囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ 作:松岡夜空
校舎裏。
リンが一人で立っている。辺りをキョロキョロと見まわしていた。俺はそんなリンの後ろに立って、パキリと小枝を踏み抜いた。
音に反応して、リンが振り返る。
「兄様!!」
「何してんだ、リン」
尋ねると、リンがシュンと目を伏せる。その手には、俺が処分するように言って渡した封筒があった。
「お前っさー」
目蓋を下ろして、リンを指さす。
リンにはこれが偽装であると告げたはずだ。封を開いて見るまでもない。俺たち魔術師には、
それは同時に、リンにもわかるという事実を示している。何故なら、リンも同じく魔術師なのだから。
手紙をきちんと見鬼で見ていさえすれば、わかるはずだ。
どうして
いずれか、あるいは全てを、尋ねようと思った。
だがやめた。
すぐに愚問であると悟ったからだ。
仮に用いて『嘘』とわかったとしても、こいつは多分ここに来る。
もしもがあるかもしれないから。
もしも自分の見立てが間違いなら――誰かが、傷つくかもしれないから。
こいつは、リンは、そういう女だ。
「リン」
近づきながら、俺は言った。
シュンと顔を俯けていたリンが、顔を上げる。
俺はそんなリンに手を向けた。
「手紙。貸せ。後は俺が一人で片付ける」
「えええええええええええ!?」
リンが口元を両手で隠しながら、大層驚いた声を上げる。
「え、いや、なに?」
「いえその、兄様らしくないなと思って……」
「いや、それにしたって驚きすぎだろ」
「申し訳ありません。ですがその、相手の方も喜ぶと思います。断られるとしても、受け入れられるとしても、本人からの方が、よいでしょうから」
何故か目を伏せながら、リンが言った。
「まあそんな相手いないけどな」
「そうなのですか?」
「だからー、これは偽装。残った二枚も偽装。そう最初に言っただろうが。俺は確かに
でもまあ、それじゃお前は納得しないだろ? スイッチ入ったお前は絶対折れないし。だから、俺がササっと見てきてやるよ。だから、貸せ」
「……」
リンはどこか煮え切らない様子で、視線を土に落としている。
こいつ何か隠してるな……。
そう思ったが、リン相手に
今もこれからも。
深い意味はない。
ただお前が――
『強くなりたいんです。自分以外の全てを守れる強さがほしい』
復讐ではなく、誰かを守るために力がほしいというならば、俺はその心ではなく、その言葉を信じようと、そう決めた。
「あの兄様。兄様さえよければ、あたしが代わりに出向きましょうか?」
「ほー」
アゴを持ち上げながら、リンを見下ろす。そんな俺を見て、リンがあたふたと手を振った。
「いやその、もしもということだってあります。もしもこれが偽装なら、その……兄様が騙されているところは、あまり見たくないですし……」
「ふーん」
俺が行かないと言うと道に反すと言い、俺が行くと言うと自分が行くと言い出す。かなり前後で矛盾が発生している。
まあ発言の矛盾なんてのはそんなに珍しいことじゃない。こんなことでいちいち揚げ足とってたらキリがないというのは確かだ。だがしかし、理由は把握しておいた方がいい。
焦っているのか自分にとって都合がいいように解釈を捻じ曲げているのか。まず、その二択。リンの場合――
多分、両方だろうな……。
「わかったよ」
足を踏み出して、リンとすれ違う。リンはシュンと顔をうつむけたままだった。
俺はすれ違い様、落ち込むリンのお尻をフワリと撫でた。
「はわ!!」
リンが飛びあがる。俺はそんなリンの隙をついて、もも、ついで、胸元に神速で手を伸ばした。
引き抜いたとき、俺の手には手紙『四通』が挟まっていた。
リンが赤い顔で、尻を押さえながら俺を睨んでいる。
「……兄様。セクハラです」
「なんと言ってもらっても結構。それより、これはどういうことかな?」
俺は、抜き取った封筒を扇状に四通広げた。
それは、リンにとってわかりやすいようにであったが、俺が見易いようにするためでもあった。
感情の内訳は『嘘』『嘘』『嘘』『愛』
やはりな。
思いながら、
俺の下駄箱に入っていたのは四通。数は合っている。ただし、リンの手にある一通を、カウントしなければの話である。
これだと合計五通になる。数が合わない。どういうことなのか。
答えは明白だった。
「お前も貰ってたのか。というか、引けか? 俺がお前の動きを見過ごすとは思えねえ」