大嫌いな幼馴染みと一緒に、セックスしないと出られない部屋に閉じ込められた   作:和鳳ハジメ

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クエスト30/扉の外にある未来(終)

 

 

 外に出るなら身なりを整えないといけない、それに空腹で倒れそうだ。

 二人は一緒にゆっくりと風呂に入り、イチャコラしながら最後の食事をして。

 その一時間後、扉の前に立っていた。

 

「なんか……こうなってみると名残惜しいな」

 

「そうねぇ、何だかんだで二週間も居ちゃったしね」

 

「オレもパパかぁ……あー、どう説明すっかなぁ……学校もどうするよマジで」

 

「ま、なるようになるでしょ。一緒にさ、親に頭下げましょ」

 

 アキラの右手と理子の左手は、しっかりと結ばれて。

 いざ家に帰らんと、彼がドアノブに手をかけたその時だった。

 その手は、何故かピタっと止まって。

 

「どうしたのよ、帰りましょ?」

 

「ちょっと待った……帰る前にやって欲しい事があった」

 

「えぇ……今更何よ??」

 

「その服と一緒にプロポーズリング入ってるだろ? ――オレとしては、付けてくれないかなぁと?」

 

 理子の右手の紙袋には、日替わりクエストの報酬でプレゼントされた服と。

 指輪の入った赤い小箱が、確かに入っていた。

 彼女はニマニマと彼を見ながら、それを取り出して。

 

「ふーん、ロマンチックな所があるじゃない」

 

「なんだよ、悪いかよ……」

 

「拗ねないの、付けてあげるけど……折角だしアンタが付けなさいよ」

 

「何ッ!? 良いのか!!」

 

 途端、満面の笑みを浮かべるアキラは。

 いそいそと指輪を箱から取り出し、片膝をつく。

 もう一度やり直すのだ、しっかりとしたプロポーズをすると意気込んで。

 

「くぅ~~~~、まだ見せてくれますのっ!! オッサンは……オッサンは感激やでぇ!! これぞ二人の新たなる門出!! な? な? 写真撮ったろか? いや撮るで! ムービーのほうがエエ? あ、ライン交換しよか、撮ったの送るさかい」

 

「何でテメェが居るんだよッ!? 空気読めってんだッ!!」

 

「ああ、そういえば挨拶まだだったわね。じゃあライン交換……って、スマホは家じゃなかったかしら?」

 

「ほな、出てから交換しましょ、着いていきますさかいに」

 

「来んなよッ!? つかこの部屋の外に出て良いのかよテメェッ!?」

 

 思わず叫んだアキラに、天使のオッサンはもっともらしく頷くと。

 

「むしろ、この部屋に居る時間の方が短いんやで? そもそもオッサンは普段、パトロールしながらお二人のような関係のカップル捜してる訳やし」

 

「そんな事してたのかよオッサン……」

 

 思わぬ情報にアキラは、納得半分の呆れ顔。

 天使の癖に、そんな地道な事をしていたのかと理子は苦笑して。

 そんな二人、天使のオッサンは微笑んだ。

 

「プロポーズやり直すのもエエんやけど、子供の名前はどうしますんで?」

 

「あッ」「そういえば……」

 

 顔を見合わせる二人、確かに何も考えていなかった。

 すっかり頭から抜け落ちていた、考える時間は幾らでもあったというのに。

 

「――――女の子だったらアリコ!! 男だったらリコラ!!」

 

「頭沸いてんじゃないわよバカアキラっ!! なんでそんな安直な名前なのよっ!!」

 

「いやだって、お前の名前とオレの名前、合体させたくないか??」

 

「理解するけど限度ってモンがあるんでしょうがっ!!」

 

 早速と言わんばかりに喧嘩を始める二人に、天使のオッサンは尊みを感じながら仲裁した。

 折角の門出、ケンカップルの光景も悪くはないが満面の笑みで部屋から旅だって欲しい。

 

「ま、ま、そないに喧嘩せんと、な? こんな事もあろうかと命名辞典を渡しに来たんや!! アフターフォローは任せてぇな!!」

 

「そもそも、オッサンがこの部屋に拉致監禁しなかったら……いや、でもそれだと……」

 

「はいはい、好意は素直に受け取りなさいよアキラ。――ありがとう、天使のオッサンっ」

 

「理子はんは素直なエエ子やなぁ……アキラはんもオッサンにデレてエエのんで??」

 

 んー、と顔を覗きこむ天使に、彼はうぐッと悔しそうにしながら。

 

「…………ありがとう天使のオッサン、これでもスゲー感謝してる、オッサンが居なけりゃ理子と一緒に居る未来は掴めなかった」

 

「聞きました理子はんっ!? アキラはんがデレた!! とうとうデレたでぇ!!」

 

「うっさいそんな喜ぶんじゃねぇッ!! 恥ずかしくなってくるだろうがッ!!」

 

「おほーっ!! これだから天使のお仕事は楽しいんや!! 人口も増えて少子化解消で一石二鳥!!」

 

「なんか悔しいけど、……ふふっ、今なら許せちゃうわ」

 

 二人と天使は、別れを惜しむように。

 否、別れを惜しんでるのだ。

 濃密だった二週間、色んな事があった、恋人になり、結婚の約束に、そして理子のお腹に宿った新たな生命。

 

「ああ、バイバイしとうあらへんなぁ……」

 

「…………なら、今後も会いに来いよ。歓迎するからさ」

 

「そうよ、天使のオッサンなら歓迎するわ」

 

「気持ちは嬉しいけど、天使にもルールがあるさかいに。地上では姿が見せられへんのや……ま、偶にラインで会話するぐらいは許されてるんやけどな」

 

 帰ったら、天使のオッサンの姿が見えなくなる。

 その言葉に二人はしゅんとなった、何ともなしに今後もこうやって騒げるものだと思っていたのだ。

 

「…………考えてみりゃ、天使には天使のルールがあるよなぁ」

 

「残念だわ、いっぱい相談しようと思ってたのに……一緒にゲームもしようって思ってたのに」

 

「ありがとうアキラはん、理子はん、ま、姿は見えんでもオッサンはいつもお二人を見守ってるさかいに、ちゃーんとアフターフォローもするさかいに勘弁したってや……」

 

「オッサン……ッ」

 

「天使のオッサン――っ」

 

 感極まった二人は、天使のオッサンを両隣からヒシっと抱きしめる。

 これで最後、そう最後なのだ。

 

「ありがとな天使のオッサン、オレ、忘れないから、産まれてくる子にも伝えるからッ」

 

「わたし達の愛の天使として、子孫代々伝えるわ……」

 

「ううううっ、ありがとなっ、ありがとさんなお二人さんっ!!」

 

 天使の目にも涙が浮かぶ、ああ、とオッサンは心の中で寂しげな声をあげた。

 これ以上、二人の声を聞いていると彼のように閉じこめてしまいそうになる。

 永遠に、二人を眺めていたくなる。

 

(――でも、オッサンは天使やから。今回はいつもより、ちょっとだけ、ちょっとだけ思い入れが強いだけやから)

 

 そお遠くない内に、天使は新たなカップル候補を見つけてこの部屋に誘うだろう。

 少しだけ寂しさを感じながら、人間を見守り、守護していくのだ。

 これまでと同じく、これまでより少しだけ愛を強めて。

 

「…………そろそろ、お別れしましょか」

 

「天使のオッサン……」

 

「もうちょっとだけ、喋らない? 時間はあるんでしょ?」

 

「ダメやでお二人さん、これ以上は未練が残るだけや。――笑ってバイバイする為にも、ここでな、さよならなんや……」

 

 笑顔でそう告げる天使に、二人もコクリと頷いて。

 

「……最後にさ、何かリクエストはあるかオッサン」

 

「何でも言いなさいよ、わたし達に出来るコトなら叶えるから」

 

「そうやねぇ…………うん、やっぱ最後はお二人がキスして笑って部屋から出て行って欲しいわ。オッサンにな、幸せな姿を見せてぇな」

 

「…………わかった」「うん、わかったわ」

 

 これが正真正銘、最後の時だ。

 アキラは理子と向き合うと、彼女の左手を取る。

 

「オレと結婚してくれ理子、お前と、これから産まれてくる子を愛し、幸せにしたい、……一緒に幸せになってくれッ!!」

 

「はい、喜んでっ! お腹の子と一緒に、いっぱい幸せになって、いっぱい愛して、愛し合って、アンタと一緒に幸せになるんだからっ!!」

 

 そして、理子の左手の薬指に指輪がはまる。

 二人は笑いあうと、どちらからともなく自然に唇を重ねて。

 一秒、二秒、三秒、四秒、五秒、ゆっくりと顔を離す。

 

「…………また、何処かで会おうぜ天使のオッサン!」

 

「絶対に連絡してよねっ、待ってるから!」

 

「うん、うん、――ほな、さいならっ!!」

 

「「ほな、さいなら!!」」

 

 そうして二人は、仲良く腕を組んで部屋から出た。

 扉の外はアキラの自室に繋がっており、完全に体が出た瞬間、扉は跡形もなく消える。

 まるで最初から存在しなかったかの様に、扉は消えた。

 

「…………帰ってきたんだな」

 

「夢、じゃないわよね……?」

 

 彼のベッドの枕元にある目覚まし時計を見れば、時刻は朝七時。

 その隣にあるスマホで日付を確認すれば、本当に一晩しか時間が経過していない事が分かった。

 もしかして夢だったのでは、そう二人は疑いかけたが。

 

「…………指輪、あるわね。貰った服もある」

 

「………………あれッ? なんでオレ、手紙なんて持ってるんだ?」

 

「え、何ソレ??」

 

 部屋から出る時は持ってなかった筈だ、二人が慌てて手紙を開くと。

 

『全部現実でっせ、天使のオッサンが保証するさかいに安心してや! そうそう、三ヶ月前後でつわりが始まるから、そん時にはちゃあんと産婦人科に行ってな!! オッサン見守っとるさかいに、――二人の未来に祝福あれ!!』

 

「…………ったく、オッサンはよぉ……はははッ」

 

「ぷっ、あははははっ、さっき別れたばっかじゃないっ!!」

 

 二人は楽しそうに笑いあって、そして。

 

「んじゃあ――取りあえず、両方の親に交際宣言すっか?」

 

「ええ、ひとまず子供の事は伏せて、ええ、恋人ですって言いましょうか」

 

 それからは、子宝に恵まれ貧乏もせず、いつまでもいつまでも仲良く幸せに愛し合って暮らしたのであった。

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 ――大嫌いな幼馴染みと一緒に、セックスしないと出れない部屋に閉じこめられた・完。

 

 

 

 

 

 

 




はい、最後までお読みいただきありがとうございました!
少しでもお楽しみ頂けたなら、とても嬉しいです。
ではでは、またの機会にお会い出来れば幸いです。

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