ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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エピローグ・オブ・ウイング

 ――あれから10年の歳月が流れた。

 

 

 こんな冴えない自分でも、サラリーマンとして社会の歯車になることくらいはできた。

 ぼんやりとした街灯に照らされた帰路に就き、スーツのネクタイを緩めながら、如月リュートは自嘲気味にそんなことを思った。

 もっとも、プロファイターとして活躍するメイや、有名な科学誌に何度も名前が載っている教授(キョウジ)と比べると、誰からも注目されない地味な人生であることは否めない。

(これでも昔は、けっこう大冒険をしていたんだけどな……)

 ふと思い出すのは、高校生時代。

 カミラと出逢い、毎晩の交流を経て、最期は青薔薇の咲き誇る植物園で永遠の別れを経験した。

 フランと出逢ってからは、やたらと危険に首を突っ込みたがる彼女のフォローで慌ただしい毎日だった。彼女がきっかけとなり、世界の理を左右するファイトにすら巻き込まれたほどだ。ここだけ切り取ると、まるでアニメのようである。

 そのフランはと言うと、リュートが高校を卒業してからもしばらくは交流が続いていたのだが、やがてその頻度も落ちてゆき、ここ数年は会ってすらいなかった。新年や自分の誕生日などの節目に、簡単な挨拶は届くので生きてはいるようだが。

 リュートと違って人付き合いの上手い彼女のことである。きっと新たな友人や、もしかしたら恋人なんかができて、リュートに構っている余裕など無くなってしまったのだろう。

 自分はフランに懐かれていると勘違いしていたのは恥ずかしい限りだが、彼女が幸せであるならばそれでいい。

 そんなことを思いながら、哀愁漂う背中を丸めて歩いていたところに。

 

 バラ バラ バラ バラ バラバラバラバラバラ――!!

 

 頭上からヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきたかと思うと、それがみるみるうちに近くなっていき、リュートの行く手を遮るようにホバリングで静止した。

 カッという音と共にヘリからサーチライトが照らされ、リュートの姿を闇に浮かび上がらせる。その音は日常が非日常へと切り替わるスイッチのようでもあった。

「ようやく見つけましたよ、リュート先輩! おっひさしぶりです!!」

 そしてヘリの扉から現れ、プロペラ音に負けないよう声を張り上げたのは、ついさっきまで記憶の中にいた淵導フランであった。

 年相応に老けた自分と異なり、彼女は小さな背丈も、童顔も、もちろん火傷痕も、高校生の頃からほとんど変化が無かった。

 しかもよく見てみると、ヘリの操縦席にいるのはロウだ。後でフランに問いただしたところ、曰く「ジュジュ先輩からお借りしました!」とのこと。有能な執事を消しゴム感覚で貸し借りしないで欲しい。

「リュート先輩の力が必要なんです! 手を貸して頂けませんか!?」

 あの頃と変わらない、愛らしい仕草でフランが小首を傾げる。

「て、手を貸すって……何に?」

「あたし、カードがまだ売られていないような貧しい国の恵まれない子ども達に、ヴァンガードの楽しさを伝える活動をしているんです!」

 などととんでもないことを言い放った。

「ヴァンガードの楽しさをよく知っていて……ううん、それだけじゃありません。ヴァンガードを通して、辛いことも悲しいことも経験してきたリュート先輩こそが、この活動には適任なんです! どうかあたしについて来てくださいませんか……!?」

 そう言って差し出されたフランの小さな手は、10年前とは比較にならないくらいに傷だらけでボロボロだった。

 リュートと会わなくなってからも、この手でどれだけの人を救おうとしてきたのだろう。どのような経験を経て、恵まれない子どもにヴァンガードを伝えようなどという夢を抱くようになったのだろう。

「……やっぱり、君は放っておけないな」

 リュートは観念したように笑うと、フランの手を取った。

 小柄な体躯に似合わない腕力に引き上げられ、リュートがヘリに乗り込むと、ヘリは急上昇を始めた。

(いや……それだけじゃないな)

 どこにでもあるような見慣れた夜景がみるみるうちに小さくなっていくのを眺めながら、リュートは独りごちた。

(フランは翼だ。僕を日常から解き放ち、冒険へと連れ出してくれる)

 夜景からフランの横顔へと視線を移すと、それに気付いたフランがにへらとだらしなく笑った。

「今回もあたしのワガママに付き合ってくださってありがとうございます!」

 この笑顔を守るためなら、自分にできることは何だってしよう。

 初めて出逢った時と同じ誓いを胸に抱いて。

 ふたりの新たな旅立ちを祝福するかのように、空に白と黒の羽根が舞い、彼方で遠雷が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Vanguard Gothic

 

 

End




はい!
これにて、ヴァンガード・ゴシックは完結となります!!
ここまでお付き合い頂いた皆様、ありがとうございました!!
好きなキャラクター、好きな話など教えて頂けますと、励みにも参考にもなりますので是非!

個人的に上手く書けたと思っている話はキャンプ回でした。
登場人物それぞれの個性をしっかり引き出しつつ、ファイトでは鉄錨の憤竜をようやく自分が納得できるレベルで格好よく書けたと思っています。
そしてそれらすべてをブチ壊すマサノリのインパクト。

あとはカードショップでのバイト回。
教授の初登場回ですが、メイ、ジュジュ、店長の女性陣が三者三様にカッコいいんです。

キャラクターで言えば、バレてそうですがジュジュですね。
根暗だけど頭は切れるし、行動派。
オカルト少女のテンプレはブチ壊せたと思います。

最後にメイ&教授を出せなかったのは少し心残りです。
最終話のどこかにねじ込もうかとも考えたのですが、蛇足感がしてやめました。
あのふたりの物語は、メイVS教授回で完成したと思ってます。

それではまた次回作でお会いできれば幸いです!
2年間ありがとうございました!!
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