転生先は競走馬 え?ウマ娘も?   作:ちょこ@みんと

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実は、この話は一度書きましたが、書いた後に読み直しの段階で
「いや、周りの連中こんな反応しないだろ」
と、思い至り全部書き直してました、

よくよく考えたら、まだデビューしていなかったのに、この内容は無理がありすぎるw
と、読んでて笑ってしまいました。
が、どこかで使う予定なので、一旦保留として書き直してました。

あと、途中で別作品の方を書いていたので、その間こちらを触れていませんでした。

それとは別に、前の話の後書きに書きましたが、あまりメールしないでください。
まず読みませんので。最初ではありませんが、この場で断っておきます。

投稿後に気が付いたけど、場面がワープしていたw
書き直したけどね。


7 ウマ娘編 出しちゃった♪(ヤケクソ風味)

「あんたたちね! いい加減にしなさいよ!」

 

ある日、選抜レースに行こうとしていた時、そんな一言から始まった。

 

 

 

 

 

選抜レースに初参加した週の週末。私・シロ・リカ・ライン・イクの5人は未だにスカウトされずに、5人でぶらぶらしていた。

今日は土曜日。授業は午前中のみで、午後から放課後扱いとなり自由時間となっているが、スカウトされたウマ娘はトレーニングに励み、そうでないウマ娘は来週の選抜レースに向けて個人練習に励んでいる。

 

そんな中、私とシロは放課後になると真っすぐ寮の自室に戻り、これからどうしようか? と相談していたら、3人が唐突に部屋に押し入ってきた。

リカ・ライン・イクの3人が部屋に居座って駄弁り始めるのを横目に、隣で私の腰にしがみついているシロの不機嫌メーターが急上昇しているのを感じている。

 

……今夜も抱き枕決定かな……はぁ……

 

仲は悪くないはずなんだけど、まだどうも距離を測りかねている感じ。そのもどかしさもある様子。近付いていいのか離れた方がいいのか、イラつきつつも探っている感じだ。

でも、こうなると私は必ずといっていいほど、シロの抱き枕係になってしまうんだよなぁ……

うううっ……。しばらくお気に入りの寝具で寝るのを諦めるしかないのか……。

 

それはそうと……

 

「午前終わってすぐだからお腹空いた。食堂行こうかな?」

 

私の呟きに賛同する4人の声。3人は昼食に誘いに来たのだが、シロの不機嫌な様子を見て帰ろうかどうしようかしばらく様子を見ていたらしい。

つまり、シロが全部悪い。シロの鼻をきゅっと摘まんで「ネコひゃん!?」と声を上げるシロを引きずりながら食堂に向かった。

 

トレセン学園の食堂は独立して建てられたそこそこ大きめの建物で、お洒落なレストラン風な外見や内装をしている。食事の形態はバイキング方式となっており、お残しは許されないが好きな物を好きなだけ食べることが出来る。

寮の部屋で時間をつぶしていたのもあり、食堂はまばらに席が空いている状態で、到着した私たちはテーブルを2つくっつけて食事を取りに行く。

2つくっつけた理由は、シロが同席を嫌がったのと、1つでは乗り切らないから。私とシロで1つのテーブルを占領するのに、5人ではとてもじゃないが足りない。なので2つくっつけた。

 

ひとしきり食べてお腹が満ちるとデザートをつつきながらのおしゃべりに興じる。ちな、私はにんじんプリンだ。

 

「選抜レースは来週まであるんだろ? 俺らも出るけどお前らはどうするんだ?」

 

「出るよ? 出た後はブッチするけど」

 

「ネコちゃんに「お前には聞いてない」……ぶぅ!」

 

ヒシッとシロが私のお腹に顔を埋める。機嫌を損ねたわけじゃなく深呼吸をしている、ようは私を吸っている。私を吸うことで何が変わるのか分からないが、シロ的にはこれで摂取できる栄養素があるらしい。興味ないから聞かないけど。

 

「まぁ、俺らも出るけど、いろんな噂が出回っているせいで、スカウトは誰も来やしない」

 

「うむ! この私の輝かしい威光に! 近寄りがたいのであろう!」

 

「戯言は寝て言え? で、ネコたちの方は?」

 

「決まっていれば今頃ここにはいないだろう? トレーナーと契約しないと今後のレースに出れないから、最悪名前だけ借りるしかないのか?」

 

「ちょっと! さっきから聞こえているけど、あんたたち!」

 

バン! とテーブルを叩く音と大声が聞こえた。隣に座っていた見知らぬウマ娘がこちらを睨みつけている。今のは彼女がしたのだろうか?

 

「はて? どちらさま?」

 

「あんたたちね! いい加減にしなさいよ! 選抜レースに真剣に取り組んでいるウマ娘やトレーナーがいるのに! 言うに事欠いてなんてことを言っているんですか! 恥を知りなさい!」

 

「ああ、そうね。と言っても私たちの様な気性に問題あるのを受け入れるところあるの? 説明面倒だから省くけどチームプレイとか無理よ? それともあんたのチームが拾ってくれるの?」

 

「そんな訳ないでしょう! それじゃあチームに入るために頑張った私たちの努力が無かったことになるじゃない! ふざけないでよ!」

 

「別にふざけてないよ? 私たちがの気性については噂程度でも聞いているでしょう? 話を聞いてみたけど「矯正する」的なトレーナーばかりで無理だね。 それよりも、私の言い方はアレかもしれないけど、普通に会話しているだけだよ? なんで君がそんなに怒っているのか分からないよ」

 

「あ~……ちょっと落ち着け? 話が平行線になるぞ? いったん落ち着け?」

 

と、リカの声で俺は黙る。相手のウマ娘も黙るがこちらを睨んだままだ。そして相変わらずシロの深呼吸の音が聞こえる。なんなら相手の怒鳴り声の最中でも、シロの深い呼吸の音は聞こえたぞ? 

 

「一旦、話を整理しよう。片方は気性のせいでトレーナーが決まらない」

 

「私の言い分はそうだね。この気性でも容認してくれるトレーナーでないと、私は良くてもシロが無理だからね」

 

「で、もう片方は真面目にレースしないなら参加するな。っていう事?」

 

「そうよ! デビューすらままならないで終わる子だっているし、デビューしても勝てないまま終わる子もいる。このトレセン学園はそんな場所だけど、あんたたちのせいでチャンスを掴み取りたい子たちの幅が狭まってしまうの!」

 

「どっちの言い分も分かるんだよな……。俺も気性があれだからシュネージュネコを応援したいが……「ならば、レースで勝負をするといい」……って、えええぇぇぇーーーっ!」

 

「か、会長!」

 

リカが突然大声で驚く。それもそうだろう。視線を向けるとシンボリルドルフ生徒会長がこちらに向かってくる。

 

「会長?! どうしてここに?」

 

「いや何。生徒間で模擬レースに出まくるウマ娘がいると聞いてな。なんでもトレーナーを決めるつもりも無く走っては逃げているとか?」

 

「そうなんです! こいつらがいるせいで、トレーナーと契約したいと願う子たちにチャンスが巡って来ないんです!」

 

「ふむ? 順位に関わらず素質や見れるものがあれば、トレーナーは声をかけるはずだが? 声をかけられないのはそうするに値しないと判断されているのでは?」

 

「ぐっ!?」

 

私たちの事を訴えたつもりが逆に会長に黙らされる。このまま引き下がってくれないかな?

と、思っていたが、そうはならなかった。会長の視線がこちらに向けられる。

 

「とはいえ、レースにでるだけ出てそのまま逃げだすのも論外だがな。互いに言いたい事や言われたくない事あるかも知れないが、我々がウマ娘がである以上揉め事はレースで勝負をするのが最善ではないだろうか?」

 

「いや、どうしてそうなる?」

 

会長のセリフに突っ込むが、私の言葉は無視されたようで、そのまま会話を続ける会長。

 

「ただ、勝ち負けだけを競っても仕方があるまい。そこで、君たちがトレーナーに求める条件を提示してくれ。その条件を元に受け持っていいというトレーナーのみ、レースの観戦をしてもらおうと思う。そこでなるべくトレーナーと契約して欲しいのだが、それでどうだろうか?」

 

「……いいですよ? こちらが提示した条件を飲んで頂けるのであれば」

 

会長の視線と共に向けられた言葉。その内容を考えた上でその話を受けようと思った。条件提示で有象無象とも思えるトレーナーの大軍を減らせるのであれば、それに越したことはない。おまけに、シロを受け入れてくれる場所を探さないといけなかったので、会長の条件は渡りに船に思えた。

正直、模擬レースに適当に出ているが、どのようにして契約しようかのビジョンは何も無い。運よく都合のいいトレーナーが見つかればいいな、程度にしか考えていなかった。

 

「では、条件ですが……」

 

会長に条件を提示する。シロの条件も含まれているのでシロは黙っている。もちろん私とシロはペアで契約することも伝えてある。

これ幸いと、リカやラインやイクも条件を提示する。3人も対象だったのか挙げられる条件を聞き大きく頷く会長。

 

「では、今日の午後に模擬レースを行う。君たちの条件を全トレーナーに提示し、担当してもいいという者だけを呼ぶ。なので、ここでトレーナーを探してくれるとありがたい」

 

そう言うとシンボリルドルフ生徒会長はこちらに背を向け去って行った。

 

 

 

『シュネージュネコ・ホワイトロリータ条件』

・2人1組でのスカウトであること

・ホワイトロリータは超気性難で会話もろくに取れない可能性が高いので、会話はシュネージュネコを通すこと

・シュネージュネコがクッションやマット等の寝具を持ち込むことを了承すること

・可能であれば個人あるいは少人数チーム

 

ふざけているのか? 

同室者の第一声がそれだった。さもありなん。能力や素質の高い問題児たちが出した条件がひどかった。特に芦毛の2人組がひどい。他の3人はまだマシな方ではないだろうか?

チームワークゼロですと宣言している上に、寝具を持ち込もうとしている。彼女たちは何がしたいんだろうか?

 

「とはいえ、ようやく引き出すことが出来た条件なんだ。これでいくしかあるまい」

 

「しかし、会長!」

 

「エアグルーヴ。言いたい事は分かるが飲み込んでくれ。ブライアン、通達の方をよろしく」

 

無言で頷いたナリタブライアンが生徒会長室を静かに退室する。後に残されたのは表情は変わらないがイライラしている様子を隠そうともしない『女帝』と私だけ。

理事長に話を通せば二つ返事で了承を頂いた。気性難とは言え全てのウマ娘に与えられる権利だ。惜しくも手に掴めぬ者もいるが、それこそがここ中央トレセン学園であるとも言える。

 

「さあ、レースは午後だ。もう動き出している。あとは無事に彼女たちのトレーナーが見つかることを願おう」

 

呟いた声は静かな部屋に溶ける様に消えて行った。

 

 

 

午後になり、選抜レースが終わった後に開催される特別レース。

最近何かと騒がせている気性難ウマ娘5人のトレーナー決めのための特別レース。

 

生徒から生徒会長へ、生徒会長から理事長へと伝わった話は、こうして特別レースを行うまでになっていた。

シンボリルドルフが5人から聞き出した条件は、中央トレセン学園に所属する全トレーナーに伝達された。

まだ担当が決まっていない新人や、素質あるならばと見に来たトレーナー、切羽詰まった表情でターフを見つめるトレーナー等、様々な思惑を胸にしたトレーナーたちがコースを囲むように集まっていた。

 

「まるでオークションかセリの会場みたいだな」

 

ぽつりとこぼしたのはリカ。言われてみればその通りだ。さしずめコースを走る我々を競り落とそうとするトレーナーの群れ、といったところか?

笑えないな。

 

それよりも気になることがある。

 

「向こうで準備運動しているウマ娘って何だと思う?」

 

と私が問いかければ5人の視線がそちらを向く。その視線の向こうには既にデビュー済みの先輩ウマ娘が、ジャージ姿で「今から走ります!」と言わんばかりに入念に柔軟をしているんだが?

 

「……まさかだけど、先輩たちと勝負とか?」

 

「いや、さすがに……。あ、でも同年代とは勝負にならんからか? ……いや、まさかね?」

 

「残念だが本当だぞ?」

 

独り言に反応したのは生徒会長こと、シンボリルドルフその人であった。午前同様白い旗を手に持ちこちらに向かってきていた。

 

「じゃあ、我々は先輩たちと走る。と?」

 

「ああ。同年代では負けなしの君達には、先輩たちに相手をしてもらうのがいいだろうと。このレースはあくまでトレーナーたちに、君たちの素質を見てもらうことが目的だからね。勝敗以前に先輩を基準にしてどの程度走れるのかを見たいんだそうだ」

 

それは……

デビュー済みの先輩と未デビューの新人。比べるまでも無いだろう。

会長の言葉通りに受け取っていいなら、気楽に走って最低限の実力を見せればいいだろうね。

 

「ちなみに先輩方のオーダーだが、『全力』で来るように。とのことだ。大差をつけて楽勝勝ちするつもりでいるそうだ。では、励んでくれ」

 

サクサクと足音を鳴らして去る会長の背中を見送る。しかし、最後の最後に何て言うことを言うんだよ……。

 

「ッチ! 舐められているってことか?」

 

「……不愉快」

 

「うむ! 王と名乗る以上、全力で当たろうではないか!」

 

「……ギリッ……」

 

……かかり過ぎてるじゃないか……

どうすんだよ、これ……

はぁ、ため息しかでねぇよ

 

それに誰か突っ込んでくれ……

どうして私たちはリギルの面々と対戦することになっているんだ? と。

 

 

 

〇グラスワンダー VS アウトオブアメリカ 芝3200m

結果は5バ身差でリカの負け。しかし大差以下に抑えれたので素質ありと判断されたのか、大勢のトレーナーに囲まれている。気性難と言っても口が悪いだけなので、未だに担当が決まっていない新人を中心に囲まれている。

 

〇テイエムオペラオー VS インデュライン 芝2400m

高笑い響くレースを制したのはテイエムオペラオーで、3バ身差でラインの負け。彼女はそのままリギル所属となった。テイエムオペラオーが引っ張って行ったというのが正解だ。気が合ったのだろうか、リギルのトレーナーが頭を抱えているがご愁傷さまとしか言えない。

 

〇エルコンドルパサー VS テイクオフ 芝2400m

終始先行するエルコンドルパサーに追いつけなかったが、5バ身の差をを広げる事縮めることも無くレースは終了。割かし奔放な性格な彼女は、ツインターボやマチカネタンホイザと交流があり仲が良いようなので、彼女のチームに所属するのかもしれない。

 

〇ナリタブライアン VS ホワイトロリータ 芝3000m

先行のナリタブライアンに対して追い込むシロ。最終直線で末脚を発揮するも7バ身差でゴール。レース後は無事に私のクッションに顔をうずめていじけている。

 

 

さて、私の番になったのだが、私の適正距離は一応1200~4000mとなっている。……はず?

短距離・マイル・中距離は逃げて、長距離は追い込んでいく戦法を取るのだが、どうしようか……?

一応、選抜レースでは芝2000mしか走っていないので、適応距離は中距離と思われているだろうし。

 

「次はシュネージュネコの番だ。距離は芝2000m 相手はヒシアマゾンで行う。異存はないかな?」

 

「あ、芝4000mでお願いします。今日はちょっと頑張りたい気分なので」

 

「……は?」

 

私の発言に会長の意識が一瞬宇宙に飛んだようだ。相手になるはずだったヒシアマゾンも呆けているし、なんなら今まで私の戦績を記録しているであろう用紙をめくるトレーナー達も首を捻っている者も多い。

 

「えっと? 芝4000mと言ったか? 君は今まで芝の2000mを走っていただろう?」

 

「ええ、問題ないっすよ?」

 

長距離も問題なく走れる。基本は追い込みで走るが、ある方法で逃げることも可能。その後はシロに全部お願いしないといけないのが心苦しいが、今回は仕方ないと思う。

それに、ここまで4敗。勝敗は換算しないにしても悔しいなぁ。なので、日本国内には存在しない4000mレースを叩きつける。これだけで私に勝算はあるからだ。

 

「あ、会長? もう一つ。クッション背負っていいですか?」

 

そんな私の問いかけに、再び会長の意識が宇宙の彼方に飛んでしまうが、些事として流すことにした。

 

 

レースの準備として持参のクッションを背中に背負う。よし、これで準備万端!

 

「ネコちゃん♪ 頑張ってね」

 

シロは私が何をするか分かったらしく笑顔で手を振る。

唐突な距離変更に運営が慌てているが、私の対戦相手はヒシアマゾンから生徒会長に変更となった。

会長にしてみても、4000mなんて距離は未体験だそうだが、何となく走り抜いてしまうのでは、と思う。

 

それに、今回の長距離レースは最初から最後まで『逃げ』るつもりだ。本来は追い込むんだが、背中のクッションさえあればどうとでもなる。

 

ゲートイン完了。3枠に私、5枠に会長が入る。

 

「会長。何をしてでも勝たせてもらいます」

 

「望むところだ」

 

ガコン

 

無機質な機械音で開いたゲートから勢いよく飛び出す。

まずは2000m。全力で逃げる!

 

会長は先行・差しでレースを走るが、4000mという長丁場、足を溜めてじっくり行くようだ。

選抜レースに使うトラックは坂の無い平坦なコースで、多少の差はあるが気にしなくていい程度の差でしかない。一周2000mなので2週すればゴールだ。

 

だからこそ全力疾走!

逃げに逃げる!

 

ゲートを出て数歩で一気に最高速度へ。逃げを行う時の走りをいつもと同じようにする。

いつもと同じだ。何も変わらない。

 

速度を上げたまま。

速度は落とさない。

 

すぐに第一コーナーに差し掛かる。速度は落とさないで外に膨れながら第二コーナーも曲がっていく。

会長は速度を保ったまま最内を進む。最高速度ではないのに綺麗に曲がっていく。

 

会長が第二コーナーに入る頃に私は向こう正面の直線へ。

二番手の会長とは大きく差があるので、斜行にならないと分かっているので、直線で内の方へ寄りながらも速度を落とさない。

 

まもなく第三コーナー。やはり速度を落とさぬまま外に出ながら曲がって、そのまま第四コーナーも駆け抜ける。

正面の直線に入る頃には会長はようやく第三コーナーだ。

 

勝った!

なんて慢心はしない。

相手はGⅠ7冠バで無敗3冠バも達成した最強格。そんな相手とレースしているんだ、ゴールする瞬間まで気を抜けないし抜かない。

 

正面の直線に入っても全力で駆け抜けていく。スタミナ何て気にしなくていい。空っぽになるまで使い切っても大丈夫。

スタート前に会長に『何をしてでも勝つ』と宣言している。なので、遠慮はしない。

 

 

 

周りのトレーナーたちがざわめいている。

 

スタート直後からものすごい勢いで駆け抜ける白毛の新入生、シュネージュネコ。彼女はこれまでの選抜レースには芝の2000mで常に逃げて勝っていた。それは知っている。

でも今回は4000m。いつもの倍の距離だ。あんな速度で走れば半分しか持たないだろう。実際2000mの逃げタイムは、サイレンススズカに及ばないまでも相当早い。

何よりもコーナーがすごい。スピードを落とさず外に膨れながらも駆け抜けていく。通常、コーナーとなればある程度の速度が落ちるものだが、彼女は外に出る事で最高速度を保ったまま走っている。外に出る事で余計に走ることになるが、速度が落ちないのであれば誤差でしかない。

それに自分から外に出て来る者はいないので自然とバ群を避けて走れるのも大きい。彼女の今までの勝ちを見るとバ群とは関係のない外を走って勝っている。逃げなのでバ群に埋もれる事は無いのだが。

 

今、彼女は正面を駆け抜けていく。2000m。ようやく半分。だが……

 

 

 

「あいつ、持つのか?」

 

「大丈夫」

 

呟いたリカの声にシロが答える。その声には絶対の自信が含まれている。

 

「でも、4000mだよ? いつもの倍でいつもと同じように走っている。そろそろ落ちるぞ?」

 

「でも大丈夫。ネコちゃんがクッションを背負っているから」

 

「おいおい、レース中に寝るつもりか?」

 

リカの答えにシロはニコリとほほ笑むのみ。

見守る4人の視線の先には、速度が落ち始めたシュネージュネコが第一コーナーに入る所だった。

 

 

 

随分飛ばすな

 

先を逃げていくシュネージュネコの背中を見つめるシンボリルドルフの思ったことだ。

3200mのレースに出た事はある。というのに条件として出されたのは4000m。

彼女はこれまで2000mを逃げて勝っている。倍の距離を走るというのに、同じように逃げている。

 

確かに彼女は4000m走れるのかもしれない。しかし、逃げれない。だから彼女は落ちる。

 

一周してから速度が落ちて、第一コーナーを曲がる彼女の背中を見る。

新入生の無謀な挑戦。それでこのレースは終わりそうだ。後は私がゴールをするだけ。

 

そう思った。

 

瞬間

 

「っ!」

 

視線を戻すと速度を上げて走る彼女の背中が見えた。

一体どこにそんな体力が?

 

再び速度を上げて走り出す。まるでスタートしてすぐの様に。

 

「っ! まさか!」

 

決して慢心していたわけでは無い。油断もしていなかった。

だが、恐らく前提が違ったのだ。

私は4000mで、彼女は2000mを2回ということだっただけだ。

 

遠ざかる彼女の背中を見て、そう言えばスタートの前に行っていたな。

『何をしてでも勝たせてもらいます』と

こういうことだったのか。と、内心で驚愕しつつも、加速を始める自分が笑っていたことに気付いた。

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

息が苦しい。呼吸が荒い。酸素が足りない。足が痛い。もう疲れた。スタミナが切れる。足が重い。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

やっぱり全力で逃げれるのは2400mまでかな? それ以上は無理だ。追い込みで最後に頑張る方が性に合っている。

しかし、相手は『皇帝』シンボリルドルフ。私が新入生と思って油断している状態で全力で逃げに逃げてようやく勝てる相手。追い込みじゃあ絶対勝てない。

 

せっかく勝つんだ。ついでに見学者達の度肝も抜いておきたい。

やっぱり背中のクッションを使うことになりそうだ。いや、使うのはゴールの後なんだけど。

 

さぁ、始めよう

一部では『スキル』とか『覚醒』とか言われる、ウマ娘特有の特殊能力。本当に、ウマ娘とはファンタジーな存在だと思う。

 

だんだん落ちる速度。だけど今一度、足に力を入れて地面を踏みしめる。

 

固有スキル『胡蝶の夢』発動!

 

瞬間、体を満たす疲労感が綺麗さっぱり無くなる。まるで一晩眠った後の様に。

痛みも息苦しさも無くなり、底を尽いたはずのスタミナも満タンになっている。

体が軽い。地面を蹴る足に力が入る。

 

残り1600m

逃げれる! いや、逃げ切ってみせる!!

 

落ちた速度を再び全開で上げ、ターフを駆け抜ける。後方で会長は気が付いたようだけどもう遅い。真後ろから威圧感を感じるような気迫で物凄い追い上げて来てるんだけど気にしてなんていられない!

会長は4000mの内の残り1600m。

私は、2400mの後に寝て回復しての1600m。

 

実質、4000mと1600mの対決となった。

卑怯なんて言わせない! これが私の固有スキルだから!

文句があるならこんなスキルを持たせたウマソウルに言いやがれ!

 

 

 

「えっ?! なんで?! もうスタミナは無いはずじゃあ」

 

リカの驚愕の声にシロはニコニコと微笑む。

ああ、使ったんだ。と口の中で転がして、立ち上がる。

 

「お? どこに行くんだ?」

 

「ネコちゃんをお迎えに♪」

 

そう言うとシロはゴールに向かっていった。

 

 

 

「ありえない……」

 

4000mという超長距離とはいえ、皇帝・シンボリルドルフが勝つものと誰もが思っていた。

しかし、現実はどうだろうか。

途中で速度が落ちたが、最初から最後まで全力で駆け抜けたシュネージュネコ。まだデビューしていないというのに、とんでもない能力を秘めているウマ娘だと。

 

最終的に追い上げて来たシンボリルドルフも凄まじい末脚で、9バ身差まで詰めていたが結果はシュネージュネコの逃げ切り勝ちとなる。むしろ向こう正面から9バ身差まで詰めれた皇帝が凄まじいとも言えるが。

 

「これは……凄まじいウマ娘がいたものだ……」

 

誰かの呟く声は誰の耳にも入ることは無かった。なぜなら、誰もが見ているシュネージュネコが、ゴールして減速しながら背中のクッションを顔に当てると、そのまま転倒してしまったから。

 

 

 

先にゴールした芦毛の背中を追いながら見ていたが、ゴールして背中のクッションを顔に当てて減速しながら、地面にべちょっ!と倒れる姿を見て慌てて駆けだす。

シュネージュネコがゴールして倒れる姿に、場外から悲鳴のようなものが聞こえるが、まずは確認をとシュネージュネコの元へ駆け寄る。

 

「すぅ……すぅ……」

 

クッションに顔を埋めて穏やかに寝息を立てて寝ている姿に唖然としてしまう。「え? なんで?」と。

十分に減速をして倒れたので、故障や事故というわけでは無いと思う。見る限り外傷は無いからとりあえず安心だが、それにしてもなぜ急に眠ってしまったのか?

 

芝を踏みしめる音に誰かが近づいて来たのだと思い目を向けると、シュネージュネコといつも一緒にいる芦毛のウマ娘が立っていた。

 

「ああ、よく眠っていますね」

 

「大丈夫……なのか?」

 

ホワイトロリータがシュネージュネコを抱える。寝てもなおクッションを手放さないシュネージュネコに呆れるべきなのだろうか? 

 

「途中でおかしな加速をしていたと思いますが、ネコちゃんの固有能力なんです。会長をはじめとする名のある方々も、持っていると思いますが?」

 

「あ、ああ。確かに。しかし、ネコちゃん?」

 

「ネコちゃんの能力は翌日の体調の前借りと、レース後に前借りした分の睡眠を必要とする事。『寝て起きて、体調全開』を入れ替えることで、レース中に翌日分の体調を前借りします。そのため途中で全回復できるのですが、レース後には前借りした体調を回復するための睡眠をとらなくてはいけなくなるのです」

 

「そうか……。それなら途中のあの加速も納得だ。しかし、ネコちゃんとは?」

 

「私はこれから寮に戻りネコちゃんを寝かせます。残念ならがこの状態でのスカウトは難しいので、申し訳ないとは思うのですが後日でお願いします」

 

そう言い、私に礼をしたホワイトロリータはシュネージュネコを抱えたままターフを去って行った。

後に残されたのはシュネージュネコを心配する諸々の声と

 

「いや……ネコちゃん?」

 

しばし呆けた私だけだった。




前書きにも書きましたが、作者の精神安定的な意味でも、あらゆる意味での感想の投稿はしないでもらえると助かります。
あと、評価はしないでください。作者がビビるから。
出来ればUAも伸びてほしくない。作者が不安がるから。
お気に入りやしおりが増えるだけで現実逃避し始める作者です。

こんな、難儀で気性難な作者ですが、それでもいいと思えるのならこれからもよろしくお願いします。

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