大嫌いな幼馴染みと一緒に、セックスしないと出られない部屋に閉じ込められた   作:和鳳ハジメ

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クエスト7/ラブネーム

 

 愛称、そう突然言われても二人は幼い頃から名前呼びだ。

 それに、何より。

 

「…………なぁ、どうする?」

 

「愛称で呼ぶってコト?」

 

「ペナルティが無いって事は、別にやんなくても良いんじゃねぇかって」

 

「でもエネルギーがどうとか言ってたじゃない、今更愛称で呼び合った所で何が変わるワケでもないし、わたしはやっても良いと思うわ」

 

「素直にやるのは何か負けた気がするんだよなぁ……」

 

 アキラとしても、この部屋での生活に関わる事なら協力しても良い気がする。

 とはいえ、もしその言葉が本当なら。

 

「つーかさ、やらなかったらオッサンのエネルギー切れで部屋から出られるとかあり得そうじゃね?」

 

「その前に、例のえっちなガスを使われたらどーすんのよアンタ」

 

「……」「……」

 

「――選択肢がねぇじゃねぇかッ!?」

 

「そんなに叫ぶコト? 良いじゃん、偶には愛称で呼ぶのも面白そうじゃない?」

 

「お前がそう言うなら、まぁ良いけどさぁ……」

 

 軽い憤りをみせるアキラとは裏腹に、興味を見せる理子。

 彼女としては、言葉通りではあったが。

 

(ぐふふふ~~、これは絶好のチャンスかもしれないわっ!! 昨日からなんか良い感じだし、そう、愛称で呼び合えばアキラがわたしにメロメロになる日だって近いかも!!)

 

(まーた何か企んでやがるなコイツ、でもまぁ、……へへッ、実はそういうのちょっと憧れてたんだよなオレ)

 

(でも単に愛称をつけるだけじゃ攻め手に欠けるわね、何かこう……そう! バカップルみたいな感じのを付けあうってのはどーよっ!!)

 

(――――はッ、もしやコイツ、これを利用してオレの事を煽る気だなッ!! 忘れてねぇぞ畜生ッ!! ゲームに負けたからって一人称の代わりにド下手童貞って言うように命令されたのはッ!!)

 

 アキラの脳裏に思い浮かぶ屈辱の一週間、オレという代わりにド下手童貞と言わなければならず。

 間違えてオレと言ったら、罰としてジュース奢りが発生。

 

『なぁ理子様? このド下手童貞にお慈悲をくれないか?? センセ達の前でこれ言うのキツイんだけどッ!?』

 

『あははははっ、大受けしてたし良いじゃん、アンタ一生それ使いなさいよっ、ぎゃはははははははっ!!』

 

 あの様な悲劇を繰り返してはいけない、ちょっと好みの教育実習生のお姉さんの前で、ド下手童貞という一人称を使わなければならなかったあの悲劇は。

 決して、そう断じて繰り返してはならない。

 ――――今こそ、復讐の時だ。

 

「よし、なら愛称で呼び合おうぜ。但し――お前の愛称はオレが付ける」

 

「いいわよ、ならコッチも要求して良いのよね?」

 

「ああ、何でもこいよ」

 

「じゃあ…………ラブラブなバカップルな感じの愛称にしましょ。勿論、アキラのはわたしが考える」

 

「ッ!? て、テメェ!? ――――い、良いだろうッ! なら今からシンキングタイムだ!! 十分後には発表してお互いに呼び合うからな!!」

 

「ええ、楽しみにしてる」

 

 理子の提案したルールに、アキラは戦慄しながら愛称を考え始めた。

 慎重に決めなければならない、一歩間違えれば悲劇が繰り返されるのだから。

 

(くッ、まさかラブラブなバカップル風だなんて条件を付けてくるとは!! 恐ろしい奴めッ、これじゃあ変な名前を付けて復讐する事が難しくなったじゃねぇかッ!!)

 

 ルールに反すれば、あの屈辱の悲劇は繰り返されるだろう。

 だがルール通りに愛称を付ければ「アンタってそーゆーのが好きなんだぁ……へぇ~~っ」と、ニヤニヤしながら笑って来て。

 この部屋から出た後も、それをネタにイジられる事は想像に難くない。

 

(どうするッ、どうすれば良いッ!! どうやったら理子の裏をかいて復讐できるッ! ――いや違う、そうじゃない、裏じゃなくて攻めるは表ッ!!)

 

 そうだ、奇をてらうのではなく王道を行くべき。

 

(コイツはオレが当たり差し障りの無い、無難な愛称を付けてお茶を濁すと考えている筈だッ、だってそうだ、アイツだってこれ以上ヘンな空気になって処女を奪われるのはごめんの筈だッ)

 

 相手の嫌がる事をする、ああ、とても良い言葉であるとアキラは頷いた。

 

(なら…………、敢えて攻める、こっぱずかしい愛称をつけてバカップルっぽく振る舞う、これしかないッ!!)

 

(――――って、アキラならそう考えてる筈よ、ええ、わたしなら分かるっ! ふふん、アンタの考えなんてお見通しなのよ!!)

 

 対する理子は、幼馴染みという付き合いの長さからアキラの思考経路を正しく予測する。

 

(ふっ、今日のわたしに敗北は無いわっ!! なんたってアンタが好きそーな呼び方とか、ベッドの下に隠したエロ本から丸わかりなのよ!!)

 

 彼の琴線に触れるツボを把握してる上に、彼女としてはアキラが頼み込むなら処女をあげる事に躊躇いは無い。

 ――つまり、前提条件が違うのだ。

 守ろうとするアキラと、籠絡しようとしている理子。

 弱点を知らぬアキラに、弱点を知っている理子。

 

(覚悟しなさいアキラ、――アンタはわたしに一方的にメロメロになるの、だってわたしは弱点知ってるし? アンタの頭じゃ効果的な愛称なんてつけられないわよねぇっ!!)

 

(………………覚悟を決めたぜ、ああ、例えオレの精神耐久度がガリガリ削れていっても――――理子がオレにセックスしてくれって言ってくるぐらいにラブラブ・バカップルを演じてやる)

 

 そして十分後、戦意漲る二人はベッドの上で無言で笑いあう。

 直後、先に動いたのはアキラだ。

 理子の右手と己の左手を恋人つなぎに、絶対に逃がさないという強い決意でもって。

 

「――――ん」

 

「っ!? はっ、はあああああああああああああああああああっ!? アキラぁっ!? い、今アンタなにしたのよっ!?」

 

「何って、お前の手の甲にキスしただけだが?」

 

「何でそうなるのよっ!? 愛称で呼び合うってのは何処へ行ったのっ!?」

 

「良く聞け、――ん」

 

「何でまたキスしたのよっ!? 今度は髪にっ!!」

 

 突如としてキス魔になったアキラに、理子は愛称で呼ぶどころではなく。

 彼は慌てふためく彼女に、うっとりとした顔で告げた。

 

「ごめんな、お前に似合う愛称が思いつかなかったんだ。だから……愛称で呼ぶ代わりにキスしようってな、その方がバカップルっぽいだろ?」

 

「う゛う゛~~~~~~っ!!」

 

「なぁ、――ん、お前の望み通りだぞ……ん、嬉しくないのか?」

 

「やっ、やぁっ、もおっ!! 普段のアンタは何処へ行ったのよ!! どっから覚えてきたのよぉ!!」

 

 額に、腕に、耳に、軽く押しつけられるアキラの唇。

 その少し堅い感触に、理子の心臓はドキドキと早鐘を打ち思考が定まらない。

 頭が茹だってしまう感覚、それが不快でないのがなお悪い。

 

(罠っ、これは罠よっ!! くそっ、こんな返しなんて予想してないわよぉ!! ううう~~、どーすれば反撃出来るってのよ、アキラを……直視、出来ないじゃない…………)

 

 勘違いしそうになる、自分たちが本当にラブラブ・バカップルで。

 このキスの嵐に、キスで返しても良いのだと思いそうになる。

 そんなのは、そんな事をしてしまえば。

 

(だ、ダメなの、好きって言うのは……コイツが先なんだから、わたしへアキラが好きって言わなきゃいけないんだから――)

 

 耳まで真っ赤になっているのを自覚してしまう、繋がれた手を振りほどけば良いのに。

 残りの手も繋ぎたくなっていく、口元が笑ってしまう。

 こんな表情なんて見せられないと、理子は彼の胸に顔を埋めて。

 

(ッ!? こ、コイツ!! 防御態勢に入りやがった!! くそッ、良い感じに攻めてる所だったのにッ!!)

 

(くっ、顔を見られなくなったのは良いけど……コイツの体臭……か、考えないのわたしっ!! 考えるとドツボにハマるからぁ!!)

 

(どうする、このままでも耳や髪にキスは出来っけど。同じ事の繰り返しは理子も慣れるだろ、あー……抱きしめるか、いや、いっその事、押し倒して…………)

 

(このままだとジリ貧よ、攻めなきゃ負ける、で、でもこんな顔見せられない、こんな、こんな恋する乙女みたいな顔なんて――――うん?)

 

 はて、と理子の脳に閃きがはしった。

 恐らく己は恋する乙女の顔をしているだろう、普通の状態であったら絶対に見せられない。

 だが今は、アキラに意識させるのが最も効果的な手段ではないだろうか。

 ――ならば。

 

「は、恥ずかしいから、ね? もう止めよ、……あーくん」

 

「あーく……ッ、~~~~ッ!?」

 

(よしっ、効果アリぃ!!)

 

(なんつー甘い声だしてんだよコンニャロオッ!! は? はぁッ!? 耳がとけそうになったんだが?? つか卑怯じゃね?? おっぱい押しつけながら潤んだ瞳であーくんとかさあああああああッ!!)

 

 思わず硬直したアキラに、理子はここぞとばかりに甘える。

 その胸板に頬をすりすりと、うっとりとした顔で。

 

「はぁ……前から思ってたけど、あーくんって良いからだしてるわよね、実は結構好みだったの」

 

「ッ!? ぁ、ッ、そ、そうだったのかぁッ!?」

 

「ふふっ、なーにその変な声、あーくんらしくなーい。もっと強く抱きしめて、カッコいい声で口説いてほしいなー」

 

「おッ、お前ッ、お前なぁッ!! それ、それぇッ!!」

 

 なんだ、なんなのだ、本当に何なのだろうか。

 理子が、いつも喧嘩腰の理子が、何の躊躇いもなく甘えて愛おしそうに愛称で呼んでいるだけだと言うのに。

 アキラの感情は、ぐちゃぐちゃにかき回された様に不安定になる。

 

(くそッ、くそくそくそッ、勘違いしそうになるだろバカッ!! なんでさぁ、なんでこんなに――)

 

 嬉しいと、幸せだと思ってしまうのだろう。

 こんな時間がずっと続けばいい、今、人生で一番幸せな気がする。

 だけど。

 

(嗚呼、――ダメだ、これはダメだぜ、理子、理子、理子…………オレは、オレはお前を)

 

 勘違い、しても良いのだろうか。

 勘違いを、本当にしても良いのだろうか。

 勘違いでないのなら、どんなに幸せな事か。

 

(――――――お前は、オレ以外にもいつかこんな顔をするってのか?)

 

 ゆらりと黒い感情が沸き上がる、幸せだからこそ、不安になる。

 いつか、いつか彼女が他の男の名をその唇で甘く呼ぶのかもしれない。

 アキラの手を、すり抜けていってしまうのかもしれない。

 

(夢の様に幸せで、愛おしくて、――本当に夢だったら?)

 

 目が覚めたら、自分の部屋でアキラは起きて。

 横には寝落ちした理子がいる、そして再び喧嘩腰の日々が始まるのだ。

 こんな幸せな感情が、無かった事になって。

 

(……どうすれば、これが夢じゃねぇって確信できるんだ? どうすりゃさ、理子もオレの事が好きだって確信出来るんだ? コイツが、オレ以外を好きにならないって、どうしたら信じられるんだ?)

 

 分からない、アキラには何一つ確信が持てない。

 だって理子はこんなにも魅力的で、対して己には何があるのだろうか。

 彼が出来ることと言えば、体を張って守る事だけ。

 

(守って、コイツが無事で嬉しくて、コイツが傷つくのが嫌で、――それで? 今度はオレ自身から理子を守るのか?)

 

 守り抜けば、繋いだ手から離れてしまっていくかもしれないのに。

 本当に守らなければいけないのか、どうして、何のために。

 

「………………嫌、だ」

 

「あーくん……? その、ちょっと痛いわよ?」

 

「嫌だ、――嫌だッ、理子ッ、オレはお前を離したくないッ!!」

 

 口に出してしまえば、火に油が注がれるように一気に燃え上がってしまう。

 誰にも渡したくない、誰にも見せたくない、誰にも触れさせたくない。

 理子には己だけが居ればいい、理子の声を聞くのは己だけでいい、理子が声を聞くのは己の声だけでいい。

 ――どこまで二人っきりで、愛し愛され。

 

「…………………………アキ、ラ?」

 

 とさっと軽い音がした、理子がアキラに押し倒されたのだ。

 

「え、ぁ、っ、あ、アキラ? 目が、目がね、怖いんだけど……」

 

 ギラギラと獣欲に輝く、そして愛欲に支配されたアキラの瞳。

 掴まれた手首は痛く、ジクジクと熱を理子に伝える。

 

「ね、ねぇ……何か言ってよ、冗談、でしょ? やめて、やめてよ、煽ったのは謝るから、そんな、そんな――――」

 

 まさか、本当に、今のアキラの気配は尋常ではない。

 何かに傷ついたような顔をして、でも口元は嗜虐心を感じさせるように歪み。

 瞳だけが、愛を伝えていて。

 ――日に焼けた手が、間違いなく理子の胸を掴んだ。

 

「――――いやぁっ!!」

 

 その瞬間、パンと乾いた音がしてアキラは頬に痛みを感じた。

 

「ぁ」

 

 酩酊していた様な感覚から一気に引き戻される、理子に平手打ちをされたのだ。

 彼女は裏切られたような顔で、目尻に涙を浮かべながら睨んでおり。

 

(お、オレは……今、コイツに何を――――ッ!?)

 

(わたし、ぇ、あれ? なんで今、アキラを拒否って……)

 

 そうなっても良いかもと、心の何処かで確かに思っていた筈なのに。

 でも、怖くて。

 

「ご、ごめ――」

 

「――――ごめん理子、ちょっとシャワー浴びて頭冷やしてくる」

 

 逃げ出したアキラの背中を捕まえようとした彼女の手は、服の裾すら掴めず空を切った。

 

 

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