とある木原の因数分解   作:なっち様

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木原

 とりあえず上条は次の面会を約束し連絡先を交換して木原の二人組と別れた。

 退院祝いとして渡されたゼリーの詰め合わせが入った紙袋をベンチの隣に置き上条は独り考えていた。

 

結局、逆算は答えなかったが『上条当麻』の思考パターンはどこから拾ってきたのだろうか。

 学園都市に存在する超能力者は約230万人、その中でも能力者は『無能力者』、『低能力者』、『強能力者』、『大能力者』、『超能力者』と六段階に格付けされている

 上条はこの六段階の内『無能力者』に該当する。

 

 『超能力者』が学園都市で7人しか存在しないのに対し『無能力者』は学園都市に存在する超能力者の約半数を誇る。

 上条は鼻血が出るほど睨んでもスプーン一つ曲がらないし封筒の中身が透けて見えたりもしない。

 

 つまり、上条は学園都市にとって価値のある人間ではない、勿論自分からそんなことを言うことはないが、かと言ってそのことを否定するほど現実が見えてないわけじゃない。

 

はたしてそんな人間の思考パターンを解析するだろうか?

 

 例えばジャングルの秘境に入ったとして、目の前に新種のカブトムシや蝶が居るなかでわざわざ足元の何処にでもいるちっぽけなクロアリを捕まえたいと思うだろうか。きっとクロアリは見向きすらされない。きっと踏みつけたことすら気づいてもらえない。

 

(学園都市がすべての人間のデータを保存してるってなら別なんだけどなー)

 

 あまりしっくりこないが、無くはないと思う。

 何しろ外と20年以上技術の差があるという街だ、一人一人の思考パターンまで把握していても驚きはするが、不可能だとは思わない。

 

(ま、あんま現実的じゃないんだけどな、やっぱり考えられるとしたら『コイツ』か)

 

 上条は自らの右手を見やった。

 上条の右手には『幻想殺し』と呼ばれる不思議な力が宿っている。

 超能力や魔術、それが『異能』であるならば神の奇跡でさえも有益だろうが有害だろうが打ち消してしまう右手、間違いなく能力であるはずなのに学園都市の能力検査に引っかからないせいで『無能力者』の烙印を押されているが上条はこの右手によって厳密な無能力者ではない。

 

 記憶のない上条にはこの右手のことを何処かの研究機関が調べた過去の有無すら分からない。

 ただ自分が学園都市にとって価値のある人間だと見なされるとしたらこの右手以外にはないだろうと思った。

 

 Sub.1

 

 超過密都市である学園都市の居住地は多くの場合マンション・アパートの形態をとっている、土地一つに対して一人や二人ではとても学園都市中の人間は収まりきらない。

 学園都市の建造物が皆高層化していくのはそういう理由もあるのだ。

 

 木原逆算と木原円周はそんな学園都市の主流に逆らって地下の部屋を借りていた。

 4LDKのマンション、二人で住むには十分すぎる広さを持つそこに二人は同棲していた。

 

「お帰り円周、テレビでも見るかい?」

「ただいま逆算お兄ちゃん、ううん『宿題』やっちゃう」

 

 挨拶を終えた円周は自分の寝室へとかけていき、いくつかのノートとプリント、筆記用具を引っ張り出してきた。

 

円周は木原という特異な研究者一族に生まれながらも幼少期のとある事情により九九も出来なければカタカナすら出来な ()()()

 

 『宿題』とは木原のなかでも上位の才能を持ちながらもその事情のせいで『木原』として及第点にはなれなかった彼女を見かねた逆算が円周に与えたものだ。

 内容は小学生の授業レベルの物がほとんどだが、学校に行ってない円周がうんうん唸りながら最終的に逆算に質問する様子はどこの学校でもありふれた先生と生徒の光景だ。

 

ちなみに円周は九九の七の段が苦手だったりする。

 

 不意に逆算のスマホが振動した。 

 ポケットからスマホを取り出した逆算は液晶に表示された文章を見て顔をほころばせた。

 

「……ごめん、円周ちょっと外に出てくるよ」

「えー?」

「分からないとこがあったらメモするようにね、後で説明するから」

「わかったよ、逆算お兄ちゃん」

 

 逆算は女の子座りでテーブルに向き合ってノートを広げる円周を微笑んで見つめた後家を後にした。

 

Sub.2

 

 木原逆算が家を出た後も円周は逆算の課した『宿題』に取り組んでいた。

 円周がまだ読めない漢字は極力使われていない、そしてすべての漢字にふりがながふってある逆算作成の教科書を円周はたどたどしく読んでいた。

 

「うん、うん、出来るだけ奇麗に書かないといけないんだよね」

 

 円周は以前逆算に注意されたことを口に出しながらシャーペンを走らせる、そのペン先には女の子が書く丸っぽい文字が刻まれていく。

 

 突然、玄関のドアが開いた。

 

 円周は逆算が帰ってきたのだと思い玄関へと向かう。

 

「どうしたの?忘れ物?」

 

 しかし、そこに人間はいなかった。

 ただ、拳ほどの大きさのゴツゴツとした黒いパイナップルみたいな物体が円周のスニーカーの横に落ちていた。

 

「手榴っ!?」

 

 直後、爆音が響いた。

 

Sub.3

 

 学園都市の第4学区、食品関連の施設が並んだ学区に存在する小さなカフェに逆算は来ていた。

 

「逆算君、わざわざ来てもらってすみませんね」

「いえ、唯一さんからのお誘いならどこにでも行きますよ」

 

 逆算の対面に座っているのは既製品の安物のスーツの上に白衣を纏った若い女性、木原唯一。

 逆算がこのカフェにやって来たのは唯一に呼ばれたからだった。

 

「それで?二人きりで話したいとのことですが」

 

 木原唯一、木原一族の中でもかなり上位の地位にいる彼女だが、そんな彼女に呼び出されたというのに逆算は胸が高鳴っていた。

 ぶっちゃければ唯一は逆算の好みのタイプにドストライクなのだ。

 そわそわと落ち着かない逆算とは対照的に落ち着き払った唯一はもったいぶるようにコーヒーのカップをゆっくりとテーブルに下ろした。

 

「上条当麻と接触したそうですね」

「……ええ、よく知ってますね?」

 

 上条当麻といえば逆算が今日会ってきたばっかの人間だ。ツンツン頭の記憶喪失の人間、

 『冥途返し』の先生から預かって協力を約束した人間。

 

「まぁ、私も『木原』のなかではそこそこですから耳が早いんです、それに逆算君はよく話題に上がりますからね」

 

 嘘だろうな、と逆算は思った。きっと唯一は自分ではなく上条当麻にアンテナを張っているのだ。

 

「上条君は先生からのお願いで会うことになりましてね、ちょっとしたお手伝いをさせてもらうことになったんですよ。先生には普段お世話になってますからね」

 

 牽制。言い訳。理由。

 自分には上条当麻と関わる正統な理由があるのだと、当然唯一もそのあたりは知っているだろうけども。

 

「ああ、『冥途返し』のですか、なるほど。『木原』を利用しようとすることに思うところはありますが逆算くんが納得しているならいいでしょう。それで話と言うのはですね」

 

 唯一が逆算の目を覗き込むように視線を合わせ二人は見つめ合う形になる、逆算は自分の顔が熱くなったのを感じた。

 

「上条当麻の思考パターンのデータを私に譲ってくれませんか?」

 

 建前も前置きも告げることなく唯一はぶっこんでくる。

 そしてこれは上条当麻の名が出た時点で予想が出来た答えだった。

 

「……さすがにそれは唯一さんの頼みでもちょっと」

 

 守秘義務とかプライバシー(自分のことを棚に上げて)とかぱっと頭に思い浮かぶのはそんな理由だが、一番の大前提として『上条当麻』なのだ。学園都市に住む十把一絡げの『無能力者』とはわけが違う。

 

「大体何故です?」

「いま私的にプラチナのタグをつけている研究に必要なものなんですよ」

「プラチナ、ですか」

「はい、とても大事な研究です」

 

 まずいな、と逆算は思う。よりにもよってプラチナ、これでは唯一は何があっても折れることはないだろう。

 木原唯一は自分の研究対象・実験対象への優先度をタグ付けして評価している。『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』そして最上位の『プラチナ』。

 逆算ですら彼女の研究で『プラチナ』のタグを聞くのは初めてなのだ。

 

「まいったな、協力したいのはやまやまなんですけどね」

「逆算君なら協力してくれると思ったのですが、勿論お礼はいたしますよ?」

「上条当麻じゃなきゃダメですか?『一方通行』とかなら」

「彼より適したものはないですね、それに第一位の思考パターンなんて『暗闇の五月計画』のときに散々ばらまかれましたし」

 

 やっぱり駄目か。

 逆算はわざとらしく大きなため息をこぼした、途端に唯一が目を輝かせる。

 

「仕方ないですね、一つ貸しですよ」

「そう言ってくれると思ってました。ええよろこんで貸しにさせてくだい」

 

 やっぱり自分は唯一に甘いなと思う逆算だった。

 

(ま、しょうがないか唯一さんにはお世話になったからなぁ)

 

Sub.4

 

手榴弾が爆発したことを確認した三人の男たちは扉をゆっくりと開けて中に入った。

 

「おい!いないぞ!?」

 

 玄関とリビングへと繋がる廊下には手榴弾が爆発したであろう場所がえぐれて黒く焼けていた。

 

「おかしい、キレイすぎる」

 

 リーダーの男は部屋を見渡した、男たちもつられて見たが確かに爆弾が爆発したにしては床が黒く焦げているだけで壁には壊れているところはない。それに何より手榴弾の破片が見つからない。

 

「リーダー上を見てくれ」

 

 仲間の言葉につられて天井を見上げると男が探していたものがあった。

 手榴弾とその破片が天井にぴったりとくっついている。

 

 直後、男たちの身体が持ち上がった。

 いや、リーダー以外はそう認識できたかすら分からない、何しろそれくらい一瞬のことだった、気が付けば男たち三人の武器が天井へと張り付いていた。

 

拳銃、車の鍵、ナイフ、携帯、指輪、時計。

 

 一気に天井から血が滴った。

 

「がぁああああ!!!」

「くそ、磁力で鉄を吸ってやがるのか、お前はだいじょうぶか!?」

「右手の指二本と左手の指をやられた!」

 

 ターゲットがどうやって爆発から逃れたかはもはや瞭然だった。ここの天井は超強力な磁石になっている、その強力さは男のズボンにしまってあった拳銃をポケットを突き破って天井へと張り付かせるほどに、そして……仲間の右手を引きちぎって腕時計を吸い寄せるほどに。

 

「ちぐしょう、いってええ!!」

 

左手を丸ごと持っていかれ痛みに蹲る男にもう一人の仲間が服をちぎって包帯代わりに巻き付けて止血してやる。

 

「おまえはもういい、その分じゃ無理だろう、戻ってろ」

「すまねぇ、すまねぇ、畜生これくっつくのかなぁ」

 

 男はちぎれた左手を拾い男たちに背を向ける。

だから気がつかなかった。

 リビングの扉からちょこんと覗いた小さな手が電気ポットを置いていったことに。

 

「よけろ!」

「っ!」

「は?がぁあああああげえっ」

 

 吸い込まれるようにというにはあまりにも早すぎる速度で飛んできたソレは撤退しようとしていた男の胸を貫いた。あまりにも馬鹿げた光景だった。

 

「走れ!」

 

 そう叫んでいる間にも男の隣を大小の電化製品が弾丸のようなスピードで通り抜けていく。出来るだけ身をかがめて男たちは廊下を走り抜けた。

 

 辿り着いたリビングにソレはいた。

 

「うん、うん、分かってるよ、数多おじちゃん、物体を切るには包丁と同じで押すよりも引いた方がいいんだよね!」

 

 不意打ちのように投げられたのは黒い真円のような球体だった。ボールペンの先端を野球ボールほどの大きさにしたようなそれは男たちのリーダーがドアノブに触れていた右手を削り取った。

 

「ぎいいい!!?」

 

 摩擦切断、というものがある。

 包丁が野菜を切るときに働く力と言うのは圧力だけではない、引く力によって分子レベル間での摩擦熱を引き起こし分子結合を弱め物体を削り取っているのだ。

 今円周が投げた球体は顕微鏡レベルでの小さな『刃』がついている。これが回転するように投げつけられた結果男の右手を削り取った。

 勿論ただの普通に投げた程度では右手に穴をあけるほどの切断力は出ない。では何故か。

 

「球が……浮いてる?」

 

 それはこの部屋が磁力操作場なっているからだ。

 

 永久磁石の周りで磁石を回転させると永遠に回り続けるというのはモーターの実験で小学生で習う事だ、このモーターの仕組みをこの部屋、いや、木原逆算が借りているこの部屋は改造されていた。

 

 円周はこの部屋のことを巨大な誘導電流、電磁誘導の実験場(遊び場)くらいにしか思っていないが本来この部屋を逆算はセーフハウスとして活用している。暗部のいくつかのグループがもつセーフハウスのようにこの部屋自体も二人にとってはいくつかあるセーブハウス(遊び場)なのだ、当然、外部からの襲撃の備えはしてある。

この真円の使い方は逆算の『発想』でもあるが円周は常に誰かの『木原』の『発想』を借りているので想定されたものより常に上をいく『凶悪』な悪用をしていく。

 

 磁力によって操られた球体が男たちを襲う。

 切断ではなく削り取っていく黒の真円がどうなっていくかは円周にすら分からない。

 

Sub.5

 

「やれやれ、『上条当麻』を使う『発想』すら思いつきませんか」

 

 どこかの施設のどこかの部屋で木原唯一は呟いた。

 向き合っているモニター画面には木原円周が襲撃者たちを撃退していく様が写されている、すべての録画を確認した後、唯一はつまらなそうに、期待外れと呟いてパソコンを閉じた。

 

「円周ちゃんにはやっぱり『木原』が足りませんね」

 

 部屋に置いてあるデジタル時計には19:00と表示されている、彼女が唯一と別れて既に三時間が経っていた。

 今頃逆算は円周とどこかの新しいセーブハウスに移っている事だろうかと、円周を心配しているであろう逆算の姿が彼女の脳裏に浮かんだが、どうでもいいかと考え直す。

 

 そんなことよりも彼女の興味を引くものがあるのだから。

 

「上条当麻のヒーロー性、同じようにヒーローとぶつけ合わせればどうなるか実際に確認したかったのですが円周ちゃんがあれでは仕方ありません、これ以上は上がうるさいですしね」

 

 せっかくヒーロー候補者を用意したのにと、肩をすくめた彼女のテーブルには三人の男の顔写真とデータの記載された紙が乗っていた。

 

「まぁ、円周ちゃんごときにアレではもともと期待外れでしたか」

 

 科学者は笑う。

 

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