転生先は競走馬 え?ウマ娘も?   作:ちょこ@みんと

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新馬戦
ウイポ9の番組表を参照してます


6 馬編 新馬戦

のんびり風味に、時には芦毛の追跡者に追い回される日々。

年が明けて、今年は新馬戦を始めいよいよデビューの年となる。

 

栗東トレーニングセンターに移動となった俺。その際、馬主さんから名前をもらった。

7度目のシュネージュネコの名前を頂きましたよ。ええ、もう諦めました。

 

 

「オーナー! シュネージュネコは早い段階でデビューできそうです!」

 

「そうか! ウチのネコはデビューが早いか!」

 

「ええ、あのネコは同世代と比べて抜きんでた能力ですので、期待していてください!」

 

「うむ。私のネコがGⅠに勝ち、ウイナーズサークルに上がるのを期待するとしよう!」

 

 

なんて、馬主と調教師の頭悪い会話を聞いていたんだけど……

俺ネコなん? 馬なん?

馬主様は俺が馬って認識しているんだよな? 本当にネコを走らせないよな? 走れないんだけど……

 

まぁ、ネコではなく馬の俺をちゃんとトレセンに送ってくれたから、馬主は俺が馬だと認識していると思っておくとしよう……。

そうそう、俺の隣の馬房にいる幼馴染にも名前が付けられた。

 

『ホワイトロリータ』号

 

いいのか? 馬主様、それでいいのか?

趣味なん? なんなん、冠名といいこの名づけといい、馬主様の趣味全開なん?

 

「ネコの妹はブラックロリータか……」なんて呟いていたけど、冗談だよね? 冗談であってくれ……

 

まあそれはそれとして、トレセンに入ってからは調教の日々となるわけだ。

 

 

「あの白いの動きませんね。食うか寝るかしてません?」

 

「ああ、まぁ2~3日に1回は馬房から出て来るんだがな。それでも逃げれば追いつけないし、後方から追えば一気に先頭だ。食っちゃ寝ばかりなのに意味が分からん」

 

「分からにといれば、横の芦毛もですが……」

 

「ああ、白いの横じゃないと暴れるって、オーナーから聞いていたが、ありゃあとんでもねぇな。1つでも馬房が離れたら破壊しやがった」

 

「おかげで風通しが良くなりましたね……」

 

「現実逃避してんじゃねぇよ……。あの芦毛も白いのと同じで全然動かねぇ。というか白いのと一緒じゃないと動かねぇ。俺はカップルを住まわせてるわけじゃねぇんだがな……」

 

「あれで2頭は強いですからね。なんなら即デビューできますよ」

 

「そうしてぇが……、まだ2月だ。早くても5ケ月待たなくちゃなんねぇ……」

 

「……っすね」

 

 

まぁ、入りたての子供みたいなのと比べれば、俺は7度目のトレセンだし? トータル馬齢14以上だし? もう引退だし?

……なんてあほなこと考えていないで走るか。たまに気が乗って外に出れば、ひよっこ共は馬具を着けるだけで暴れる。まだまだ先が思いやられるねぇ~。

 

「お? 今日は白いのは出て来たのか? なら芦毛も出て来るな」

 

「なら騎手呼んで来い。主戦予定にするから乗れる時に乗せとけ」

 

食っちゃ寝ばかりも体に悪かろうと、2~3日毎に気が向いたら馬房から出て運動をしに行く。食べた分は消費するので未だに太り過ぎるという事になっていない。

そして、俺が馬房から出てくれば、隣の馬房から出て来る芦毛の牝馬。そう、入厩当日に隣じゃなかったと暴れるに暴れた幼馴染、ホワイトロリータだ。名前が長いので『シロ』と呼んでいるが。

 

(お? シロも来たのか?)

 

(うん、ネコさんが行くなら私も行く)

 

ネコさん。そう、シロからはネコさんと呼ばれている。馬なのにネコ……

これも全て馬主の名付けが悪い。俺は悪くない。うん。

 

(そろそろ走らないと太るからな)

 

(今日はネコさんに追いつく!)

 

シロと走る際は主戦騎手を乗せて2400mを逃げと追い込みで何回か走る。で、どちらが勝つかというのをしているんだが……

俺は本来、長距離も走れるんだが、馬主の指示でまだ中距離までに抑えているらしい。何となくだが考えていることは分かるけどね。

『面白いから』という理由だけだと思う。「実況でネコだのメイドだの連呼されるの面白くない?」とかのたまう馬主様だからなぁ。

 

まぁ、どうせどこかで長距離は知らせて、驚く知り合いの馬主の顔を見る為だろうな。きっと。

 

馬主のくだらない児戯は置いておいて、早くて7月のデビューに向けての調整。

……なんだけど……

 

「休憩挟んで2400mを5本しましたが、スタミナ半端ないですね」

 

「ええ、足元も頑丈ですから連戦も可能かもしれませんね」

 

「シュネージュネコはオーナーの指示で長距離を追い込みで走らせると言ってますからね、逃げ先行差し追い込み何でもできる須田さんが主戦で決まりでしょう」

 

「宮間? それを言えば去年追い込みでGⅠを7つ取ったお前だろ? ホワイトロリータの主戦は」

 

「まだオーナーと正式な話はしてませんが、テキからは主戦で行くと聞いてます。俺もそのつもりでいるんで、この子でどこまでも行ってやりますよ」

 

「はっ。長距離を早いとこ取っとけよ? 早くて来年の菊花賞、遅くても再来年の天皇賞春にはこいつも行く予定だ。そしたらお前が取れるのは無くなっちまうぞ?」

 

 

 

(まけた~!)

 

(3勝2敗か。タイミング次第では勝ち負けがはっきりするな。シロの追い上げはこっちが驚く時があるからな。油断できないな)

 

(う~……、今日は勝てると思ったのにー! 長距離勝負では勝ってやるんだから!)

 

(今日最後の勝負だな? 負けないぞ!)

 

 

「じゃあ、最後に追い込みで3200m行きますか」

 

「本来ならあり得ないんだけどな? こんだけ走ってまだ走れるなんて、どこかおかしいよな? こいつら」

 

「もう気にしたらまけっすよ。走りは全然崩れていないし、こいつらも息そんなに上がってないんで。オーナーもテキも連戦は視野に入れるかもしれませんね」

 

「まあなんにせよ、指示があれば乗るだけだ。よし、行くぞ」

 

 

7度転生の俺のスタミナにはさすがのシロも追いつけなかったようで、大差で勝ってしまう。それでも普通の馬からすればおかしいレベルのスタミナなんだがな……

 

 

 

 

 

そんなかんじで、食って寝てほんのり走って、7月の第1週に俺とシロのデビューが決まった。

シロが福島4Rの2歳新馬戦の芝1800m。俺が福島5Rの2歳新馬戦の芝1200mとなった。

 

同日なのには理由がある。単純な話でシロが離れたがらなかっただけ。なんて言うけど、これって結構ヤバいのでは?

 

(なぁ、頼むよ)

 

(やぁ~です。絶対に、ネコさんに着いて行きますから!)

 

(離れてレースできないと、出れるレースに制限がかかるし、最悪もう会えない何て事だってあるんだぞ?)

 

(嫌なものは嫌なんです~!)

 

調教師が言うにはシロは気性難らしく、まだ子供みたいなものだからね……。我がまま盛りなのは仕方ないんだけど、これはちょっとな……

伝わらないとは思うが調教師の袖を引っ張って抵抗してみるか。

 

「おーし、次行くぞ」くいっ 「おん? どうした白いの」

 

(なぁ、シロの事どうにかならんかね……)

 

「すまんが、遊ぶのは後でな。今忙しいから」

 

「シュネージュどうしたんですかね?」

 

「さぁ、分からん。遊んで欲しい訳じゃないみたいだが……今度のレースで何か感じてるのかもな」

 

「何かって言うと……実力的なのは問題ないですよね? 同年代の子たちを相手にしていない感じですし……。ホワイトロリータの事ですかね?」

 

「いや、まさかな……。でもこいつは人の話が分かっているんじゃないかって時があるからな……。もしかするのか? まあ俺らも気にはなっていたんだが、オーナーからは「レースに出さえすれば大丈夫」って言われているから、とりあえず新馬戦に集中してみろ? な? 後はまたオーナーと考えるからよ。……って、こいつが理解しているか分からねぇけどな」

 

(お? そうなのか? じゃあ、一旦馬主を信じてみるよ)

 

調教師の裾を咥えて首をフルフルと振っていたシュネージュネコ。調教師の言葉を理解して納得したのか、咥えていた裾をパッと離して奥に引っ込む。……どうやら今日は寝る日の様だった。

 

「どう見ても理解しているっぽいんだよな……。オーナーは今回預けた20頭の内、シュネージュネコとホワイトロリータを特に推しているが……、オーナーの相馬眼は時々変態じみているからなぁ……」

 

どこか遠い目をした調教師は厩務員に、シュネージュネコとホワイトロリータにおやつの果物を与える指示を出し、調教コースへと出て行くのだった。

 

 

 

 

 

7月 第1週 日曜日

 

栗東トレーニングセンターから馬運車に揺られ、前日の土曜日に到着。当日は与えられた馬房でのんびりとします。もちろん隣はもう見慣れた幼馴染が入り、周りには明日の新馬戦を控えた馬たちが続々と入ってきます。

そうしてのんびりしていると、須田騎手と宮間騎手が姿を現しました。彼らは明日乗る俺たちの様子を見に来たようで、馬房から中を覗き込むようにして話をしています。

 

「シュネージュネコはあまり動いていないにも関わらず、理想的な体形になっているな。とりあえずは安心だ」

 

「ホワイトロリータもいい感じですね。一回一回の運動が激し過ぎるるんですよね。2頭とも走った距離だけ見れば馬かどうか疑いたくなりますからね」

 

(太りすぎも痩せすぎも走りにくくなるから、そこは流石に自制するぞ? 大体、果物や野菜が美味しいのがいけない! 飼葉も美味いし夏バテなんかになってる暇はないからな!)

 

(今日もネコさんと一緒♪)

 

環境が変わって暴れるかと思ったホワイトロリータも、横にシュネージュネコがいるからか、落ち着いている様子。シュネージュネコは既に寝藁に寝そべり、だらけモードになっている。そんな様子を見て騎手2人は、明日は大丈夫そうだと安堵する。

周りは慣れない環境に来たせいか、うるさいくらいに嘶く馬たちが多い。あまり近いと喧嘩になるからと離しているのに、隣同士でおまけに静かなのはここだけだ。

 

「明日は勝てますかね」

 

「弱気だな、まぁシュネージュネコは問題ないが、ホワイトロリータだな……。本来の距離からすれば短いし、シュネージュネコから離れる事になるからどうなるか……」

 

「オーナーからは負けてもいいと言われていますが、何とか乗りこなして見せましょう」

 

そう言い猿騎手の背中を見て、隣に視線を向ける。相変わらず何が面白いのか、こちらを見つめる幼馴染に伝える。

 

(明日は頑張れよ?)

 

(大丈夫! 明日頑張る!)

 

自信満々に言い放つが、逆に心配だ……

 

 

 

翌日

福島競馬場 第4R 2歳新馬戦

 

パドックは1頭の馬の嘶きが響き渡っていた……

 

(いやーーー! ネコさんの所に帰るーーー! 帰るのーーー!)

 

「落ち着け! 大丈夫だぞ! くっ! 予想以上だなこれ!」

 

今まで離れず常に側にいた、ある意味半身の様に思っている存在が近くにいないという事実。そのためホワイトロリータは感情が制御不能に陥っていた。

このままでは騎手が危ないし、なによりパドックを回る他の馬や、外の観客にまで被害が出てしまう。

無理矢理にでも引っ張りパドックから地下通路へ誘導するが、暴れっぷりは拍車をかけるのみ。

 

これはダメかも知れない……。そう思い始めた時、一人の男性がスッと暴れるホワイトロリータの前に立つ。「危ない!」と声が聞こえるが、ホワイトロリータが男性を視界に収めると、ぴたりと暴れるのを止める。が、不満しかありませんといった風のホワイトロリータを撫でながら、優しく話しかける。

 

(馬主さん! 私を帰して!)

 

「おお、ひんひん悲しそうだなぁ。でもすまんな、レースを走ったら返してあげるから、頑張ってくれないか? このままだとずっと会えなくなってしまうんだ。彼に会うためにも頑張ってくれないか?」

 

(……本当に帰してくれるの? 走れば戻れるの?)

 

「ビリでもいいからさ、頑張ってきてくれ。な?」

 

「いや、オーナーすごいっすね。手の付けようがなかったんですけど、こんなに大人しくなって」

 

「はっはっはっ! 馬といえど言えばどうにか伝わるもんだよ?」

 

「いえ、オーナーの様な変態じゃないんで、我々は」

 

「君もひどいね! まあいいよ。一回走ればどうにかなると思うから、ビリでもいいからホワイトロリータをよろしくね」

 

用は済んだと、背を向け笑いながら去るホワイトロリータの馬主。その背中を呆然と見つめる人々。ぼそりと、「あれが変人・変態と名高い小牧原オーナーか……」という声がどこからか聞こえ消えて行った。

 

 

宮間騎手は落ち着いたホワイトロリータを撫でながら返し馬を歩かせる。調教の様子からホワイトロリータの適距離の最低が2200mに対して、今回のレースは1800mと少し短いので軽く駆けさせて走る準備をする。

気性難で激しい馬だが、長距離を最後方から先頭まで駆け抜ける程の能力はあるので、走り始めれば後はこの馬次第だと、鞍上の宮間騎手は思う。

 

「福島の1800m……、ゴール手前200mから走るが、ここに上り坂がある。最初と最後と途中と3回の坂を上るレース、行けるはずだが後はこの子次第か」

 

 

2歳新馬戦を走る馬たちが返し馬から続々とゲートに入る。普段からシュネージュネコと共に過ごして調教も受けているから、ゲートに落ち着いて難なく入る。

狭いが特に気にした風も無いホワイトロリータはゲートが開くのを待つ。

 

(帰るんだ……早く帰るんだ……)

 

落ち着きのない周りの馬たちの苛立ちを聞き流して前を見据える。

ガコン! と、開いたと同時に飛び出す。

 

何も考えず、ただ早く帰りたい一心で。

 

 

ホワイトロリータのデビュー戦は、全6頭中6着。5着と10馬身差の大敗であった。

 

 

 

「オーナー、すんません。落ち着いたかと思ったんですが、全然でした。ホワイトロリータ本来の走りが出来ませんでした」

 

「いいよいいよ。ビリでもいいって言ったからね。それで、どう? 負けた後も暴れてる?」

 

「いえ、最後にゴールして地下通路に入ってから妙に大人しいんですよ。大丈夫ですかね?」

 

「ああ、大丈夫だと思うよ。走ってみてようやく気付いたんじゃないかな? 自分が競走馬だという事に」

 

「そういうもんですか? それで次はどうします?」

 

「7月4週目の土曜日、2歳未勝利戦だね。ここ福島で芝1800m。きっと勝てると確信しているからね」

 

 

 

シロが帰って来る前に、俺のレースの番となった。心配だが行くしかない。7度目の馬生でようやくデビューだからか、ちょっとワクワクしている。

 

(よーし! いっちょやるか!)

 

「お? シュネージュネコは気合十分だな。焦れ込んでるわけじゃなさそうだし、今日は楽勝かもな!」

 

パドックで須田騎手を背に乗せスタッフに引かれ歩く。全6頭で1枠での出走だ。

他の馬を見るが落ち着きがなく、焦れ込んでいる馬もいる。1200mとはいえあれでは持たないだろう。この試合貰った!

 

地下通路を通り返し馬へ出る。短距離は余裕で走れるが、長距離も走れるスタミナとパワーはあるので、芝の様子を確認しながら駆けだしてみる。

須田騎手が手綱で合図を出し、全力で走ってみるが統べる感じも無い。昨日はよく晴れたようで芝は濡れておらず、良馬場といったところだ。

 

『福島競馬場第5レース、2歳新馬戦。芝1200mの発走となります。各馬はこれからゲートに向かいます』

 

芝の状態を確かめている間にゲートインの時間になったようだ。1枠1番なので俺が最初に入ることになっている。

ゲートにすんなり入る。馬の身になったとはいえ、この狭さはなんか落ち着くものがある。……俺、馬だよな? ネコじゃねーよな?

 

『6番のホワイボタンがゲートに入りません。大丈夫でしょうか……。今入りました。各馬ゲートに入りました』

 

ゲートをじっと見据える。次第に周りの音が聞こえなくなる。自分と騎手の息遣いだけが聞こえる。余計な音が何も入らない。

ギギ……と軋む音。後ろ脚にぐっと力を入れる。

ガコン! とゲートが開くと同時に後ろ脚で地面を蹴る。飛ぶようにゲートから抜け出した俺はそのままの勢いで走り出す。

 

『スタートしました。シュネージュネコ、綺麗なスタートを切りました。ハナを切ったのはシュネージュネコ。そのまま先頭へ躍り出ました』

 

一呼吸遅れて後ろで足音が聞こえるが、すでに走り出した俺の耳には遠く聞こえる。返し馬で少し走ったせいか、温まった体は気持ちいくらいに動きが滑らかで、足に力が乗り気持ち良く走り出している。

 

『逃げるシュネージュネコ。あっという間に200m過ぎ坂を上るが足に衰えはない。5馬身離れてクラウンブルテナ、すぐ後ろインザアンバー、1馬身後ろにラズールカフェ、外にビッグドルフィン、3馬身離れてホワイボタンがシンガリです』

『先頭シュネージュネコは第3カーブに入ります。外に膨れながら加速していきます。後続との差は7馬身に広がります。ここで後続が追い上げ始めました。後続は追いつけるのか?』

 

カーブでは加速を始める。当然内側を回り切れないので、外に出ながら大きく曲がっていく。だけど、問題ない。いつもと変わらない。いつもと同じ、

4コーナーから緩やかに下り始めるのもあって余計に加速していく。坂を下りながら直線に入ると、目の前には上り坂! だが勢いそのままに駆け上っていく。急ではないが100m程度の短い間にある坂は意外と急に感じる。が、問題ない!

 

『下り坂の第4コーナーをカーブして先頭はシュネージュネコ。ゴール前の坂を難なく上って行く! 後続も後を追いますが届かない。シュネージュネコ、今1着でゴール板を通過! シュネージュネコ完勝!2着にクラウンブルテナ! シュネージュネコ初出場で力の違いを見せつけました!」

 

いつもと比べて走り足りなく感じるが、走りすぎるのも良くない。シロが気になるから、早いとこウイナーズサークルに行って、馬房に帰らないと。

 

「楽勝だったな。お疲れだ」

 

上から聞こえる須田騎手の声を聞き、歩を進める。後続馬たちが怯えた様子でこちらを見るが無視だ。

 

 

馬房に戻る。隣をちらりと見るとシロがいるが様子がおかしい。どうしたんだ?

 

(シロ?)

 

(……ごめん、一人にして……)

 

シロ? 一体どうしたんだ?

その日、シロがこちらを向くことは無かった……

 

 

 

 

 

トレセンに帰ってきてもシロの様子は変わらない。日に日に食事の量が減っている。何度話しかけても目を合わそうともしない。一体どうしてしまったんだ?

もやもやしつつも気分転換にと外に出てみるが変わらない。何もできないまま数日が過ぎ、馬主の指示で1週間放牧として、牧場に帰ることになった。

 

移動中の馬運車の中でもシロは終始無言。本当にどうしよう…・・・?

 

牧場に到着。とりあえず母さんと妹の所へ。妹も馬具を着けての軽めの調教が始まっているらしく、騎手を乗せて走り回っている。

 

(で、どうしたの?)

 

と母さんに問われたら、新馬戦以降様子がおかしいシロの事を話す。

 

(そう。でも大丈夫よ。あの子なら乗り越えられる)

 

確信を持ったような母さんの声を聞き、シロがいるはずの方へと視線を向ける。

 

 

(で、どうしたの?)

 

帰ってきた娘の様子がおかしい事に驚きつつも、顔を伏せてだんまりを決め込む娘が離し始めるのをのんびり待つ。

そんな母の様子にシロは歯噛みをするが、言葉が出る事は無くもどかしい気持ちが胸の中でくすぶる。

 

しばらくして、ぽつりと (くやしい……) と聞こえる。

 

(私、悔しかった……。ネコさんとずっと一緒と思ってた……。でも違う。ネコさんの……いない場所で、ネコさんと違う場所で……走って、気づいた。気づいた時には遅かった……。私、ネコさんを追いかけているだけだった。それだけだった。でもダメだった……)

 

(そう……)

 

まとまらない思いをぽつぽつと話し始めるシロ、それを聞き頷くのみの母。

 

(会いたかった。でも、ダメだった。このままじゃ、私……会えなくなっちゃう……会わす顔が……ないよぉ……)

 

(そうね、悔しかったのね。どうすればいい? 慰める? 走らなくていいって言えばいいのかしら?)

 

(違う! 私……今会うのは無理だけど……。次は走る! 私の走りで勝って、それから会う! おかえりって言ってもらえるように! 私、頑張る!)

 

(自己完結しちゃったわね。あの子は色々と規格外だからねぇ……。アレと一緒だとおかしい事が分からないから……。走ってから気づいちゃったのね? 些細な不安や違和感や寂しさが、耐えがたい程にすごく大きくなって心が乱されて、それでも走らないといけない。あなたは寂しさに負けてしまったのね。でもね、当たり前の事なのよ? ようやくスタートラインに立った。そう思ってこれから頑張りなさい。あなたが追いかける相手は遥か遠くにいるわ)

 

適当言ってなんか自己完結した娘と、規格外の幼馴染を思い浮かべてシロの母はそっと思うのだった。

 

(ネコさんネコさんって……、猫のことじゃないわよね? あの牡の話なのよね?)

 

 

 

結局シロとは話さないままトレセンに戻った。だけど、帰る時のシロはどことなく吹っ切れたような感じがした。

 

そして、7月4週目の土曜日。福島で開催の2歳未勝利戦に出るため、シロは暴れることなく馬運車に乗って行った。

多少の体重減はあるが、問題なく勝って帰って来るだろう。帰ってきたシロに俺はこう言えばいいはず……

 

おかえり!

ってね。




規格外が常に横にいたために、感じる事の無かったプレッシャー。
離れることで寂しさも相まって、爆発してしまったようです。自己完結してしまいましたが。


さて、今更ですが、読んでくださりありがとうございます。
ここで、私からお伝えしたい事が。

評価やお気に入りやブックマークをして頂き、ありがとうございます。

感想などのメールは極力、なるべくならしないで頂けると嬉しいです。
可能なら、評価もしないで頂けるのであれば幸いです。
作者のメンタルは、某すごくやわらかい戦車よりも、やわらかいので最悪死にます。
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