囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
「ども~っ!!」
「キャッ!!」
火のAクラスの入り口前で腰掛けていた俺は、やってきた女魔導師に向けて手を上げた。
発動まで六秒。
こいつは内閣守衛隊じゃないな……。
「お、オホン!! 話は学園長から伺っています。あたしが、この火のAクラスの担任、ナターシャ、ディーンです」
「どうも。リティシア=ヒョウだ」
「あ、あの~」
「ん?」
扉を開けようとする俺に声をかけてくるので、振り返った。
「なんだよ」
「暴れないでくださいね?」
「おいおい。お前の目は節穴かよ」
「え?」
俺はスペアの眼鏡をクイと持ち上げ、笑った。
「暴れるつもりなら、こんな形はしてないだろ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
教室に入る。
俺とナターシャの二人で、教壇に立った。
万座の視線を一身に浴びる。その視線の中にはもちろんリンも含まれている。リンは口元を袖で隠しながら、俺のことを見ていた。
多分に驚いているのが見て取れる。
「えーっと、オホン。それでは皆さん、知っているとも思いますが、ご紹介させていただきます。本日急遽Bクラスから転入することになった――」
「リティシア=ヒョウだ。よろしく」
ナターシャよりも先に俺が言った。
ガヤガヤガヤ……。
例によって、クラス内でヒソヒソ話が展開される。
ってか、せっかく髪色変えて眼鏡までしてるってのに、全然目立ってる気がするな。
全然意味ねえじゃねえか、この変装。
四方山話を断ち切るように、ナターシャが一つ咳払い。
「じゃあ君の席は――元々ネイファちゃんの席だった、あそこで」
『空席は全部で三つ』あったが、そのうちの一つを指して、ナターシャが言った。
足を回す。
リンの一つ隣の椅子を引いて、腰をつけた。
ナターシャが背中を向けて、黒板と向き合う。俺はアゴ肘つきながらそれを見つめて――ふと、リンに目をやった。
リンは今も、口元を押さえて、俺のことを見ていた。
俺は本来、誰かに目を向けるってのが、好きじゃない。目を向けて、向こうがこっちを見ていなかったら、いい気分がしないからだ。
しかし、リンのことは度々見てしまう。何故ってこいつは、いつもいつも俺のことを見てきているからだ。
今もそうだ。
いつまでも同じ格好で、ずっと俺のことを見つめてきている。
何なんだよお前はって、言いたくなって、思わず笑った。
かけていた眼鏡を外す。外す時、眼鏡の耳かけが髪をこすった。
アゴ肘ついて、リンに目を向けた。笑った顔はほどけていない。
口を開く。声には出さない。
ただ口だけで伝えた。
こいつの故郷、東尾《とうび》の言葉で。
『ほらな? すぐに会えただろ?』
リンが口元を隠したまま、肩を大きく持ち上げる。
両手を下ろした。
リンは初め、とても困ったような顔で、笑った。
しかしその後、何かに押されるように、表情を変えていって――
「はい!!」
いつもの、くすぐったそうな顔で、笑った。
『だからお前声に出すなっつうに』
口話で俺はそう注意した。
「はわ!!」
リンが口元を袖で隠して声を上げる。
そんなリンを見て、俺はまた笑った。