囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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四つの手紙

 ドサドサドサ。

 

 

 外靴から中靴に変えようと下駄箱を開けると、封筒が四枚ほど零れてきた。一枚を除いて、ハートのシールで封がされており、どう見たってこれは、ラブレターというやつだった。

 

 俺は封を開けることなく、一枚一枚を見鬼(けんき)で見据えた。見鬼(けんき)は魔力の流れを読む青魔術で、魔術師の感情を読む青魔術でもある。

 

 というのも、魔力の構成要素は死念半分思念半分。故に魔力の流れを読むと、半分は魔術師の思念(かんじょう)がわかるという論理になる。まあ読めればの話でもあるが。

 

 そして魔術師の魔力、すなわち死念兼思念は、物質にもまた残る。それを魔力痕という。

 

 俺は、最後の一枚。ハートのシールがない、無骨な封筒を見て、笑った。

 

 

「リン。処分しとけ」

 

 

 その最後の一枚も含めた四枚を、リンに渡した。ちなみに俺もリンも未だ体操服姿である。さっきの魔術操育の帰りだからな、今は。

 

 

「え」

 

「えって、お前もしかして、俺のことひどい奴だと思ってる?」

 

「いえ、そのようなことは……」

 

 

 目を伏せて、リンが言った。

 

 俺はため息一つ。

 

 

「あのなあリン」

 

「ですが」

 

「ん?」

 

「あの、やはり少し……道に反するかな……とは、思います」

 

 

 余談だが、東尾(とうび)の人間は何かとつけて道という言葉を使う。

 まあ本当にどうでもいい小話ではあるが。

 

 

「それは、これが本物だったらの話だろ?」

 

 

 階段に足をかけながら、俺は言った。

 

 

「え……」

 

「時系列で考えてみろ。確かに俺はルイセってやつに、非公式とはいえ勝った。しかしそれはほんの数分前の出来事だろ? それなのに、何だってこんなもんが四枚も届くんだよ。普通に考えておかしいだろ?」

 

「そうですね。ですが、兄様はちょっと普通じゃないので……」

 

「あちゃー。言っちゃったね、リンちゃん」

 

「あ、いえその!! 今のは違います!! わ、忘れてください!!」

 

「……」

 

 

 

『わ、忘れてください!! あの時あたしが言ったことは!!』

 

 

 

 ふと、朝、リンが言ったことをふと思い出した。

 

 でもまあ、すぐ忘れた。

 

 俺は何かに固執するってのが、好きじゃないからな。

 

 本人も忘れてくれって言ってるんだ。

 これ以上深くつっこまない方がいいんだろう、多分。

 リンは良くも悪くも、構ってアピールする女じゃないからな。

 

 

「話を戻すが、時系列的にこんなもんが俺に四枚も届くのはおかしい。だからこれは偽装なんだよ」

 

「偽装……ですか?」

 

「そうだ。一番確率が高いのは、あの時のメガネデブ」

 

「三限目の時の、魔導師の方でしょうか?」

 

「メガネデブで通じるとはねー。さすがによくわかっていらっしゃる」

 

「あの、いえ、そういうわけでは……」

 

 

 リンが困った顔で、目を伏せる。

 

 リンはからかうと、すぐこういう反応をするから面白い。

 

 

「次点は体育中にトイレにいった青頭」

 

「ですがそれは、他の何人かの方も行かれていた気がしますが。その中には女性の方もいましたし」

 

「そうだな。だからガチって可能性もある。そして、四つ目の可能性として――」

 

「……」

 

 

 話している間に、俺とリンは、火のAクラスがある、五階についていた。

 

 

「じゃ、俺はこっちだから。またここで集合な。遅れるなよ。俺は待つのが嫌いだからな」

 

「え、あの……はい!!」

 

 

 手をパタパタと振って、俺は背中を向けた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ん!! おいしいです、これ!!」

 

 

 昼休み。

 食堂で一番安いセットを注文したリンは、紅い米を口に入れて感嘆の声を上げていた。

 

 東尾(とうび)にはない飯だった。空輸が発達した今の世の中、他国の飯なんていくらでも食えるというのは先進国の発想だ。

 東尾の本格的な冬期は港さえ凍らせる。凍らない港、つまり死念濃度が低い地域を求めて戦争さえ起きたほどだ。加えて土人特有のこじらせや、人さらいが多い件もあって、東尾の人間は外の人間と文化をすこぶる嫌う。

 仮に持ち込まれても、東尾の寒さは外食を殺していて、輸入したものを使いきれない、というのもあった。

 あの寒さの中、こんなもん食いに行っていたら頭がおかしい。東尾は温まる鍋料理と、冷たい海で脂をたくわえた魚料理が盛んであった。

 ちなみに輸出は毛皮、毛織物、魔鉱石が盛んである。主な交易相手は資源が薄い北頭(ほくとう)なので、商業的な同盟国と言えなくもない。

 

 

 皿の上のパンを取って、かじる。そんな時。机の上に影が伸びていた。振り返る。

 

 そこには、おぼんの上にどんぶり一つ置いた、金髪の女が立っていた。どんぶりからは湯気と香りが立ち上っている。

 

 

「手紙入れてたと思うんだけど、読んでくれなかったのかな?」

 

 

 互いに見鬼(けんき)を用いて互いの魔装(まそう)を見据える。

 

 こいつはあの時――俺がハゲのチンピラを追い払った時――リンの近くにいた女。

 

 その魔装は、学園ナンバー2と呼ばれるルイセより遥かに格上。

 

 

 間違いなくなく内閣守衛隊だ。

 

 

「となり。空いてる? 話があるんだけど。リティシア=ヒョウくん?」

 

「……」

 

 

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