囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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出会い

 有火(あるか)と二人で階段を下りる。足音は立てない。別にビビってるわけじゃない。お互い足音を消すのがクセなだけだ。

 

 

 しばらく歩いた先に、いかにも頑丈そうな扉が見えた。古木でできており、見ただけで分厚さが伝わる。扉というより、門と言った方が近いかもしれない。

 俺は笑って腰の刀に手をかけ、鍔を持ち上げた。

 

 

「どうするゴリ姉。怖かったら一二の三で切るけ――うお!!」

 

 

 俺は言葉も半ばに跳躍した。有火(あるか)が俺の背後から、物言わず刀を振るってきたからだ。

 有火(あるか)の神速の抜刀が、かまいたちを起こし数メートル先の扉を破壊した。

 

 

 カラン。

 

 

 有火(あるか)が音を立てて納刀する。俺はそのすぐ横に降り立って、肩をすくめた。

 

 

「相変わらず冗談が通じねえなー、ゴリ姉。暴力ヒロインの時代じゃないぜー」

 

 

 言うも、有火(あるか)は何も答えなかった。ほんと冗談が通じないぜ。

 綺麗じゃないと『ゴリ姉』なんて呼べないってのにさ。

 目を正面に向ける。正面は、舞い上がったホコリのせいでよく見えなかった。だがそれも数秒の話だろう。じきこのホコリも晴れる。

 

 

 俺は笑って、腰の刀を引き抜いた。

 

 

 さあ――何が出る?

 

 

 ホコリが晴れる。その先から出てきたのは、ガキだった。

 

 

 年の頃は推定十前後。長い栗色の髪をまっすぐ下ろし、正座しながらこっちを鋭く睨み付けてくる。

 正座は東尾(とうび)特有の座り方だ。つまりこいつは東尾の女ということになる。

 

 

 しかし何故だ? 何故この女一人をこんなとこに押し込め、かつ奉っていた?

 

 

 十そこそこのガキが、この状況で、俺たち二人にガン飛ばす。

 間違いなくただのガキじゃない。聡いガキなんて環境次第でいくらでも作れるが、この状況にいて、かつ動揺しないガキというのは、どう考えても普通じゃな――ん?

 

 

 ふと、少女が膝の上で握った手に目を向ける。少女の手は小刻みに震えていた。今一度その顔を見ると、目や唇も微かに震えている。

 

 

 つまり、先のこいつのガン飛ばしは強がりってわけだ。しかし、例えこいつがどんな反応を返してこようが、やはりこいつには何かある。

 こいつが奉られていたという謎に関しては、まだ解明されていないのだから。

 

 

 可能性としては、俺が魔力痕を読み違えた、というのもなくはない。しかし、先の魔力痕は有火も確認していたはず。まさか野良犬でしかない俺の情報を全て鵜呑みにするほど、有火もバカではない、はず。

 とはいえ、一度聞いてみるか――

 

 

「ゴリ姉――」

 

 

 顔を向ける。その時――

 

 

『何だヒョウ。お前は本当に歴史に疎いな。この女は――』

 

 

 ふと、頭に誰かの声が流れ込んできた。

 何だとこれは――

 

 

「ちょっとちょっとー」

 

 

 そんな考えを塗り潰すように、自分達が下ってきた階段から、新たな女の声が聞こえてきた。

 先に商品として組織に潜入していた女、雪蘭である。

 布一枚を身体に巻いた、いかにも奴隷的な格好をしていて、その身に何があったのかは、あまり考えたくないところだ。

 

 

「いつまでこんなところで密会してんのよー。皆殺しにしてはい終わりじゃないんだからねー? 捕まった人らの解放はもちろん、生かした奴らの顔剥いだりとか、あそこ落としたりとか、それぶら下げて恐の魔力痕残したり、色々やること残って――あら?」

 

 

 ふと、雪蘭の目が俺たちを通り越してガキに向かう。

 

 

 雪蘭はそれを見て、合点がいったとばかりに手を打った。 

 

 

「ここの大将ロリコンだったのねー。うわー怖い」

 

 

 そんな一言で片付けていいのか、この問題を……。

 

 俺は今一度振り返って、ガキを見た。ガキは目を伏せながら、チラチラこちらを伺っている。

 

 

 本人に聞くのが一番早い。いずれにせよ両面の意見を擦り合わせないと真実にはたどりつけないだろうからな。

 だが、こいつにとったら、やっとつかんだ安心だ。

 

 

 ――今聞くことでもないか……。

 

 

「雪女。上で生きてる奴で、まだ話せる奴いるか?」

 

「さあーどうだろ。もう大体やっちゃってるんじゃないかなー」

 

「そこのガキはお前らに任せるよ。俺はガキと面倒が嫌いだからな」

 

「待ってください!!」

 

 

 呼ばれて、振り返る。

 女はやはり顔を伏せていた。

 

 

 そして、意を決したように顔を上げた。

 

 

兄様(あにさま)は――」

 

「へ?」

 

 

 兄様? どういうことだ? 

 俺はいつから、こいつの兄貴に――

 

 

「兄様。兄様ってば」

 

「……」

 

「兄様ああああああああああああああ!!」

 

「うお!!」

 

 

 俺は大きく上体を持ち上げた。

 そこにいたのは、先程の栗色の髪をした子供。

 

 

 名をリティシア=(リン)

 十狼刀決死組三年生にして、俺の義妹。(リン)という(あざな)も、何の因果か俺がつけた。

 

 

「はぁー」

 

 

 俺は黄赤ではなく、『黒色』に染めた髪を持ち上げた。

 

 

「あ、申し訳ございません。もしかして、うるさかったでしょうか?」

 

「いや、そうじゃない。いやまあうるさかったのは間違いないが」

 

「はわ!!」

 

 

 リンが口元を押さえて声をあげる。

 そのいかにもガキらしい仕草を見て、俺は笑った。

 

 

「しかし、それが一番の理由じゃない。ちょっと、昔の夢を見ててな」

 

「昔の夢……ですか?」

 

「ああ。無駄に臨場感があって、ちょっと疲れた。――何だよ?」

 

 

 リンは今も口元を両手で隠しながら俺を見ている。ただその顔が、ほんのり赤く、ポーッと照れている感じだったので、俺は尋ねた。ガキだからか、こいつは時々こういう脈絡のない、意味不明なことをする。

 

 

「あ、いえその、兄様の昔というのが、少し気になったもので」

 

「お前の夢だよ」

 

「え?」

 

「だから、お前と初めて会った時の夢を見てたんだよ」

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