ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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第2羽「陰鬱の翼」

 みなさん、こんにちは。

 あたしの名前は淵導(えんどう)フラン。私立五洲(ごしゅう)高校――通称ゴス校――に通う高校1年生です。顔面の火傷がチャームポイント(?)。よく使うデッキはアレスティエル。好きな食べ物はラーメン。嫌いな食べ物は特になし。好きな動物は……え? あたしのことはどうでもいいって? それは失礼しました。

 あたしが所属するカードファイト部には、ふたりの先輩がいます。

 ひとりは如月(きさらぎ)リュート先輩。

 ちょっと頼りないところもありますけど、優しくて、ファイトがすごく強いです。

 もうひとりは雨宮(あまみや)ジュジュ先輩。

 まるで魔法使いのように何でもできるお姉さんですが、運動神経だけはからきしです。

 ふたりともとっても親切で、あたしによくしてくれますが、そのおふたりの関係は独特で。たまにくだらないことでケンカすることはありますが、十年来の親友であるかのように仲がよく、実の姉弟のように(同学年ですがジュジュ先輩がお姉さんです。間違いなく)息ぴったりで、さりとて恋人のような甘い気配は微塵も感じられない。男女の垣根を越えた奇妙な絆が感じられるのです。

 おふたりが大好きなあたしにとって、それはとても誇らしくあると同時に、少し妬けちゃいますね。

 実際におふたりが互いのことをどう思っているのか。気になって尋ねてみたことがあります。

 

『リュートのことをどう思っているか、ですって?

 ……そうねえ。

 信頼はしてないけど、信用はしてるって感じかしら。

 だって、彼ができることは大抵、私にだってできてしまうでしょう?

 けどあの子、お人好しで正直だから。

 こんな胡散臭い(自覚あるんですね)私に対しても誠実であろうとしてくれるし、可能な限り私の意志を尊重もしてくれる。

 だから私は、あの子のことは誰よりも信用してる。

 彼が言うのなら、どれだけ眉唾な妄言でも1回だけは信じてあげるって決めてるのよ』

 

『ジュジュのことをどう思ってるか?

 ……そうだな。

 信頼はしてるけど、信用はしていないって感じかな。

 ジュジュは僕なんかよりずっと賢いから、だいたいのことは彼女に任せた方が上手くいく。

 けど、あの子はかっこつけたがるから。それをするのが最善だと判断したら、しれっと嘘をついて、僕達を守ろうとするだろうね。その裏で自分を犠牲にすることも厭わずに。

 そして、僕はその嘘をすぐに見破れる自信がない。

 だから僕はあの子の言うことは、必ず一度疑ってかかるようにしてる。

 僕達の大切な人が、いつの間にかふといなくなってしまわないために』

 

 別々のタイミングで聞いたのに、真逆にして同質の答えが返ってきました。

 どれだけシンパシー強いんですか。嫉妬(じぇらしー)

 冗談はおいといて、今日はそんなおふたりのお話です。

 

 

 ヴァンガードハイスクールチャンピオンシップ!!

 7月から8月にかけての夏休みに開催される、高校生限定大会において最高峰と称されるその大会は、各高校から選出された3人1組のチーム戦によって覇を競われる。

 上位に入賞したチームからプロファイターが輩出されることも珍しくなく、プロへの登竜門としてスカウトやマスコミからも多大な注目を集めている。

 リュート達ゴス校は、去年は部員が2名であったため(ジュジュは頑なに3名だと主張したが)その伝統ある大会に出場できなかったが、今年はフランが入部したため出場できるようになった。

 もちろん意気揚々とエントリーし、予選大会を迎えたゴス校であったが、結果は1回戦敗退。それも3戦全敗である。

 それでも、そのゴス校を破った高校が優勝でもしたのならまだ箔がついたのかも知れないが、残念ながら彼らも2回戦で敗退している。

 かくして彼らの(せいしゅん)は、1日で。文章にしてわずか7行であえなく幕を閉じたのであった。

 

 

 ガタガタと不安を煽る音を鳴らしながら、壊れかけのエアコンがカビ臭い息を吐く。

 祭壇に捧げられた心臓も、心なしか夏バテ気味で、弱々しい鼓動を静かに刻んでいた。

 そんなゴス校カードファイト部の部室。

 世間は夏休みではあるが、チャンピオンシップの反省会で部員達が集っていた。

「終わっちゃいましたね……」

 会議もひと段落し、フランがため息を吐き出すようにして呟いた。

「そうねえ……」

 ジュジュも珍しく感傷的に同意する。

「フランには来年もあるから、その時にリベンジしてほしいな」

 務めて部長らしく、リュートが言った。

「……来年?」

 だが当のフランは小首を傾げ。

「この部活って来年も、私を含めて3人も部員なんて集まるんですかね?」

 純粋すぎて皮肉にすら聞こえる疑問に、リュートはたまらず目を逸らし、ジュジュは他人事のようにぱたぱたとアトランティス大陸が描かれた扇子をあおいだ。

 彼女は彼女なりに、今年が最後だという覚悟をもって大会に臨んでいたのかも知れない。

「来年があったとしても、先輩方と出場できるチャンピオンシップは今年が最後でしたからね。結果はともかく、もう少し長くファイトしていたかったです」

 などと嬉しいことも言ってくれる。

「そもそも来年以前に、9月からこの部はどうなっちゃうんでしょうか? おふたりは3年生……普通なら部活は引退ですよね」

「それなら安心して。私は9月以降も部には残るから。大きな大会に出るつもりは無いけれど、対戦相手にはなってあげられるわよ」

 ジュジュのその言葉に、フランは喜ぶよりも先に、火傷痕に覆われていない側の目をぱちくりとさせた。

「え? ジュジュ先輩、受験勉強しないんですか? あ、もしかして推薦が決まっちゃってるとか? 先輩、勉強もできますからねー」

「いいえ。私は高校を卒業したら、世界中の神秘を探しに旅に出るって決めてるの」

 その反骨精神(ロック)溢れる将来設計に、リュートとフランは揃って口をあんぐりと開けた。

「世界中って……外国に行くの?」

 リュートが尋ねる。

「そうなるわ。しばらく会えなくなるわねえ。……ひひっ」

 そう言って、ジュジュはいつもの調子で、少し切なく笑った。

「……そうなんだ。寂しくなるね」

「手紙でも書きましょうか?」

「それは別にメールやSNSでいいんじゃないかな」

「……果たして電波が飛んでるかしら?」

「どんな秘境に行くつもりなんだ、君は!?」

 思わず椅子から立ち上がりながら、リュートが叫んだ。

「冗談よ。情緒の無いことを言うから、からかっただけ。

 慣れないうちは比較的治安のいい国を回るつもりよ。命を賭してでも成し遂げたいことはあるけど、死にたがりになるつもりはないし。私が死んだら、どこかの誰かさんがまた一週間ほど寝込むかも知れないしね。それとも、さすがにあの人の時ほど落ち込みはしないかしら? ……ひひっ」

「落ち込むよ」

 すとんと座りながらリュート。

「あの人の時は覚悟する時間はあった――全然足りない覚悟ではあったけど――。200年は生きると思ってた君に、知らない国で急に死なれたりなんかしたら、僕は一生寝込んでやる」

「最高の脅しだわ。200年のくだりは誉め言葉として受け取っておくけれど、せいぜい自分の命を最優先に行動させてもらうわよ」

「そうしてもらえると助かるよ」

「だからカードショップでのお仕事は経験はしておきたかったのよね。

 カードショップなら、どこの国にもあって、体系も変わらないから、カタコトでも経験さえあれば働けるし。それならとりあえず食うに困ることはないでしょう?

 去年、アルバイトに誘ってもらって、本当に助かったわ。どうもありがとう」

「それはまあ、どういたしまして……」

 もちろんそんなつもりで誘ったわけではないリュートは、曖昧に頷くことしかできなかったが。

「とまあ、私のことはどうだっていいのよ。あなたはどうするの? リュート」

「え?」

 間の抜けた声をあげるリュートに、ジュジュは小さく嘆息した。

「将来の話。差し当たっては、9月以降どうするかよ」

「あ、ああ――」

 これまで誰にも話していなかったが、リュートにも希望する進路があった。

 ジュジュにしろ、フランにしろ、もはや隠し事をする関係でもないと思い、リュートはずっと胸の内に秘めていた夢を吐露することに決めた。

「僕は、ヴァンガードのプロファイターになろうと思ってる――」

「わあ! 素敵です! チャンピオンシップこそ負けちゃいましたけど、先輩ならきっと……」

 歓声をあげるフランを手振りで遮ったのはジュジュだった。

「――ありがとう。訂正する。僕は、ヴァンガードのプロファイターになろうと思ってた」

「!? それって……諦めちゃうってことですか!?」

「……わからない。ただ、僕はかつてなれもしないプロゲーマーを夢見て、両親に多大な心配をかけた前科持ちだ。

 また、なれるかどうかわからないプロファイターを目指して、両親を心配させることだけは避けたい。それでもあの人達は応援してくれるだろうけど、だからこそ。

 けど、僕はあの人の……カミラさんの生きた証になりたい。そのためには、あの人に教えてもらったヴァンガードで、何かを成し遂げたいんだ。この夢だけは、簡単に諦めきれない……」

「……社会人になって、立派な会社に就職したら、それでご両親は一安心。なんてことは無いと思うけど」

 彼女らしいそんな前置きをしてから。

「ひとつ賭けをしましょうか。ひさしぶりに」

 どこからともなく取り出したデッキを、六芒星が描かれたテーブルの真ん中にトンと置いてジュジュが言った。

「賭け?」

「あなたと私がファイトして、あなたが勝ったら、あなたは引き続きプロを目指す。私が勝ったら、あなたはプロをすっぱりと諦める。どう?」

「ええーーーーっ!? 大切な将来を、そんなことで決めちゃっていいんですかぁ!?」

 狭い部室に響く大声をあげたのはフランだ。

「何を言ってるの? それこそプロになったら、ファイトの1戦1戦が人生を左右することになるのよ」

「それはそうですけど……」

「それに彼との人生を賭けたファイトはこれがはじめてじゃないの。去年は高校生活を。今回は将来の夢を。

 3年間の貴重な青春時代と、その後だらだら続く40年の社会人生活。価値にすれば、まあトントンじゃないかしら」

「そ、そうでしょうかぁ……?」

 意外と生真面目なフランは納得しかねる様子だったが。

「わかった。その賭けファイトを受けるよ」

 デッキを片手に携え、リュートは宣言した。

「こんなところで君に負けているようじゃ、プロとして大成できないだろうしね」

「わかってるじゃない」

 そう言ってふたりは笑い合う。

「え? えええええええ、ええと、この場合、あたしはどちらを応援すればいいのでしょう?」

「どっちも応援しなくていいよ。見届けてくれればそれでいい」

 混乱するフランに優しく微笑みかけながら、リュートはジュジュと向かい合った。

「やろうか。ひさしぶりに真剣で」

「ええ。楽しみだわ」

 慣れたふたりだけあって、ファイトの準備はすぐに整った。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」

 六芒星の上、運命を占うカードがめくられる。

「《緋炎新兵 バーキッシュ》!」

「《夢齧り》」

 

 

「ライド! 《緋炎弓兵 アギレド》!」

(あら? もしかしてガーンデーヴァ? はじめて見るデッキねえ)

 リュートのライドしたユニットを見て、ジュジュは心の中で小首を傾げた。

 ちらりとフランを見やるが、彼女に驚いた様子はない。

(……ああそう。いつかまた私と真剣勝負することを予感して、『ニアミント』でひそかに練習していたのね)

 手札で口元を隠しながらくつくつと笑う。

(しゃらくさいわぁ。その程度で私の動揺を誘おうだなんて。そんなことされたら……いじめたくなっちゃうじゃないの)

 

 

(な、なんかすごく楽しそうに怒ってる……)

 手札で口元を覆ってはいるが、それで隠し切れていないほどにんまりと口の端を上げるジュジュを見て、リュートは戦慄する。

(……い、いや! 僕が動揺してどうするんだ。たしかに初見のデッキでジュジュの動揺を誘おうという魂胆はあったけど、メイちゃんにも協力してもらって完成させたこのデッキは、もうユージンやタマユラと並ぶ僕の主力だ!)

「私のターンね。スタンド&ドロー。

《腐滅の簒竜》を捨て、《怨念鎖》にライド。《夢齧り》の効果で1枚ドロー。さらに《怨念鎖》で2枚ドロー。手札から《寄る辺亡き魂よ、我が身に集え》を捨てる。

 そして《ホルホル・マッシュルーム》をコール。スキルでこの子をソウルに置いて、プラント・トークンを右列に2体コール。

 ……あら、どうしたの? 顔色が悪いわよ」

「き、気のせいじゃないかな」

(ユニットを展開されなければ、アギレドのスキルで手札を捨てずにライドできたのに。最低限の消費でそれを阻止してきた。……さすがジュジュだ)

 心の中で悔しがる。もっとも隠しきれてはいなかったようだが。

「バトルよ。《怨念鎖》でヴァンガードにアタック」

「ノーガード」

「ドライブチェック……(クリティカル)トリガー。★はヴァンガード。パワーはプラントに」

 リュートのダメージゾーンに2枚のカードが置かれる。いずれもトリガーは無し。

「プラントのブースト、プラントでヴァンガードにアタック」

「《コンダクトスパーク・ドラゴン》でガード!

 僕のターンだ! スタンド&ドロー!

 ライド! 《緋炎弓将 ディパーネル》! ライドされたアギレドをスキルでスペリオルコール!

 アギレドでブーストしたディパーネルでヴァンガードにアタック!」

「……ノーガードよ」

「ドライブチェック……トリガー無し」

「ダメージチェック……私もトリガー無し。

 私のターン。スタンド&ドロー。

《黒涙の骸竜》にライド。ドロップの《寄る辺亡き魂よ、我が身に集え》を手札に。

 手札から《仄暗き夜に、怨嗟は凍えて》をプレイ。山札の上から3枚見て、《悪逆非道?のモスガール メープル》をドロップへ。ドロップから《ホルホル・マッシュルーム》をスペリオルコール。この子の効果で、プラントを2体コール」

(さらにプラントを展開してきた……)

 ジュジュのリアガードサークルには、早くも4体のユニット――そのすべてがプラントだ――で埋まっている。

「バトルよ。プラントのブースト。骸竜でヴァンガードにアタック」

「ノーガード!」

「ドライブチェック……トリガーは無し」

「ダメージチェック……★トリガー! 効果はすべてディパーネルに!」

「あら残念。残りのプラントのアタックは通らないわね。私はこれでターンエンドよ」

 さして残念でも無さそうにジュジュが言う。

 それもそのはず、彼女がユニットを展開したのは速攻だけが目的ではなかったからだ。

「僕のターン! スタンド&ドロー!

 ライド! 《緋炎帥竜 ガーンデーヴァ》!!」

 切り立った岩山が鏃の如くそびえ立つ大峡谷。その頂点に1匹の赤竜が降り立った。

 竜にしては小柄な人型の体躯を、緋色に鈍く輝く鱗だけでなく、帝国東部の意匠が凝らされた大鎧で包んでいる。

 右手に弩、左手を油断なく矢筒に添えたその竜こそ、帝国と魔都との国境を守護する緋焔武者の長。

 其の名をガーンデーヴァと言った。

「左後列のプラントを選択し、ガーンデーヴァのスキル発動! 山札の上から5枚公開……プラントと同じグレード、G0があったので左後列のプラントを退却!

 退却した枚数が1枚以下だったので、1枚ドロー! 僕のドロップから1枚をバインド! ガーンデーヴァのスキルでさらに1枚をバインド!」

 赤竜の手にした弩から放たれた火矢が岩肌に根付いた植物を焼き払い、吹き飛ばす。

「《緋炎弓将 スティルグナ》をコール! アギレドをバインドし、プラントを退却! ガーンデーヴァで1枚バインド!

 《緋炎弓将 ルグエント》をコール! プラントを退却! さらにバインド!

 その後列に《紅鱗の剣客 バルナイア》もコール!」

 そして赤竜が一声吠え猛ると、緋色の鎧を身にまとった竜人兵(ドラゴロイド)が岩陰から現れ、まるで燎原に火が燃え広がるように、一瞬で侵入者を取り囲んだ。

(だけどプラントは除去しきれず、ドローもさせてもらえなかった)

『緋炎』のリアガードは除去を得意とするが、除去できるユニットがいなかった場合、ドローできる能力も併せ持つ。

 それを封じるため、ジュジュは盤面をプラントで埋めたのだ。

「バトルだ! ガーンデーヴァのスキルで、前列ユニットのパワーは、バインドゾーンのカード1枚につき+2000されている! 僕のバインドゾーンには5枚! よって、前列ユニットのパワー+10000! ガーンデーヴァの★+1だ!

 バルナイアのブースト! ルグエントでヴァンガードにアタック!」

「《深淵誘い》と《恋縛の乙女 マーガレット》でガード」

「バトル終了時、バルナイアをバインドして1枚ドロー!

 これで前列ユニットのパワーは+12000!

 ガーンデーヴァでヴァンガードにアタック!!」

 赤竜が翼を広げ、山頂のさらにその先へと飛翔し、そこから無数の火矢を降らせた。

 竜にとっては片手で扱える取り回しのよい弩かも知れないが、人の身からすれば巨大なカタパルトのようなものである。そこから連弩の如く、絶え間無く矢が放たれるのだから、たまったものではない。

「ノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目……治トリガー! ダメージ回復! パワーはスティルグナに!

 2枚目……トリガー無し!」

「ダメージチェック。

 1枚目はトリガー無し。

 2枚目は★トリガー。骸竜にパワー+10000」

 ジュジュのダメージゾーンに置かれる3枚目のカード。対するリュートは回復し、ダメージゾーンのカードは2枚になった。

「スティルグナでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード……」

 これでジュジュのダメージは4点。

「私のターンね。スタンド&ドロー。ライド……」

 天から光が落ち、骸竜を焼き尽くす。

 その遺灰からひとつ、またひとつと新芽が飛び出し、やがて咲き誇る花が岩山を埋め尽くした。

「《追想の花乙女 クロディーヌ》!!」

「!?」

 岩肌に狂い咲く花畑の中心で、極彩色のドレスを着た乙女が、そっとスカートの端をつまみ上げ、優雅に微笑みかける。

「ジュ、ジュジュ先輩がそんな可愛らしいユニットを使うなんて!!」

 フランがどこかずれた驚き方をしていたが、リュートも概ね同じ意見だ。

 実質的に《鉄錨の憤竜》の上位互換である《戯弄の降霊術師 ゾルガ・マスクス》が登場した時も、「で? それが墳竜を使わない理由になるのかしら?」と言っていたジュジュが。まさか別のユニットを使ってくるとは。

「《鉄錨の憤竜》や《廃滅の虚竜》だと思った? そうよねぇ。それらに採用されていてもおかしくないようなカードばかり見せていたもの。

 それに……言うほどこの()は可愛くないわよ?」

 そう言って、ジュジュが不気味な笑顔を見せ、イメージの中にいる花乙女も同じように妖しく微笑んだ。

「G3のヴァンガードが登場したので、《悪逆非道?のモスガール メープル》と《腐滅の簒竜》をそれぞれスペリオルコール!

《博愛の乙女 アラセリス》をコールし、スキル発動。山札の上から3枚をドロップに送り、ドロップから《ホルホル・マッシュルーム》をスペリオルコール!

 そしてクロディーヌのスキル発動! 簒竜、メープル、プラントを退却!」

 地面から長大な蔦が生えてきたかと思うと、味方を次々と絡め取り、地面へと引きずり込んでいく。

「3体のユニットを養分とすることで、クロディーヌは更なる力を得る。

 すべてのプラントにパワー+5000する能力と、ドライブ+1をね!」

「ひ、ひどいです!」

 フランが思わず非難の声をあげる。

「安心して。大地に還った骸は、新たな命となって生まれ変わるの。

 クロディーヌのもうひとつのスキル発動! さっきドロップに落とした《喚起の喘鳴》を除外して、2体のプラントをコール!

 ホルホルのスキルも使用して、さらに2体のプラントをコール!」

 呼び声に応え、岩盤を突き破り新たなプラントが現れた。だがクロディーヌの魔力(もしくはジュジュの悪意に満ちたイメージ)を受けたそれは、もはや小さな新芽では無く、人すら呑み込めそうな巨大な花弁を持った食虫植物。食人植物(マンイーター)とも呼べる異形だった。

「生まれ変わるって、なんか気味悪い植物じゃないですか!」

「最後に《寄る辺亡き魂よ、我が身に集え》をプレイして、準備は完了。

 さあさあ、バトルよ!

 プラントでルグエントにアタック!」

「ノーガード。ルグエントは退却する……!」

「プラントのブースト! クロディーヌでヴァンガードにアタック! 自身と《寄る辺亡き魂よ、我が身に集え》の効果でドライブ+2!!

 さらにアタック時、プラントをスタンドし、ドロップとバインドのオーダー2種類につきパワー+5000! 今は4種類あるのでパワー+10000!」

「まだ僕は2点……ノーガードだ!」

「クアドラプルドライブ!!!!

 1枚目……(ヒール)トリガー! ダメージ回復し、パワーはアラセリスへ。

 2枚目……トリガー無し。

 3枚目……(フロント)トリガー! 前列のパワー+10000。

 4枚目……トリガー無し」

 花乙女が力無き無数の亡霊をその身に寄せ集め、突き出した両腕から解き放つ。

 ひとつの巨大な霊魂となった亡霊が、怨嗟の声をあげ赤竜を吞み込んだ。

「ダメージチェック……トリガー無し」

 ジュジュが1ダメージ回復し、リュートが1ダメージを受け、互いのダメージが3点で並んだ。

「成果はまずまずと言ったところかしら。

 プラントのブースト! プラントでヴァンガードにアタック!」

「《バーニングフレイル・ドラゴン》と《ドラグリッター サルマー》でガード!」

「プラントのブースト! アラセリスでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード……」

 これで4点目。

「これで私はターンエンドよ。……ひひっ」

 ジュジュがいつもの調子で楽しそうに笑う。

 リュートもそれにつられて「ふっ」と微笑んだ。

「やっぱり楽しいな、ジュジュとのファイトは。何が起こるか予想もつかない。ファイトでも、イメージでも」

「それはどうも」

「世間的にはまったくの無名なジュジュですら、こんなにもすごいんだ。きっと世界には、もっとすごいファイターで溢れているんだろうな……」

「……さて、どうかしら」

「僕はやっぱりプロになりたい……勝つのは僕だ!!

 スタンド&ドロー!!

 ガーンデーヴァにペルソナライド!!」

 ヴァンガードに、さらなるガーンデーヴァのカードを重ね合わせる。

 これで手札は4枚。その中に決定打となるカードは無い。このペルソナライドによるドローにすべてかかっている。

 リュートが山札の上に指を当てた瞬間、カードからとくんと鼓動にも似た音が聞こえたような気がした。

(引ける……ドローッ!!)

 引いたカードをすぐさま見せつける。

「僕は《襲穫祭》をプレイする!!」

「……あらあら、ついに引かれちゃったわねえ」

「これで僕はこのターン、ユニットを退却するたびに1枚ドローできる!

 まずはアラセリスとその後列のプラントを指定して、ガーンデーヴァのスキル発動! 山札の上から5枚を確認……G3とG0があったので、どちらも退却! さらに2枚バインド&2枚ドロー!」

 引いたカードを見て、リュートは静かに頷く。

「《壮鱗の大炎斧 カルガフラン》をコール! 同じ縦列にいるプラント2体を退却! 2枚バインド&ドロー!

《緋炎弓将 スティルグナ》をコール! 前にいたスティルグナをバインドしてV後列のプラントを退却! 1枚バインド&ドロー!」

「すごいすごい! このターン、5枚もドローしちゃいましたぁ!」

 フランが歓声をあげる。

「うん……そして条件は整った。僕は《突貫竜 トライバッシュ》をコール!!」

「!?」

 ジュジュが軽く目をしばたたかせて、このファイト中、はじめて驚きをあらわにした。

「トライバッシュ……たしかタマユラにも入れていたわよねぇ」

「うん。このカードはユージンと並ぶ僕の原点だから。

《緋炎弓兵 バウセン》もコールしてバトルだ! バインドゾーンのカードは12枚! 前列ユニットのパワー+24000!

 ガーンデーヴァでヴァンガードにアタック!

 アタック時、トライバッシュのスキル発動! このカードをソウルに置いて、★+1! これでガーンデーヴァの★3だぁ!!!」

 赤竜が矢筒に手を差し込んだかと思うと、次の瞬間には、指と指の隙間に1本ずつ矢が挟まれており、その鏃に火が灯る。赤竜はそれを目にも止まらぬ速度で弩に番えると、5本の矢がほぼ同時に花乙女めがけて放たれた。

 巨体に似合わぬ、弩術の粋を凝らした早業であり、ガーンデーヴァの奥義である。

 5本の矢は、5匹の火龍と見紛う勢いで花乙女に喰らいついた。

「《プラナプリベント・ドラゴン》で完全ガード」

 炎の矢が花乙女に届く寸前、緑竜の張り巡らせた結界がそれらを受け止めた。

「完全ガード1枚くらいは想定内だ! ツインドライブ!!

 1枚目……よし! ★トリガー! ★はスティルグナ! パワーはカルガフランに!

 2枚目……前トリガー! 前列のパワー+10000!

 パワー64000のカルガフランでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

 ジュジュのダメージゾーンに4枚目のカードが置かれる。トリガーは無い。

「これで届く! バウセンのブースト! 合計パワー65000のスティルグナでヴァンガードにアタックだ!!」

「ブリッツオーダー《罪過に廃絶の美酒を》」

「!?」

「私のドロップとバインドゾーンにあるオーダーは4種類。よってクロディーヌのパワー+20000。1枚ドロー。

 そして、《挽歌の妖精》と《狂乱の令嬢》でガード」

「つっ……僕は、これでターンエンド」

 だが、このターンの5枚ドローとツインドライブで、リュートの手札は7枚にまで回復している。対するジュジュの手札は3枚。

(このターンを凌ぎきる。バインドゾーンのカードは十分。ターンさえ回ってくれば押し切れるはずだ……)

「私のターン。スタンド&ドロー。

《追想の花乙女 クロディーヌ》にペルソナライド!」

 咲き誇っていた花々が。花乙女の纏っていた極彩色のドレスが。色を失い枯れ果てていく。

 そればかりか赤竜の領域である岩山すら砂となって崩れはじめた。

 鬱屈した想像力で、他者のイメージにすら侵食し、崩壊させる。

 それこそが雨宮ジュジュの真骨頂。

「G3が登場したので、メープルと簒竜をスペリオルコール。手札からレェナをコール。

 その3体を生贄に、クロディーヌはプラント強化の能力と、ドライブ+1を得る。

 クロディーヌの効果でドロップのオーダーをバインドし、プラントを2体コール」

(う……また、このパターンか)

「手札から簒竜と《プラドパラン ラフィロス》をコール。ラフィロスの効果でプラントを2体コール。上書きされたラフィロスは退却」

 すべて除去したと言うのに、前のターンとまったく同じラインができあがる。

 違うのは、このターンはペルソナライドが適用されているのと……。

「ああ、まだこのターンはオーダーを使っていなかったわね。私がこのターンに使うのは……」

 ジュジュが最後の手札をひらりと盤面に放つ。それは木の葉のように宙を舞って、前列にいるプラント・トークンの隣に落ちた。

「《扇情の蜜》。私のドロップにカードは22枚。よって右前列にいるプラントのパワー+20000! ★+1!」

「なっ!?」

 花乙女が指先を歯で小さく噛み切り、そこから滴る樹液を傍らの食人植物へとぽたりと落とした。

 ――キシャアアアアアアアアアアッ!!

 食人植物がもはや植物らしからぬ化け物じみた咆哮をあげる。それは蔦と根を不気味に蠢かせ、花弁に生えた牙をガチガチと鳴らし、涎のように消化液を撒き散らす、食竜植物(ドラゴンイーター)へと進化を遂げた。

「ひいっひひひひひひひっ! バトルよ!!

 プラントのブースト! ★2のプラントでヴァンガードにアタック!」

「《コンダクトスパーク・ドラゴン》と《焔の巫女 パラマ》でガード! カルガフランでインターセプト!」

「プラントのブースト! クロディーヌでヴァンガードにアタック!

 ★2のプラントをスタンドさせ、パワー+15000!」

(…………)

 リュートは手札と盤面を見比べる。

(★トリガーを引かれたら耐えられない。

 けどひとつだけ。★トリガーを引かれても耐える展開がある。これは最後の賭けだ)

 リュートは意を決して、盤面にカードを出す。

「《焔の巫女 ゾンネ》、《焔の巫女 パラマ》でガード! ()()()()だ!!」

 リュートは胸を張って宣言した。このターンのアタックはすべて防げるぞと言いたげに。

 実際は、リアガードに★トリガーを振られた時点で、リュートにはそれを防ぐ手段が無くなる。

 だが、ジュジュが読み誤って★トリガーをヴァンガードに振ることがあれば。

 リュートは残りの手札ですべてのアタックを防ぐことができた。

「トリプルドライブ!!!」

 ジュジュが宣言する。

「1枚目……★トリガー」

「……」

 いきなり来た!

 だが、リュートは眉ひとつ動かさない。

 想定通りだと言いたげな態度で、次のジュジュの宣言を待った。

「……ふふっ」

 しばしの沈黙の後、ジュジュが笑った。

 あろうことか、普通に。

「相変わらず、嘘が下手ねえ」

(……ダメか)

 リュートは観念して低い天井を仰いだ。

「効果はすべて簒竜に!

 残りのドライブチェックはトリガー無し!

 プラントでヴァンガードにアタック!」

 枯れ花のドレスに身を包んだ魔女が腕を振るい、食竜植物があぎとを開いて赤竜に食らいつく。

「……ノーガードだよ」

 リュートは目を閉じ、同時にイメージもブツリと暗転した。

 

 

「僕の負けだね……」

 6枚目のダメージを置きながら、リュートが言った。その声には少し涙が滲んでいる。

「それで……夢はどうするの?」

 完膚なきまでに叩きのめしたくせして、ジュジュが気遣うように聞いてくる。今なら賭けの撤回も許されそうな雰囲気だ。

「諦めるよ。どうにも僕は勝負弱いらしい」

 が、先の涙声から一転、晴れやかな心地で笑った。

「でも、でも、本当にリュート先輩はそれでいいんですかぁ?」

 今度はフランが泣きそうになってリュートに詰め寄る。

「……そのことなんだけど」

 リュートが何か言うよりも早く、ジュジュが小さく手を挙げた。

「ちょうど1年前。リュートに負けてオカルト研究会を取り潰さなくてはならなくなった時、本当はすごく悔しかったの。弱みを見せたくなかったから態度には出さなかったけどね。高校でオカルト研究部を作って、誰かと話し合うのは私の夢だったから。

 けど、それからリュートと一緒に何度もファイトして、新しいカードのこととか話しあって、バイトして。今年からそこにフランも加わって。結果は残せなかったけど、大会にも出場できて。

 この1年、悔しかったことなんてすっかり忘れてしまうくらい、本当に楽しかった。どうもありがとう」

「え? あ、こちらこそどういたしまして……?」

 らしからぬ態度で頭を下げるジュジュに対して、リュートもつられて曖昧に頭を下げる。

「あ、あの? それが何か?」

「今のあなたと同じってことよ。夢や目標は、目指しているうちはそれしか答えが無いように思えるけど、いざ他のことに目を向けてみると、案外それも悪くないって思えることもあるんじゃないかしら?」

「そう、なのかな……?」

「それに、プロを諦めたからと言って、ヴァンガードをやめるつもりはないのでしょう? ヴァンガードなら、プロ以外の仕事だってごまんとあるわよ?」

「そう! それですよ!」

 それに同意したのはフランだ。

「『ニアミント』の店長さんみたいに、お店とか開きましょうよ! リュート店長! いい響きです!」

「あはは……それは僕にとってはプロになる以上に敷居が高いかな……」

 その『ニアミント』でバイトをした時の醜態は、今思い出しても頭を抱えたくなる苦い思い出である。もちろんジュジュの言うように楽しいこともあったのだが。

「まあ何をするにせよ、まずは選択肢を広げるために進学でいいんじゃない? 大学なんて9割の人にとってはモラトリアムのためにあるようなものでしょ?」

 そう言って、ジュジュが話を結論付けた。

「うん。……いや、その言い方は少し悪意があるような気がするけど。

 ともかくありがとう、ジュジュ。君は本当に頼りになるよ」

「いいのよ? もっと頼ってくれても。さっきも言ったように、私も楽しませてもらってるし」

 言いながら、誇らしげに癖のある長い髪をかきあげる。

「これからもよろしくね、相棒」

 ゆらりと妖しくなびく黒髪の奥で、幻想的に微笑む少女の姿がそこにはあった。




ジュジュ回です。
相変わらず書いていて楽しいお人。
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