大嫌いな幼馴染みと一緒に、セックスしないと出られない部屋に閉じ込められた 作:和鳳ハジメ
(どうするッ、オレのケツの穴の処女がピンチだ!!)
(用心して正解だった、――アキラの手のやつ、そっち用の大人の玩具よね)
新たなる目覚めの危機に、二人は臨戦態勢だ。
所謂、異常性癖やら特殊プレイやら、そういう意味では市民権を得ている事かもしれない。
だが自分達には早すぎるし、何よりそうするなんてゾッとする話だ。
「…………会話の余地はあるか?」
「アンタがそれを捨ててからね」
「テメェこそ、指のそれを外せ」
「その手には乗らないわ、この変態っ、異常性癖者!! なに考えてそんなもの持ってるのよ!!」
「前立腺とか言い出したテメェに言われたくないんだが?? オレの大切な処女をどーする気だッ!」
後ろの貞操は守ってみせる、そう意気込むアキラに。
理子は極めて冷静に、事実を指摘してみせる。
何か忘れていないだろうか、この幼馴染みのバカ男は。
「は?? わたしの処女を奪ったヤツが何言ってるの??」
「――うぐッ!?」
「処女を奪った上に? 監禁して? 幸せ家族計画してあげたのに? こんどは後ろの?? 頭沸いてるんじゃないの??」
「それだったらお前はオレの童貞奪ったし、そもそもお前の処女は同意の上じゃねーかッ!!」
言われる筋合いなんてないと言い返す彼の姿に、彼女はニヤリと笑った。
処女の事は同意した、確かにそうだ。
――――だが。
「他は? 他の事についてはどうなの? ん? 何か言いなさいよ??」
「…………フン、オレが全て悪い。それは事実だが――、土下座でもさせてケツを狙う気だな? 生憎だがその手には乗らねぇぜッ」
「悪いけど、わたしはアンタみたいに卑怯じゃないから、そんな不意打ちなんてしないわよ。あーあ、家に帰れると思ったのになぁ……、まさか寝てる間に最愛の彼氏に裏切られるなんて、なんてわたしは可哀想なの?」
「――――良いのか? そんな事を言って、後悔しねぇか?」
獰猛な笑みで理子を睨むアキラ、彼女はどんな反撃が来るのかと警戒心を強める。
(まったく理子……テメェはオレの弱点を突くのが上手だよなぁ、ったくよぉ、オレを追いつめたら、どーなるか分かってんだろうなぁ……!!)
(手のアレを握りしめてるし何か変な気配出してるしっ!? 何っ!? 何するつもりなのアキラっ!?)
緊迫の一瞬、アキラは堂々を胸を張って告げた。
「あまりオレを責めるな、――――泣くぞ、大泣きするぞ!!」
「むっちゃプルプルしてるっ!? メンタルどーなってんのよアンタは!! もうちょい強気で来なさいよ!!」
「は? 分かってんのか? オレは理子に嫌われたら死んじゃう生物なんだぞ?? 望むなら全裸土下座すっぞ? 見たいか? 彼氏が泣きながら全裸土下座して謝罪を繰り返すのが、――――本当に見てぇのか?」
「どんな脅迫の仕方よ!! 止めなさいったら!! ばっかじゃないのっ!?」
慌てふためく彼女に向けて、アキラはゆっくりと一歩踏み出した。
理子はそれを見て、即座にベッドから降りて距離を取る。
ここで負けてはいけない、触れさせてもいけない、ダメンズ気質を刺激される事も流される事も避けなければ。
「それ以上近づくなら――スイッチを押すわっ!!」
「何ぃッ!? て、テメェ理子ォ!! それは反則だろ!! いやマジで反則だろう!!」
「そっちの方が反則でしょうがっ!! 何よ全裸土下座で謝罪って!! ノーガードを武器にするんじゃない!!」
「ノーガードにもなるだろうがッ!! 他ならぬお前だぞ!! 世界で一番愛する理子だぞ!! ――――お前に対して防御する心なんて、ないッ!!」
「――――アキ、ラ……」
力強い愛の宣言に、理子の胸はきゅんと甘い痛みを訴えた。
だが彼女は即座に首を横に振る、流されてはいけない。
その証拠に、彼の手にはまだ。
「…………その手のやつを捨てたら全裸土下座の謝罪を受け入れても良いわ」
「――――なるほど、舐めろって言うんだな? 良いぜ、覚悟決めてやんよッ!!」
「そんな覚悟なんて決めるんじゃないバカ!! やったら殺す!! 二度とキスなんてさせないからね!!」
「絶対にしない事をここに誓うッ!! だからキスッ、キスは勘弁してくれ!! ――いや待て、オレはお前がアレした後にキスしたが??」
「それ男の甲斐性でしょ、むしろそれでキス拒否したら殴ってたわよ??」
奇妙な沈黙が訪れる、天使が通ったというには二人の頭にはオッサンの姿しか浮かばない。
ならばきっと、これは堕天使が通ったとでも言うべきか。
(ど、どうする? ここからどうやって理子に諦めさせる?)
(――アキラに諦めて貰うには……、向こうが武器を捨てないとダメね、ええ、それがある限り対話の道は開けない)
(向こうにはスイッチという抑止力がある、いや最終的には押す事になるだろうが、今はまだコレが必要だ、コレを捨てたらケツが……!)
(コイツに対抗する手段は多ければ多い方がいいわ、それに捨てた途端、いえ、でも――)
じりじりと張りつめた空気が再び戻ってくる、気分はまるで決闘している荒野のガンマン。
勝負は一発で決まる、そんな錯覚すら二人は覚えた。
「…………一つ聞かせてくれ、なんでお前は前立腺を攻めようとする」
「アンタも聞かせなさい、その手にもってるソレを何で使おうとしてるか」
「……」「……」
「「――――土壇場で臆病風に吹かれた時の為!!」」
瞬間、空気がいっそう刺々しくなった。
お互いに考えている事は同じ、それはつまり。
「信用してねぇのか理子ッ!! 少し時間を貰えれば自分の意志でスイッチ押すだろうが!!」
「アンタこそ信用してないでしょっ!! この選択をしたのはわたしよ、間際で狼狽えるワケないじゃない!!」
「はッ、言ったな? なら証明してみせろ――子作りの前に、アブノーマルで度胸試しといくか?」
「別に良いけど、…………その行為にアンタの欲望が一ミリでも混じってないって誓える? わたしと、そして天使のオッサンによ」
アキラはふっと笑うと、手に持った大人の玩具を投げ捨てて。
「………………絶対に土壇場で怖じ気付かないから、前立腺だけは止めてくれませんか理子様??」
「やっぱそうだったじゃないっ!! この変態!! どーせ卑猥で自分勝手な妄想とかしてたんでしょう!!」
「お嫁さん奴隷プレイまでは考えた」
「~~~~っ!? あ、アンタねぇ……、わたしを何だと……いえ、プレイで済まそうとした事を逆に誉めるべきなのかしら」
理子は頭を抱えて悩んだ、プレイではなく本当にそうするつもりならグーパンも辞さない構えであったが。
プレイと言ったあたり、進歩が見られる、とはいえ進歩と言っていいのだろうか。
深く悩む彼女に、アキラは近づくとその肩をポンと叩いて。
「ドンマイッ」
「ぶち殺すわよアンタっ!! もういい押す!! このスイッチ今すぐ押してやるんだから!!」
「あー困ります困りますッ、理子様困りますからマジでもうちょっとこう手心をお願いしますうううううううううううううう!!」
「監禁したやつが言えたコト? じゃ、押しましょうか」
「待って待って待ってぇッ!! 話し合おう!! 真面目に!! な? な? 部屋から出たらオレの貯金を全部渡すから!! マンガも全部売り払って貢ぐから!! お願いです理子様!!」
必死すぎる形相でペコペコと頭を下げて懇願する彼の姿に、理子は満足そうに頷く。
だが、許した訳でも油断した訳でもない。
「なら、話し合うとしましょうか」
「おお!! 分かってくれたか理子!! 流石は良い女! オレの愛する人よ!! フェアに行こう! なッ、フェアに行こうぜ!!」
「フェアねぇ……、言うのは簡単よねぇ、ま、アンタは孕ませるだけだし? 実際に産むのはわたしだし?」
「それを含めて話し合おう!! あ、椅子になりましょうか理子様? デヘヘヘ、愛の奴隷と呼んでください、肩こってませんか? お揉み致しませう……!」
彼女は溜息を一つ、そして苦笑すると。
「はいはい、じゃあ椅子になりなさい。ベッドに腰掛けてわたしをお姫様抱っこしなさいな」
「――――ッ!? 喜んでぇッ!!」
そうして、話し合いが始まったのであった。