ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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第2夜「月満ちる地に奏でよ夜想曲」

 あれからひと月が経とうとしていた。

 如月(きさらぎ)リュートは、今日も夜中に家を抜け出し、彼女と出会った公園へと足を運ぶ。

 夜色のドレスを着た、吸血鬼を名乗る白髪の女――鈴導(りんどう)カミラと出会った場所へと。

「……今日も、来てないか」

 大きくはないが、あまり遊具が置かれていないため広く感じる公園を、一息に見渡して独りごちる。

 次に彼女に初めて声をかけられたブランコ。続けて、彼女とカードファイトに興じたベンチを、何か手掛かりはないかと順に確認していくが、成果は得られなかった。

 それどころか、あの夜に彼女が吐きだした大量の血は、その次の日には綺麗に片づけられていた。

(そう。カミラさんは血を吐いていた……)

 暗がりだったのではっきりとは言えないが、尋常ではない量だったように思う。

 燕尾服の男に抱かれたカミラの、土気色の肌を思い返す。ぴくりとも動かなくなった彼女は、まるで死人のようだった。

 嫌な想像を振り払うようにして首を振り、リュートはベンチに腰掛けた。この後、ここで1時間ほど待つまでが、彼の日課になっていた。

 今はまだ23時半。彼女と出会ったのは午前0時のことだから、まだ来ていなくても仕方がない。そんなことを考えて不安を誤魔化しながら。

(せめて、もう一度だけあの人に会いたい。そして――)

 リュートの意識がぼんやりと溶けていく。ここ毎日ずっと夜更かしを続けているものだから、睡眠時間が足りていないのだ。

(ダメだ。こんなところで寝ちゃ――)

 リュートは何度も目をこすり、意識を保とうとするが、じきに目を開けていられなくなり。やがて日が沈むようにとぷんと視界が闇に染まり、意識もそこで途切れた。

 

 

 目を開けると、白髪の女性が長い髪をかきあげながらこちらを覗きこんでいるのが視界に入った。鼻と鼻が触れあいそうなほど距離が近く、寝起きなこともあって、それが誰だか一瞬分からなかったほどである。

「おはよう、少年。よく眠れたかい? と言っても、まだ夜中だけどね」

 だが、特徴的な女の声が聞こえて、リュートの意識は全身に電撃を流されたかのように覚醒した。

「カ、カミラさんっ!?」

「そうとも。吸血鬼のカミラお姉さんだよ」

 リュートから離れたカミラは、踊るように、そしておどけるようにくるりと一回転して見せた。ハーフアップにした白髪がふわりと広がり、月光を反射して銀色に輝く。

 幻想的な光景に一瞬だけ心を奪われたリュートだったが、すぐ我に返るとベンチから立ち上がり、カミラに詰め寄った。

「こんなところで何をしてるんですか!?」

「君の寝顔がかわいくてね。つい見惚れてしまっていたんだ」

「かわっ……! ……そうじゃなくて! これまでどこで何をしていたんですか!?」

「……すまない。どうやら心配をかけさせてしまったようだね」

 珍しく神妙な顔をしてカミラが頷く。

「後できちんと説明をする。だが今は再開を喜ばせておくれ。もう会えないんじゃないかと思っていたよ、リュート君」

 そう言って、カミラはリュートをぎゅっと抱きしめた。初めて会った時のような強烈なものではないが、それでも異性への距離感が近い女性である。

「さて。君にはまず謝っておかなければならないことがある。心配をかけたこともそうだが、私はひとつ君に嘘をついていた」

 たっぷり1分かけた抱擁を解いた後、カミラは紅玉のように輝く瞳をじっとリュートに向けて衝撃の一言を放った。

「私は吸血鬼でもなんでもないんだよ」

「まあそうですよね」

「ええっ!?」

 即答すると、カミラは目を見開いてリュートに詰め寄ってきた。

「私のことを吸血鬼だと信じてくれたんじゃないのかい!?」

「いや、まあ、それっぽいなとは思いましたけど。吸血鬼なんて実在するわけないじゃないですか」

「ひどい。ひどいよ、リュート君。吸血鬼だと言ってもらえた時、私は本当に嬉しかったんだよ?」

 さめざめと袖口で目元を押さえて泣きながら、カミラがリュートを責める。

「え? そ、それはすみませんでした。

 ていうか、どうしてそんな吸血鬼にこだわるんですか?」

「それはだね」

 ぱっと明るい表情に戻ってカミラ言った。どうやら嘘泣きだったらしい。

「君に話しておかなければならない、もうひとつのことと繋がっている。驚かないで聞いてくれたまえよ?」

「はい、はい。今度はなんです?」

「私の命はもう長くない」

「……はい?」

 真正面から放たれたその言葉は、やけに遠くから聞こえた。

「……今度は何の冗談ですか?」

「たしかに私は人をからかうのが好きだけど、生き死にで嘘を言うほど趣味は悪くないよ」

 カミラがたしなめるように言う。

「私の髪や、瞳の色を見て欲しい。君はこれをみて何を連想する?」

 片方の手で白い髪をつまみ、もう片方の手で自分の瞳を指さし、カミラが問いかける。

「……アルビノですか?」

「ご名答」

「確かにアルビノは体が弱いって言いますもんね。だからってそんな……」

「アルビノだから体が弱いんじゃない。アルビノのうえに体が弱いんだ。

 目はよくないし、紫外線に弱くて昼間は外を出歩けない。そんなアルビノの弱点はそのまま、それとは別に、心臓、腎臓、肝臓、胃、肺、その他諸々、全身に様々な疾患を生まれつき抱えている。手術に耐えられる体力も無いから、薬で症状を抑え込むことしかできない。

 まあ、朝昼晩と必要な10種類の薬代をポンと払える裕福な家庭に生まれたのは、不幸中の幸いだったと言えるかな」

 何ひとつ笑えないことを笑いながら、カミラはけろりと言った。

「それで、その、カミラさんは、あと何年ぐらい生きられそうなんですか? 5年? それとも10年?」

「医師からは20歳の誕生日を迎えることはないだろうと宣告されたよ」

 あえてだろう。リュートの質問とはずれた答えが返ってきた。

「失礼ですけど、カミラさんはおいくつなんですか?」

「先月に19歳の誕生日を迎えたばかりだよ。君と初めて出会った日のことだね」

(あと1年――!!)

 頭に隕石をぶつけられたかのような衝撃だった。

 今、目の前で微笑む女性が、あとたった1年で死んでしまう? この世からいなくなる? それがあまりにも非現実的に感じられて、なにひとつ実感がわかない。

「だからね、リュート君。私は吸血鬼に憧れるんだ。

 私と同じナイトウォーカーでありながら、頑強な肉体と、不死身の生命力を持つ吸血鬼にね――」

「……なんで」

 震える声が、カミラの言葉を遮った。

「うん?」

「なんであなたはそんなにへらへら笑っていられるんです!? しっ、死ぬのが怖くないんですか!?」

「……ふっ、ふふふ……あっはっはっは!」

 カミラが腹を抱えて笑う。

「なにがおかしいんですか!?」

「いや、失礼。君は優しいんだね」

 リュートの瞳から零れそうになる涙を、カミラの細い指がそっとぬぐった。

「そんなもの私にとってはとうに解決した悩みだから、つい笑ってしまったのさ。

 物心ついた時から体が悪いという自覚はあったが、同時に大人になったら治るだろうとも楽観していた。今にして思うと実に夢見がちな少女だった。

 だから、9歳の誕生日にさっきの話を聞かされた時は、もう半狂乱になったね。人生のすべてに絶望して、目に映るものすべてに当たり散らして、かと思えば何日も部屋に閉じこもったり。

 そんな不安定な状態が半年……いや、1年は続いたかな?」

 語るカミラの横顔は、妙に大人びているように感じられた。

「けど、そうやって荒れている間も私の寿命は短くなっていく。なら、残り少ない人生をせいぜい楽しんでやろうと開き直ったのさ。普通の人の4分の1しか生きられないのなら、普通の人の4倍笑って生きてやろうとね。

 今にして思うと、はじめの1年は本当にもったいなかったね」

「……でも、すごいです。僕がカミラさんと同じ状況に置かれたら、何年経っても同じことを思える自信がない」

「あはは。自分勝手の方向性が変わっただけだよ。

 君の言葉を借りるなら、私は臆病なだけだ。やろうと思えば、一か八かで手術を受けるという選択肢もあったんだ。あらゆる文献を読み漁って自ら病気を治す手段を捜すことだってできた。

 私の勇気や努力次第で、この運命を変えられる可能性もあった。

 そのどちらも私は選ばなかった。それらは私を長生きさせてくれるという保証が無かったからだ。

 私は最も楽で確実な、残り10年を楽しむという選択肢に逃げたのさ」

「それは違います!」

 気がつけば、思わず反論していた。

「それは、その、上手く説明できないけど……違うと思います」

 すぐ我に返って、もごもごと言い直す。

 年齢差以上に、歩んできた人生の質が違いすぎると思った。

 明日が来ることを当たり前に漠然と生きてきた自分と、1日1日を大切に踏みしめるように生きてきた彼女とでは。

「ありがとう。その言葉だけで勇気が出たよ。私はいい友達を持ったようだ」

 こうして気を使われたことが、たまらなく気恥ずかしい。

「けど、この話はここまでにしようか。あまり人には話したくないんだよ。どうしても場が暗くなってしまうからね。私の生き方に反するんだ。

 わざわざ君にこの話をしたのは、心配をかけた詫びと、私にファイトで勝った君への敬意のようなものだと思って欲しい」

「ファイト……そうだ! カミラさんにお返ししなければと思って、ずっと持ち歩いていたんです」

 リュートがカバンからケースを取り出し、その中からデッキを取り出す。先月のファイトでカミラから借りたデッキだ。

「ああ。別にいいのに。そのデッキは君にプレゼントしたつもりだったんだけどね」

「いえ。僕も自分でカードを買って、デッキを組んできたんです」

「なるほど。そういうことか」

 と頷きながら、カミラがリュートからデッキを受け取る。

「自分のデッキでカミラさんともう一度対戦したくて……ずっとカミラさんを捜していたんです」

「なんだ。この公園で待ってくれていたのは、私と会いたいからじゃなく、ファイトがしたかったからかい?」

「そ、そんなつもりじゃ! もちろん、カミラさんと会いたかったのもありましたけど!」

「会いたかったの『も』? ……君は女性の口説き方が下手だね。それではモテないよ?」

「お、大きなお世話ですよ!」

「あはは。冗談だよ。君がヴァンガードを気に入ってくれたようで嬉しいよ。いいだろう。ファイトしようじゃないか」

「あ、ありがとうございます! でも、体調は大丈夫なんですか? また倒れたりなんか……」

 今でも血を吐いて倒れたカミラの姿は鮮明に思い出せる。はっきり言って、ちょっぴりトラウマだ。

「ああ。あの日は誕生日で少しはしゃぎすぎたようだ。方々から叱られて1ヵ月、休養という名の謹慎を言い渡されていたからね。今は元気が有り余っている。この前のように無様な姿は晒さないから安心してくれたまえ」

 そう言うと、カミラは片腕を高く掲げて指を打ち鳴らした。いつぞやのように何処かから燕尾服の男が現れ、アタッシュケースをカミラに向けて開く。

「あ、あの……その方は?」

 カミラが受け取ったデッキをしまい、自分のデッキをアタッシュケースから取り出しているうちに、リュートはずっと気になっていたことを聞いてみた。

「ああ。彼は我が鈴導家の執事だよ」

「しつじ……」

 アニメやマンガではよく聞く職業だが、実際に目にするのは初めてというか、この日本に実在することすら知らなかった。

「ロウ、ご挨拶しなさい」

 カミラにロウと呼びかけられた燕尾服の男は、一歩進み出ると、丁寧に腰を折り曲げてお辞儀をした。

 外灯の下に出てきてくれたことで、リュートもようやく男をじっくり観察することができた。褐色の肌に、灰色の髪をひっつめにして襟足で束ねた、精悍な顔つきの青年だ。その眼光は肉食獣のように鋭く、特徴的な髪色も相まって、どこか狼のような雰囲気を感じさせた。

大神(おおがみ)ロウと申します。以後、お見知りおきを」

 慇懃な態度とは裏腹に、リュートの存在はあまり歓迎されていないことが、発せられる気配から伝わってきた。

 いや、見定められているのか。

 何かと無警戒なカミラに代わって、彼が必要以上に警戒することでバランスを取っているのだ。

「よろしくお願いします」

 リュートもできる限り平静を装って、丁寧に頭を下げた。

「それでは、私はこれにて失礼致します。何かございましたら、お呼びください」

 ロウはカミラに一礼すると、現れた時と同じように音も無く姿を消した。

「悪いね、不愛想な男で。でも、根はいい人だから、これからも仲良くしてあげて欲しい」

「はあ……」

 いつも仲良くする前に姿を消されるのだが。と思いながら、リュートは曖昧に頷いた。

「それじゃあファイトを始めようか。また、このベンチでいいかな?」

「は、はい!」

 確認しながらも早々にカミラはベンチに座り、リュートも慌ててそれに続いた。

「ルールは覚えているかな?」

 カミラがベンチの上にプレイマットとカードを広げながら確認する。

「はい! ルールは復習してきました。ドラゴンエンパイアのカードなら、効果もだいたい把握しています」

「では、ユニットのスキルテキストを解禁しても大丈夫そうだね」

 そんなやり取りを交えながら、ふたりはプレイマットの上にカードを並べ、山札から5枚のカードも引き終えた。

「それでは、始めようか」

「はい! よろしくお願いします!」

 リュートの声は、初めて自分で組んだデッキを動かせる楽しみと、再びカミラとファイトできる喜びとで弾んでいた。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《憧れのお姉様 フェルティローザ》!」

「《砂塵の双銃 バート》!」

 

 

「私のターンだね。スタンド&ドロー。

 手札を1枚捨てて《麗しの休日 フェルティローザ》にライドだ」

「僕のターンです。スタンド&ドロー。

 手札を1枚捨てて《砂塵の銃撃 ナイジェル》にライドします!

 バートの効果で1枚引いて、ナイジェルでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードだよ」

「ドライブチェック! ……トリガーはありません」

「ダメージチェック……(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはフェルティローザに。

 ……ふふふ。変わらずユージンを使い続けているんだね」

 ファイトの手を止めて、カミラが嬉しそうに笑う。

「はい! はじめて使った時から……いえ。はじめて見た時から、カッコイイと思いました」

「一目惚れというやつかな? 妬けるじゃないか。

 おっと、私のターンだね。スタンド&ドロー。

《享楽の才媛 フェルティローザ》にライド。

 G1フェルティローザのスキルで、ドロップゾーンの《巡り星の綺想曲 イングリット》を手札に加えるよ。

 フェルティローザでヴァンガードにアタック」

「ノーガードです」

「ドライブチェック! ……トリガーは無しだよ」

「ダメージチェック……こちらもトリガーはありません。

 スタンド&ドロー!

 ライド! 《砂塵の凶弾 ランドール》! ナイジェルのスキルでソウルチャージ!

 ナイジェルでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

「ドライブチェック! ……トリガーはありません」

「ダメージチェック……トリガーは無し。

 スタンド&ドロー!

 さあ、夜会はここからが本番だよ」

 カミラが手札を1枚捨て、ライドデッキに残された最後のカードを高々と掲げる。

「ライド! 《宵闇月の輪舞曲 フェルティローザ》!!」

 銀色の月が昇り、それを背にした少女が、二つ括りにした薄桃色の髪を翼のように広げ、ゆっくりと大地に降り立った。その周囲からは青白い亡霊が炎となって燃え盛り、彼女の舞台に彩りを添える。

「G2フェルティローザのスキル! 手札の《結い上げた憧憬 ハイルヴィヒ》を山札の上に置き、ドロップゾーンから《巡り星の綺想曲 イングリット》を手札に加える。

 そのイングリットをコール! さらに《手を取り合って エルネスタ》、《わがままお嬢 ヘルミーナ》もコール! ヘルミーナのスキルで、エルネスタにパワー+5000!

 さあ、バトルだよ!

 エルネスタのブースト、イングリットでヴァンガードにアタック! アタック時、イングリットのパワー+5000! 合計パワーは36000だね」

「まだペルソナライドもしていないのに、それだけのパワーが……!? つっ……ノーガードです」

 フェルティローザが指揮者のように指を振るうと、彼女の取り巻きであるゴーストの少女達が霊体へと姿を変えてランドールに襲い掛かる!

「ダメージチェック……(クリティカル)トリガー! パワーはランドールに!」

「アタック終了時、イングリットは山札の下へ戻る。

 ヘルミーナのブースト、フェルティローザでヴァンガードにアタック!! 合計パワーは21000!」

「《コンダクトスパーク・ドラゴン》でガード! これで合計パワーは35000! カミラさんはトリガーを2枚引かなければ、アタックは通りません!」

「……ふふ、そうだね」

 カミラは意味深な笑みを浮かべると、山札に手をかける。

「ツインドライブ!!

 1枚目……は、当然さっき山札の上に置いた《結い上げた憧憬 ハイルヴィヒ》だ」

(……そう言えば、カミラさんは何でわざわざノーマルユニットを?)

 リュートが遅ればせながら首を捻る。その疑問はすぐに明らかになった。

「フェルティローザのスキル発動! ドライブチェックで『ゴースト』のノーマルユニットがめくれた時、そのカードを前列にスペリオルコールする!

 さらに! CB1することで、フェルティローザのドライブ+1!」

(ドライブが、増える……? ……しまったっ!!)

 ここにきてリュートは己の失策に気が付いた。

「ハイルヴィヒのスキルも発動。このユニットをソウルに置いて、1枚引くよ。バトルフェイズ中に『ゴースト』が登場したので、エルネスタもスタンドする。

 引き続きツインドライブ、だ

 2枚目……おや、★トリガーか。とは言えアタックできるリアガードがいないので、ここはヴァンガードにパワーと★を振っておこう。

 3枚目……《心弾む指先 エデルガルト》。『ゴースト』のノーマルユニットなので、スペリオルコール。さらにドライブ+1

 4枚目……引トリガーだ。1枚引いて、パワーはフェルティローザに。合計パワーは41000。ガード貫通だね」

 これも計算の内とばかりに、カミラが胸を張る。

「くっ……ダメージチェックです!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはランドールに!」

「エルネスタのブースト、エデルガルトでヴァンガードにアタック! エデルガルトは他のリアガードの『ゴースト』の数だけパワー+2000! 合計パワーは30000!」

「まだ届くの!? 《砂塵の双弾 トラヴィス》でガード!」

「ふふ。厄介なユニットを切らせたね。私はこれでターンエンドだ」

 ここまででリュートのダメージ4に対し、カミラのダメージは2。カミラが大きくリードしている。

「けど、僕だってここからです!

 スタンド&ドロー!!

 ライド! 《砂塵の重砲 ユージン》!!」

 突如として砂嵐が巻き起こり、その奥から巨大な銃を肩に乗せた無頼漢が姿を現す。

 その眼帯で左目を覆った男――ユージンは、銃砲を空に向けると開戦の合図として派手に空包を打ち上げた。

(さっきのカミラさんのターンで、真っ先に落とさなければならないユニットはわかった……!)

「ランドールのスキルで1枚ドロー! ドロップから1枚ソウルへ!

《堅鋭竜 ゲイツフォート》、《突貫竜 トライバッシュ》をコール!

 この2体をレストして、ユージンのスキル発動! まずはエルネスタを退却させます!」

 ユージンが再び天に向かって射撃する。ただし、今回は空包ではない。一度は雲間へと消えた魔法の弾丸が、雷となってゴースト達に降り注ぐ。

「……なるほど。こちらのキーカードは把握したというわけだね」

 どこか嬉しそうに、カミラがエルネスタのカードをドロップゾーンに置く。

「ユージンにパワー+10000!

 リアガードが退却したので、ゲイツフォートはスタンド!

 そして、ユージンのもうひとつのスキル発動! SB5することで、カミラさんのユニットのいないサークルの数まで山札の上からスペリオルコール!!」

 ユージンは重砲を敵に向け牽制しながら、指笛を吹いた。

 ピィーッと鋭い音が戦場を駆け抜ける。すると、ある者は崖の上から、ある者は砂の中から、ある者は谷間を抜けて。周囲に隠れていたユージンの仲間達が一斉に飛び出し、敵を取り囲んだ。

「スペリオルコール! 《砂塵の双撃 オーランド》、《砂塵の榴砲 ダスティン》、《堅城竜 ジブラブラキオ》!

 ダスティンのスキル発動! 手札を1枚ソウルに置いて、1枚引き、エデルガルトを退却させます! ジブラブラキオもスキル発動! このユニットをレストさせてヘルミーナを退却!」

 放たれた雷撃の榴弾が。巨竜のひと薙ぎが。次々とゴースト達を蹂躙し、彼女達は霧となって姿を消していく。

「バトルです! バトル開始時、カミラさんのリアガードが1枚以下なのでジブラブラキオはスタンド!

 オーランドのブースト! ジブラブラキオでヴァンガードにアタック!」

「《くいしんぼう ノーラ》でガード!」

「ユージンでヴァンガードにアタック!! アタック時、オーランドをソウルに置いて、ユージンのパワー+5000! トライバッシュもソウルに置いて★+1だ!!」

「……ふむ。これはノーガードかな」

 カミラが苦笑しながら宣言する。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、(ヒール)トリガー! ダメージ回復し、パワーはダスティンに!」

「ダメージチェック……2枚ともトリガーは無しだよ」

「ゲイツフォートのブースト! ダスティンでヴァンガードにアタック! アタック時、SB1でパワー+10000!」

「2枚の《ゆるだるまったり マルグリット》でガード」

 これでリュートはターンを終えて、ダメージは3。一方のカミラのダメージは4。逆転した形になる。それも、カミラのリアガードは全滅している。

「……素晴らしい。想像以上だよ。たったひと月でここまで強くなっているなんて。ずいぶんと練習したのかな?」

 カミラが手札をベンチに置き、手を叩いて称賛する。

「いえ。まずはもう一度カミラさんとファイトしたかったので。動きを何度もシミュレーションしたり、ファイトの動画はたくさん見たりしましたけど」

「……なるほど。やはり君は素質がある」

「いや、それほどでも……」

「どうやら、私も気兼ねなく本気を出せそうだ」

「……え?」

 空気が変わった。

 脳髄にまで悪寒が奔り、ピリピリと肌を刺す気配がカミラから放たれていることにリュートは気付いた。

 カミラは口元を引き結び、宝石のように丸い瞳を、今は全てを射貫くかのように鋭く細めている。

 思えば、カミラはいつも飄々としていて――真剣な顔などまだ見たことが無かった。

「スタンド&ドロー!

 ペルソナライド! 《宵闇月の輪舞曲 フェルティローザ》!!」

 フェルティローザが無数の蝙蝠に姿を変え、月へと昇る。蝙蝠達が渦を巻き、再び少女の姿に戻った時には、吸血鬼然とした黒いドレスを纏っていた。

「《紡ぎ重ねる追走曲 ディートリンデ》をコール。ディートリンデのスキルでエルネスタをドロップゾーンからスペリオルコール」

(まずい。エルネスタが戻ってきた……)

「《幽魂の抱擁 ベティーナ》、《貴女に捧ぐ小夜曲 エレオノーレ》をコール!

 さあ、楽しい夜会も終わりの時間だ……バトル!

 エルネスタのブースト! ディートリンデでヴァンガードにアタック!」

「ここはまだ防げる! 《白光竜 パラソラース》、《過激竜 ヴェロキハザード》でガード!」

「いい判断だ! アタック終了時、ディートリンデはデッキの下に戻る!

 ベティーナのブースト! エレオノーレでヴァンガードにアタック! アタック時、エレオノーレはSB2することでパワー+15000!」

「ノーガード……トリガーはありません」

「アタック終了時、エレオノーレはデッキの上へ!

 さあ、フェルティローザでヴァンガードにアタック!!」

「ガード! 《ツインバックラー・ドラゴン》! 手札を1枚捨てて、そのアタックはヒットしません!」

「同じ失敗はしない、か。完全ガードも使いこなしている。いいね!

 フェルティローザのドライブチェック!!

 1枚目、エレオノーレをスペリオルコールし、ドライブ+1! エルネスタはスタンド!

 2枚目、★トリガー! ★とパワーはエレオノーレに!

 3枚目、《胸に募る慕情 フロレンツィア》! このユニットをスペリオルコール! ドライブ+1! ベティーナの効果でドロップのフェルティローザをソウルに!

 4枚目、★トリガー! ★とパワーはフロレンツィアに!」

「あ……」

 リュートの手札はまだ4枚ある。それでいて、すべてのアタックを防ぎきるには足りなかった。

「これで終わりかな……? エルネスタのブースト! エレオノーレでヴァンガードにアタック!」

 上空から急降下してきたフェルティローザの爪がユージンに襲いかかる。盾代わりにかざした銃が易々と斬り裂かれ、ユージンが体勢を崩した隙に、霊体となったゴースト達が次々とその魂に食らいつき……ユージンの意識は闇に落ちた。

 

 

 呆然とするリュートのダメージゾーンに6枚目のカードが置かれた。

「あ、その……すまない」

 最初に我に返ったのはカミラで、しどろもどろになって弁解をはじめる。

「君が予想以上に強かったのが嬉しくて、つい本気を出してしまった……。いや、もちろん手加減などという失礼なことをするつもりはなかったのだけれど、それにしても……」

「す……」

 放心状態だったリュートの口から空気が漏れる。そして――

「すごいよ!! カードの組み合わせで、ここまでの動きができるんだ!! カミラさん、やっぱりすごい!!」

 憧れのヒーローを前にした子どものように目を輝かせて、リュートがカミラに詰め寄った。

「……え? いやー、それほどでも……」

 先ほどとは別の理由で、カミラがしどろもどろに答える。

「デッキの改善点もいっぱい見つかった。10000ガードの引トリガーや、20000ガードの前トリガーも欲しいな。最初のヴァンガードのアタックは防いだ方がよかったし。そうだ。それなら、最初の手札交換でガード値の高いカードを残さなかったのが失敗だったかも知れない。なんて奥が深いんだ。

 ……やっぱり面白いよ、ヴァンガード」

「……お気に召したようで何よりだよ」

 ようやく普段の調子を取り戻したカミラが、嬉しそうに微笑む。

「カミラさん。僕、これからもヴァンガードを続けます。プロになるとかそういうのはまだ想像もつかないけど。しばらくは、このゲームに夢中になっていたい」

 夢に破れた少年はもはやどこにもおらず、新たな目標を見つけた戦士(ファイター)の姿がそこにはあった。

「そうか。では君が望むなら、これから毎日ファイトに付き合ってあげよう」

「いいんですか!?」

 カミラの提案に、リュートが嬉しそうに問い返す。

「ああ。このあたりは毎晩の散歩で通るからね。ファイトがしたければ、またこの時間にここで待っていてくれればいい」

「あ、けどカミラさんの体は……」

「心配してくれてありがとう。けど、ご覧の通り、しばらくは1戦だけなら問題なくファイトできそうだ。

 だから毎日1戦だけ。どれだけ悔しくても、どれだけ名残惜しくても、ファイトできるのはただの1回。それをどれだけ生かせるかは君次第だ」

 細い指をピンと立ててから、それをリュートの胸元に突き付けてカミラが言う。

「は、はい! ありがとうございます!」

「どういたしまして。まあ、たまに来れない日もあるだろうけど、その時は察してくれたまえ」

 言いながら、カミラがゆっくりと立ち上がる。

「それでは、今日はこのあたりでお暇しよう。楽しかったよ、リュート君。さようなら」

「はい! お疲れ様です!」

 すっとカミラの行く手に現れたロウにデッキを渡し、代わりに日傘を受け取ると、それをパッと咲かせて彼女は公園を後にした。

 

 

 リュートも上機嫌で家路につく。

 寝ている親を起こさないようにそっと家の扉を開け、するりと中へと滑り込んだ。

(嬉しいな。こんな毎日がずっと続くんだ……)

 そこまで考えたところで、頭の中でカミラの声がフラッシュバックした。

 

 ――「医師からは20歳の誕生日を迎えることはないだろうと宣告されたよ」

 

 ――「先月に19歳の誕生日を迎えたばかりだよ。君と初めて出会った日のことだね」

 

(いや。長くても、1年で終わるのか……)

 リュートの手からドアノブがすり抜け、バタンと音をたてて扉が閉ざされた。




ヴァンガード・ゴシックの第2話をお送りさせて頂きました。
今回もフェルティローザとユージンのファイトでしたが、次回から他のユニットも続々と登場します!
お楽しみに!

【デッキログ】
カミラデッキ:HW97
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