ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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幕間「よくあること」

 部活も終わり、リュートがフランと一緒に下校していた時のこと。

「あ! リュート先輩、ちょっと待ってください!」

 こぢんまりとした公園の横を通りがかったあたりでフランが声をあげたかと思うと、リュートの返答も待たず、足早に公園へと入っていく。

 リュートが慌てて後を追うと、小さな男の子と女の子がいた。兄妹だろうか、男の子の方が一回り背が高く、女の子は男の子にすがりつくように泣きじゃくっていた。フランはと言うと、困り切った様子の男の子に目線を合わせ、真剣にその話を聞いているところだった。

「風船が木に引っかかっちゃったんですね。安心してください。お姉ちゃんが取ってきてあげましょう」

 胸をドンと叩くと、制止する間も無くフランは傍らにある大きな木に足をかけ、あろうことかスカートのまま登り始める。

「えっ!? あっ、ちょっ、フラン……!」

 一応、厚手の白いタイツは穿いてはいるものの、目のやり場に困り、かと言って危なっかしい彼女から目を離すこともできず、リュートは視線を彷徨わせるが、そんな彼の葛藤を余所に、フランは慣れた様子でスルスルとてっぺんまで登りきると、そこに引っかかっていたピンク色の風船を掴み取った。下りはもっと早く、木の幹を滑り降りるように下降すると、最後はまだ自分の身長の倍くらいはあるであろう高さから「えい」と可愛らしい掛け声をあげて飛び降りる。ザンッと音をたててヒーローのように着地し、すっかり色の薄くなった木の葉がひらひらと舞い散った。

「はい、お待たせしました」

 もうもうと立ち昇る土煙の中、ゆっくりと立ち上がったフランが、兄妹に風船を差し出す。

「あ、ありがとう……」

 兄が風船を受け取ろうと手を伸ばした、その瞬間。

「ひっ!」

 妹が息を呑み込むような鋭い悲鳴をあげ、兄も目を見開いて固まった。ふたりの視線はフランの顔面、その右半分、火傷痕に注がれていた。これまでは、意識が木に引っかかった風船に行っていたため気が付かなかったのだろう。

「あ……。ごめんなさい。驚かせちゃいましたね」

 フランは片手で火傷痕を隠しながら、困ったような笑みを浮かべる。

 兄弟はなおも怯えた様子で、妹は兄にぎゅっとしがみつき、兄は妹を庇うようにじりじりと後ずさった。

「ちょ、ちょっと、君達……」

 さすがにリュートも黙ってはいられず、兄妹に注意しようと口を開きかけたが。

「いいんです、リュート先輩。よくあることですから」

 フランはリュートの袖を引っ張り制止すると、そのまま公園を出ようとする。

「よ、よくあることって……」

 それならなおさら放っておくことなどできなかったが、存外フランの力は強く、リュートも引き摺られるようにして出口まで連れていかれた。

「風船、ここに結んでおきますね!」

 フランは柵に風船を軽く結びつけると、そのまま公園を後にした。

(フラン……)

 フランの小さな背からは、彼女が何を考えているのか伺い知れない。本人は気にしていない風を装っているが、内心は傷ついているかも知れないし、ひょっとしたら泣いているかも知れない。だが、かける言葉も見つからず、リュートが途方に暮れていると。

「お姉ちゃーん!」

 公園の方角から男の子の大きな声がした。

「驚いてごめんなさい! 風船を取ってくれてありがとう!」

 振り返ると、先ほどの男の子が大きく手を振っていた。

「ありがとーう!」

 風船の紐を握りしめた女の子も声を張り上げてお礼を言った。

「どういたしましてー!」

 フランは片手を軽く振り返すと、誇らしげにリュートの顔を覗き込んだ。

「どうですか?」

 歯を見せて茶目っ気たっぷりに彼女が笑う。

「ここまでが、()()()()()()ですよ」




予告通り、ショートストーリーをお送りさせて頂きました。
次回更新は11月1日を予定しております。
お楽しみに!
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