囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
十狼刀決死組
突き出した刀剣が、骨と骨の間を貫通し、男の動き止める。
男の口から血が零れ落ちていくのを俺は笑って見ていた。
こいつは人身売買で生計を立てていたクズである。いくら苦しめようが、罪であろうはずもない。
「アヤメ色の瞳に……黄赤の髪……」
男が口を動かす。大したもんだと俺は思ったね。これから死ぬのに、最後の言葉が俺の自己紹介だってんだからよ。
殊勝すぎて泣けちゃうね。
「何故だ。何故盗賊王ヒョウが、決死組なんかと……」
「さて何故だったかな……成り行き、暇潰し、まあ、両方かな」
刀を引き抜こうとした。
しかしその時、男が俺の手をつかんで止めた。
汚い手で触りやがってと思う反面、俺は怒ることも忘れて感心しちゃったよ。
いあ、中々出来ることじゃないよ、こりゃ。こちとら肺貫いたはずなんだからさ。
ゾンビかこいつは。
「無駄なことだ」
「あ?」
「お前は確かに強い。だがそれだけだ。お前には何もない。欲もなければ感情もない。人に紛れていてもいずれ割れるぞ。お前の全ては虚構。そして皆お前の元から消え――グハ!!」
男が言葉を締めくくるまえに、俺はつかまれていない手で男を殴り飛ばした。
「お前は俺の師匠か何かかボケー。まあ俺の師はとっくに――俺が殺したがな」
刀を鞘に納め、俺は笑った。
空を見上げる。
今日は満月である。
組織を襲撃するなら新月が理想だが、この程度の奴ら相手ならそんなもん関係ない。
まあ
「盗賊王、ヒョウか?」
ふと、後ろの木陰から声がする。この俺に存在を悟らせないとは、さすがに
俺は笑って振り返った。
「やだなー姉さん、聞いてたの? 盗み聞きは良くないぜー」
「唇の動きでわかった。クセでな。しかしお前にそんなごたいそうな異名があったとはな」
「かっこいいだろ?」
「それは名で決めることではないな。重要なのは、盗賊王と呼ばれて、何をなしてきたかだ」
「名前通りのことさ。期待に添えてるかは、ちょっとわからないな」
「義賊か?」
「ま、俺基準では?」
「そうか。ならばいい」
その実にあっさりとした問答に、俺は肩をすくめて笑った。もうちょっと突き詰めて聞いてみてもいいと思うけどな。自己申告程あてにならないものはねえからよ。
でもまあ、それがこいつの信頼の見せ方だってんなら悪くはない。俺は嫌いじゃないね。
「勘違いしてくれるなよ」
「あ?」
「この世界ではあっさりと人が死んでいく。敵も味方も。お前のような野良犬の素性を詳しく知ったところで無意味と思ったまでの話」
「さいですか」
訂正。やっぱり嫌いだった。
「まあ死ぬのは、あたしの方が先かもしれないがな」
「そんな湿っぽいまとめ方すんなよ」
苦笑いを零しながら、俺は言った。
「あくまで可能性の一つを言ったまで。さて、掃討の仕上げだ。行くぞ、ヒョウ」
腰の刀を持ち上げ
「了解」
告げて、二人共々跳躍する。
風を纏った俺たちの跳躍は、優に数メートルは越えていた。
土の上の木の葉が、風にさらわれフワリと舞う。
俺たちが去ったその先には、人身売買組織のアジトとも言える、弧寺院が建っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
十狼刀決死組三番隊。
東の大陸、東尾が有する最強の剣客集団。名前の通り全十隊ある。
隊ごとに役割が違うが、俺、有火が所属している三番隊は、主に『外』で活動する。
この外というのは他国を指し、つまり三番隊というのは、東尾の外交兼外攻部隊ということだ。
必然、今回の任務、人身売買組織の掃討も、東尾ではなく、他国で行われていること、ということになる。
というのも、東尾の女は
今回の任務はさらわれた女子供の救出と、このゴミどもを凄惨かつ誰がやったかわかる形で皆殺しにすること。
――ま、俺は
北翼の盗賊王。それが俺のかつての異名。それがどうしてこんなことをやってるのかってのは――まあ、さっきも言った通り、ただの成り行きってやつさ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
コンコンコンコンコン……。
弧寺院内の壁を叩いて回った。
何故こんなことをしているのかというと――
かんかん。
一部鈍い音がした。
やはりな。思ってすぐに抜刀した。壁の一部が崩れ落ちる。その先には隠し階段が続いていた。
「どうした、ヒョウ」
頭の部屋を見て回っていた
「隠し部屋」
「ほう。よく見つけたな」
「頭の部屋と隣の部屋との間に不自然な空白があった。最初からあったのか後から足したのかは知らないが、いずれにせよ、この手のアジトには必ず一つは隠し部屋があるもんだ。雪女から送られてきた間取りを見た時から、多分このラインだと思ってたよ」
「ふん、なるほどな。伊達に盗賊王とは呼ばれてないわけだ。家捜しをするのは得意らしい」
「誉め言葉として受け止めましょう」
「ふん。で、どうだ? 魔力痕の内訳は」
「喜。楽。愛。信。恐。複数。三人から五人ってところか」
魔力痕というのは、魔術師が残していった痕跡のことである。
魔力の構成要素は、己が念半分、死者の念半分で構成される。
つまり、魔力の半分は己が念、
一流の魔術師は、
まあ難度は高いけどな。
「ふむ。おかしいな、かなり」
さすがに
ここは隠し階段である。逃げるため、隠れるために作られたと考えるのが自然。
しかし、この場に残された『感情』は、喜。楽。愛。信。恐。
この感情分布は、どちらかというと宝物庫のそれである。
ならばそれなんだろうと考えてみても、やはりおかしい。
宝物庫なら、何故、信と恐、すなわち『敬意』という感情が残っているのか。
これは、何かを奉っている時に残される、魔術師の感情だ。
結論。この先には確実に何かがある。そして、何かがいる。
「まあ、この先に待っているのが鬼であろうが蛇であろうが――」
すると、階段の左右に取り付けられた明かりが次々についていく。
風を操り、砂台、つまり灯りの源である砂を一瞬でかき混ぜたのである。簡単にやっているように見えるが、
「我ら東の狼の敵ではない」
東の狼とは、こいつら十狼刀決死組三番隊の異名である。
しかし先も言ったように、俺は決死組ではない。ただの雇われ。
言うなら――
「まあお前はただの野良犬だがな。払った銭分は働いてもらうぞ」
「やれやれ。野良犬も金貰わないと食っていけない時代か。世知辛いね」
肩をすくめながら、俺は笑った。