カードショップ『ニアミント』は今日も盛況。
ショーケースに並んだカードへ、まるで宝石でも見るように憧れの視線を向ける女児。
真剣な表情でストレージのカードを漁る学生。
ファイトスペースは特に賑やかで、お祭りのような歓声があがることもあれば、悲鳴にも似た嬌声だってあがることもある。
「はい。またあたしの勝ちー。ねー、おにーさーん。あたしみたいな小さな子に負けちゃってくやしくないのぉ?」
「なんでそれまだ続けてるの!?」
今聞こえてきたのは、店の常連である最近成長著しい少女と、平凡を絵に描いたような少年のやり取りだ。
それらをすべて見渡すことのできるカウンターで、『ニアミント』の店長は一息つきながら目を閉じる。動きやすいようポニーテールにまとめた髪がゆらりと揺れた。
急病で倒れた祖父の店を引き継いだ直後は大変だったが、今はこの店が、そしてこの店に来てくれるお客様のすべてが愛おしい。
ここを守るためなら、なんだってできる。
店長は人知れず覚悟を決めると、それを感じさせない笑顔に戻って、いつも通り接客を再開した。
閉店時間の8時が過ぎ、外は真っ暗になっていた。澄み渡った黒い空に、吐く息だけ白く浮かぶ。もうすっかりと冬である。
「さようならです店長! また来ますねー!」
「ありがとう! 気をつけて帰ってねー」
顔面の右半分に火傷を負った少女が大きく手を振り、店を出てそれを見送っていた店長も手を振り返した。
彼女が店に来てまだ1年も経っていないが、痛々しい容姿を気にもさせない陽気なその少女は、いるだけで店の雰囲気をよくしてくれる。今や店になくてはならない常連のひとりである。いずれ大学生になったらバイトに来て欲しい。
「……さて」
そんなことを考えながら、店長は気合を入れ直すように声をあげると。
「そんなところでうちのお客さんを見張らないでくれるかな?」
誰の気配も無い虚空へと向けて鋭く言い放った。
もちろん反応は無い。
さらに声を低くしてなおも続ける。
「まるで変質者みたいだよ。……
その名を呼ぶと、物陰から音もなくひとりの男性が姿を現した。
褐色の肌をした、獣を思わせる隙の無い気配を漂わせた男だ。
かつては灰色の髪をひっつめにして束ねた完璧な身なりの男性だったが、今やその髪はボサボサに伸びきっており、燕尾服もところどころが擦り切れ色褪せている。
若々しく整った容姿をしているにも関わらず、どこか老成した余裕を漂わせる年齢不詳の外見も、今はずいぶんとやつれ果て、見るに堪えない有様だったが、その黒い瞳だけは何かに飢えているかの如くギラギラと輝いていた。
「気付いていらっしゃったのですか」
変わり果てた姿をしながら、以前に会った時と変わりない慇懃な調子でロウが軽く目を見張る。
「これでも防犯には力を入れてるんだよ? こんなか弱い美人店主がひとりで切り盛りしてるんだから」
と店長も冗談めかしながら言う。
「で、お店の前で何をしていたの? うちのお客さんを見張ってたよね? それもここ何日かずっと」
が、次の瞬間には視線と口調を鋭くして詰問した。
「失礼ながら、貴女様には関係の無いことでございます。店にご迷惑はかけませんので」
丁寧な口調ながら、取りつく島もない。
「…………」
「…………」
ふたりはしばらく無言で睨み合った。
「……こんなところで立ち話もなんだし、とりあえず店に入らない?」
沈黙を先に破ったのは店長で、小さく白い吐息を吐いた後、がらりと口調を変えて、まるで喫茶店にでも誘うように言った。
「お気遣いなく。すぐにお暇致しますので」
もちろんロウはやんわりと断ったが。
「拒否権は無いよ。逃げるようなら、不審者がいたって警察に通報するから」
すぐさま脅すような声音で言い放つ。
「…… 。承知致しました」
ロウが観念したように頭を下げる。不自然な間があったが、恐らくは文字にもできないくらいに小さく舌打ちでもしたのだろう。
「こうして会うのも久しぶりだねー。深夜ショップ大会以来かな?」
店に入り、シャッターを半分だけ閉め。これからさぞ厳しい尋問が待ち受けているのかと思いきや、昔を懐かしむような砕けた口調になって店長が言った。
「左様でございますね。もう1年以上も昔の話でございます」
「そんなにかー。大人になってから、時間が経つのが早く感じるなぁ」
そう言って、過ぎゆく時間へと思いをはせるように天井を仰ぐ。
「けど、あの夜は今でも鮮明に思い出せる。なのに、もうずっと昔のことのように遠く懐かしく、どこか寂しい、不思議な記憶。……もう同じ夜は二度と訪れないんだって、わかってるからなのかな?」
「…………」
「カミラさんのこと、リュート君から聞いたよ。お悔やみ申し上げます」
「……いえ。私はカミラ様の肉親ではございませんので、そのようなお言葉をかけて頂く道理がございません」
「けど、あなたは実の親のようにカミラさんを心配してた。そこに道理なんてものはないよ」
「……もったいないお言葉です」
(そして、実の親で無かったからこそ、娘と妹と友人を同時に喪ったのと同じ苦しみに苛まれているのかな?)
ぼろぼろの身なりをしたロウを睨め回しながら、店長は心中で呟いた。
「深夜ショップ大会の前にも何度か会ったよね。はじめは私が信用できる人物かを見定めるために。それ以降は深夜ショップ大会の相談で」
しんみりしてきた雰囲気を吹き飛ばすように、明るい声で店長は話を戻した。
「はい」
「その時に何度かファイトもしたよね。戦績はどうだったか覚えてる?」
「4戦して2勝2敗でございます」
「そ。で、その時の決着を、今ここでつけない?」
口調こそ軽いものだったが、まるで電撃でも奔ったかのように空気がピリつく。
「……ただのファイトのお誘い、というわけではございませんね?」
「うん。私が勝ったら、あなたが何を企んでいるのか、洗いざらいすべてを話してもらう。あなたが勝ったら、私はもうあなたに干渉しない。どう?」
「それにも拒否権は無いのでしょう?」
「もちろん」
「……まあいい。実力行使が通るのであれば、こちらとしても願ったりだ」
ロウの口調と気配ががらりと変わった。指を灰色の髪に差し込み、ぐしゃぐしゃとかき分ける。髪をまとめていた頃ならいざ知らず、今の彼がそんなことをしてもすでにボサボサの髪が僅かに広がるだけだったが。
その行為自体にあまり意味は無いのだろう。これはルーティンでしかないのだ。
――彼が獲物を狩る際の。
「本気でやらせて頂きます」
口調こそ元に戻ったが気配は変わらず、狩りを前にした狼のような鋭い殺気を全身から漂わせていた。
「あっそ。言っとくけど、
常人なら動けなくなるか逃げ出すかしてもおかしくない、明らかに異質な気配を平然と受けながら、店長はエプロンをはずすとカウンターの上に叩きつけるようにして置いた。
さらにそのポケットからしゅるりと細長い布を取り出す。それは少し色褪せた桃色のリボンだった。そのリボンを、髪をまとめているヘアゴムの上から蝶結びにして結びつける。最後に気合を入れるように両端をぎゅっと締め付けると、桃色のリボンはまるで蝶の如くにふわりと舞い広がった。
「……
ロウが店長を名で呼ぶ。
「かつて高校生限定の大会において、無名の1年生でありながら、あらゆる優勝候補を薙ぎ倒して優勝。その後の大会でも無敗記録を3ヶ月ほど更新し続けるも、ある日を境にまったく表舞台へと姿を現さなくなった。
活躍した期間こそ短いが、知る人には一夜の夢の如き記憶を残した『夢幻蝶』の異名で呼ばれる幻のファイター。
あなたがそれと知れば、この店に来ている人は皆、驚くでしょうね」
「この店の常連で、あたしのこと知ってるのは教授だけだよ。
そんなことより、このリボンどうかな? 変じゃない? 子どもっぽいとは思うんだけど、高校生の頃はずっと付けてたから、これが無いと気持ちが締まらなくて……」
くいくいとリボンの両端を引っ張りながら店長――胡蝶カエデが尋ねる。
「いえ。お似合いですよ」
それにロウが即答した。……単に子どもっぽいと皮肉っているのかも知れなかったが。
「ありがと」
それに気付かずか、スルーしてか、カエデは嬉しそうに微笑んだ。
「けど、おだてても手加減はしないからね。さ、ファイトスペースに移動しましょ」
「承知致しました」
今日のお役目を終えたファイトスペースに、再び灯りがともされる。
子ども達の成長を見守り続けてきたそこは、今宵、大人達の誇りを賭けた決闘を見届けることとなった。
「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」
「《清廉なる騎士 テグリア》!」
「《アンキャニィ・バーニング》」
ふたりが同時にカードをめくると、己よりも巨大な大剣を携えた女騎士と、異能の炎を纏いし少年がイメージの中で向かい合う。
「ライド! 《ピンクモスガール メープル》!」
女騎士がさっと道を譲り、そんな彼女をなお押しのけるようにして、桃色の髪をした
「私のターンですね。スタンド&ドロー。
《凶眼獣 アマナクロウグ》にライドします」
(凶眼? もしかして、アマナグルジオ?)
カエデが訝しむように眉をひそめる。
「アンキャニィの効果で1枚ドロー。
アマナクロウグのスキルを発動。山札の上から5枚見て、アマナグルジオを含むカードを公開しなかったので、ソウルチャージ2をさせて頂きます」
(いや……。この凶眼の採用理由は……)
カードを5枚めくりはしたものの、一瞥すらせずにそれらを山札に戻した。
すでにキーカードが揃っている可能性もあるだろうが、恐らくこのデッキにアマナグルジオは採用されていない。
(やっぱり、いつものデッキというわけね……)
「アマナクロウグでヴァンガードにアタックします」
「ノーガード」
「ドライブチェック……
「ダメージチェック……2枚ともトリガー無し。
あたしのターン! スタンド&ドロー!
ライド! 《悪逆非道?のモスガール メープル》!」
「メープルをライドラインに採用した構築……『夢幻蝶』は健在というわけですね」
「その呼び方、こっ恥ずかしいからやめてくんない? メープルちゃん、蝶じゃないし。蛾だし」
「失礼致しました」
「メープルでヴァンガードにアタック!」
ロウはノーガードを宣言し、カエデもドライブチェックで★トリガーを引いたことで、ダメージは2対2で並んだ。
「私のターンですね。スタンド&ドロー。
《凶眼獣 アマナオウルズ》にライドします。アマナオウルズのスキルで、山札から
アマナオウルズでヴァンガードにアタック」
「《整弓の騎士 サヴァルフ》でガード!」
「ドライブチェック……トリガーはありません。
私はこれにてターンエンドでございます」
「あたしのターン! スタンド&ドロー!
ライド!! 《剣聖騎竜 グラムグレイス》!!」
聖域に舞い降りるは純白の鎧を纏いし白銀の竜。その両手には翠緑に輝く細剣が握られている。
数ある竜の例に漏れず巨体ながら、それはどこか優雅さすら感じさせる所作で隙無く剣を構えた。
「グラムグレイスのスキル発動!! 1枚引いて、手札から《閃裂の騎士 カルブレ》を中央後列にコールし、パワー+10000!
さらにカルブレのスキルも発動! 山札の上から3枚を見て……グラムグレイスを手札に加える!
《トランケイトブレス・ドラゴン》をコール! 山札の上から1枚見て……そのカードを山札の下に。さらにもう1枚、山札の上を確認!
《翔鎌の騎士 ダヴン》もコールして、バトルよ!
グラムグレイスでヴァンガードにアタック!! ダヴンの効果でパワー+5000!」
「グラムグレイスから……ということはトリガーですか。ノーガードです」
「ツインドライブ!!
1枚目は
2枚目……こっちはトリガー無し!」
「ダメージチェック……★トリガー。パワーはヴァンガードに」
「まだまだ! トランケイトブレスでヴァンガードにアタック!」
「《バイタル・リーヴァー》でガードします」
その後、残る2回のアタックも、ロウは丁寧に防いでみせた。
「私のターンです。スタンド&ドロー。
《重力の支配者 バロウマグネス》にライド!!」
いつの間にか、異能者の青年が重力に逆らうようにして宙に浮いていた。
青年は指先に小さく黒いエネルギー球を生み出し、ピンと指で弾くと、それに触れた豪奢な建物が、一瞬にして潰れるように崩壊した。
最強の傭兵と呼び声高き男が、今、天すらも地に落とさんと聖域へと降り立つ。
「やっぱりバロウマグネス……!!」
押し潰されそうなほどの重圧を肌で感じながら、カエデはどこか面白がるような笑みを浮かべた。
「ライドラインを凶眼にすることで、バロウマグネスのライドラインと比較して、ソウルは1枚減るけれど、手札は1枚増える。
手札が1枚増えるなら、その1枚でソウル1枚分以上は稼げるという計算ね」
「仰る通りでございます。
《ダイアフルドール あまんでぃーぬ》をコール。スキル発動し、このターン、私のソウルチャージは追加で+1されます。これで準備は整いました。
《ブレインウォッシュ・スワラー》をコール。ソウルチャージ2。ソウル7
《磁極反転・天則決壊》をプレイ。ソウルチャージ4。バロウマグネスに前列のパワー+5000のスキルを与えます。
そしてソウルの《フレイミング・ポニー》のスキル発動。このカードをバインドして、ソウルチャージ3。もう1枚のポニーで、同じスキルをもう一度。
これでソウルは15枚になりました」
「相変わらず手際がいいわねぇ」
「お褒めに預かり光栄です。
バトルフェイズ!
あまんでぃーぬでヴァンガードにアタックします」
「ダヴンとトランケイトブレスでインターセプト! 《加護の魔法 プロロビ》でガード!」
「盤面にリアガードは残しませんか。さすがにお上手。
スワラーでヴァンガードにアタック。このターン、ソウルチャージを12回行っているので……」
「あーもう。そんなのノーガードに決まってんでしょ。
ダメージチェック……トリガー無し」
「バロウマグネスでヴァンガードにアタック!
アタック時、カードを1枚引き、バロウマグネスのパワー+10000、★+1。すべてのユニットをソウルに置き、ソウルから2体の《ライラック・ラッシャー》をコール、この2体のパワー+10000」
「ヒュー、飛ばすわね! 《パラディウムジール・ドラゴン》で完全ガード!!」
「ツインドライブ!!
1枚目……トリガー無し。
2枚目……
パワーの低いライラックでヴァンガードにアタック。ソウルは15枚あるので、パワーは57000です」
「ノーガード……前トリガー。前列のパワー+10000」
「もう1体のライラックでアタック」
「ノーガード……」
このダメージチェックでトリガーはめくれず、このターンだけでカエデは5点にまで追い詰められた。
「あたしのターン! スタンド&ドロー!!」
それでも彼女は楽しそうにカードを引く。
「ペルソナライド!! 《剣聖騎竜 グラムグレイス》!! グラムグレイスのペルソナライド効果は、後列にも及ぶ!
そして、ヴァンガードがペルソナライドで登場したので、ドロップからG1、G2のメープルを、それぞれスペリオルコール!!」
激しい戦いの中、いつの間にか大の字になって伸びていたメープルが、慌てて戦線へと復帰する。
「グラムグレイスのスキル発動! カードを1枚引いて、《翔刃の騎士 フェルンバエル》を中央後列にスペリオルコール!
《翔風の運び手 ラクチェ》とダヴンもコールして、バトルよ!
フェルンバエルでヴァンガードにアタック!! ダヴンのスキルでパワー+5000!」
「2体のライラックでインターセプト。《ダイアフルドール あれっさんどら》と《フレイミング・ポニー》でガードします」
「バトル終了時、フェルンバエルのスキルで、グラムグレイスのパワー+10000! ドライブ+1!
フェルンバエルをソウルに置いて、1枚ドロー!
グラムグレイスでヴァンガードにアタック!!」
「ノーガードです」
「トリプルドライブ!!!
1枚目! ……トリガー無し。
2枚目! ……★トリガー! ★はグラムグレイスに! パワーはG2メープルに!
3枚目! ……治トリガー! ダメージ回復し、パワーはダヴンに!」
グラムグレイスの持つ、一対の剣が閃いた。
怒涛の突きは無数の剣閃を描きながら、驟雨となってバロウマグネスへと降り注ぐ。
「ダメージチェック……!
2枚ともトリガーではありません」
「ラクチェのブースト! ダヴンでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード……トリガーはありません」
これでロウのダメージは5点。
「G1メープルのブースト! G2メープルでヴァンガードにアタック!!」
メープルの指先から白く細い糸が伸び、満身創痍のバロウマグネスへと絡みつく。
このアタックが通ればカエデの勝ちだ。
「《リキューザルヘイト・ドラゴン》で完全ガードします」
が、その糸はあっさりと引き千切られた。
「エンド時、ラクチェを退却。ソウルからフェルンバエルを手札に加えるよ」
彼女もこのターン中に仕留め切れるとは思っていなかったらしい。次の準備を着々と進め、ターンエンドを宣言する。
「……すばらしい。貴女のその強さに敬意を表します。
貴女が公式大会でファイトを続けていれば、きっとプロになっていたことでしょうね」
「まったく興味は無かったけどね。大会に出場したのも、どうしても欲しいカードがPRカードになってたからだし。
あたしがヴァンガードを好きな理由は、ファイトを通してたくさんの人と繋がれるから。
だから、そのための場所であるこの店は大切にしてるし、もしそれを乱そうという人がいるのなら誰であろうと容赦はしない!」
叫ぶ彼女のリボンが蝶のように大きく優雅に羽ばたいた。
「さあ、おしゃべりはもういいでしょ。このターンを耐え凌いで、次のターンで終わらせる!」
そう宣言するカエデの手札8枚に対し、ロウの手札は僅か1枚。それは現実的な宣言にも思えたが。
「私のターン。スタンド&ドロー」
ロウは自分が負けるなどと微塵も想像していないような薄ら笑いを浮かべながらカードを引いた。
「バロウマグネスにペルソナライド!
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》と《デザイアデビル・インケーン》をコール!
さあ、バトルです!
エングレイヴァーでヴァンガードにアタック!」
「ダヴンとメープルでインターセプト!」
『子分を守るのは悪党の務めだ!』
メープルが勇ましくグラムグレイスを守るように立ち塞がるが、異能者にポカンと小突かれて再び気を失ってしまう。
「エングレイヴァーをソウルインして、カウンターチャージ。続けてインケーンでもアタックします」
「《爽琴の騎士 リクラ》でガード!」
「バロウマグネスでヴァンガードにアタック時、1枚引き、パワー+10000、★+1、互いのユニットをすべてソウルへ置き、私はあまんでぃーぬと、《キーンリィ・ルデリィ》をスペリオルコール!
インケーンのスキルで、バロウマグネスのパワー+5000、ドライブ+1!
ルデリィのスキルで、ソウルから7枚を山札に戻し、ルデリィのパワー+35000!」
(このターンで決めにきたわね……なら!)
「ブリッツオーダー《艱難遮る碧の結界》! さらに《天音の楽士 アルパック》と《ブレードフェザー・ドラゴン》でガード! そのアタックは通らない!」
カエデはまだ手札に完全ガードを1枚残している。ダメージも4点なので、★トリガーを2枚引かれない限り――なお、ロウの超トリガーはソウルに見えている――完全ガードとノーガードで守りきれるはずだ。それも手札にグラムグレイスとフェルンバエルを残した理想の状態で!
「そして結界のソウルコストで、ソウルに封じたメープルもドロップに戻された。実に隙の無いプレイングです。どんな状況においてもメープルが生かせる構築が成されている。さすがは『夢幻蝶』」
「やめてってば」
「それでは勝負と参りましょう。トリプルドライブ!!!
1枚目……引トリガー! 1枚引いて、パワーはあまんでぃーぬに。
2枚目……★トリガー! ★はルデリィ、パワーはあまんでぃーぬに。
3枚目……★トリガー! ★とパワーをすべてあまんでぃーぬに」
「そんなっ……!! ルデリィでトリガー率は下がってるはずなのに……」
ありえないものを見るかのように、カエデがロウのデッキを瞠目する。
「申し訳ございません。ですが私も、こんなところで立ち止まっている暇はないのです。
ルデリィでヴァンガードにアタック」
「……ノーガード」
バロウマグネスの放つ特大の重力球。それをグラムグレイスは輝く細剣を交差させどうにか防ぎきった。
だが、その隙にグラムグレイスの懐へと飛び込んだ異能者の少女がゆっくりと爪を広げる。鮮血の如き赤い色をした巨大な鉤爪は、まるで蝶を獲物とする蜘蛛のようで。
それがグラムグレイスの胸にそっと添えられたかと思うと、その中に宿る
「ダメージチェック……あーあ、負けちゃった」
ロウに啖呵を切った時の凛々しさはどこへやら。ダメージゾーンに6枚目のカードを置きながら、普通にファイトを楽しむ少女のようなあっけらかんとした口調でカエデが言った。
「約束通り、私はもうロウ君がしようとしていることに関わらない。それでいいんでしょ」
そしてリボンを解きながら、ちょっと拗ねたように宣言する。
「……よろしいのですか?」
その物分かりのよさに、ロウが思わず聞き返した。
「ファイトでの約束はちゃんと守るよ。私だってファイターだもの」
「カエデ様は『あなたが勝ったら、
すぐさま警察に通報して『あとは警察に干渉してもらうから』と言い張ることもできるはずです」
「するつもりだったよ」
カエデはしれっと言った。
「けど、ファイトをしてるとなんとなく分かるんだよね。その人がどんな人かっていうのが」
「ファイトで私を試したと?」
「1年前は、私が信用に足る人物か、ロウ君がファイトで試してきたでしょ? これでおあいこ。
それで私にはやっぱりロウ君が悪い人のようには……少なくとも、越えてはならない一線を越えるような人には思えない
最悪、何かをやらかそうとしていても、本当に信頼できる人の説得には耳を貸して、踏みとどまってくれるって信じてる。
そして、それができるのは私じゃないなって思ったの」
「そのような人物が他にいるとは思えませんが」
カエデとロウの、共通の知り合いはそう多くない。というか故人であるカミラを除けばひとりしかいないのだが。
とぼけているのか、本気でそう思っているのか。真顔になったロウからは判断がつかなかった。
「まあいいわ。すべてが終わったら、また会いに来て。今度は何も背負わず、気楽にファイトしましょ」
「いいですね。あの方が亡くなられてから、まだ生きていたいと初めて思えた」
そう言い残すと、灰色の髪を翻し踵を返したロウの姿がカエデの眼前でかき消えていく。
慌ててカエデが店の外へと飛び出すも、もう彼の姿はどこにも見えず、静かな宵闇がどこまでも広がっていた。
ダークステイツファンの皆様、お待たせ致しました。
いよいよ第2部でも大神ロウが本格的に登場です。
そして、もうひとり。
店長こと胡蝶カエデも、ついに参戦です。
このキャラクターはメガコロニーのライドラインが登場した時のために用意していたキャラクターで、
普段は準モブとして活躍させつつ、メガコロライドライン登場後に1度だけ、今回のように本性を明かしてファイトさせるつもりでした。
まあ、1年9か月待ってもメガコロライドラインは登場しませんでしたが。
それでもお蔵入りはもったいないと思い、できる限りのメガコロ要素を残して参戦させたのでした。
この胡蝶カエデにはもうひとつ裏話があるのですが、ゴシックとは直接関係の無い話なので、あとがきの終わりにでも書いておきます。
さて、このヴァンガード・ゴシック第2部も、残すところ3回となりました。
引き続き応援頂けますと幸いです。
感想等頂けますと嬉しいです。
--胡蝶カエデ秘話--
実はこのキャラクター。
前作、根絶少女に登場したメガコロ使い「天道アリサ」と同じキャラクターとして書いています。
カエデの方が年上なので、正確には少し大人になった「天道アリサ」です。
もちろん根絶少女とゴシックは世界観が違い、アリサとカエデも別人ではあるのですが、性格や行動原理などはまったくの同じです。
準モブだからこそできるお遊びですね。
根絶少女作中では自分の店を持ちたいと語っていたアリサですが、カエデはしっかり自分の店を持っています。
今回を除いてゴシック作中では「店長」としか描写していないので、アリサが店長になった姿を想像しながらゴシックを読み返してみると面白いかも知れませんね。