ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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第2部
第1羽「運命を変える翼」


「……えっ?」

 その言葉を聞いた時、普段はツンツン尖らせている瞳を丸くして、高槻(たかつき)メイは硬直した。

「……どういうこと? お姉様が、カミラさんが亡くなったって……」

 震える声で問い返す。

「そのままの意味だよ。カミラさんは死んだんだ。……あの人の病気は、君が思っているよりも、ずっと重かったんだ」

「知ってたの?」

「え?」

 次の言葉は、頭の回る彼女らしく即座に返ってきて、今度はリュートが返答に窮する番だった。

 その様子を肯定と捉えたメイは、さらにまくしたてる。

「知ってたんだ。そうやって何も知らないあたしがカミラさんに懐いているのを見て、心の中で憐れんでたんだ」

「っ……!」

「それとも、もしかして嗤ってた? 人が病気で死ぬことを想像もできてなかった、無知なお子様だって」

「待って、それは違――」

 リュートが慌てて口を開いた瞬間、乾いた音が彼を黙らせた。

 頬を張られたのだ。

「最っ低っ……!!」

 涙を湛えた瞳でリュートをきっと睨みつけると、背を向けて駆け出し、メイの姿はあっという間に見えなくなった。

 ポツンと取り残されたリュートは、メイに打たれた頬を押さえる。

 そんなに力は強くなかったはずなのに、まるで焼印を押し付けられたかのように熱を帯び、それは今も少年の心を蝕み続けている。

 

 

「リュート先輩っ! あたしをカードショップに連れて行ってはくれませんか!?」

 いつもの部室――今日も名状し難き存在を祀る祭壇には、新鮮な心臓が捧げられている―ーで物思いに耽っていたリュートを現実に引き戻したのは、快活な後輩の声だった。

 淵導(えんどう)フラン。

 肩に届くか届かないかのあたりで髪を切り揃えた小柄な少女だが、その愛らしい童顔の右半分は痛々しい火傷痕で赤黒く変色していた。しかし、小動物を思わせる人懐っこさは、それを補って余りある愛嬌があるとリュートは思っている。

「……えっと、どこの店かな?」

 フランの言葉を精査してみるも、いまいち要領が得られなかったので尋ね返す。

「はいっ! 『ニアミント』ってお店です!」

 その店の名前を聞いた瞬間、リュートの表情が固まった。

「これまでは家の近くにある、老夫婦が経営されていたカードショップに通っていたんですけど、店を閉めちゃうらしくて……」

「……ああ、あそこ無くなっちゃうんだ」

 フランと家の近いリュートは、その店も知っている。だが、小さな店で品揃えがあまりよくなく、だんだん物足りなさを感じてきて、リュートは『ニアミント』に通うようになったのだ。とは言え、カードショップというよりは駄菓子屋に近い暖かい雰囲気は、けっして嫌いではなかった。最後にもう一度だけ足を運んでおこうと、リュートは心の中で決めた。

「そうなんですよぉ! だからあたしも新しい店を開拓しなければと思いまして。あたしの家から次に近い店は『ニアミント』! 先輩ならきっとこの店のこともご存じではないかと思い、是非とも案内をしてほしいなと!」

「ああ、うん……。『ニアミント』なら、もちろん知っているけど……」

 リュートは言葉を濁すと、少し離れたところで『月刊 ネクロノミコン』などという怪しい本を読んでいる同級生に目を向けた。

「ねえ、ジュジュ。フランを『ニアミント』に連れていってくれないかな?」

「嫌よ。遠いもの」

 その同級生、雨宮(あまみや)ジュジュは本から顔をあげることもなく、ばっさりとリュートの頼みを断った。

「そうですよぉ。ジュジュ先輩の家からじゃ『ニアミント』は離れてるじゃないですかぁ」

 フランもそれに同意する。

()()()の後、『ニアミント』で何があったかだいたい想像はつくけれど……」

 ジュジュがようやく顔をあげてじとりとした目でリュートを見るが、今度はリュートが気まずそうに視線を逸らした。

「あの子と仲直りするにしろ、縁を切るにしろ、最後に話はしておいた方がいいんじゃない? なし崩し的に疎遠になるだなんて、一番後味の悪い終わり方だと思うけどね」

 言いたいことだけ言って、ジュジュはさっさと本に戻ってしまう。

「……そうだね」

 リュートは決意と観念がないまぜになった表情で頷くと、話についていけず小首を傾げるフランへと視線を戻した。

「ごめん。やっぱり『ニアミント』には僕が行くよ。今週の日曜日でいいかな?」

「えっ? あっ、はいっ! やったぁ!」

 よく分からないなりに、飛び跳ねて喜ぶフラン。

 自分とカードショップに行くのがそれほどまでに嬉しいのか。

 疑問に思う反面、悪い気はしないリュートだった。

 

 

 そして週末――

「わぁっ! 大きい! カードの品ぞろえもすごいですね!」

 カードショップ『ニアミント』に入るなり、フランは歓声をあげた。

 実のところ『ニアミント』もカードショップ界隈では小さい部類に入るのだが、フランがこれまで通っていた店は、ファイトテーブルがふたつしかないような店だったので、カルチャーショックを受けるのも無理はなかった。

「それに何だかいい香りがします」

「ここの店長は綺麗好きだから」

 他店と『ニアミント』との違いをあげるとしたらそこだろう。掃除は隅々まで行き渡り埃ひとつ見当たらず、磨かれたショーケースの奥には最新カードや貴重なカードが整然と列を成している。ストレージのカードも、1日でどれほどぐちゃぐちゃになっていたとしても、次の日には必ずカードナンバー順に整頓されているのだ。

 乱雑にカードが並べられただけのショップも多い中、その丁寧な心配りは他の追随を許さない。

 リュートもこの店でバイトしていた頃は、清掃について厳しく指導されたものである。

「おや? リュート君じゃない、ひさしぶりー」

 噂をすれば、長い黒髪を動きやすそうなポニーテールでまとめた『ニアミント』の店長がバックヤードから顔を出した。

「お久しぶりです、店長」

 リュートも軽く会釈する。

「そっちの子は? お、もしかして彼女?」

「いえいえ! あたしは淵導フランと申します! 五洲(ゴス)高カードファイト部の一員で、リュート先輩の後輩です!」

 リュートが紹介するよりも早く、フランが前に進み出てペコリと頭を下げた。

「あら、そうなの。今後ともごひいきによろしくねー」

 この点はあまり心配はしていなかったが、店長はフランの火傷痕を見ても眉一つ動かさず、いつも通りの笑顔を見せた。

 この人は、たとえゾンビが来店したとしても他の客と同様に扱うだろう。それくらいの胆力と安心感がある。

「ところで店長。今日、メイちゃんは来ていませんか?」

 リュートが周囲をきょろきょろと落ち着かない様子で見渡しながら尋ねる。

「メイちゃん? まだ来てないよ」

 それを聞いて安心してしまった自分に、リュートは軽く自己嫌悪を覚えた。

(ジュジュの言う通り、本当は話をしなくちゃいけないのにな……)

「先輩! さっそく店を見て回りましょうよ! あたし、フェスティバルコレクションのカードが欲しいんです! 昨日、パックは買ったんですけど、アレスティエル関連のカードがあまり当たらなくて……」

 物思いに耽るリュートの腕に自らの腕を絡めてフランが引っ張る。爽やかに否定したくせに、距離感が近すぎて、傍目に見ると彼氏彼女の(そういう)関係にしか見えない。

「そうなんだ。最新弾のカードはこっち……」

「フェスコレのアレスティエル関連カードなら、特価ストレージにも残ってるよー。状態にこだわらないなら、そっちのが格安だよ」

 と店長が口を挟んでくる。

「!! それはいい話を聞きました! 先輩、まずはそちらに行きましょう!」

「う、うん……」

 さすが店長は商売上手だ。

 結果、フランは特価の文字に惑わされ、必要以上の買い物をしてしまうのだが。

「いやー、いい買い物ができました。《輝き満ちる光彩 ウィリスタ》までこのお値段で買えてしまうとは」

 本人は満足そうなのでよしとしようとリュートは思った。

「先輩! さっそく新しいカードを試させてください! ファイトスペースに行きましょう!」

「うん。ファイトスペースはこっちだよ」

 頷いて、リュートがフランを先導する。

 メイがいないのは残念だったが、やっぱりどこかホッとしながら、奥まった場所にあるファイトスペースを覗き込んだ。

「…………!?」

「っ!!」

 そこで、ちょうどファイトスペースを出ようとしていたメイと鉢合わせになってしまった。

「……リュートぉっ!!」

 瞬間、ファイトの戦績がよかったのだろうか、上機嫌な表情を見せていたメイの表情が、ここで会ったが100年目と言いたげな、鬼の形相に変化した。

(メ、メイちゃん!? いるじゃないか!!)

 リュートが非難するように店長を見るが、彼女は明後日の方向を向きながら下手くそな口笛を吹いていた。

 だがきっと彼女の想いもジュジュと同じなのだろう。

 その結果、たとえリュートという常連に嫌われたとしても、だ。

(店長……)

 そんな店長の願いが痛いほど伝わり、リュートは改めてメイと向かい合う決意を固めた。

「リュートッ!! あんたにはどうしても言っておかなくちゃならないことがあったのに……!!」

「ひいっ!」

 だが、怒り狂うメイの迫力に、リュートは思わず後ずさった。

 情けない話ではあるが、それほどまでにメイの声は憤怒と……悲嘆に満ちていた。

 かつて打たれた頬がズキリと痛む。

「逃げんなっ!!」

 リュートを追うように、メイが足を踏み出す。

 そんなふたりの間に、ひとりの影が割って入った。

「ちょっと待ったぁ! 弱いものいじめは見過ごせません!!」

 正義感と行動力の権化、淵導フランである。

 見栄を切るように片手を突き出してメイの侵攻を制している。

「弱いもの……」

 その背後でリュートがちよっぴり傷ついてもいたが、この状況で否定はできまい。

「はぁ? あんた誰?」

 当然のことではあるが、不愉快そうにメイが尋ねる。

「あたしは淵導フラン! リュート先輩の後輩です!」

 フランは、これまたヒーローの如く堂々と名乗りをあげた。

「リュート先輩が怖がってるじゃないですか! 何があったのか知りませんが、まずは落ち着いてください!」

「……ふぅん。かわいい後輩に庇ってもらって、大層なご身分ね。リュート?」

 ここぞとばかりに、メイがあざけるように笑う。怒気こそ鳴りを潜めたが、迫力はむしろ増していて怖い。

「そういうのもやめてください。リュート先輩は、喧嘩なんてできない優しい人なんです」

 それに一切臆さず、フランも声を低くして言い返した。こっちも怖い。

 ふたりの少女の間で、見えない火花がバチバチと散る。

「そこをどいて。あたしはリュートに用事があるの」

「どきません。どうしてもどかしたいのなら……」

 フランが自分のデッキを取り出し、メイに突き付けた。

「これで決着をつけましょう!」

「はっ! そういうことを言える女の子は嫌いじゃないけど、今日は虫の居所が悪かったわね。

 いいわ。コテンパンにしてあげる」

 メイが踵を返し、ついて来いとばかりに空いている席へと歩き出した。

 

 

 フランと向かい合う形で席についたメイを、リュートはようやく落ち着いて観察することができた。

 まず背が伸びており、小学校4年生くらいにしか見えなかった昔と比べて、今はちゃんと中学校1年生に見える。

 短いまま無理やりサイドテールにしていた栗色の髪は、今やすっかり伸びきっており、会わなくなったほんの1、2ヵ月の間に幼女から少女へ。そして大人へと急速に成長しているように感じられた。

「うわっ、その顔どうしたの? 痛そう……」

 そんなメイが、フランの火傷痕を見て小さく声をあげた。今更とも思うが、ついさっきまで頭に血が昇っていて、フランの顔などろくに見ていなかったのだろう。

 そして、聞きにくそうなことをズバリ聞いてくるのも彼女らしい。こういったところはあまり変わっておらず、リュートは少し安堵した。

「あっ、もう痛みはないんですよー。昔に負った名誉の負傷というやつです」

「ふーん。まあ、あたしは怪我人が相手だろうと遠慮はしないけど」

「望むところですっ」

 というか、殴り合いの喧嘩ならいざ知らず、カードファイトに怪我は関係あるのだろうか。

「そう言えば、まだ名乗っていなかったわね。あたしは高槻メイよ」

「よろしくお願いします、メイちゃん!」

「ここではあたしの方が先輩なんだから、メイ先輩と呼びなさい」

「はいっ! メイ先輩!」

「ええ……?」

 たしかにファイターとしてはメイが先輩だが、その理屈が合っているのか分からず、リュートは首を傾げた。

 単にリュートが先輩と呼ばれているのが羨ましかっただけかも知れない。それにあっさりと従うフランもフランだが。

「準備はできた?」

「はいっ!」

 新しく購入したカードをデッキに入れていたため、メイに遅れる形で、フランもファイトの準備を終えた。

 ふたりが互いのファーストヴァンガードに指をかける。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《占術の賢者 スーロン》!」

「《白黒の個性 アレスティエル》!」

 

 

(スーロン!? 六角宝珠じゃない!?)

 驚いたリュートが、メイと仲の良い常連の顔を見ていくが、彼らも皆一様に驚いているようだった。

(ということは、少なくとも『ニアミント』では初めて使うデッキなのか? フランが初心者と気付いて甘く見ている?)

 確かにフランは初心者だが、そう思ってかつて同様に未完成のデッキで挑んだリュートは敗北を喫している。

 あれからフランはカードファイト部でさらに経験を積み、元々の素質もあって、今やリュートやジュジュと遜色の無いファイターに成長しているのだ。

(いくらメイちゃんとは言え、もう手加減して勝てる相手じゃないぞ……)

 正直、どちらを応援していいのか迷っているリュートだったが、この時は本気でメイの心配をしてしまった。

「《霊薬の賢者 エリロン》にライド。はい。あたしはこれでターンエンド」

「あたしのターンですね! スタンド&ドロー!

《逡巡の空 アレスティエル》にライドします!

 G0アレスティエルのスキルで1枚ドロー!

 さらに、G1アレスティエルのスキルでデッキトップをバインド! G1だったので白翼です!

 そのままヴァンガードにアタック!」

「《ブレードフェザー・ドラゴン》でガード」

 このドライブチェックではトリガーはめくれなかった。

「あたしのターン。スタンド&ドロー。

《強壮の賢者 ストグロン》にライド。ストグロンにライドされたエリロンのスキル発動」

「ええっと……どんな効果でしたっけ?」

「あたしがノーマルユニットかトリガーユニットを宣言し、山札の上から公開されたカードが宣言されたタイプなら手札に加える。

 あたしが宣言するのはノーマルユニット。

 ……宣言通り、ノーマルユニットだったので手札に加えるわ」

「うっ! しかも完全ガード……」

「ストグロンでヴァンガードにアタック!」

「ノ、ノーガードですっ!」

「ドライブチェック……トリガーじゃないわ」

「ダメージチェック! ……あたしもトリガーはありません。

 あたしのターン、スタンド&ドロー!

 アレスティエルの白翼スキルで、手札を捨てずにライドデッキからライドします!

《ありのままで輝く アレスティエル》にライド!

 さらに、アレスティエルのスキルで山札の上から1枚をバインド……ここで来ました《降り注ぐ歌声 エルケエル》!

 このターン、あたしの白翼と黒翼はどちらも有効になります!

 アレスティエルでヴァンガードにアタック!

 アタック時、白翼効果でこのユニットの(クリティカル)+1! さらに黒翼効果でこのアタックはトリガーユニットでガードできませんっ!」

「……ノーガードよ」

「ドライブチェック……トリガーはありませんっ!」

「ダメージチェック……」

 メイのダメージゾーンに2枚のカードが置かれていく。そのうちの1枚は(ドロー)トリガーで、メイはカードを引いた。

 だがこれでフランのダメージ1に対し、メイのダメージは2。

「あたしのターン! スタンド&ドロー!

 さあ、ここからが本番よ!」

 メイが手札を捨て、ライドデッキから最後の1枚を引っ掴む。

「《天道の大賢者 ソルレラッ――」

 ガリッと肉が裂けるような、思わず耳を押さえたくなる不気味な音が響き、メイの言葉が途切れた。

 どうやら舌を噛んだらしい。顔面から脂汗をダラダラ流しながら口元を痛そうに押さえている。

「何よっ! 使い慣れてないんだからしかたないでしょ!?」

 それを心配そうに見ていたリュートに、とばっちりが行く。

(使い慣れてないの関係あるかなぁ?)

 その指摘は心の中だけに留めた。

 ほんのひと月前であれば、それを口に出して、メイに3倍返しで言い返され、最後にはふたりで笑い合っていただろう。

 あれからそれほど時間は経っていないはずなのに、妙に懐かしく思える。

 そんな時間が二度と訪れない可能性を思うと、リュートの頬が再び痛んだ。

「あの……大丈夫ですか?」

「うっさい! あんたも敵を気遣うな!」

 おずおずと声をかけるフランに怒声を返すと、メイはヴァンガードサークルに取り落としていたカードを改めて掴み直し、高らかに叫んだ。

「《天道の大賢者 ソルレアロン》にライド!!」

 聖域にある最も巨大な寺院に、光の柱が立ち昇る。

 その中心で瞑想に耽るは、当代最高の大賢者。

 自らの背丈より長大な杖を突き、賢者はゆっくり立ち上がると、その偉大な肩書に似合わぬ穏やかな微笑を浮かべた。

「ソルレアロンにライドされた、ストグロンのスキル発動!

 ソウルにいるこのユニットとエリロンをスペリオルコール!」

 さらに、大賢者がもっとも信頼するふたりの賢者が、彼を守るようにして並び立つ。

「エリロンのスキルも発動! 手札から《ごるどがおん》を公開して1枚引く。《ごるどがおん》は山札の上へ」

「え? ノーマルユニットなのに山札の上に置いちゃうんですか?」

「まあ黙って見てなさい。

《精製の魔法 フフプリ》と《ディペンダブルピアース・ドラゴン》をコール。

 バトルフェイズ! その開始時、ソルレアロンのスキル発動! ノーマルユニットを宣言し、山札の上から1枚を公開! 当然ノーマルユニットだったので、ソルレアロンはユニットすべてにパワー+5000する能力を得る!」

 大賢者が杖を高く掲げると、陽光の如き山吹色の後光が差し込み、聖域の軍勢に力を与え、勇気を奮わせる。

「ストグロンでヴァンガードにアタック!」

「《小さな平和 プラエル》でガードします! 白翼効果でガード値+5000です!」

「続けて、ディペンダブルピアースでアタック! ディペンダブルピアースのスキルで、パワー+5000!」

「《柔らかな光 プルエル》でガードします!」

「ディペンダブルピアースはソウルへ。

 ソルレアロンでヴァンガードにアタック!!

 ソルレアロンのスキルで山札の上から2枚を見て……そのうちの1枚、《ごるどがおん》をスペリオルコールし、残りは山札の下へ!

 さらに《ごるどがおん》のスキル発動! 手札から《陣風の騎士 キュネブルガ》をスペリオルコール!」

「えええっ!? このターン、ソルレアさんを含めてまだアタックが3回も残ってるんですか!?」

 大賢者は勝手に名前を略された。

「そういうこと。そしてドライブチェックは、ソルレアロンがデッキトップを操作したもの。

 このデッキは、アタック回数、パワー、そしてトリガー操作。すべてを兼ね備えたあたしの自信作よ!」

「うう……ノーガードです」

「さあ、覚悟しなさい! これこそが至高のツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、トリガー無しっ!!」

 トリガーゾーンに何の変哲も無いカードが2枚並び、気まずい沈黙がファイトスペースに満ちていく。

(そう言えば、メイちゃんと初めてファイトした時も似たようなことをやってたな……)

 リュートが思わず苦笑し。

「そこ! 何ニヤついてんの!」

 それを目ざとく見つけたメイが突っかかる。

「あ、あたしは次のペルソナライドに使うソレッ……ソルレアロンを手札に確保しておきたかっただけなんだから! すべて計算通りよ!」

 1年前と同じ言い訳をしながら(あとまた舌を噛みかけてた)、次のカードに指をかける。

「エリロンのブースト! キュネブルガでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード……トリガーはありません」

 フランのダメージゾーンに3枚目のカードが置かれ、メイが逆転する。

「フフプリのブースト! 《ごるどがおん》でヴァンガードにアタック! フフプリの効果でソウルチャージ!」

「ノーガード……(ヒール)トリガー! ダメージ回復させてもらいます!」

 どうにか4点目のダメージは免れたが、ダメージレースでは依然としてメイがリード。

「あたしのターンですね! スタンド&ドロー!!」

 だがフランも新しい切り札のお披露目に胸を躍らせていた。

「《祝福の聖天使 アレスティエル》にライドぉ!!」

 普段のモノクロームな衣装とは雰囲気の違う、パステルカラーの衣装に身を包んだアレスティエルが黒と白の羽根を撒き散らして、兎のように飛び跳ねる。

 今日は聖卵祭。

 その腕には色とりどりの卵の入った籠がかけられている。

 そのうちのひとつがパリンと割れ、中から小鳥が飛び出し、澄み渡る青い空へと羽ばたいていった。

「アレスティエルのスキルでバインドゾーンのエルケエルを手札に! そしてデッキの上から1枚をバインド! G3だったので白翼です!

《天声の代弁者 ヘリュエル》をコール! スキルでドロップの《キミとふたりで セラフィエル》をスペリオルコール!

《包み込む恩情 トルクエル》に、エルケエルもコールしてバトルですっ!

 エルケエルで《ごるどがおん》にアタックします!」

「ノーガード。《ごるどがおん》は退却」

「セラフィエルのブースト! アレスティエルでヴァンガードにアタック!!」

「ノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガーッ!! ★はアレスティエル、パワーはトルクエルに!」

 アレスティエルが籠いっぱいの卵を一斉に投げ上げると、ポン! ポン! というポップな爆発音と共に、カラフルな花火が視界を埋め尽くす。

「ダメージチェック……2枚ともトリガーは無し」

 これでメイのダメージは4点。

「今日のアレスティエルはこれだけでは終わりませんっ! 手札を1枚捨て、聖天使アレスティエルの白翼スキル発動!!

 山札から《双翼の大天使 アレスティエル》にスペリオルライド!!」

 七色の爆風の中から飛び出したのは、お馴染みの衣装にドレスアップしたアレスティエルだ。突然のサプライズにファンが熱狂する。

「ヴァンガードが登場した時、エルケエルのスキルも発動! このカードをバインドし、1枚ドロー! そして、白翼と黒翼の両方が有効になりました!

 大天使アレスティエルの白翼スキルで、パワー+5000! ★+1! 黒翼スキルでソルレアさんのパワー-5000です!

 おまけにセラフィエルもスタンド!!

 セラフィエルでブーストして、アレスティエルでアタックします!!」

 アレスティエルが右腕を振るうと空が宵闇に染まり、左腕を掲げると夜空に閃光が高々と上がる。

 それは祝祭の終幕を飾るに相応しい、特大の花火だった。

「《艱難遮る碧の結界》をプレイ」

 ――瞬間。冷静な声音が、勝利へのイメージを隔絶する。

「ええっ!?」

「さらに手札のストグロンでガード。

 どうしたの? 最新のパックで強化されたのは自分だけだとでも思った?」

 メイが嫌味たらしく笑う。

 この皮肉を交えた物言いは、かつてファイトしたジュジュの影響か。

 子どもの教育上よろしくない少女である。

「《艱難遮る碧の結界》の効果は、ヴァンガードのパワー+25000と、パワー1億以上のユニットの★-1! たとえ超トリガーを引けたとしてもあたしは倒せない」

「うう……。

 ドライブチェック……★トリガー。効果はすべてトルクエルに。

 ヘリュエルのブースト、トルクエルでヴァンガードにアタックします。トルクエルは白翼スキルでパワー+10000です」

 だが、メイの手札には完全ガードが残されている。

「はい。《パラディウムジール・ドラゴン》で完全ガード」

「あたしはこれでターンエンドです。け、けど、次のターンはペルソナライドができますっ! あたしは負けませんよ!」

「次のターン、ね。

 ……そんなものがあると思った!?」

 絶対の自信に満ちた笑顔に怒気を滲ませ、メイが3枚の手札から1枚のカードを抜き放つ。

「《天道の大賢者 ソルレアロン》にペルソナライドッ!!」

 大賢者に背後に黄金の魔法陣が浮かび、そこから降り注ぐ穏やかな陽光が夜明けをもたらす。

「《トランケイトブレス・ドラゴン》をコール。山札の上から1枚見て……そのカードを山札の下に。

 カードを山札の下に置いた場合、もう一度デッキトップを確認できる……」

 山札の上にあるカードをめくり、それを見た瞬間。

「……!!」

 メイは大きく口角を吊り上げた。

 既に勝ちを確信したかのような、不遜な笑み。

「キュネブルガとエリロンを入れ替え、エリロンの上に《豪儀の天剣 オールデン》をコール。効果は使わないわ。トランケイトブレスの上にソルレアロンもコール」

「え? ええ? 出したばかりのユニットまで退却させちゃうんですか? それに次のペルソナライドに使えるソルレアさんまで……」

 フランの疑問ももっともで、これでメイの手札は0枚になってしまっている。

 だがリュートだけは、次に何が起こるのか想像できているのか、「まずいな……」と言いながら口元を押さえていた。

「バトルフェイズ開始時、ソルレアロンのスキル。

 あたしが宣言するのはトリガーカード。《栄典の光竜神 アマルティノア》」

「え……?」

 本来は必要のないカード名まで宣言し、メイがフランに見せつけるようにしてカードをめくる。

 それは予言通り超トリガー(アマルティノア)だった。

「さあ! ソルレアロンでヴァンガードにアタックよ!!」

「え、ええと……つまりは(オーバー)トリガーを確定で引かれるから、パワー+1億されるのも確定で……。

 ケテルサンクチュアリの超トリガーは、たしかリアガードにドライブチェックを与える効果で、リアガードがG3ならそれも当然ツインドライブ……。

 と、とにかくそれはノーガードですっ!」

「約束されたツインドライブ!!

 1枚目は当然《栄典の光竜神 アマルティノア》!!

 パワー1億はリアガードのソルレアロンに! このターン、あたしはリアガードでもドライブチェックを行う権利を得る!

 2枚目はトリガー無し!」

「ダメージチェック……トリガーはありません」

 フランのダメージゾーンに4枚目のカードが置かれる。

「キュネブルガのブースト! オールデンでヴァンガードにアタック! オールデンはスキルでパワー+5000! 合計パワーは51000!」

「《空震わせる躍動 マリブエル》! 《珠玉の一曲 エドウィージュ》! 2枚の《青空を舞う翼と アンティア》でガード! これで2枚貫通ですっ!」

「これを受けたということは、残り4枚の手札に完全ガードがあるのかしら?

 なら勝負よ! ツインドライブ!!

 1枚目……★トリガー! 効果はすべてオールデンに!」

「ううっ!」

「2枚目……これも★トリガー!! 効果はすべてオールデンに!」

「うげげっ!?」

 フランが少しみっともない悲鳴をあげる。

(すごい……これまでメイちゃんはドライブチェックで一度もトリガーを引けていなかったのに、デッキトップ操作を繰り返して引き当てた超トリガー1枚で流れを変えてしまった)

 リュートはその様子を焦がれるように眺めていた。

「ダメージチェック……ヒ、治トリガーですっ!」

 フランが6点目で治トリガーを引く。

「あっそう。けどオールデンは★3よ。もう1点ダメージを受けてちょうだい」

「そ、そうでしたーっ!!」

(不確定要素を排除していくメイちゃんのファイト。しばらく見ないうちにずいぶんと進化している。僕もまた戦ってみたい。やっぱり僕は、もう一度メイちゃんとファイトがしたい。

 このファイトが終わったら、メイちゃんにきちんと謝ろう。謝って、謝って、いつか許してもらえるまで……)

 ソルレアロンの後光が竜神へと姿を変じ、世界を慈愛の光で満たしていく。

 その輝きはリュートの胸にも差し込み、心を覆っていた暗い霧をも晴らしていくかのようだった。

 

 

「はい、あたしの勝ちね。もう邪魔しないで」

 勝ちを決めたメイが立ち上がり、ズカズカと足を踏み鳴らしてリュートに近づいてくる。

「ううー。先輩、ごめんなさいー」

 フランは無念そうにテーブルに突っ伏しており、約束通り、もうメイを止めるつもりは無いようだった。

 こうしてリュートはメイとひさしぶりにまっすぐ向き合うことになった。

「リュート……」

 据わった目で睨みつけるようにして、メイがリュートを見上げた。

「は、はいっ!!」

 リュートが思わず背筋を正す。

「……ごめんなさいっ!!」

 次の瞬間、メイは大きく腰を曲げて頭を下げた。

「……へ?」

 てっきり罵詈雑言を浴びせられることも覚悟していたリュートから、拍子抜けしたような声が漏れる。

「……僕、メイちゃんに何かされたかな?」

 リュートがおそるおそる尋ねる。

「この前、最後に会った時、リュートにひどいこと言った」

「それは……」

「それだけじゃない。暴力まで振るった」

「あの時は、隠し事をしていた僕が悪かったんだよ……。メイちゃんと対等だなんて言いつつも、どこか僕は君のことを子ども扱いしていたんだ。本当のことを話せばきっと傷つくって。そんな弱い子じゃないのは、わかっていたはずなのに。本当に弱かったのは、話す勇気が持てなかった僕だ……。

 僕の方こそ本当にごめんなさい」

「ううん。あの時、本当に辛いのはリュートだったのに。人を気遣う余裕なんてなくて当然だったのに、あたしは感情的になっちゃった。

 だから、あの日のことをずっと謝りたかった!」

「……もしかして、メイちゃんの『言っておかなくちゃならなかったこと』って……ずっと謝罪したかったってだけ?」

「何よ。恨み言でもぶつけられるとでも思ってた?」

 メイが半眼になってリュートを睨みつける。

「思ってた」などと言うと、本気で怒られそうだったので、リュートはどうにか言葉を飲み込んだ。

「なのにリュートったら、あれから店に来ないんだもん! リュートに嫌われたんじゃ、愛想を尽かされたんじゃないかと思って、ずっと怖かった!!」

 もはや憚ることなく吐露される感情を受けて、リュートもようやく自分が抱いていた感情に気付くことができた。

「……なんだ。僕も同じだったんだ」

「……え?」

「僕がメイちゃんに会えなかったのは、それこそ恨み言を吐かれるのが怖かったからじゃない。面と向かって絶交を言い渡されることが。もう友達じゃないって言われるのが怖かったんだ……」

「ばっ……! あたしがリュートにそんなこと言うわけないじゃない!」

 メイがリュートに頭突きでもするように頭から飛び込み、その胸を拳で何度も叩いた。

「うん。僕もメイちゃんを嫌いになったり、愛想を尽かしたりなんかしないよ。……絶対に」

 リュートはそれを甘んじて受けながら、メイの髪をあやすように優しく撫でた。

「うう……。何だかよくわからないけど、一件落着です! あたしも体を張った甲斐がありました!」

 フランも拳を握りしめながらもらい泣きをしている。

「あんたは状況をややこしくしただけでしょーが」

「たしかに。フランがいなかったら、すぐ今の状況になってたよね……」

「うぐっ……!!」

 メイとリュートに揃って指摘され、フランが再び落ち込むようにしてテーブルに崩れ落ちる。

「それにまだ一件落着はしてないよ」

 メイはそう言うと、すっと顔を上げて左の頬を差し出した。

 そのジェスチャーが何を示すのか分からず、リュートは首を傾げる。

「あの日、リュートを殴ったことの償いがまだできてない。だから、リュートもあたしをぶちなさい。本気で」

「ええっ!?」

 リュートもそんなに力は強くないが、それでも一回り小柄なメイを本気でぶてば、間違いなく怪我をさせてしまうだろう。

 そうなれば店にも迷惑がかかるし(というか普通に出禁になる)、フランも「え? 本当にぶつんですかぁ」というじっとりとした目をこちらに向けてきている。

 だが、メイが一度口にしたことを、そう簡単に取り下げるとも思えない。

「さあ、早くしなさい! あたし達はライバルなんだから! リュートにぶたれなきゃ、もうあたし達は対等じゃいられないよ!」

「お前はセリヌンティウスか」とツッコミかけたリュートだったが、メイの瞳は至って真剣である。

 だが、その言葉からリュートは一筋の光明を見出した。

「……ごめん」

 小さく口にしてから、リュートはゆっくりと腕を振り上げ、できる限りあの日の事を思い出しながらメイの頬を張る。

 ぺしんと軽い音がファイトスペースに響き渡り、すぐに消えた。

「……あたしはあの時、本気で叩いたんだけど?」

 薄く腫れただけの頬を押さえながら、不満減に言うメイ。

「僕はあの時と同じぐらいの強さで叩いただけだよ。僕たちは“対等”なんでしょ?」

 そう言って、リュートが笑う。

「……ふん。そういうことにしておいてあげるわ」

 もう少し揉めるかと思ったが、メイはあっさりと引き下がった。

「……メイちゃんは凄いな。さっきのファイトもそうだけど、少し見ないうちにずいぶん強く……そして、大人になった」

「当然よ。『男子三日会わざれば刮目して見よ』って言うでしょ」

「君は女子じゃないか」

「わかってないわねぇ、リュートは」

 メイが細い指を、ピッとリュートの眉間に突き付ける。

「女の子は一日もあれば、男なんて軽く飛び越しちゃうんだから」

 そう言って不敵に笑う彼女は、どれほど成長していても、リュートのよく知るメイという少女そのものだった。




「走れメロス」は私の創作の原点です。

まずはお詫びを。
それは今回の主役、メイの学年について。
メイは作中開始時点で小学6年生だったのですが、4年生に見える6年生と書いているうちに、自分の中でもこんがらがって、メイを小学4年生と描写してしまっている箇所がちらほらありました。
メイは小学6年生。現在は中学1年生です。
お詫びして訂正させて頂きます。
こんなミスをしてしまうとは、お恥ずかしい……

今回そのメイが使用したデッキはソルレアロン。
作中の登場人物のみならず、六角宝珠じゃないの?と驚いた方もいらっしゃるかと思いますが……
後の話で必ず六角宝珠も使わせます!!
六角宝珠ファンは楽しみにしてお待ち頂ければ幸いです。

次回は1か月あけて7月1日に投稿予定です。
ゴシック初の1か月休み。
どうぞよろしくお願い致します。
感想等もお待ちしております。
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