ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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エピローグ・オブ・ゴシック

 夜色のゴシックドレスを着たその女性がヴァイオリンの弓を操るたび、穏やかにして荘厳な音色が奏でられる。

 ことあるごとに職員を困らせていた偏屈な老人も、ついさっきまで虚空に視線を彷徨わせているだけだった痴呆の老人も、今は揃ってその音楽に聞き惚れている。

 曲調が次第にテンポを増してゆき、それを奏でる女性の白い髪も振り乱れるように揺れ動く。紅玉を思わせる瞳は、今は閉じられており、彼女は楽器――ひいては曲と一体になって、この空間を満たしているかのようだった。

 魅了の魔法にも似た時間はあっという間に過ぎ、曲が静かに締めくくられると、万雷の拍手が彼女を包み込んだ。

 

 

「お疲れ様です、――さん」

 小さな舞台を降りた女性に、ひとりの少年が声をかけた。

「こんなことまでやっていたんですね」

 ここは老人ホーム。

 入居者の慰労のため、女性はたまにボランティアでヴァイオリンを披露しているのだそうだ。

「ああ。短い人生とは言え、遊び歩いているだけでは心苦しいからね。こうして社会貢献をさせてもらっているんだ。彼らが私の音楽を、記憶の片隅にでも残してくれれば嬉しい」

 高級そうな(あとで聞いたところによると、《ブレインウォッシュ・スワラー》40000枚分らしい)ヴァイオリンを執事に手渡しながら、女性が言った。

「君にヴァンガードを教えたのも、その一環だよ」

「え?」

「迷える少年をヴァンガードで導く。それ以上の社会貢献は無いだろう?」

 そう言って笑う彼女の輪郭がぼやけていく。

「君は私が生きた証だ。どうか私の分まで力強く生きて――」

 

 

 彼女がその言葉を言い終えるも早く、如月(きさらぎ)リュートは目を覚ました。

(……夢、か)

 のろのろと上半身を起こす。寝間着が汗で肌にべったりと貼りついていた。

(あなたのいない世界で、僕はどう生きていけばいいんですか?)

 机の上に飾っていた、深夜のショップ大会で撮った集合写真。その中心で微笑む女性に、助けを乞うような視線を向ける。

 持ち主に遅れて目覚まし時計が朝を告げた。

 五洲(ごしゅう)高校3年生、如月リュート。

 未だ迷いの晴れぬ、新学期の朝だった。

 

 

 新学期だからと言って、新しいクラスメイトと意気投合して、カードファイト部に勧誘することになったり、転校生のヴァンガードファイターに、放課後、勝負を挑まれたり、そんな一波乱など起こるはずもなく(特筆するならば、学内で唯一の友人と言えるジュジュとは、今回も別クラスになったことか)。つつがなく始業式は終了し、放課後を迎えた。

(先生の話が長引いて、遅くなっちゃったな)

 10時を指す腕時計の短針を見ながら、リュートは部室へと向かう。

(ん? ……扉が開いてる)

 倉庫をギリギリ人が過ごせる空間に改装しただけの、簡素な部室まで辿り着いたリュートは、違和感を覚えて首を傾げた。

 ジュジュが先に来て鍵を開けたのだろうが、扉が開きっぱなしというのは妙である。暗がりを好むジュジュが部室にいるのなら、扉は必ず蟻一匹入る隙間も無く閉じられているはずである。とは言え、彼女が何らかのトラブルに巻き込まれていることも想像しにくく、リュートは疑問を覚えながらもゆっくり部室へと入っていった。

 ジュジュのオカルト趣味が色濃く反映された、薄暗く靄のかかった、魔法陣やら祭壇やらが飾られた不気味な内装。

 その奥に、白髪の少女がいた。

(っ!! カミラさん!?)

 思わず息を呑む。

 が、よく見ると髪の色以外はまったく似ていなかった。

 長身だったカミラより一回りは小柄だし、その白髪も肩に届くか届かないかの長さしかない。スカートから伸びる細い脚には、白いタイツを履いており、そのあたりも黒を好むカミラとは対照的だ。

 暗がりの中でもわかる新品の制服は、小柄な少女にとってはちょっぴりぶかぶかで、まさしく新1年生を思わせる装いだった。

(もしかして……入部希望者!?)

 リュートはようやくその可能性に思い至る。部室をざっと見渡した感じ、ジュジュはいないようだ。だが、このまま少女を立たせておくわけにもいかない。人見知りのリュートは、勇気を振り絞って少女に声をかけた。

「あ、あの……!」

「はい?」

 

 少女が振り返る。

 

 幼い顔立ち――その右半分が、不気味に赤黒く爛れたように変色していた。

 

「うっ……わあああああああっ!?」

 リュートが悲鳴をあげ、部室を飛び出したところで、足をもつれさせて転倒した。

「わっ! ごめんなさい! 驚かせちゃいました!?」

 少女が顔の右半分を手で隠しながら駆け寄ってくる。

「ごめんなさい! これはちょっと前に火傷しちゃいまして……」

「……え? 火傷……?」

 少女に助け起こされながら、リュートはまじまじとその顔を見た。小さな掌、その指の隙間から赤黒い皮膚が覗いている。リュートは実際にそれを見るのは初めてだが、なるほど、たしかに火傷痕らしい。

 要するにそれだけのことで、彼女は怪物でも何でもない。顔に火傷を負っているだけの、普通の少女だ。

 そしてリュートは、最初に彼女を見て自分がとった行動を思い返し、再び地面に膝をつくと、深々と頭を下げた。

「ごめんなさい! 僕、本当に本当に失礼なことを!」

「えっ!? あっ! いいんですいいんです! 慣れてますので、お気になさらず!」

 その額が地に着く寸前で、少女がリュートの腕を掴んで、どうにか立ち上がらせる。

「それで、その、君は――」

「おっと! 申し遅れました! あたし、淵導(えんどう)フランと申します!」

 そう言って、少女はペコリと頭を下げた。

「あたし、カードファイト部に体験入部したくて来たんですけど、どうやら間違って邪教崇拝部に来てしまったようなんです! どうもお邪魔しました!」

 フランと名乗る少女は一礼すると、スタスタ去っていき。

「ちょっと待てええええっ!」

 その背をリュートが慌ててツッコミ混じりに呼び止めた。

「ここ! ここがカードファイト部だよ! ていうか何だよ邪教崇拝部って! そんな部活、あってたまるか!」

「ええー? でも、祭壇の奥に心臓とか捧げられてましたよ?」

「うん。あれが何なのか、僕も未だに分かっていないんだけどね」

 誤解を解くには、内装が濃すぎる。

「とにかくここがカードファイト部で間違いないよ。僕は如月リュート。一応、ここの部長をやってる」

「おおー! 部長さんの如月先輩ですね! 覚えました!」

「カードファイトに興味があるなら入ってよ。君を生贄にしたりはしないからさ」

「はいっ! よろしくお願いしまーす!」

 顔半分に火傷痕を持つ少女は、右手を大きく上げて快活に答えた。

 

 

「如月先輩! 荷物はどこに置けばいいですか!?」

「そこにひとつ鞄が置いてあるよね? そこにまとめて置いておけばいいよ」

 すでに置かれている鞄はジュジュのものだ。姿は見えないが、やはり先に来ていたらしい。

「如月先輩! 私はどこに座ればいいですか!?」

「ああ、そこの椅子を使ってもらえればいいよ」

 言いながらリュートも席につき、フランと向かい合う形になった。

 なったはいいが、人見知りのリュートは、まずこの段階で言葉に詰まる。

「え、えっと……」

「まずはカードファイト歴から尋ねるといいと思いますよ!」

「…………」

 さっきから新入生にリードしてもらっている気がするのは、気のせいだろうか。

「えっと、それじゃあ……淵導さんはいつからヴァンガードを始めたのかな?」

「はいっ! ファイト経験はありません! ルールを覚えて、デッキを組んだのも、つい最近です!」

「……そっか、初心者なんだね」

 固かったリュートの表情が少し和らいだ。自分が初めてデッキを組んだ時のことを思い出したのだ。

「はいっ! 早くファイトがしてみたいですっ!」

「そうだよね! それじゃ、さっそくファイトしてみようか」

「はいっ!!」

 リュートが自分のデッキを取り出し、フランが拳を握りしめて頷く。その時だった――。

「お待たせ」

 陰気な女の声と共に、部室の扉が開かれる。そこから現れたのは、癖のある艶の消えた長い黒髪に、目の下に大きなクマを作った、声に負けず劣らず陰気な少女。ゴス校カードファイト部、もうひとりの部員、雨宮(あまみや)ジュジュである。

「進路指導で先生から呼び出し食らっちゃって……あら、新入生? 体験入部の希望者かしら?」

 さすがの洞察力で状況を把握したジュジュがフランに尋ねる。

「はいっ! 淵導フランですっ!」

「あら、かわいい。私は雨宮ジュジュよ。よろしくね」

「かっ、かわいいですか!? あたし、火傷してから、そんなこと言われたことなくて、嬉しいような、恥ずかしいような、です……」

「ふぅん? そんなこと気にするほどのものでもないのにねぇ、リュート?」

「う、うん。そうだね」

 まったくその通りだとは思うが、悲鳴をあげて逃げ出してしまった手前、曖昧に頷くことしかできないリュートだった。

「それで、そのフランちゃんは、どうしてそんな怪我をしちゃったのかしら?」

 そして、リュートが気になっていても聞けなかったようなことをあっけらかんと聞いてくれる。

「もちろん言いたくなければ言わなくてもいいけれど……」

「いえいえ。よくぞ聞いて頂けました」

 フランも胸を張って訥々と語り始める。むしろ聞いてよかったのか。

「それはあたしがまだ中学3年生、去年の10月頃のお話です――」

 

 

 あたしが下校している時でした。

 はじめに感じた違和感は(なんだか焦げ臭いなー)でした。もう季節は秋ですし、誰かが焼き芋でも焼いているのかも知れません。そう考えると、急におなかが減ってきて、あわよくば分けてもらえないかなーと思い、匂いのする方へと振り向きました。

 その時です。

 その方角から爆発音と共に、火柱と黒煙が立ち昇りました。

 これはただ事ではないと思い、私はすぐさま現場に駆け付けました。

 そこでは燃え盛る家の前で、泣き叫ぶ若い女の人が、年配の男の人ふたりに制止されていました。

 状況や彼らのやり取りから察するに、火事の起きた家にいた母親が、慌てて逃げ出したはいいものの、お子さんを家に残してきてしまったことに気付き、家に戻ろうとしているようでした。

 つまり、今にも焼け落ちそうなこの家の中には、まだ小さな子どもがいるわけです。

 入口はすでに崩れかけており、小柄な人しか入れそうにありませんでした。

 これはもうあたしが行くしかないと、庭にあった蛇口を借りて水を被り、男の人達が引き留めようとするのも聞かず、あたしは炎逆巻く家の中へと飛び込むのでした。

 

 

「ちょっと待てええええっ!!」

 たまらずリュートが制止した。

「なんでそこで迷わず飛び込むんだよ!? 別にあたしが行かなくていいよ! 素直に消防を待とうよ!」

「けど、迷うほど子どもの生存率が落ちていきませんか?」

「何でそんな冷静なんだよ!?」

「あはは。けど、当時はそんな冷静に判断してたわけじゃないですよ。中にいる子を助けなきゃって、無我夢中で、気が付いたら建物の中に飛び込んじゃった感じです」

「まったく、リュートはいちいちうるさいわねぇ。これだからツッコミは」

「ツッコミ関係あるかな!?」

「ごめんなさいね、フランちゃん。続けてくれるかしら?」

「はいっ!」

「何だかもう結末が見えるんだけど……」

 

 

 建物の中は、まさしく炎の海。地獄の様相を呈していました。

 あたしはハンカチで口元を押さえ、姿勢をできる限り低くして、家の中を探索しました。

 入口の前で必死に叫んでいた母親の様子からすると、お子さんは2階にいるようです。

 あたしは今にも崩れそうな階段を這うように上って、その先ですぐ子ども部屋を見つけました。そして倒れたままぴくりとも動かない、幼稚園くらいの男の子を発見したのです。

 容態を確かめると、息はあるようでした。爆発の衝撃ですぐに気を失ったため、逃げ遅れたものの、悪い煙を吸うこともなかったのでしょう。

 さすがに男の子を抱きかかえたまま脱出できる自信は無かったので、あたしはその子を起こしました。

 簡単に状況を説明した後、男の子にハンカチを手渡して、肩を貸します。

 恐る恐る階段を下り、ようやく玄関が見えてきました。外からは消防車のサイレンも聞こえます。

 助かったと安堵した時、傍にあった柱がバーンッと弾け、その燃える木片があたしの顔にビターンと貼りつき、あたしはギャーと叫びました。

 いやー、あれは怖かったですねえ。

 熱いし、痛いし、息できないしで。慌てて払いのけたので、貼りついていた時間は数秒にも満たなかったと思いますが、数分くらい顔を炎で焙られ続けていた感覚ですよ。

 こうして何とか脱出には成功したものの、あたしは男の子と一緒に病院に搬送され……。

 

 

「目が覚めたら、こんな顔になっていたのでした。ちゃんちゃん」

「いや、重いよ!!」

 軽いノリで語られた凄絶な過去に、リュートはツッコみ、さすがのジュジュもすぐには言葉が見つからないようだった。

「……怪我をしてから、色々なことを言われました」

「それは、もしかして……いじめられたりとか?」

 リュートの問いに、フランはふるふると首を振った。

「むしろその方が気が楽だったかも知れませんね。

 逆です。みんな、気遣ってくれるんです。

『女の子なのに、かわいそう』とか100回くらい言われましたね。

 助けた親子からは、最後まで『ごめんなさい』以外の言葉を聞けませんでした。

 そんな言葉が聞きたくて、あたしは頑張ったわけじゃないのに……」

 言いながら、フランは火傷と呼ぶにはあまりにも痛々しい傷跡を指でなぞる。その道筋は、まるで頬を伝う涙のようだった。

「あたしだって何も考え無しに飛び込んだわけじゃありません。こうなることも多少は覚悟していました。それでも救いたい、小さな命があったから飛び込んだんです。結果的には男の子を助けることもできました。

 だから、この傷は勲章なんです。あたしの誇りなんです。かわいそうなこととか、不幸なこととかじゃ、全然ないんですよ。

 それだけは、尊重して頂けませんか……?」

「……いいんじゃない?」

 先に口を開いたのはジュジュだった。

「自分の行動に責任を取れない年齢でも無いんだし。

 元より私は、顔に火傷があろうが、腫瘍があろうが気にしないけどね。……ひひっ」

「あ、ありがとうございますっ!」

「僕もジュジュに同意するよ。けど……」

 続けてリュートも口を開く。

「もし君がカードファイト部に入部してくれるのなら。また同じ状況に遭遇した時、絶対に無謀なことはしないと約束して欲しい。

 まずは僕やジュジュを頼って。僕らがいなければ、飛び出したくても君を心配している人がいることを思い出して堪えてほしい。

 そんな形で、また大切な人が失われるのは……嫌だ」

「……如月先輩?」

「それができないなら、今からでも僕達は他人どうしに戻った方がいい。……約束、してくれるかな?」

 リュートが真剣な表情で問いかけた時、ガタンと大きな物音がして、何事かと音のした方へと振り向くと、ジュジュが大袈裟によろめいていた。

「リュートが、マトモなことを言っている……!?」

「うるさいな! 僕はいつだってマトモなつもりだよ! ……そりゃ、空回りが多いのは認めるけどさ」

 リュートが頭をかきながら言うと、フランが小さく「ふふっ」と微笑んだ。

「あっ、すみません!

 その、さっきの話ですけど、よくわからないけど、わかりました! 如月先輩が出会って間もないあたしのこと、真剣に心配してくれてるんだってこと。

 だからあたしも、もう無茶はしません! 約束します! 先輩からカードファイトも教わりたいですし!」

「……そう、よかった」

 それでももし同じ状況に置かれたら、この子はまた危険に飛び込むんだろうなという悪寒を覚えながらも、この場では彼女を信じるほか無かった。

「それじゃあ、今度こそファイトをはじめようか」

「おおっ! 待ってましたぁ!」

「ジュジュ。淵導さんは初心者らしいからアドバイスしてあげて」

「はいはい」

 そう言って、ジュジュがフランの隣につく。

「よろしくお願いします、雨宮先輩!」

「ジュジュでいいわよ」

「はいっ! ジュジュ先輩っ!」

 とは言え、ルールは覚えてきたと言うだけあって、フランの手つきは拙いながらも、ファーストヴァンガードを置いて、カードを引き直すまでの動きに迷いは無く、ジュジュは退屈そうにしていた。

「準備はできたかな?」

「はいっ! たしか『スタンドアップ ヴァンガード!』の掛け声と一緒に、ファーストヴァンガードを表にするんですよねっ!」

「うん。それじゃ、いくよ……」

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

 ふたりの声が重なり合う。

「《砂塵の双銃 バート》!」

「《白黒の個性 アレスティエル》!」

 

 

(リリカル、モナステリオ……!!)

 フランのファーストヴァンガードを見て、リュートが硬直する。

「たしかにリリモナだけど、あの人のとは軸からして違うじゃない。重症ねえ……」

 からかうようにジュジュが言ったが、その声音までは笑っておらず、むしろ気遣うような視線をリュートに向けていた。

「あ、あのっ! どうしたんですか? リリカルモナステリオに、何か嫌な思い出が?」

「この場合、思い出が綺麗すぎるのが問題かしら」

「?」

「あなたが気にしなくていいのよ。いつか彼から話してくれる時が来るかも知れないし。

 ほら、リュートのターンでしょ。早くなさい」

「う、うん。スタンド&ドロー!!

 ライド! 《砂塵の銃撃 ナイジェル》!

 僕はこれでターンエンドだよ」

「ス、スタンド&ドローです!

 ラ、ライド! 《逡巡の空 アレスティエル》!

 ……これでいいんですよね?」

「ええ、上手よ。次はスキルを使いましょう」

「そうでした!

 まずはG0アレスティエルのスキルで1枚引きます!

 そして、G1アレスティエルのスキルも発動!

 山札の上から1枚をバインドゾーンに……奇数のカードが置かれたので、これは白翼ですね!

 よーし……なら、《空震わせる躍動 マリブエル》をコールです!

 白翼なら、この子のパワーは+10000されますっ!」

 アレスティエルとその関連カードは、バインドゾーンに置かれたカードのグレードによってその効果を変化させる。奇数グレードによって適用される白翼状態では、パンプなど自らに影響を与える効果が多い。

「バ、バトルに入ってもいいですか!?

 ……この場合は、ヴァンガードとリアガード、どちらからアタックすればいいんでしょうか?」

「トリガー効果を乗せることができるから、ヴァンガードから先にアタックするのがセオリーねぇ」

「なるほど! では……《逡巡の空 アレスティエル》でアタックです!」

「《コンダクトスパーク・ドラゴン》でガード!」

「うわっ、ガードされちゃいましたぁ!」

「落ち着いて。まだドライブチェックが残ってるわ」

「そ、そうでした! ドライブチェック……(クリティカル)トリガーです!

 効果は……アレスティエルにパワーを振っても届かないので、効果はすべてマリブエルにっ!

 そのままマリブエルでもアタックしますっ!」

「ノーガードだよ」

 リュートのダメージゾーンに2枚のカードが置かれていく。

「2点目のダメージは(ドロー)トリガー。1枚引かせてもらうよ。

 今度は僕のターンだね。スタンド&ドロー!

 ライド! 《砂塵の凶弾 ランドール》!

 ナイジェルのスキルでソウルチャージ!

 バトルだ!」

(……てっきりマリブエルを焼いてくるか、マリブエルにアタックできるリアガードを出してくるかと思ったけど動かなかったわね。引きが悪かった? 初心者相手だから手加減してる? それとも……)

 ジュジュが心中で独りごちる。

「ナイジェルでヴァンガードにアタック! アタック時、ナイジェルのスキルも発動! CB(カウンターブラスト)1することで、ソウルチャージしてパワー+5000!」

「わわわ! これはガードした方がいいんでしょうかぁ!?」

「トリガーでガードしたとしても、相手にトリガーを引かれたら貫通されちゃうわね。

 ノーガードでいいんじゃない?

 慣れないうちは、手札1枚で確実に防げるのならガード。そうでない場合はノーガードを意識して」

 さすがと言うべきか、ジュジュのアドバイスはわかりやすく的確だ。まずは明確なひとつの行動指針提示し、基礎からゆっくりと固めていく。

 これがリュートなら、あれこれ応用を教え込もうとして、フランを混乱させていただろう。

「では、あたしはノーガードです!」

「ドライブチェック! ……★トリガー! 効果はすべてランドールに!」

「★トリガー……ってことは2ダメージですかぁ!?」

「そうね。でも悪いことばかりではないわ。まずはダメージチェックをしましょう」

「は、はい!

 1枚目……トリガーはありません。

 2枚目……あっ、引トリガーです!」

「受けるダメージが多い分、もちろんトリガーが引ける可能性も上がるわねえ。……ひひっ」

「はいっ! 1枚引かせてもらいますっ!」

「僕はこれでターンエンドだよ」

「あたしのターンですね! スタンド&ドローッ!!

 アレスティエルのスキルで、このターン、あたしは手札を捨てる代わりに、SB(ソウルブラスト)1でライドデッキからライドできます!

 ライド! 《ありのままで輝く アレスティエル》!!

 そしてアレスティエルのスキルも発動! バインドゾーンのカードを山札の下に置き、山札の上にあるカードを新しくバインドします! ……今度のグレードも奇数! 白翼です!」

「いいわね。じゃあこのカードもコールして、リュートを驚かせちゃいましょう」

「はいっ! 《天声の代弁者 ヘリュエル》をコール! CB1して、ヘリュエルのスキルを発動します! ドロップから《包み込む恩情 トルクエル》をスペリオルコール!!」

「!?」

 まだお互いにG2であるにも関わらず、G3のユニットがコールされ、リュートが戦慄する。

(トルクエルは最初のライドコストとして捨てたんだろうけど、ジュジュがそれをアドバイスした様子は無かった。自分でこのコンボを考えたのか? それとも感覚で? いずれにしろ、この子、才能がある……)

「バトルでーすっ!

 ヘリュエルのブースト! アレスティエルでヴァンガードにアタック!

 アタック時、アレスティエルの白翼スキル発動! CB1することで★+1!」

「ね、ダメージを受けてると、スキルもたくさん使えるでしょう?」

「はいっ!」

「っ! ……《ツインバックラー・ドラゴン》で完全ガード!」

「かんぜんガード?」

「ヒットされない効果を持つカードの総称よ。本来は終盤の要となるカードで、この状況は『使われた』と言うより『使わせた』と言えるから安心していいわ。……ひひっ」

「なるほど! 守護者って書いてあるカードのことですね!

 では、ドライブチェック……★トリガー!!」

「!?」

「効果はすべてトルクエルに!

 マリブエルのブースト! トルクエルでヴァンガードにアタック! 白翼スキルでトルクエルのパワー+10000! 合計パワーは48000! ★も2ですっ!」

「……ノーガード」

 早くもリュートのダメージゾーンに3枚目、4枚目とカードが置かれていく。そのうちの1枚は引トリガーで、リュートはカードを引いた。

「トルクエルのスキルで、このカードをソウルに置きます。

 あたしはこれでターンエンドです!」

「僕のターン……スタンド&ドロー。

 ライド! 《砂塵の重砲 ユージン》!!」

 蒼天に白い羽根が舞い踊る。

 そこに暗雲が立ち込め、一筋の落雷がそれらを一瞬にして焼き尽くした。

 燃え盛る空を背に、眼帯の狩人が己の背丈ほどもある重砲を構え、鋭き眼光を上空に向ける。

 天を往く翼と、地を舐める雷が、楽園にて相対した。

「《砂塵の榴砲 ダスティン》をコール!」

「わっ、イケメン!」

「ダスティンのスキルで、手札1枚をソウルに置き、1枚ドロー!

 さらに《突貫竜 トライバッシュ》をコール! この2体をレストして、ユージンのスキル発動! ヘリュエルを退却させるよ!」

「た、退却!? まだバトルもしていないのにですかぁ!?」

「これがユージンの恐ろしいところ。まだまだこのくらいじゃ済まないわよ」

「《堅城竜 ジブラブラキオ》をコール! ジブラブラキオをレストし、SB1することで、マリブエルを退却させる!」

「わわわ、あたしのユニットが全滅しちゃいましたぁ!」

(……けど、彼にしては大人しいのよね。ダスティンも前列でレストさせたままだし。ユージンのもうひとつのスキルも使わなかった。さっきからキナ臭いわぁ)

 ジュジュが再び心の中で訝しむ。

「バトルフェイズ開始時、ジブラブラキオはスタンドし、パワー+5000!

 ユージンでヴァンガードにアタック!! アタック時、トライバッシュをソウルに置いて、★+1!」

「このアタックを受けると2ダメージですか!? ふ、防がなきゃ!

 ユージンさんのパワーは23000なので、15000ガード! ……だとトリガー1枚で貫通されちゃうから、2枚の《青空を舞う翼と アンティア》でガード! ガード値30000で、アレスティエルの合計パワーは40000! これでトリガーを2枚引かれなければ貫通されません!」

「あら。もう私のアドバイスなんて必要ないわねえ」

「そ、そんなことないですよう……」

「ツインドライブ!!

 1枚目……引トリガー! 1枚引いて、パワーはジブラブラキオに!

 2枚目……(ヒール)トリガー! ダメージ回復して、このパワーもジブラブラキオに!」

「むぅ。せっかく与えたダメージが回復されちゃいましたぁ……」

「…………ジブラブラキオでヴァンガードにアタック」

 数瞬の逡巡の後、リュートが次のカードを傾ける。

「点止めしようか悩んだけど、自重したでしょ」

 もちろん陰気な少女はそれを見逃さない。

「うるさいな。しなかったからいいだろ」

「?」

「フランちゃんは気にしないで。どうする? ガードする?」

「……いえ。防ぐのには2枚以上の手札を使いますし、カウンターコストも欲しいです。ここはノーガードです!」

 フランのダメージゾーンに3枚目のカードが置かれる。

 これでダメージは3対3で並んだ。

「あたしのターンです! スタンド&ドロー!

 ライド!! 《双翼の大天使 アレスティエル》!!」

 白と黒の翼が天を覆うように広げられ、世界を優しく包み込む。

 その主こそ、翼と同じモノクロームの髪をそよ風に遊ばせる大天使。

 憂いに満ちたオッドアイで地上を見守り、秩序と混沌をもたらすのだ。

「アレスティエルのスキル発動! バインドゾーンのカードを手札に加え、山札の上のカードを新たにバインド! ……あっ! トリガー! 偶数カードなので黒翼になっちゃいましたぁ」

 大天使の白い翼と白い髪、それら黒く染まってゆき、顔つきも悪戯っ子めいたものへと変化していく。

「デッキには白翼のカードしかないのに、どうしよう……」

「大丈夫よ。そのために、さっき手札に加えたカードをデッキに入れていたんでしょう?」

「あっ! そうでした!

《信奉する秀才 ビブエル》をコール! SB1、このユニットを退却させることでビブエルのスキル発動!

 1枚引いて、バインドゾーンにあるトリガーのグレードを+1します! これで白翼になりましたぁ!」

 天使の翼が、今度は白へと移り変わる。それにつれて顔つきも生真面目そうな優等生然としたものに変化した。

「これで白翼スキルが使えますねっ! 手札からヘリュエルをコール! そのスキルで、さっきのSBでドロップに置いたトルクエルをスペリオルコール!

 ……如月先輩の使うユージンさんって、さっきみたいにユニットを退却させてくるカードですよね?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、このターンは手札を温存します!

 バトル、いきますよー!」

((……!?))

 これには上級生ふたりも舌を巻いた。

 あの1ターンの攻防だけで、リュートの構築を見切り、対抗策まで自分で考え出したと言うのか。

 ジュジュとリュートが同時にアイコンタクトを送り合う。

(この子は――)

(――絶対に逃がすな)

「ヘリュエルのブースト! アレスティエルでヴァンガードにアタック! 白翼なので、パワー+5000、★+1されてます!」

「い……いやぁー、すごいアタックだなぁー。もう僕じゃあ全然敵わないやー」

「へ? 何でいきなり猫なで声なんですか!? しかも棒読みですし……」

(バカ。あなたは普通にやりなさい)

 ゴマをするリュートに、ジュジュから再びアイコンタクトと、親指を下に向けたわかりやすいジェスチャーが飛んだ。

「……《白光竜 パラソラース》と《フレアヴェイル・ドラゴン》でガード! ダスティンとジブラブラキオでインターセプト!」

 少し傷つきながらも、リュートがカードを繰り出す。

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガーはありません。

 2枚目……引トリガー! 1枚引いて、パワーはトルクエルに!

 トルクエルでヴァンガードにアタック! 白翼スキルでパワー+10000!」

「……ノーガード」

 リュートのダメージゾーンに再び4枚目のカードが置かれる。

「トルクエルをソウルに置いて、あたしはターンエンドです」

「……僕のターン。スタンド&ドロー!

 ペルソナライド!! 《砂塵の重砲 ユージン》!!」

「おおっ! これが噂のペルソナライドですね!」

「どこで噂になっていたかは知らないけど、これでこのターン、僕の前列ユニットのパワーは+10000されるよ。さらに1枚ドローだ!

 そして僕は……プレアドラゴン《装撃竜 ストレガリオ》と《装剣竜 ガロンダイト》をコール!」

「プレアドラゴン? ……ああ、そういうこと」

「?」

 ジュジュはようやく得心がいったとばかりに頷き、フランははてなとばかりに首を傾げた。

「ユージンのスキルでプレアドラゴン2体をレストし、ヘリュエルを退却!

 ユージンの、もうひとつのスキルも発動! SB5することで、山札の上から相手の空きサークルの数だけ……つまり5枚を見て、好きなだけスペリオルコールできる!

《装閃竜 ブラマーダ》、《砂塵の襲弾 オズワルド》、そして……《トリクスタ》をスペリオルコール!」

 赤い祈りの精霊が、黒白の羽根と雷光が踊る戦場をふざけるように飛び回り、天へと昇る。

 志を同じくする、武具の化身たる竜と共に。

「《トリクスタ》と《装撃竜 ストレガリオ》で《武装烈砲 バウルヴェルリーナ》にXoDress(クロスオーバードレス)!!」

「うわっ! 何だか強そう!」

「まだまだ! ストレガリオのスキルで、ドロップから《トリクスタ》をスペリオルコール! 《トリクスタ》と《装剣竜 ガロンダイト》で《武装宝剣 ガロウヴェルリーナ》にXoDress!!」

 クロスオーバードレス状態のユニットが2体、リュートの盤面に並び立った。

「…………」

 だが、当のリュートは何だか微妙な表情をしていた。

「? 如月先輩、どうしました?」

「あれは手加減するためにあえて未完成のデッキを持ち出したのに、デッキがガン回りしちゃって困ってる顔ね」

 首を傾げるフランに、ジュジュが解説してくれる。

「……いや。淵導さんには素質がある。もう僕は君を初心者だとは思わない。全力でやらせてもらう!!」

 もっともらしい言い訳をしながら、リュートがバトルを宣言する。

「オズワルドのブースト! ユージンでヴァンガードにアタック! 合計パワーは41000!」

「ふ、防げませんよ、そんなのー! ノーガードです!」

「ツインドライブ!! ……2枚ともトリガーは無かったよ」

「ほっ……。ダメージチェック……あたしもトリガーはありません」

 これでフランのダメージは4点になり、リュートと並んだ。

「けど、まだ終わりじゃない! 相手のリアガードがいないので、オズワルドのスキルでユージンはスタンドする!!」

「ええーっ!? あたし、ユニットをコールしなかったの、裏目になっちゃいましたぁ!?」

「いえ。ユニットをコールしていたところで、バウルヴェルリーナに全滅させられていたから間違いじゃないわ」

「ユージンで再びヴァンガードにアタック! オズワルドの効果でドライブは1になっているけどね」

「それでも1回ドライブチェックがあるんじゃないですかぁ! えっとぉ……あ! このカード! 《プライベートは塩対応 デシエル》で完全ガードですっ」

「ドライブチェック……★トリガー! 効果はすべてガロウヴェルリーナに!

 ブラマーダのブースト! ガロウヴェルリーナでヴァンガードにアタック! このアタックは2枚以上コールしなければガードできない!」

「えっ、ええっ!? これも完全ガードしたい場合はどうしたら……?」

「完全ガードともう1枚をコールして、さらに完全ガードのコストでもう1枚の手札を捨てることになるわ。計3枚の手札を消費させられるわね」

「……けど、ガロウヴェルリーナのパワーは58000。とてもじゃないけど防げません。《勤勉なる従者 シグエル》とデシエルでガード。手札を1枚捨てて、完全ガードです」

「バウルヴェルリーナでヴァンガードにアタック! アタック時、相手の空きサークルが5つなのでパワー+10000! さらにこのカードはドライブチェックを行う!」

「もうやだーっ!!」

 フランが悲鳴をあげる。

「…………」

 これでフランがカードファイト部への入部を拒否することになったら、リュートをブン殴ってやろうと、ジュジュは心に決めた。

「ここは……勇気のノーガードですっ! ★2のガロウヴェルリーナと違って、こっちはドライブチェック! ★トリガーさえ引かれなければ負けにはなりませんっ!」

「うん、そうだね。……ドライブチェック!!」

 緊張の一瞬。

 みっつの視線が、リュートのめくるカードに熱く注がれていた。

「ゲット……」

 リュートがカードをゆっくりと表に向ける。

「……引トリガー。……残念。1枚引いて、パワーはバウルヴェルリーナに」

「ダメージチェック……トリガーはありません」

「僕はこれでターンエンドだよ」

 これがティーチングファイトだと言うことをすっかり忘れてしまっているのか、リュートが悔しそうにターン終了を宣言した。

「ああーっ!! ヒヤヒヤしちゃいました! まだ心臓がドキドキ言ってますー!」

「楽しんでもらえて何よりだけど、まだ勝負が決まったわけじゃないわ。さっきの引トリガーでリュートの手札は5枚になってる。しっかり展開しないと勝ちきれないわよ」

「はいっ! 気を引き締め直します! スタンド&ドロー!

 まずはあたしもペルソナライド! 《双翼の大天使 アレスティエル》!!」

 フランがヴァンガードに重ね合わせたカードを見て、リュートは思わず目を見張った。

 白と黒のステージ衣装を纏ったアレスティエルが描かれた美しいカードだ。

「そ、そのカードは……!?」

「? アレスティエルのLSR(リリカルシークレットレア)じゃない。確かに高価なカードだけど、わざわざファイトを止めるほど珍しいカードでもないでしょう?」

 リュートの反応に、ジュジュが訝しむ。

 カードを集めはじめたばかりの初心者が手にしているには違和感のあるカードだが、偶然このカードを当てたからこそアレスティエルを使い始めたという可能性もある。

 それでも、このカードの出自だけは、どうしても確かめておかなければならない予感がした。

「このカードですか? このカードはあたしの恩人から頂いたんですっ!」

 フランの言葉を聞いて、リュートの予感は確信に変わった。

 こんな高価なカードをほいほい他人に託せる人など、リュートはひとりしか思いつかない。

「差し支えなければ、このカードを手に入れた経緯を教えてもらってもいいかな……?」

 リュートが尋ねると、フランも話したそうに「はいっ!」と勢いよく頷いた。

「あたしがこの火傷を負ってからひと月ほど経ってからのお話です……」

 火傷痕にそっと触れながら、彼女は再び語り始める。

 

 

 それは火傷の治療が終わって、病院を退院した日のことでした。

 あたし、今ではこんなですけど、さすがに火傷してからしばらくは結構ショックでして……。

 包帯をはずしてもいいと言われていたんですけど、ふた目と見られないような醜い顔になっていたらどうしよう。お友達が受け入れてくれなかったら。みんなに不気味がられたらどうしようって。そんな不安ばかりがぐるぐると渦巻いて、それをする勇気が持てなかったんです。

 気が付けば、あたしは夜中に家を飛び出して、近くにある公園のブランコで黄昏てました。

 その時です。あの人に声をかけられたのは。

「おや。こんなところにも悩める少女がいるみたいだね」

 不思議な女性でした。

 古風な黒いドレスを着た、白い髪のお姉さんです。

 どこか人を安心させるような雰囲気があり、気が付けばあたしは自分が火傷した経緯から、包帯をはずすのが怖いといった弱音まで、その人にぶちまけてしまってました。彼女は微笑みながら、されど真剣な表情で私の話を聞いてくれていました。そして、このように提案するのです。

「では、私の前でその包帯をはずしてみてはくれないか? 君の顔がどうなっているか、私が正直に答えてあげよう」

 友達に見せるのも恥ずかしかったのに。あたしは初対面なその人の前で包帯をはずすことに決めました。そして恐る恐る包帯をはずしたあたしに、彼女は言うのです。

「……ああ、とても綺麗だ」

 と。

「お世辞を言っていませんか?」

 さすがにあたしは訝しんで、そう尋ねました。

「世辞じゃない。だから、そんなむすっとした顔をせず笑ってごらん?

 君は顔を焼かれたその時も、ずっと笑顔でいたんだろう? きっと、その男の子を励ますために。不安がらせないために」

「何でそんなことがわかるんですか?」

「わかるさ。だって君の火傷痕は、笑顔の形で固まっているもの」

「……!?」

 そんなこと、医師も看護師さんも言ってはくれませんでした。気づいてはくれませんでした。

「この傷痕は君の勇気と優しさの証だ。それを私は『綺麗』以外の言葉では表現できないよ」

 あたしの火傷を、そんな風に認めてもらえたのは初めてでした。

 あたしの顔面から、みるみるうちに涙やら鼻水やらが溢れだします。お姉さんはあたしが泣き止むまでぎゅっと抱きしめてくれました。

 そして、あたしが落ち着いたのを見計らうと、1枚のカードを手渡してくれました。

「君の勇気に対するご褒美に、このカードをあげよう」

 それがあたしとアレスティエルとの出会いだったんです!

「この天使は、清廉な白と、奔放な黒。ふたつの顔を併せ持ち、どちらが本当の自分かと思い悩んでいる。だけど舞台では、そのふたつの個性を生かして、皆に最高の笑顔を届けるんだ。

 君はこれからの人生、その火傷のために思い悩む時がまたきっと来るだろう。けれどこのアレスティエルのように、白と黒、正と負、陽と陰。すべて自分の一部なのだと受け入れる勇気を手にして欲しい」

「は……はいっ!!」

「本当はそのカードの使い方を教えてあげたいところなのだけど……」

 そう言って、女の人は立ち上がりました。

「残念ながら先約があってね。最近忙しくて会えなかったよき友人に、今日は久しぶりに会えるんだ」

 心なしかこれまでに見たどの表情より楽しそうです。

「フランちゃんは、まだ中学生かな?」

「はいっ! 中学3年生ですっ!」

「もし君がそのカードに興味を持ったのなら、五洲高校のカードファイト部を尋ねるといい。少し頼りないけど優しい先輩が、きっと懇切丁寧にルールを教えてくれるだろう」

 お姉さんは予言するように告げると、あたしがぱちくりと瞬きした瞬間には闇に融けるようにして消えちゃってました。

 まるで夢を見ていたような、不思議な時間でした。

 

 

「それは……きっと夢じゃないよ」

「……? うわぁ! 如月先輩、もしかして泣いてます!? どこか痛いんですか!?」

 気が付けば、リュートはぼろぼろと大粒の涙を零していた。

「しばらくそっとしておいてあげて」

 いつになく神妙な表情をして、ジュジュがフランの肩に手を添える。

(僕が、僕だけがあの人の生きた証だなんて、とんだ自惚れだった……。あれだけ壮絶な生き方をした人が、影響を与えたのが僕だけだなんて、そんなことあるはず無いじゃないか。

 あの人は、まだ生きてる。皆の心の中に。まだ僕の知らない人達の中にも、きっと……)

「カミラさん、そこに、いたんだ……」

「ふえ!?」

 急に知らない人の名前で呼ばれ、フランは奇妙な悲鳴をあげた。

「……いや、ごめん。淵導さん。君はカミラさんじゃない。

 けど、この後でちゃんと話すよ。君が出会った女性のこと。少し長くなるけど、君には聞いて欲しいんだ」

「? わかりましたっ!」

「ありがとう。まずはこのファイトを終わらせよう。

 全力で来るんだ淵導さん! 僕はこのターンを耐え切って見せる!」

「はいっ!! まずはアレスティエルのスキルでバインドゾーンのカードを手札に加え、山札の上から1枚をバインドゾーンに! ……G3、奇数なので白翼ですね!」

「ちょっと待って。そのカードは……」

 ジュジュが指さすバインドゾーンのカードは《降り注ぐ歌声 エルケエル》

「このカードがバインドされている場合、白翼と黒翼の両方が有効になるわよ」

「そ、そうでしたーっ!!」

 大天使の翼が再び変化していく。右の翼は宵闇の如く穏やかな黒に。左の翼は太陽の如く力強い白へと。

 黒と白。己のすべてを受け入れた天使の少女は、大天使の名を冠するに相応しい、慈愛に満ちた微笑を浮かべながら天空へと飛翔した。

「白翼効果でアレスティエルのパワー+5000、★+1! さらに黒翼効果で、相手ユニットのパワー-5000ですっ!」

 舞い散る白い羽根が味方の勇気を奮わせ、黒い羽根が敵対者の士気を挫いていく。

「まだまだ! あたしのターンはここからですよ! 《曇りなき心 ミアエル》をコール! スキルでドロップのトルクエルを手札に加え、そのままコール!」

「うっ、またトルクエルか……」

「《分け与える幸せ ダナエル》と《小さな平和 プラエル》もコールして、空きサークルは残り1枚……ここに《虹映える翼 エリムエル》をコールします!」

「!? まずいっ!」

「エリムエルのスキル発動! あたしの奇数ユニット3枚につき、リアガードのパワー+5000、★+1することができます!

 あたしが選択するのは、トルクエルとミアエル!

 これであたしの前列ユニットは、すべて★2ですっ!!」

「これは……まいったな」

 フランはえへんと胸を張り、リュートは困ったように頭をかく。

 ★はもちろんだが、どのラインもパワーが高い。

 アレスティエルが36000、トルクエルが46000、プラエルは32000だが、それをブーストするダナエルは+25000のパンプを他のユニットに与えることができるのだ。

 パワー8000に弱体化したヴァンガードでは、到底防ぎきれるパワーではなかった。

「いっきまっすよー!!

 アレスティエルでぇ……ヴァンガードにアターック!!」

 フランが拳を突き出し宣言した瞬間、アレスティエルのカードから眩い閃光が放たれ、リュート達を包み込んだ。

 

 

 白い輝きを放つ光の槍が、次々と大理石の石畳に突き刺さる。

 飛び退くのが数瞬遅ければ、自分は串刺しになっていただろう。

 思わずその姿を想像し、ユージンは身震いした。

 ここはリリカルモナステリオ。……にあるどこかの庭園。正式な名前もあるのだろうが、ユージンはよく知らない。

 この学園に在籍する吸血鬼から、かつて受けた依頼の代金を請求するため、リリカルモナステリオに忍び込んだはいいが、アンニュイな表情を浮かべて夜空を散歩していた天使の少女に見つかり、急に攻撃されたのだ。

「あなたの目的は何!? 覗き? それとも盗撮? 素直に白状して大人しくするのであれば、警備員に引き渡すだけで許してあげます! ……その後の処遇は、知ったことではありませんけど」

 アイドルらしいよく通る声で、上空から白い翼の天使が、魔力で創られた光槍を油断無く構えながら警告する。

(いや。この状況は、俺に非があるか……)

 このままでは誇り高き砂塵の銃士が、覗き魔のレッテルを貼られてされてしまう。それだけでは何としてでも避けなければならない。

「オーケー。まずは話し合おう」

 顔を見られないよう帽子を深々と被り直し、身を隠していた噴水から、両手を挙げながらユージンは姿を現した。

「覗き魔と交渉の余地はありません」

 この潔癖そうな嬢ちゃんの中では、自分はすでに覗き魔として確定しているらしい。なんてこった。

「俺はフェルティローザって吸血鬼の女と話し合いに来たんだ。というか事前に連絡も入れていたんだが。あんた、心当たりは無いか?」

「……ああ、あのことですか」

 槍の先端はユージンに向けたまま、何かを思い出したように、天使の少女が上を向く。

 お、いいぞ……。

「フェルティローザさんは『そんなやつ、知らなーい』とおっしゃっていましたが」

「あんのクソ吸血女あぁっ!!」

 思わず漏れたユージンの怒声を、敵対行為と受け取ったのだろう。

 天使の少女が、光槍の投擲を再開する。

 まさか学園で戦いになるとは思っておらず、拳銃ひとつも携帯していなかったユージンはひたすら逃げ回った。

 その少女は魔力の扱いにこそ長けているようだが、戦闘経験は皆無らしく、投擲の精度は甘い。そもそもユージンを殺すつもりも無いのだろう。素人が手足を狙って投げるものだから、あらぬ方向に飛んでいく槍も多かった。

(これなら余裕で逃げ切れるな……)

 ユージンが安堵した、その時だった。

 上空にいたはずの天使の気配がフッと消えた。

 何が起きたとユージンが訝しんだ瞬間、その眼前に黒い翼の天使が姿を現した。

(もうひとりいた……!?)

 ユージンははじめ、そう錯覚した。

 それほどまでに、上空にいた白い天使と、眼前にいる黒い天使とでは気配が違う。

 だが、眼前にいる天使の少女は、髪と翼が黒く染まっていることを除けば、上空にいた白い天使と容姿が似すぎていた。

「まどろっこしいなあ。こんなやつ、直接捕まえちゃえばいいじゃない」

 ガラリと口調も変えて、黒い天使が力任せの掌底を放つ。ユージンはそれをギリギリでかわしたが、こんどは脇腹めがけて強烈な蹴りが襲い掛かった。

 先ほどとは打って変わっての、徒手空拳による近接戦。だがやはり戦闘経験が乏しいのか、殴り合いは不得手のユージンでもどうにか捌くことができる。このままでは埒が開かないと判断したのか、少女は再び翼の色と気配を変化させ、上空に飛び上がった。

「悔しいですが、私ではあの男に敵わないようですね……」

 荒い息をつきながら、白い翼の天使が認める。

「お、ようやく諦める気になったか……?」

「ですので、私たちの力を合わせましょう」

 天使の翼。その右半分だけが黒く染まっていく。それと同時、ユージンの察知していたふたつの気配が、彼女の中でひとつに混ざり合うのを感じていた。

 天使の少女は、左手に光、右手に闇の魔力を生み出すと、それらを掌中で融合させていく。

「まずいっ」

 ただならぬ気配を感じたユージンは、迷うことなくクジラの外、遥か上空に身を投げ出した。

 次の瞬間、閃光の弓から暗黒の矢が放たれ、それは石畳を抉り、夜空を焦がすほどの大爆発を起こす。

「覚えてやがれえええぇぇぇ!!」

 パラシュートを開きながらユージンは捨て台詞を残すのが精一杯であった。

 

 

 そして遥か上空で――

 取り巻きと一緒に甘い物をつまみながらその光景を見下ろし、腹を抱えて笑っている吸血鬼がいたことを、ユージンも天使の少女も知ることはなかった。

 

 

「あらあら。リュートが負けちゃったわね」

 からかい半分。だが、驚きも半分といった調子で、ダメージゾーンに置かれた6枚目のカードを確認したジュジュが呟いた。

「すごいじゃない、フランちゃん。……あら? どうしたの、フランちゃん?」

 フランの目からは光が消え、視線を虚空に彷徨わせていたが、ジュジュに軽く揺すられると、はっと寝起きのような声をあげ。

「ユ、ユージンさんと、アレスティエルの戦いはどうなりました!?」

 と叫んだ。

「……え? ファイトの話? 6点目のダメージをリュートに与えたから、このファイトはフランちゃんの勝ちよ」

「え? あ? あ、あたしが勝ったんですか? やったぁ!!」

 状況がうまく呑み込めていないながらも、諸手を挙げて喜ぶフラン。

「おめでとう、淵導さん。僕の完敗だよ」

 悔しさを滲ませながらも、リュートは少し大仰な拍手で彼女を称えた。

「そんなぁ。ジュジュ先輩の的確なアドバイスがあったからですよぉ」

 フランがデレデレしながら頭をかく。そんな彼女に、リュートは真剣な表情で向き合った。

「淵導さん。改めて確認させて欲しい。

 君はこのカードファイト部に、入部してくれるかな?」

 リュートがおずおずと手を差し出す。

「はいっ、もちろんです!」

 フランはその手を両手で握りしめ、即答した。

「こんな刺激的なゲームが、これから毎日遊べるだなんて、もう今から楽しみですー!!」

 言いながら、リュートの手をぶんぶんと振るう。

「あはは……一応、部活動だから、遊んでばっかりじゃダメなんだけどね」

 こうしてゴス校カードファイト部に、新たな仲間が入部したのであった。

 

 

「……そうですか。あたしの会ったお姉さん。……カミラさんは亡くなられたんですね」

 ――下校中。

 歩道をゆっくり歩きながら、リュートはカミラの話をフランに伝えていた。

 歩道は狭く、すぐ隣を道路が通っている。一応ガードレールが敷かれてはいるが、念のためふたりは縦に並んで歩いていた。

 やや話しにくいが、ちょうどよかった。今でも彼女の話をするだけで、リュートの顔は情けなく歪んでしまうのだ。

 こんなところ、新しくできた後輩の女の子にだけは見られたくない。

「うん。10月から11月にかけてと言えば、僕が忙しくてカミラさんにあまり会えてなかった時期だし、君が出会ったのはカミラさんで間違いないと思うよ」

 偶然カミラと遭遇したことからも想像できる通り、リュートとフランの家は近く、降りる駅までふたりは同じだった。

 ちなみにジュジュは家が逆方向のため、彼女とは校門前で別れていた。

「じゃあ! カミラさんが言っていた少し頼りないけど優しい先輩って、やっぱり如月先輩のことだったんですねっ!」

「そ、それはどうだろうなー。ジュジュだっているし。ははは」

 そうなのだとしたら、そのリュートに対する過度の信頼は、まさしくカミラのものだったが。

「あたしの家の近くにもカードショップはありますし、ファイトする機会だけならこれまでいくらでもあったんです。けど、初めてのファイトは、カミラさんの言う優しい先輩としてみたくて。あのお姉さんがああまで言う人のことだから、きっと素敵な人なんだろうなって……ずっと楽しみだったんです!」

「あはは……それじゃガッカリさせちゃったかな」

「そんなことありません! あたしの想像より、ずっと誠実で素敵な人でしたっ!」

 リュートの背で、少女が両拳をぎゅっと握りしめる気配がした。

 そういうことは思っていても口には出さないで欲しい。こういう人を褒める時の裏表の無さは、奇しくもカミラにそっくりであった。

 気恥ずかしさを覚え、リュートが目を逸らすような心地で道路側へと視線を向ける。

 そこに1匹の黒猫がいた。ちょうど西日が当たる道路の真ん中で、気持ちよさそうに日向ぼっこをしている。それと同時、遠くからトラックのエンジン音が聞こえた。はじめは小さく見えていたトラックがみるみるうちに大きくなり、黒猫に迫る。車高が高い。もしかしたら黒猫に気付いていないかも知れない。

(これは危ないかも……?)

 とリュートが考えた、その時だった。

「あぶにゃーい!!」

 背後の少女は、その考えをすぐさま行動に移していた。ガードレールを跳び越え、黒猫めがけて見事なダイビングを慣行。アスファルトと肉が擦れるザリザリという音が、屋外だと言うのに嫌によく響き、そこをトラックが速度を一切落とさずに通過していった。

 リュートの目には、フランがトラックに轢かれて消えたようにしか見えなかった。

 だが、彼女はトラックが通過する寸前に全身を丸め、どうにかトラックとの衝突を回避したようだ。道路の隅では、卵のように丸っこくなった体勢でフランが転がっている。

 また、彼女が捨て身で助けようとした黒猫は、彼女が飛び掛かってきた瞬間、あろうことかその頭を踏み台にし、塀の上に避難すると、面倒くさそうにあくびをしながら、またひと眠りをはじめたところだった。この反応速度なら、フランが飛び掛からずともトラックは避けていただろう。

「ふうー。よかったです。黒猫ちゃんが無事で」

 何事も無かったかのようにフランも起き上がり、ガードレールを跨ぎながらこちらに戻ってくる。

「いや、よくないよ!!!!」

 リュートは絶叫した。

「無謀なことはしないって約束しただろ!? 一歩間違えれば、し、し、死んでたぞ、今のは!?」

 ここまで感情に任せて叫んだのは、リュートにとっても初めての経験だった。

「ご、ごめんなさいぃ……。非常事態だと思ったもので……」

 その剣幕に気圧されたのか、フランも平謝りだ。

「だからその非常事態でも、1歩立ち止まって考えろと言ったんだよ!!」

 怒鳴りながら、リュートはフランの全身をくまなく確かめた。異性を相手に不躾な視線だったが、そうも言っていられない。

 アスファルトにヘッドスライディングなどかましたため、細い脚を包むタイツは無惨に破れ、その下から覗く白い肌には今できたばかりの生々しい擦り傷と、今できたとは思えない古傷が混在していた。

 いったいどこの古強者だ。衣替えの季節が怖い。

「君は……毎日がこんな感じなのか?」

「え? はい、まあ、さすがに毎日じゃありませんけど、怪我はしょっちゅうですね。あたし、そそっかしくて……」

 いやそれはそそっかしいのが原因じゃない。

(この子は……危険だ)

 カミラと違って壮健ではあるが、絶対に長生きできないタイプである。

 今のままだと、20歳の誕生日を迎えるまでに必ずどこかで命を落とす。

 確信にも似た嫌な想像に、リュートの全身に怖気が奔り、気付けば胃の内容物を吐き出すような心地で叫んでいた。

「君はもう……僕の傍を離れるなっ!!」

「……へ?」

 フランが大きな瞳を左半分だけ、きょとんと丸くさせる。

「え、えっと、その、恋人でもない人に、さすがにそれは……」

 そして顔を赤らめると、照れたように火傷痕をぽりぽりとかいた。

 その反応に、リュートも自分が何を言ったかをよくよく思い返し、その内容に赤面した。

「い、いやっ! さっきのは言葉の綾で……」

 慌てて弁明しながら両手を突き出す。この場にジュジュがいれば「また空回りしてる」と鼻で笑われたに違いない。

 そんなリュートの手を、フランが優しく包み込むように握りしめてきた。

「先輩があたしのことを本気で心配してくださっているのは伝わりました。

 今後は先輩があたしのことを常に見張って……もとい見守っているものとして行動し、危険な行為は可能な限り慎みます。

 でも……あたしはこんなですから。本当にあたししかいないと判断した時には、きっとまた命を投げ出してしまうと思います。

 そのために危機に陥ってしまうこともあるかも知れません。

 けどその時には……きっと先輩が助けに来てくださると信じてますっ! ああまで啖呵を切ったんですから、責任は取ってくださいねっ!」

 そう言ってフランはおどけたように笑った。

 かつてカミラの言った通り、彼女は笑うと火傷で引きつった右半分と、左半分が、パズルのピースが合ったように噛み合い、火傷痕がほとんど目立たなくなる。

 その笑顔は年相応に愛らしく、人を惹きつける不思議な魅力に満ちていた。

「……善処するよ」

 ここで気の利いたセリフを言えないのがリュートのリュートたる所以ではあるが。

「やったぁ!」

 フランは嬉しそうにひとつ飛び跳ねると、リュートの腕に自分の腕を絡めてくる。

「これからよろしくお願いしますね、リュート先輩っ♪」

 この笑顔だけは守らないとなと、リュートは今も心に息づく大切な人へと固く誓った。




ヴァンガード・ゴシックのエピローグ。
リュートが新たな生き甲斐を見出す物語。
題して「エピローグ・オブ・ゴシック」をお送りさせて頂きました。

新主人公として、傷だらけのツギハギ少女、淵導フランも登場です。
使用デッキはアレスティエル!!

本来、この「エピローグ・オブ・ゴシック」をもって完結予定だったヴァンガード・ゴシックを、あと1年続けようと決めた理由は、実のところ彼女の存在が大きいです。
顔半分に火傷痕があり、それを隠そうともしない、なかなかアニメや漫画では登場させにくそうなヒロインですが。
だからこそ、エピローグ限りのキャラクターで終わらせてはもったいない。
この子とリュートの物語は、1年かけて挑戦する価値があると判断しました。

今週月曜日に発売された、某有名週刊少年漫画雑誌に連載されている某魔女観察漫画と、名前からモチーフまで丸被りしてしまうという、いらん奇跡も起きましたが。

ともかく、次からはヴァンガード・ゴシックの第2部がはじまります!
次回は5月1日に更新予定です。
御期待頂ければ幸いです。
感想などもお待ちしております!




まったくの余談ですが、最高級のヴァイオリンの値段より、50000枚あればそれが買えるスワラーの方がすごい気がする……。
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