とある木原の因数分解   作:なっち様

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木原逆算という青年

 学園都市はセミがいる場所すら科学によって管理されている、科学によって整備されたこの街はセミが居つきやすい環境を意図的に作り出すことで学区ごとにセミの生息数を管理しているのだ。

 

 上条当麻が過ごす第7学区はその『セミが居つきやすい環境』なのだった。

 

 つい最近の出来事により電化製品が全滅した上条の家(その記憶は上条には無く家に帰ってその有様に絶望した)は急遽用意された扇風機と部屋の窓を全開、そして団扇という科学の発展した街とはとても思えないような急場しのぎで乗り切っていた。

 

 全開に開かれた窓から聞こえるジージーなのかミンミンなのかあるいは両方の馬鹿やかましい鳴き声に苛まれながら団扇を仰いでいた。

 

「とうまー、暑いんだよー」

「言うなインデックス、言っても上条さんにはどうにもなりません」

 

 インデックスと呼ばれた少女は上条家に貸し出された型落ち品のプロペラ式扇風機の前に陣取ってうなだれていた。

 このクソ暑いのに全身を覆う真っ白な修道服を着こんでいてフードから覗く青い前髪は汗で額に引っ付いていた。

上条は一番冷たくなるタイミングでポットに入れた水道水をコップに注いでやった。

 

「うー、ありがとなんだよ」

 

 上条は団扇を仰ぎながら考える、この少女と自分の関係を。

 

 上条当麻は記憶喪失だ。

 彼自身にこの少女とのつながりはない、目の前で水を一気に飲み干しているこの少女は過去の『上条当麻』が救った少女だ。

 

そしてインデックスと呼ばれるこの少女は上条当麻が記憶喪失であることを知らない

病室では咄嗟に隠してしまったがいつまでも黙ったままでいいのだろうか、インデックスが感謝を捧げる対象も病室で彼女が大好きといった存在も『上条当麻』であって上条当麻ではないのに。

 

 上条が暑さで茹った頭でぐるぐると考えていると家の呼び鈴が鳴った。

 

「とうまー。お客さーん」

「はいはい、わかってますよっと」

 

 考えを中断しドアを開け放つ。

 

「はーいどちら様ですかー」

「どうも初めまして君が上条当麻君だね?」

 

 ドアを開けた先で立っていたのは少年というよりは青年といった年齢のさわやかな男とインデックスと同じか1,2こ下の年代の少女だった。

 

「えーと、どちら様ですか?」

「あぁ、すまない。僕の名前は木原逆算、この子は円周」

「はじめまして、木原円周です」

 

 お団子ヘアの少女、木原円周がぺこりと頭を下げた。上条の後ろではインデックスが客人たちを覗き込んでいる。何の用事できたのか気になってるのだろう。それは上条も一緒だった。

 

「それで?木原さんたちは上条さんになんの御用でせうか?」

「『先生』から君が記憶喪s」

「わあああああああ!!!!ちょ、ごめんインデックス!!この人たち外で用事があるみたいだからちょっと出てくる!!さぁ行きましょう行こう行くんですよの3段活用!」

「ちょ、上条君!?押さないでくれよどうしたんだいったい!?」

「外!外!外!」

「わかった!わかったから!」

「ちょっと。とうま!?」

「外!」

 

初対面の人間からいきなり自分の根源の部分が出てきたことに上条は驚愕してパニックを起こした。外のセミにも負けない声で外!と叫び続ける奇妙な学生の話はこの夏の暑さで狂った可哀そうな人としてしばらくこの学生寮の話題になるのだった。

 

 

 上条たちは寮を少し進んだ先にある小さな公園に居た。

 

「それで?いきなり人の秘密を暴露してくれやがってなんの用事なんですかねお二人はぁ?」

「いや、すまない。まさか秘密にしているとは思わなかったものだから」

「“うんうん上条当麻なら正直に話してるよね”」

「シャラーップ!聞かれたことだけ答える!はい!」

「改めて言うけど、『先生』から君が記憶喪失になっているからもしよければ力になって欲しいと聞いてね」

「先生?」

「うん、君がちょっと前に入院していたところの」

「ああ、あのカエル顔の」

 

 上条の頭に看護婦属性を持つと衝撃的なカミングアウトをしてきたカエル顔の医者が浮かび上がった。

 

「だけど、俺の記憶は破壊されているから治せないって、それともあんたたちなら治せるのか?」

 

 上条の言葉に残念ながらと言いながら首を横に振って逆算は答えた。

 

「『先生』ですら無理な物を僕達じゃあどうにもできないよ」

「じゃあ力になるってなんだよ?」

「『今』記憶を戻すことは出来ない。けれど経験から導き出すことは出来る、円周」

「うん、逆算お兄ちゃん」

 

 円周に呼応するように首からかけられたスマートフォンのようなデバイスに表示された名前が入れ替わり『上条当麻』の名がデバイスに浮かび上がる。

 

「俺の名前?」

「そう、円周の演算デバイスには君の思考パターンをインプットしてある。必要な時にはエミュレートすることももちろん可能だ。つまり円周は君と同じ『発想』『考え』をすることが出来るんだ」

 

 思考バターンをエミュレート出来る。その意味について上条は考えた。

 上条当麻の考えを他の人間がエミュレートする。

 『上条当麻』じゃない人間が上条当麻の考えをする。

 

(それって今の俺って存在と同じ……)

 

 インデックスが望む『上条当麻』を演じる偽物、『上条当麻』をエミュレートした存在。

 

「うーん、当麻お兄ちゃんが何を考えてるのかは分かるけど逆算お兄ちゃんが言いたいのはそういう事じゃないよ」

「円周、上条君は何を考えてたのかな?随分顔色が悪いようだが」

「うーんと、自分は偽物なんだー、本物といつの間にか入れ替わってるポジのホラー映画のキラー役なんだもういっそ全部ブッ殺してやるぜー!!!て感じ」

「それは大分思い詰めてるね……」

「最後のは考えてねぇよ!!」

 

 本当に思考をエミュレートしてるのだろうかと、上条は訝しんだ。

 

「てか、そもそも何人様の思考パターンをインプットしてくれてんじゃ!」

「まぁまぁ、落ち着いてくれよ。いいかい、インプットしてある『上条当麻』の思考パターンの正確性はかなり高い、本人と同じと思ってもらって構わない」

「いま、さっそく本人とのズレが発生したんですが!?」

 

 

「だってああいえば“当麻お兄ちゃん”は元気になるんだよね?」

「……」

 

 逆算はわざとらしく一度咳ばらいをして、上条を見つめた。

 

「もう一度言うけど、円周にインプットされている君のデータは本人と全く変わらない。さて、最初の話に戻るけど僕たちは君の力になりに来たと言ったね?僕たちは言い換えれば君の記憶の過去問のようなものだ」

 

「記憶の過去問?」

 

「そう、今の君は記憶を失う前の『上条当麻』との相違点を気にしてるだろうというのは円周のエミュレートで既に分かっていたことだ。そこで君の過去の行動と現在の行動が一致すれば君は間接的に記憶を取り戻したと言えるのではないかと僕は考えた」

 

「あー、えーとつまり?」

「例えば道で重い荷物を背負った老婆が困っていたとしよう。過去の君はおばあさんに声をかけその荷物を持ってやるだろう、さてでは改めて聞くけど、同じ場面に出くわした時『今』の君ならどうする?」

 

 上条は数舜考えてやはり過去の自分と同じ答えをだした。

 

「おばあさんに声をかけて荷物を持ってあげる?」

「ほら、今君は過去の自分の答えを知っていたから同じ答えを出すことが出来た。僕たちが出来るのは今と同じようなことだよ。君が記憶喪失によって困ったことがあった時僕たちは過去の君の考えを教える事が出来る」

 

「“上条当麻”ならどうするか当麻お兄ちゃんに教えてあげられるんだよ」

 

 本物の『上条当麻』インデックスが大好きな存在。それがどんな人間だったのか知りたいと上条当麻は思ってしまった、いや本当はインデックスの涙を見たときから思っていた。

 

「過去をずっと知り続ければいずれ現実で円周のエミュレートが無くても『上条当麻』として生きていくことが出来るようになるだろう、その時には君は記憶を取り戻したと言ってもいいんじゃないか?」

 

 上条当麻は過去に手を伸ばすことにした。

 

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