねぇけどさ...
冷静な実況がレース場に木霊している。
「ここで最終コーナーへ各ウマ娘が入っていくんですが...1番人気11番ステイゴールドお〜きくコーナーを離れていきました...これは逸走でしょうか...」
まだうら若い雰囲気の女性トレーナーが叫ぶ
「ステイちゃーーーーん!逆だよ!コーナー逆ゥ!」
「うるせぇ!やってられっか!こんなクソレース!!」
勝ち上がりを賭けた未勝利戦を他所に...
小柄の黒髪のウマ娘は観客に紛れた女性トレーナーに一直線に向かい...
「ひぃっ! ステイちゃん落ち着いてぇっ! ステーイ!ステーイ!」
「やかましい!おちょくってんのかてめぇ!」
1人のトレーナーと1人のウマ娘による...
もう一つのレースが始まった...!
「ステイちゃん! みんなが見てるよ? レースに戻ろ...? ねっ...? 」
「戻るわけねぇだろ! 何が楽しくて砂まみれで走るんだよ! オレを幼稚園児かなんかだと思ってんのかテメェ!」
ウマ娘の速さやを人が振り切るはずもなく...
あっけなく胸ぐらを掴まれ、何度も前後に上下にシェイクされる。
「はぁ...はぁ...怪我してたんだから...うっぐっ...復帰戦だから...おえっ...足に...あ...もうだめ...」
「えっ....」
女性トレーナーは口元を抑えて今にもウマ娘に対して吐瀉物を吐き出そうとしている...!
「そおい!」
もうその日はもう散々だったわけで...
「ただいまの京都第一レースに置きましては...11番、ステイゴールドは...他のウマ娘に関係なく....競走中止したものとします...」
ただ1人だけ悪い意味で別のレースをし...
観客は怯え...トレーナーは宙を舞い...
「なお、ステイゴールドは後日...競争能力検定の再試験を行います...」
1人のウマ娘が退学の危機に瀕するのだった....
そしてそれを見た誰かが小さく微笑んだ
「ステイゴールド...ねぇ...」
日本中央トレーニングセンター学園
通称トレセン学園と呼ばれるそこは
全国から選りすぐりのエリートウマ娘が集まる一流の学舎だが、
時に彼女のような問題児も少なくなく...
引退やリーグ移籍を待たずして、ここを去る者も多い
豪奢な生徒会室に呼び出された1人の小さなウマ娘と、それを側で見守るギプスと松葉杖のトレーナー。
それから指を重ね合わせ、思慮に耽る三冠ウマ娘...シンボリルドルフ
「君は...自分の置かれてる状況がわかるかな?ステイゴールド」
「んだよ会長...説教ならもう十分聞いたぜ...反省してますよ...えぇそりゃもうね」
ステイゴールドと呼ばれた黒鹿毛のウマ娘は、例え目の前に無敗の三冠、そして七冠のウマ娘が居ようとも...まるで普段の態度を崩さない。
「検定はパスしたんだし大丈夫だろ、次からは真面目に走りますって」
ルドルフは深く目を閉じ、そして切り出した。
「観客の証言通りなら...君はあの日...そちらの熊茂トレーナーを投げ飛ばしたそうだが...?」
「こいつがゲロ吐きそうになったんで...ってそりゃ何回も言っただろ?」
黒鹿毛の小さなウマ娘...ステイゴールドはこれがデビューから数えて3戦目であった。
入学前からストリートレースでの高い能力が注目され、その走りに惚れ込んだ前任のトレーナーが半ば強引にデビューさせたのだ。
そのデビュー戦は勝利こそ出来なかったが、決して悪い内容ではなく...
将来を嘱望されるウマ娘の一人だった...はずが...
2戦目、1番人気を背負い...満を辞しての未勝利戦脱出するはずが...
運の悪いことに骨膜炎を発症してしまう。
『ダメデース! ステイゴールドサン! レースチュウシ! シテクダサーイ!』
『うるせぇ! 脚がいてぇくらいでガタガタ抜かすな!! 黙って見てろ!!』
『ノーー! アナタノカラダノコトナノニー!!』
しかし、炎症し痛む足を引きずっては勝てるはずもなく...
『見ろ!勝負の最中にしのごのぬかしやがるから大惨敗だろうが!』
『ステイゴールドサン...』
『誰が心配してくれって頼んだんだよ! もう二度とてめぇの指示には従わねぇからな!」
『ワタシモ! ニドト!アナタノタントウニ!ナリタクナイ!』
無理をしてゴールへ猛追した結果、怪我は深刻になり...
結局ジュニア期を勝利で飾ることもなく....骨膜炎療養のために長期の休暇を余儀なくされるのだった。
療養中にもステイゴールドの荒々しい素行は噂となってたちまちに広がり...素質はあるが現時点での力量には疑問符がつく、そんな彼女を担当したいと言うトレーナーは現れなかった...たった1人を除いて...
『こんにちは!私は熊茂文子(くましげ あやこ)って言います! あなたがステイゴールドさん?』
『ステイ...この人誰さ?』
『知らねぇー、悪りぃけど今忙しいんだ後にしてくれ』
『あ、それロン』
『はぁ?! ドラだけで跳ねてじゃねーよ! 』
『悪りぃね〜ステイ〜...あっ飛んでんじゃーん(笑)』
『飛ばしたんだよなぁ...(笑)』
『まったかよ〜...サニー!お前積み込んでんだろ!』
『ははは...ずっと麻雀打ってる...この子達...』
絵に描いたような不良然としたステイゴールドを更生させようとした矢先に今回の事件に至ったわけで...
当然一連の彼女の問題行動は、学園側も認知しており...
「残念ながら...君はこのトレセン学園に相応しくない...」
「ちょ、ちょっと待ってください! どうか! ステイちゃんにもう一度チャンスをあげてくれませんか!?」
最後通牒を言い渡そうとするルドルフに、熊茂が割り込む。
「そう仰られても...生徒会の力では、彼女をこれ以上庇うことは出来ません...」
「そんな...」
「いいぜ」
ステイゴールドの意外な返答に目を丸くする2人。
「誰かにあーだこーだ言われんのは嫌いだしな...大人しくストリートに戻るって事で良いんだろ...? 」
「ステイちゃん...いいの...?」
「元々入りたいと思って居るわけじゃねぇしな...本気で走ってる奴にも...アンタにも失礼だってのはわかってたんだよ...だから...」
ガタン!っと強い音が背後から鳴り響き...
生徒会室の重々しいその両開きの扉が勢い良く開かれると、
そこには長身長髪に黒い外套をまとった女性が立っていた。
「誰だよ...あんた...」
女は女優帽と直し、サングラスを取ってニコリと微笑む。
「貴方を買いに来た」
つづく