ヴァンガード・ゴシック   作:栗山飛鳥

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第3夜「運命がなぞる練習曲」

「カミラさんの手札は残り1枚……!! これで決める!

 パワー48000のトラヴィスでヴァンガードにアタック!」

 と何の変哲もない小柄な少年が威勢よく宣言した。

 彼の名は如月(きさらぎ)リュート。

「では《デモニックフィーバー ガルヴィエラ》でガードしよう」

 対するは、長い白髪をハーフアップにした女。

 彼女の名は鈴導(りんどう)カミラ。

 夜色のゴシックドレスが全身を覆っているため体型は分かりにくいが、僅かに覗く腕と脚、そして首は、今にも折れてしまいそうなほどに弱々しくか細い。

「うわー! (オーバー)トリガー、手札にあったんですか?」

「うん。最初からね。

 では、フェルティローザでヴァンガードにアタック」

「ダメージチェック……負けました」

 リュートがカミラと再開してからひと月が過ぎ、ふたりはほぼ毎晩、この世界でもっとも流行しているカードゲーム――ヴァンガードの対戦に興じていた。

「ふふふ。今のは惜しかったね」

 カミラがデッキを片付けながら笑う。

 ふたりがファイトするのは1日に1回だけだと決めていた。

 カミラはその儚げな見た目相応に体が弱く、1度のファイトでもかなりの体力を消耗してしまうのだ。

 実際にリュートは1度、カミラがファイトを終えた後、血を吐いて倒れる姿を目撃している。

「こっちは超トリガーも引いたのに、カミラさんはずっと超トリガー抱えてて、惜しいも何もありませんよー」

 とリュートがボヤく。

 このひと月、ずっとファイトをしていて、リュートがカミラに勝てたことは、最初の1回を除いて1度も無かった。

「……もしかして、私とファイトしていて辛いだなんて思ったりしていないかい?」

 さすがに勝ち過ぎていることが気になったのか、カミラがそんなことをリュートに尋ねた。

「え? そんなことないですよ! カミラさんのプレイングは洗練されていて、とっても綺麗で。たとえ負けても、見ているだけで楽しいし、勉強になります!」

 陰りのない無垢な笑顔を浮かべてリュートが答える。

「眩しいね、君は」

 目を細めながら、カミラもつられるようにして笑った。

「けどいい加減、このデッキばかりが相手だと飽きてくるだろう?

 明日から他のデッキも用意しておこう。リリカルモナステリオのデッキであれば、私はだいたい何でも使えるからね」

「本当ですか!? やったあ!」

 リュートが大げさに諸手を挙げて喜ぶ。

 いや、大げさではない。本当に心から全身で喜んでいる。

 そんなリュートの反応を見て、カミラはもうひとつ気になったことを問いかけた。

「……君は私以外の人とファイトしたことはあるのかい?」

「いいえ? ないです」

 きっぱりとリュートが答えた。

「なるほど……。君は向上心のあるタイプだと思っているから、あえて厳しいことを言わせてもらうけど……」

 カミラが嘆息しながら、そう前置きする。

「最近の君は伸び悩んでいるね」

「う……」

 自覚はあったのだろう。小さく唸りながら、カミラから逃げるように身を引いた。

「いろんな人とファイトすることは、とっても大切だよ。人によって、ファイトに対するスタンスは大きく変わってくる。時に自分の理想と思えるプレイングを参考にしたり、はたまた自分とはまったく違うプレイングから刺激を受けたり。知らない人とのファイトは、成長への一番の近道だ。

 君はカードショップへは行ったことがあるんだろう?」

「は、はい……」

「そこにファイトスペースもあったはずだよ。強くなりたいのなら、そこでファイトを申し込んでみるといい」

「で、でも、うまく声をかけられるかな……」

 リュートが落ちつきなく視線を彷徨わせながら、そんなことを言う。

「ふむ? 君はプロゲーマーを目指していたんだろう? 知らない人と対戦だなんて、日常茶飯事だったんじゃないのかい?」

「僕がプレイしていたのはオンラインゲームでしたので。対戦相手はゲームが自動でマッチングしてくれましたし、その人の顔を見ることもありませんでした」

「……現代っ子だねぇ」

 カミラ(19歳)が年寄りくさい呆れ方をする。

「カードゲームはアナログだからね。人との接触は避けて通れないよ。強くなりたいのなら、他の人ともファイトしてみた方がいい。今の君の実力なら、そうそう遅れをとることもないはずだ」

「うう……。カミラさんは、カードショップでファイトしたことあるんですか?」

 なおも返答を避けるように、リュートは話の矛先を変えるような質問を返した。

「ないよ」

「え!? ならなんで……」

「カードショップに行ったこともない。この体だからね。カードショップが開いているような時間には出歩けないのさ。対戦相手はもっぱら仲の良いメイド達だった」

 カミラはアルビノ体質だ。その皮膚は紫外線に弱く、太陽が天敵なのである。

「あ……。け、けど、雨の日なら太陽が出てないんじゃ……」

「そんなことをしたら服が濡れるじゃないか。私は風邪を引きやすいし、そうなったら命にも関わる」

 そのうえ、彼女は体が弱い。全身に疾患を抱えており、小さなダメージが命取りになる。彼女が安心して出歩けるのは、天気の穏やかな夜だけなのである。

「仮にカードショップに辿りつけたとしても、あそこは人でごった返していると聞くからね。私は肺も弱いから、窮屈な場所も苦手なんだ。

 正直に言うと、行けるものなら行ってみたいよ。所狭しとカードが並んでいて、知らないファイターがいっぱいいて、それはきっと楽しい場所なんだろうね……」

 月を見上げながら、あそこに行ってみたいと夢見る少女のように。カミラは夜空を仰いで、諦観とも憧れともつかない溜息をついた。

「すみません……」

 わがままを言っている自分が恥ずかしくなり、リュートは項垂れるように頭を下げた。

「だからね、リュート君。君には私の代わりにカードショップに行き、いっぱい思い出を作って、その話を聞かせて欲しいんだ。

 これは君へのアドバイスであると同時に、私のエゴでもある。親愛なる友人に対する私のわがまま。ささやかなお願いだよ」

 紅玉のような真紅の瞳が、真摯にリュートを見据える。

「わ……わかりました! 僕、今週末はカードショップに行って、いっぱいいっぱい対戦してきます!」

 雰囲気に乗せられたリュートが安請け合いをした。

「ありがとう」

 それにカミラは、月も霞むような極上の笑みを浮かべるのであった。

 

 

「とは言ったものの……」

 リュートの家からもっとも近い場所にあるカードショップ『ニアミント』

 個人経営のカードショップらしくこぢんまりとはしているが、店の雰囲気は明るく、どこかいい香りもするため、慣れない人でも入店しやすい。店舗の3分の2を占めるファイトスペースが、交流や対戦を求めるファイターで常に満席になっているような、知る人ぞ知る人気店である。

 そんな喧噪の隅っこで、リュートはかれこれ1時間ほど縮こまっていた。内向的な性格のリュートに、知らない人に話しかけ、対戦を申し込むなどハードルが高すぎたのだ。

(と、とりあえず今日は様子見ということで……)

 いたたまれなくなってきて席を立つ。周囲から「あいつずっとひとりだぜ」と後ろ指さされているような気分にすらなってきたのだ。自意識過剰というか、被害妄想たくましいと自分でも思うが。

(今日はパックを買いにきただけ、パックを買いにきただけ……)

 ごまかすように唱えながらレジへと向かう。

「あら、いらっしゃい」

 レジでは、黒髪をポニーテールにしてまとめた若い女性が明るい笑顔で出迎えてくれた。まだ大学生くらいのバイトに見えるが、彼女はれっきとした店長であり、病気で倒れた祖父の店を大学中退してまで引き継いだ、おじいちゃん思いの孫娘なのだとか。

 カードの知識も確かで、リュートがはじめて店に訪れた時は、彼のデッキと相性のよいカードを何枚か見繕ってもくれたりもした。

「最近よく来るよね。いつもありがとう」

 そう言いながら手早く会計を済ませ、パックを手渡してくれる。

「ありがとうございます」

 リュートも軽く会釈をして、店を出ようとするが。

「あ、そうだ」

 その背に店長の声がかけられた。

「もうすぐショップ大会があるんだけど、キミ、出場してみない?」

「……大会?」

 リュートが獲物を見つけた猟犬のように、目をギラギラさせて振り返る。

 内気そうな少年が見せた予想外の反応に、店長が少し身を引きながら「う、うん」と頷く。ひょっとしたらリュートがファイトスペースでひとりでいるところを見られていて、気を遣ってくれたのかも知れなかったが。

(その手があったか! 大会なら僕から声をかける必要はなく、お店の人が勝手にマッチングしてくれる!)

 プロゲーマーを目指していたら過去から、リュートはこう見えて場馴れしている。人付き合いが苦手なだけで、大会と聞くとむしろ心が騒いだ。考えていることは微妙に後ろ向きだが。

「出場します! どうすればいいですか!?」

「あ、ありがとう。今日は参加者が少なかったから助かるよ。

 この用紙に名前を書いてくれるだけでいいよ。あとは時間になったら名前を呼ぶから、店の中で待っててね」

「はいっ!」

 意気揚々と答え、リュートは再びファイトスペースの隅に戻った。しかし、肩をすぼめて縮こまっていた少年の姿はもはやそこには無く、胸を軽く反らして堂々と腕組みをしながら時を待つその姿は、どこか風格のようなものすら感じさせた。

 

 

「ヴェロキハザードのブースト! ユージンでヴァンガードにアタック! アタック時、トライバッシュ2体とオーランド、この3体をソウルイン! ユージンのパワー+5000、(クリティカル)+2!!」

「★3!? し、しまった……!! ノーガード……」

 かくしてリュートは初めて出場したショップ大会で、あっさり初勝利を飾った。

 続く2回戦でも難なく勝利し、リュートも自信をつけていく。

(よしっ! カミラさんが太鼓判を押してくれた通り、僕のデッキなら十分戦える!

 今日は8人でトーナメントって言っていたから、あと1回勝てれば優勝だ……!)

 そうして決勝戦が行われるテーブルにつくと、そこで待ち受けていたのは小学校中学年くらいの女の子だった。まだ伸びきっていない髪をヘアゴムでサイドテールにして束ねている。

「あんたが決勝の対戦相手? ……ふーん、見ない顔ね」

 年上の少年が相手でも物怖じすることなく(まあ、リュートはお世辞にも人に威圧感を与える容姿ではないのだが)、少女が無遠慮にリュートをじろじろと睨め回す。

「き、キミは?」

「人に名前を尋ねるなら、まず自分から名乗ったら?」

 口達者に正論を返され、慌ててリュートが自己紹介をする。

「あ、ご、ごめん! 僕は如月リュート。まだはじめて1カ月の初心者なんだ」

「ふーん。あなたツイてなかったわね。

 あたしは高槻(たかつき)メイ。このカードショップ『ニアミント』のナンバー2よ!」

 小さな体躯を精一杯逸らしながら、女の子は偉そうに名乗った。

「へえ。君はすごいんだねー」

「何、その言い方? 人を子どもみたいに」

 微笑ましくなったリュートが猫なで声で言うと、メイが即座に噛みついた。まさしく猫のように。

「あたしはこう見えても、小学6年生よ!」

小学生(こども)じゃないか!」

 リュートは思わずツッコミを入れたが、メイは大人顔負けの冷たい気配を漂わせながら、低い声音で言い返す。

「子どもだからって侮らないで。ヴァンガードの実力に大人も子どもも関係ないでしょ?」

「……うん。そうだね、ごめん」

 リュートが素直に頭を下げた。リュートはよく知っている。ゲームであれスポーツであれ、大成するような子は、この年頃から大人顔負けに強いのだ。

 それに気をよくしたのか、メイは「ふふん」と満足そうに笑い、デッキをシャッフルし始めた。リュートもそれに倣い、デッキを手にかけた瞬間――

 

 どっしゃあ!!

 

 メイが目の前でド派手にシャッフルを失敗し、カードをテーブルの上にブチ撒けた。

「…………」

「…………」

 いたたまれない空気が両者の間に流れる。

 小学6年生にしても小柄なメイの掌は小さく、デッキをシャッフルするのも一苦労なのだろう。

「……こっ、子ども扱いしないでって言ったでしょ!?」

「まだ何も言ってないんだけど!?」

「いーや! 心の中で『ちっちゃなおててカワイイなぁ』とか思ってたでしょ! 変態!」

 とんだ言いがかりをつけながら、メイはテーブルに散らばったカードを拾い集め、改めてプルプルと震える手指で慎重にデッキをシャッフルし始める。今度は入念なシャッフルに成功したデッキをテーブルの上に置くと、メイは「ふう」と一仕事やり遂げた感のある溜息をついた。

 リュートは思わず「よくがんばったね」と褒めてあげたくなったが、それをするとまた怒られそうなので黙っていた。

 なお、リュートはとっくに5枚のカードを手札に加え、引き直しまで終えている。

「……待たせたわね」

 ようやく5枚のカードを引いたメイが、憮然としながら言う。

「それじゃ、始めようか。……ええと」

「呼び方はなんでもいい。そんなのでいちいち目くじら立てるほど子どもじゃないし。その代わり、あたしもあんたのことはリュートって呼び捨てにさせてもらうから」

「うん、わかった。よろしくね、メイちゃん」

「はいはい、よろしく。せいぜい楽しませてよね」

 そんなやり取りを経て、リュートとメイが同時にファーストヴァンガードに手をかけ、ファイト開始を宣言する。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!!」」

「《砂塵の双銃 バート》!」

「《三角連想の女魔術師》!」

 

 

 ――4ターンが経過し、5ターン目。

 お互いに2点のダメージを受けた状況から、先攻のメイがグレード3のユニットにライドする。

「手札から1枚捨てて……ライド! 《六角宝珠の女魔術師》!」

 聖域の神殿、その深奥に光が差し、翠緑に輝く宝石で全身を飾った女魔術師が姿を現した。

(《六角宝珠の女魔術師》……!! 得意とするのは……!!)

「《六角宝珠の女魔術師》にライドされた《五角閃光の女魔術師》のスキル発動!」

 身構えるリュートの前で、メイが宣言する。

「山札の上から3枚見て……好きな順番に入れ替えさせてもらうわ!

《金剛鏡の女魔術師》をコールして、スキル発動! 手札を1枚捨てて、山札の上から2枚を確認……その2枚をスペリオルコール! 《精妙の騎士 オーワイン》! 《イーズロッド・エンジェル》!

 さらにイーズロッドのスキル発動! 山札の上から1枚をスペリオルコール! 《再来の魔法 ララリタ》!

 オーワインのスキルも発動! 山札の上から2枚を見て、2枚とも山札の下に!」

「デッキトップを確認しているから、ギャンブル性の高い効果も安心して使えるし、次のドライブチェックで引くカードまで操作できるなんて!

 話には聞いていたけど、これが《六角宝珠の女魔術師》か! すごいよ!」

 リュートがきらきらと目を輝かせて歓声をあげる。これではどちらが年下か分からないが、メイもまんざらではなさそうに小鼻が膨らむほど「ふふん」と勝ち誇った。

「どうやら、本当に初心者のようね! けど、安心して。あたしは手加減なんてしてあげないから!

 バトルフェイズ!!

 ララリタのブースト! 六角宝珠でヴァンガードにアタック!!」

「……っ! ノーガードッ!!」

「とくと見なさい! これが六角宝珠が誇る究極のツインドライブよ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、トリガー無しっ!!」

 トリガーゾーンに置かれた2枚のノーマルユニットを前に、メイは電源が切れた機械のように固まった。

「……トリガーじゃなかったけど?」

 リュートが恐る恐る指摘する。

「何でよっ!? 五角閃光とオーワインで5枚もめくったのよ!? その中に1枚もトリガーが含まれてないだなんて、そんなことある!?

 ……じゃなくてっ!! あ、あたしは次のペルソナライドに使う六角宝珠が欲しかったの! これも計算のうちよ!」

 メイは2回目のドライブチェックで手札に加わった《六角宝珠の女魔術師》を見せつけながら、まくしたてるように弁解した。

「ああうんすごいね」

 色々とツッコミたいこともあったが、リュートはとにかくメイの機嫌を損ねないようにうんうんと頷いた。

「いいから早くダメージチェックしなさいよ!」

 言われるがままにカードをめくる。ダメージトリガーは無し。

「あたしのターンはまだ終わりじゃないんだから!

 イーズロッドでヴァンガードにアタック!」

「《尖鋭竜 エオラフィアス》でガード!」

「金剛鏡のブースト! オーワインでヴァンガードにアタック!」

「《フレアヴェイル・ドラゴン》でガード!」

「つっ。1ダメージしか与えられなかった……。あたしはこれでターンエンドよ」

 彼女の目には、ダブル★トリガーで大ダメージを与える未来が見えていたのだろうか。歯ぎしりしながらメイがターン終了を宣言する。

(ダメージを抑えることができたけど、油断はできない)

 リュートが気を引き締め直して、山札からカードを引く。

「スタンド&ドロー!

 手札を1枚捨て、ライド! 《砂塵の重砲 ユージン》!」

 石壁に無数の銃痕が穿たれたかと思うと、それを蹴破って、眼帯で左目を隠した無頼漢が神殿の最奥へと乗り込んだ。

 女魔術師はそれも予見していたとばかりに、眉ひとつ動かさず魔力を込めた左手を男に向け、男も獣じみた反応速度で女魔術師に銃口を向ける。

 魔術と弾丸。ふたつの射線が交錯し、見えない火花を散らす。

「《堅鋭竜 ゲイツフォート》、《ドラグリッター イドリース》をコール! この2体をレストして、ユージンのスキル発動! ララリタを退却! ゲイツフォートをスタンド!」

「つっ! ララリタが……」

「イドリースもスキル発動! このカードをソウルに置いて、オーワインを退却!

《堅城竜 ジブラブラキオ》をコール! このユニットをレストしてスキル発動! 金剛鏡を退却!  

 そして、ユージンのさらなるスキル発動! メイちゃんの空きサークルの数、4枚のデッキトップを見て……《ツインバックラー・ドラゴン》、《突貫竜 トライバッシュ》、《砂塵の双弾 トラヴィス》をスペリオルコール! 残り1枚はソウルへ!

 トラヴィスのスキルでイーズロッドも退却! ソウルチャージ! パワー+10000!」

「そんなっ! 4体もコールしたのに……全滅?」

「……メイちゃんもユージンとやるのは初めてだったかな?」

 してやったりとばかりに言い返す。ちょっと大人げないなと自分でも思ったが。

「そ、そんなわけないでしょ! 初心者の割にはしっかり構築してるのねって感心しただけよ!」

「それはどうも!

 バトル開始時、ジブラブラキオはスタンド! パワー+5000!

 ツインバックラーのブースト! トラヴィスでヴァンガードにアタック!」

「《円環の女魔術師》でガード!」

「ユージンでヴァンガードにアタック!

 アタック時、トライバッシュのスキル発動! このユニットをソウルに入れて、★+1!」

「冗談じゃないわ! 《天音の楽士 アルパック》でガード! さらに《立志の魔法 カカロネ》でガード! ヴァンガードが六角宝珠なので、この子のガード値は+5000!

 これで合計パワーは43000! 2枚貫通よっ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてジブラブラキオに!

 ゲイツフォートのブースト! ジブラブラキオでヴァンガードにアタック!」

「……受けてあげるわ。ノーガード。

 ダメージチェック……2枚ともトリガーは無しよ」

 メイのダメージゾーンに3枚目、4枚目とカードが置かれていく。

「……けど! これでコストは潤沢!

 あたしのターン! スタンド&ドロー!

 ペルソナライド! 《六角宝珠の女魔術師》!!

 コール! 《幸甚の魔法 ナナフル》! そして《双連の大魔法 トトーネ》!

 あたしの手札にはもうブーストできるユニットは残ってないわ。けど、もうそんなもの必要ない!

 六角宝珠のスキル発動! (フロント)トリガーを山札の上に置き、六角宝珠のドライブ+1!

 さあ、カカロネでヴァンガードにアタックよ!」

「《コンダクトスパーク・ドラゴン》でガード!」

「2体のインターセプトで防げるのに、15000ガードを使ったの? その余裕、後悔することになるわよ」

(ジブラブラキオもトラヴィスも、このデッキの主力だ。そう簡単に失うわけにはいかない……)

 メイの予言じみた挑発に、リュートは自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。

「六角宝珠でヴァンガードにアタック!!」

「手札から置いたのは前トリガーか……。なら、ノーガード!」

「さあ、今度こそ六角宝珠の真の恐ろしさを見せてあげる!

 約束されたトリプルドライブ!!!

 1枚目! 当然前トリガー!! 前列すべてにパワー+10000!!

 それだけじゃないわ! トリガーが出たので六角宝珠の効果でナナフルにパワー+10000! ナナフルの効果で手札から1枚ソウルインして1ドロー!

 2枚目! ★トリガー!! 効果はすべてナナフルに! さらに六角宝珠のスキルでナナフルのパワー+10000!

 3枚目! トリガー無し!」

「ダメージチェック……トリガーは無し」

 リュートのダメージゾーンに4枚目のカードが置かれる。

「バトル終了時、トトーネのスキル発動!

 六角宝珠のアタックで前トリガーと★トリガーが出たので、ナナフルをスタンド! トラヴィスを山札の下へ!」

「つっ……トラヴィスが除去された」

「さあ、これで終わりよ! パワー60000、★2のナナフルでヴァンガードにアタック!!」

「《コンダクトスパーク・ドラゴン》、《焔の巫女 ゾンネ》!

 そして《砂塵の曲射 アラスター》でガード! このカードは、相手のユニットがブーストされていないなら、シールド+10000!

 まだ足りない……ジブラブラキオでもインターセプトだ!」

「ああもう、しぶとい! トトーネでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

 リュートのダメージゾーンに5枚目のカードが置かれるが、耐えきった。

 だが……。

(3回目のドライブチェックで完全ガードを引かれた……)

 アタック回数の少ないユージンでは、完全ガード1枚が致命的だ。しかも、リュートの手札はペルソナライドのために残したユージン1枚のみ。メイの予言通り、トラヴィスもジブラブラキオも盤面に残っていない。

「スタンド&ドロー……」

 引いたカードは引トリガー。

「まだだ! 《砂塵の重砲 ユージン》にペルソナライド!! 1枚ドローッ!!

 ……よしっ! 《砂塵の榴砲 ダスティン》をコール!

 ダスティンのスキルで手札から1枚ソウルに置いて、ナナフルを退却! 手札から《過激竜 ヴェロキハザード》をコール!

 ユージンのスキルで、ゲイツフォートとツインバックラーをレスト! トトーネを退却!」

 バトルだ!!」

 手札を使い切ったリュートが宣言すると同時、メイも5枚の手札を構えて身構える。

「ヴェロキハザードのブースト! ユージンでヴァンガードにアタック!!」

「《天音の楽士 アルパック》! 《ブレードフェザー・ドラゴン》! 《月兎の魔女 ルビニア》でガード! 2枚貫通よ!!」

「完全ガードを残した……なら、勝負だ!!

 ツインドライブ!!

 1枚目、(ヒール)トリガー! ダメージ回復し、効果はすべてユージンに!

 2枚目、★トリガー! この効果もすべてユージンに!!」

「――っ!?」

 宣言と同時、《砂塵の重砲 ユージン》のカードから落雷の如き閃光と轟音が生じ、リュートの精神はイメージの世界へと呑み込まれていった。

 

 

 女魔術師の周囲に翠緑の宝石が展開し、そこから幾条もの魔術の光線が放たれた。ユージンは野性的な反応速度で身を躱すが、それは部屋中に配置された別の宝玉に反射し、何度でも目標へと跳ね返るように計算されていた。

 網目のように部屋中を交錯する熱線に左肩と右脚を灼かれながらも、ユージンは手にした重砲を撃ち返す。不規則な起動で迫る雷の弾丸を、女魔術師は宝玉を動かし、それさえもユージンへと跳ね返した。

 閃光と雷撃の渦中で、女魔術師は未来を視ることによってそのすべての軌道を予見し弾くことができたが、ユージンは反射神経と勘だけでそれらすべてを躱していた。

 いや。躱していたと言うよりかは、致命傷を避けていただけにすぎず、その全身は既に焦げ跡だらけ。

 このまま時が経てば、ユージンの敗北は誰の目にも明らか……なはずだった。

 しかし、先に荒い息をつき始めたのは女魔術師だった。やがて弾丸を弾ききれなくなり、雷撃の余波が衣服や肌を掠めることが増えてきた。

 女魔術師は未来こそ視えるが、動体視力や反応速度は人並みである。そしてそれは体力と同じように消耗する。超速の弾丸を四方八方から撃ち込まれ続け、体が予見に追い付かなくなってきているのだ。

 集中力が途切れかけた刹那、不意に眼前へと迫る弾丸に魔法を放ち、紙一重で撃ち落とすが、生じた爆風に思わず目を閉じる。

 その隙を逃さず、ユージンは閃光と雷撃の中を駆け抜け、銃口を女魔術師の顎下に突きつけた。

「チェックメイトだ」

 ユージンが降伏を勧告する。

 女魔術師は一瞬唖然とした表情を浮かべていたが、すぐにふっと表情を緩めると。

「降参です」

 と両手を挙げ、それに応じるように周囲に浮遊していた宝玉も地面に涼やかな音をたてて落ちた。

 女魔術師が言葉を続ける。

「いい経験になりました。()()()の依頼を受けて頂きありがとうございます。『砂塵の重砲』殿」

 そう。これは模擬戦だった。

 聖域の中枢にいるが故に、戦闘経験に乏しい女魔術師達の訓練として、日夜戦いに明け暮れるユージンの隊と、国家を跨いだ模擬戦が組まれたのだった。

 なお、戦場となったこの場所も、実際の神殿ではなく、この日のため聖域の下層に間取りだけ再現して建設されたハリボテの神殿である。

「構わねえよ。カネさえもらえりゃ、俺達はどんな依頼でも受ける」

 こうして一風変わった仕事を完遂したユージンは、仲間をまとめあげると、もう2度と足を踏み入れることはないであろう聖域を後にするのであった。

 

 

 リュートがイメージの世界から帰ってきた時、メイのダメージゾーンには既に6枚目のカードが置かれていた。

「負けた……? ……あー、もう! これに勝てれば初優勝だったのにー!!」

「……え?」

 手札を取り落とし、頭を抱えながら叫ぶメイに違和感を覚え、リュートは小さく疑問の声をあげた。

「この店のナンバー2なのに初優勝だったの?」

 その疑問をそのまま口にする。

「うっ……」

 口が滑ったとばかりに椅子ごと後ずさるメイに、いつの間にかその背後にいた店長が優しく声をかけた。

「メイちゃん。本当のことを言っていいかな?」

「……うん」

 メイが俯くように頷く。

「この子はね。ヴァンガードをはじめて3カ月。キミと同じ初心者なの」

 改めてその少女を紹介するように、店長がメイの細い両肩に手を置きながら言った。

「こんな性格だから、友達もなかなかできなくて。よかったら仲良くしてもらえないかしら?」

「ちょっ! そこまで言っていいとは言ってない!」

 メイが慌てて店長の口を塞ごうとする。リュートは心の中で(自覚はあるんだ……)とツッコんだ。

「けど、やっぱりすごいよ! はじめて3カ月なのに、年上の人達と互角に渡りあえるなんて! ナンバー2っていうのは、あながち間違いじゃないんじゃないかな!」

 代わりにまったく別の称賛を口にし、店長もうんうんと頷いてくれた。

「あっ、あったりまえでしょ! あたしは同年代のガキどもとは、頭のデキがちがうんだから!」

「僕もこの店で一緒にファイトできる友達が欲しかったんだ。僕と友達になってくれるかな?」

 案の定機嫌をよくしたメイに、この機を逃さずさらりとお願いする。

「お断りよ」

 そして、あっさり断られた。

「…………」

 リュートは割と本気で落ち込み、テーブルに額がつきそうなほど深く俯いた。

「……けど」

 そこでメイは意地悪く微笑み。

「……ライバルとしてなら、認めてあげてもいいわよ」

 リュートが顔を上げると同時、それが見えないようにぷいと顔を背けた。

「うん! 一緒に強くなろう、メイちゃん! これからよろしくね!」

「どうやら丸く収まったようね」

 リュートの差し出した手がメイに無視されたところで、店長が再び声をかけてきた。

「はい、これが参加賞のカード。優勝したリュート君には、それの箔押しバージョンだよ」

「ありがとうございます!」

 リュートは両手を使って恭しく受け取ったそれを、大切そうにカードケースにしまう。

「……そう言えば、店長」

 そしてすぐ、ずっと確認しておきたかったことを確認するため、再び口を開いた。

「ん、なぁに?」

「メイちゃんみたいなプライドの権化みたいな女の子が、それでもナンバー2を名乗るってことは、別格に強い人がこの店にはいるんですよね」

「もちろんよ!!」

 返答はメイから返ってきた。

「今年大学に進学してから、あまり店には来れていないんだけど、とっても強いファイターなのよ!

 この店どころか、全国大会でも結果を残してるんだから!

 あたし達は彼の事を、畏敬を込めて『教授(プロフェッサー)』と呼んでるの!

 あたしだって、その人に憧れてヴァンガードを始めたんだもの!」

 熱弁するメイの頬は紅潮しており、まるでアイドルに憧れる少女のようだった。

「そんな人が。教授……ファイトしてみたいな」

「あはは! やめといた方がいいよ」

 メイが笑いながらも、真剣な顔で忠告する。

「初心者が教授とファイトしたら、自信をなくしちゃうよ」

 何気ないその言葉に、リュートのこめかみがピクリと動く。自分は自分より強い人に負け続け、一度は夢を諦めた人間だ。

 ヴァンガードは楽しいし、自分に向いていると思う。

 しかし、またいずれ限界を思い知る時が。思い知らされる時が来るのだろうか。

(大丈夫だ……。あの時の僕と、今の僕は違う。だって……)

 心の中で唱えながら、いつの間にか俯いていた顔をゆっくりと上げながら宣言する。

「強い人に負かされるのは、もう慣れっこだから」

「……ふーん。よくわかんないけど」

 心底興味無さそうに、メイが肩をすくめながら首を振った。

「まあ、どうしてもファイトしてみたいなら、連絡先さえ教えてくれれば、教授が店に来た時に連絡してあげるけど?」

「本当っ!? お願いするよっ!」

「はいはい。その代わり、その……また、ファイトしてくれない? あたしだって負けっぱなしは悔しいし……」

「うん、もちろん! なんだったら、今からファイトしようよ!」

「いいの!? ……じゃなくて。そんなにファイトしたいんだったら、してあげなくもないわよ?」

 そう言いながらぺろりと舌を出して微笑むメイは、相変わらず生意気で、それを補って余りあるほど愛らしかった。

 

 

「……なんてことがあったんだよ!」

 その夜、リュートはその日にあったことを楽しそうにカミラに語る。内向的で口下手な普段の彼からは想像もつかないほど、早口で、饒舌に。

「あはは! そんな子がいたのかい? やっぱりカードショップというのは面白いところだね」

 それをカミラも膝を叩いて笑いながら聞いてくれていた。

「いや、さすがのカードショップも、メイちゃんみたいな女の子ばっかりじゃないとは思うけど……」

「それでも私にとっては、私が知っている唯一のカードショップだよ。興味深い情報をありがとう。これはそのお礼だよ」

 言いながらカミラは指を打ち鳴らすと、その影から彼女の執事である大神(おおがみ)ロウが現れ、すっと紅茶を差し出してきた。

「粗茶でございます」

「あ、ありがとうございます……」

 どこで淹れたんだろうと疑問に思いつつも、リュートは礼を言いながらうっすらと湯気の浮かぶティーカップを受け取る。しゃべりすぎてもう喉や舌がカラカラだった。

 多少の火傷は覚悟して紅茶をいっきに流し込むと、鼻孔に香ばしい茶葉と瑞々しい果物の香りが混ざり合ってふわりと広がり、リュートは思わず目を見開いた。

「な、何これ!? とってもおいしい!!」

「紅茶を淹れさせたら、ロウの右に出る者はいないよ」

 いつの間にか自身も紅茶に口をつけつつ、カミラが言う。

「それもリュート君の喉が渇いていることを察して、少し冷めた温度で提供したね。もちろんそれに適した茶葉を使い、果物で味を調えた。リュート君はジュースのような感覚で飲めたことだろう。

 いつもながら見事な腕前だ」

「恐縮です」

 大神ロウは、いつも鉄仮面を被っているが如き無表情な男だが、その謙遜にはむしろ確固たる自信が窺えた。

「もう一杯いかがでしょうか?」

 まさかそれに気をよくしたわけでは無いだろうが、ロウが尋ねてくる。

「あ、いいんですか? お、お願いします!」

 リュートはこれまで紅茶に興味など無かったが、ロウの淹れたそれは、もう一度、今度はゆっくりと味わいたいと思わせるような逸品だった。

「かしこまりました」

 ロウが一礼しながら、リュートから空になったティーカップを受け取る。

「ああ……ショップ大会かぁ。楽しそうだなぁ。やっぱり行ってみたいなぁ」

 その時、湯気の奥でカミラが夢見るように呟き、ロウがほんの一瞬だけ硬直した。そして、たまたまその横顔を間近で眺めることになったリュートは気付いてしまった。

 ロウの表情が僅かに変化したことを。

 それは、子どものわがままを本心では叶えてあげたいと思いつつも、叶えてあげるわけにもいかず途方に暮れる大人の顔だった。

「……おっと。つまらない愚痴を聞かせたね。リュート君の話があまりにも面白かったものだから。忘れてくれたまえ」

 それを知ってか知らずか、カミラは先の発言をすぐに戯言と断じ、ロウも何事もなかったかのように無表情に戻って、カミラからもティーカップを回収した。

「しかしお姉さんはすっかりファイトがしたくなってしまったよ。この責任は取ってもらえるかな?」

 どこか誤魔化すような、唐突なファイトの誘いだったが、リュートもそれに乗せられるように「はい」と頷いた。

「ありがとう」

 カミラが嬉しそうに頷く。

「聞いたね、ロウ? おかわりはファイトが終わる頃に頼むよ」

「かしこまりました」

 カミラのムチャクチャな注文を、ロウは即答で承る。

「それでは、はじめようか。スタンドアップ――」

 毎夜繰り広げられている、この夜だけのファイトが、また始まる。

 

 

 なお、紅茶のおかわりは、カミラがリュートに6点目のダメージを与えるアタック宣言時ぴったりに運ばれてきた。




カミラに使ってほしいリリモナのデッキ募集。

ヴァンガード・ゴシックの第2話をお送りさせていただきました。
お楽しみ頂けたならば幸いです。

今回は《六角宝珠の女魔術師》と、その使い手、高槻メイが登場です。
この最初のライバル枠。はじめは男の子を予定していたのですが、ちょっとウザかったので、女の子にしたらウザくなくなりました。不思議。

これからしばらくは新キャラが続けて登場する予定です。
お楽しみに!
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