夢を見た。
人? の輪郭した光と手を繋いだ。
人? から流れ込んでくる『ナニ』か。
決して不快じゃないそれを受け入れて。
『私』は目覚めた。
急激に意識が浮上、そのまま覚醒する。
眠い目をこすりあくびを一つ。……二つ。
ベッドから降りたら部屋のカーテンを開け放つ。部屋に飛び込んでくる光の洪水。今日もいい天気だ。
しかし違和感。自分の部屋ってこんなんだっけ?
自分の部屋? に視線を這わせると姿見が見える。その姿見の前に立つと。
そこに映っていたのは、真っ白い肌、眠気は感じないのに眠たげな半眼、腰まで届く真っ白い髪と、女性特有の丸みを帯びた胸の膨らんだ体、頭の上に獣耳が飛び出ており、本来あるはずの場所に『耳』が無い。
「え? ……え?」
私の口から漏れ出たであろう声を頭上の獣耳が拾うが、その声は男では出せない思春期の少女のやや高めの声だった。
ふぁさ
姿見に映る私の腰のあたりで、たっぷりめのもふっとした毛に包まれた尻尾が見えた。
『ウマ娘』
瞬間、理解してしまった。
ああ、これが私の姿なんだと。
頭上の耳はウマ耳で、腰から見えるこれは馬尻尾なんだな。
そう、私は、気が付いたら……
ウマ娘になってしまったんだなって。
最期の記憶は覚えている。
まだ人間で男で。明日は休みだからと徹夜でゲームをしていたら、急に眠たくなってから一旦寝ようと思って横になって、起きたらウマ娘になっていた。
うん、意味が分からないね。
これはあれですか? いわゆる転生ってやつ? じゃあ、俺もう死んだ?
神様に会って無いよ? チートももらってないよ? 転生するんならそれぐらいのサービスは欲しかったなぁ、と。
なんて、とりとめのない事を考えて。
思考をすっぱり切り替えて、さてこれからどうしようか?
途端、にゅるんと背筋がうすら寒くなるような感覚が全身を支配したかと思うと、ウマ娘としての今の『私』に、もう異物のように感じてしまう昨日まで『俺』だったはずのモノが流れ込んでくる。
……なんというか、昨日まで人間だった『俺』と、今までウマ娘として生きて来た『私』がごっちゃになってる。
でも『俺』の部分が少しずつ消えていく感じ。消えるというよりは、これは多分『私』に統合されているんだ。
良く分からないけど。
長い時間の様で、でも実際は瞬間的な極々短い時間を経て、完全に『私』に溶けて混ざり合い新しい『私』になったと感じる。
「よし、今日から俺は私になる。幸いにして昨日までのウマ娘としての記憶もあるから、記憶喪失的な感じでファーストコンタクトを取る必要がなくなったわけだ」
記憶を頼りに私は寝巻から学校の制服に着替える。
今日から私は、ウマ娘のシュネージュネコとして生きるんだ。
……ウマなのにネコ?
「おはよう。今日は早いのね」
「お姉ちゃんおはよう」
「うん、お母さん、クロ。おはよう」
階下に降りるとお母さんと妹が朝食を食べていた。私も席に座りバターロールを一つ手に取り食べ始める。
「今日はトレセン学園の合格発表日ね。合格しているといいんだけど」
「大丈夫だよお母さん。お姉ちゃんはきっと受かってるよ」
「いやいや、あまり期待しないでほしいんだが? 妹よ」
そう、今日は先日受けたトレセン学園の合格発表の日。トレセン学園に行って先日受けた試験の合否の確認に行く。合格していれば晴れて4月からトレセン学園の生徒だ。
「う~~~、緊張してきた~~~」
「あんたが緊張してどうするのよ。ごちそうさま。それじゃあ行って来るね」
「「行ってらっしゃ~い」」
母と妹の声を背に家を出る。快晴の朝の光に目が眩んだが、じきに慣れて来ると玄関にウマ娘が立っているのが見えた。……お隣さんで幼馴染なんだけどね。
「おはよう、ネコちゃん」
「シロ、おはよう。いい加減ネコって言わないで欲しいんだが? 出来ればシュネージュから取って欲しいんだが?」
「ネコちゃんはネコちゃんよ? そんな事より早く行きましょう? 合格しているといいわね」
「そんな事って……。あ、シロ待って~」
シュネージュネコである私と、幼馴染のウマ娘のホワイトロリータの2人で、並んで歩いて合格発表の確認のためにトレセン学園へ向かう。
トレセン学園に到着。
4月から通うことになる同級生予定のウマ娘が大挙して、合格した受験番号が張り出された掲示板の前に集まっている。
「ゴミのようね~」
「シロ?」
「人ごみがすごいわね~」
幼馴染の呟きにギョッとしてしまうが、当の本人は気にした風も無く言い直す。
なんというか、シロは身内以外はどうでもいいというか、あえて口を悪くしている風でいる。でも仲のいい友人はいるので、全てを拒絶しているわけでは無いんだけど……。
「もう少し前に行かないと見えないなぁ……」
「大丈夫よ? ネコちゃんも私も合格しているわ。合格者一覧に2人の番号が書いてあるわ」
「そうか、それなら安心だ。ところで受験番号って教えたっけ? 何で知ってるの?」
「じゃあ、受付に受験票出しに行きましょう? こっちみたいよ」
シロに手を掴まれ引っ張られる。俺の言葉はスルーかよ? ちくせう
今通っている中等部はクラスは違うし、なんなら『シ』ュネージュネコと『ホ』ワイトロリータで出席番号も全然違うのに。前後や付近の番号はクラスメートで固まっているから、シロとは番号は全然違うし、そもそも教えた覚えも無いのに。
……なんで?
合格者一覧で確認は出来なかったが、受付では合格者として問題なく受理された。
……本当になんでなんだろう?
それからはトレセン学園に入学するための準備に奔走。……したのは最初の2~3日だけで、後はぐーたら寝て食べて過ごしていました。
準備といっても寮生活になるから着替えや筆記用具などを詰め込んだ。結果、いくつもの荷物で一杯の鞄が量産されたわけだ。
家具は各部屋にあるし、教科書や制服は寮に届くし、必要な物があれは都度外出すればいいのでこれ以上の準備は出来ないと思う。
よし、準備万端!
「ねぇ? ネコちゃん? バックに括り付けられているこの枕は?」
「え? 必需品だよ?」
「この圧縮袋に入っているこれは?」
「お気に入りの毛布と掛布団。ふわっふわでもっこもこなこだわりの逸品ですが何か?」
「……このビーズクッションは?」
「人をダメにするクッション? 必需品に決まってるじゃないか~」
「えぇ~~~?」
トレセン学園入学を数日後に控えたある日、準備が終わったシロが遊びに来たが、私の準備した物を見て困惑顔で首をひねっている。
下着類、タオル類、パジャマ、枕、クッション大・小、毛布、掛布団、敷包布、タオルケット、大きめのこたつ布団、加圧前のエアマット、ベッドサイズのウォーターマット……
「何か変?」
「ネコちゃ~ん♪ 私に襲われるのと、荷物をもう一度チェックするのと、どっちがいいかしら?」
四つん這いで舌なめずりをしながら接近してくるシロ。ちょっと怒ってる? こういう時のシロは冗談を言わないからなぁ……
何がいけなかったんだろうか?
結局、シロ的には必要な、私的にはいらなそうな、あれこれを詰め込んだ鞄が1つ追加となった。
そして、いよいよ
いざ! トレセン学園へ!