囚われの少女を救ってから惚れられている。しかし相手は十一歳だ   作:松岡夜空

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今回から三人称になります。申し訳ない。


第三章 貴女が盗んだものは
対価で返せ


 放課後、学園長室に呼び出されたヒョウは、ソファーに座っていた。

 

 

 学園長は、上座の席に座っている。机の前に両肘ついて、口元を隠していた。 

 

 

 額には油汗。今は四月でやや涼しい。更年期障害ってやつなのか、あるいは自分を恐れてなのか。  

 

 

 まあ後者と考えるのが自然か。

 

 

「で? 俺に用ってのは?」

 

「君は先日、マルコくんと問題を起こしたそうだね?」

 

「ああ。あいつが突然喧嘩売ってきたもんでな。振りかかる火の粉を、ちょいと払ったまでのことさ」

 

「話には聞いている。彼の問題行動はあれが初めてではない。故に、彼は停学処分とすることにした。次に問題を起こせば、退学だ」

 

「そうか。いい判断したと思うぜ、学園長さん」

 

「しかし、君にも何らかの処分は下さねばならない。それでこそ、上に立つものとしての、公平な判断というものだ」

 

「ふっ。まあ間違ってはないかもな。で? 俺に下る処分ってのは?」

 

「善行」

 

「善行?」

 

「そうだ。魔術師として、悪事を働いた分の善行をしてもらいたい。いわゆる、対価で返す、というやつだ」

 

「俺は対価で返す、清流派魔術師じゃないんだけどねー。まあいいや。つまり、俺に何か解決してほしい案件があるってことだな?」

 

「端的に言ってしまえばそうだ。――入りたまえ」

 

「失礼します!!」

 

 

 気持ちのいい声がして、扉が開く。

 

 ヒョウが目を向けた。

 

 そこにいたのは、ピンク色の髪をした獣人(フェルナンテ)。こいつは――

 

 

『何だこりゃ』

 

 

 あのときのマキビシを拾っていた女。そして――

 

 

 

『すげえよ、あのミーティアちゃんに勝っちゃったよ』

 

 

 あの時、リンと最後まで競い合っていた、高跳びの時の女……か。

 

 

「……」

 

「ども―、リティシア=ヒョウさん」

 

 

 跳ねるような口調で、女が言った。

 

 

「こいつがどうかしたのか?」

 

「詳しくは彼女から聞いてもらいたいが、彼女は今ちょっとした問題を抱えていてね」

 

 

 フェルナンテの女を見る。

 

 少女はニコニコと笑っていて、特に『被害者』という面はしていなかった。

 

 

「とりあえず、前座れよ。茶も出ないところだけどな」

 

 

 横柄な口調と格好で、ヒョウは笑った。

 

 

   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「でさー、今ボクが抱えている問題っていうのは――」

 

「ちょっと待った」

 

 

 正面のソファーに腰掛けたミーティアの話を、ヒョウは早速へし折った。

 

 

「え?」

 

「お前、男なの?」

 

「えぇ!? 男の子に見えるかな? 身体つきはいいって、一部じゃ評判なんだけど……」

 

「いや、一人称」

 

「あー、この口調は、今のボクのマイブーム。可愛いでしょ?」

 

 

 やめた方がいいんじゃない? と言おうと思ったが、やめた。

 

 余計なお世話ってなものだし、一応この一人称でも形になるほど、容姿端麗だってのもある。

 

 フェルナンテと魔族は、見目が綺麗なものが多いからな。

 

 

「で? どういう被害なんよ。言ってみ?」

 

「なんかねー、欲しいって言ったら、家にそれが贈られてくる」

 

「めっちゃいいじゃん」

 

「でしょうー」

 

「はぁ?」

 

「あーいや、何かさ、人に話したら、それ絶対危ないってみんな言うから、ちょっと相談してみようかなーって」

 

「ふーん。まあ確かに危ないだろうな。無償の好意なんてものはありえねえ。その物を贈ってきている奴は、今頃お前の恋人気分なんじゃねえか?」

 

「えぇ! それはちょっと困る」

 

「八方美人のツケが回ったな」

 

「普通に楽しく過ごしてるだけだよー」

 

「それが傷なんだよ。心当たりは?」

 

「なし」

 

「お前が○○が欲しいと言ったものが贈られてくるのなら、お前が○○が欲しいと告げた相手が犯人だ。何人に告げた?」

 

「数えきれないぐらい」

 

「迷宮入りだな。あきらめろ」

 

「うわああああああああああストップストップストップ!!」

 

 

 ミーティアが困ったように手を上げるので、ヒョウは少し眉を持ち上げた。

 

 

(そこまで事件解決に躍起になっているようには見えなかったが……)

 

 

 ミーティアが指を一本立てる。

 

 

「告げた相手が犯人って言うけどさ、送られてくる物ほとんど今流行っているものなんだよ。ボクって流行に敏感だから」

 

「ふーん。いつから送られてきている?」

 

「え?」

 

「そこが起点なんだよ。知り合いじゃないなら、その日より少し前にお前と犯人は出会っているはずだろ。そこに、犯人がお前に執着するだけの何かがあったんだよ」

 

「うーん。何かあったかなー」

 

「ないのであれば知り合いなのかもしれん。どっちにしろこの問題は早期には解決できない。なので罠を張ることをすすめる」

 

「え、どんなどんな?」

 

「例えば、お前が口をつけたビンをその辺に放置。それを捨てるでもなく、盗んでいく奴がいたらそいつが犯人である可能性が極めて高い」

 

「うわー気持ち悪い。しかも違う可能性あるのがマイナス五百点。他にはないの?」

 

「であれば、らしい人間を捕まえて、お前が〇〇がほしいと言う。この〇〇は、雑誌なんかに乗っていないものにする。他の人間には言わない。それを繰り返す。届いたとき、それを言った相手が犯人だ」

 

「うえー。気が遠くなるー。ボク待つの好きじゃないんだ。他にはないの?」

 

「一遍死んでこい」

 

 

 ヒョウは告げて、そのまま出口へと向かった。

 

 

「うわああああああああああストップストップストップ!! それにさ、こういうものもうちに届くようになったんだって!! 本当に一刻の猶予もないの、本当に!!」

 

 

 振り返る。

 

 ミーティアは、手に持った何かをピラピラと振っていた。

 

 ヒョウはため息ついて、踵を返し、ソファーの手すりに腰かけた。

 

 

「見せてみろ」

 

 

 ミーティアが紙を渡してくる。

 

 

 ヒョウはそれを、見鬼(けんき)を通して見据えた。

 

 

『そろそろお金がなくなりそうなので、いただきにまいろうと思います』

 

 

 文章は新聞の文字を一文字ずつ切り抜いて作られている。

 

 しかしヒョウが着目していたのは、文面ではなく、魔力痕。

 

 魔力痕とは、魔術師が残した痕跡のことである。

 

 魔術師がまとっている魔力は、死念半分思念半分で構成されている。

 

 すなわち魔力の半分は術者の思念(かんじょう)で構成されており、一流の魔術師は、魔術師が残した痕跡から、その時魔術師がどういう感情であったかを読み解ける。

 

 そして、その読み解く術のことを見鬼(けんき)と呼ぶ。

 

 

 ――が、ヒョウの腕をもってしても、この手紙から痕跡を抜き取ることは叶わなかった。

 

 

 要するにわからない。正確に言えば、その時魔術師が、どういう感情であったかがわからない。

 

 同じではないか。普通の人間なら思うだろう。しかし、ヒョウは普通ではない。プロだ。

 

 ヒョウは、合点がいったとばかりに、紙を叩いた。

 

 

「欲しいものが届くと言ったが、そのことを誰かに話したか?」

 

「話したよ」

 

「話した相手に同級生はいたか?」

 

「いた」

 

「家族は」

 

「多分知ってる」

 

「執事やメイドのようなものには」

 

「そっちから聞いたから知ってる」

 

「部外者には?」

 

「うーん。範囲が広いなー」

 

「他人。近所のおばちゃん。駄菓子屋のオヤジ。友人の身内。その辺に落書きしての自己主張」

 

「ない。ない。ない。ない。ない」

 

「なら、魔導師には?」

 

「え? あ、う、うーん、は、話したかなー?」

 

 

 振り返る。学園長を見た。学園長は脂汗をたっぷり流し、両肘ついた手で口元を隠している。

 

 

 やはりな。

 

 

 ヒョウはこの段階で、この事件のオチ七割を読み切った。

 

 

 しかし、問題なのは、残りの三割。

 

 

 見鬼(けんき)で見たところ、ミーティアは『嘘』をついていない。つまり、本当に贈り物は送られてきているのだ。

 

 ただのストーカー犯罪《?》という可能性も十分に考えられる。

 

 だが――

 

 

「おっさん。封筒持ってるか? この紙が入りそうなやつでいい」

 

 

 脅迫状をヒラヒラと振って、ヒョウが言った。

 

 

「あ、ああ。あるにはあるが……」

 

 

 引き出しを開いて、学園長が言った。

 

 ヒョウは脅迫状を裏向きにし、指先で何やら綴った。

 

 空筆。魔力で空間、あるいは物質に文章、模様などを綴る青魔術。綴られた文章は、見鬼(けんき)を用いないと、見ることはできない。

 

(絶対ではない。しかし、これが活きる時は必ずくる)

 

 それを四つ折りにして、胸ポケットの中にしまった。鞄を持って、ヒョウが立ち上がる。

 

 

「お前、今日暇か?」

 

「あ、やってくれんの!? 助かるー」

 

「深読みしなけりゃ犯人はまずただのストーカーだ。よって、今日一日お前と行動を共にして、犯人を釣る」

 

 

 話しながら、学園長の元に向かった。学園長は、額に汗をかきながら、封筒を机の上に置いている。

 

 

「サンキュ」

 

 

 言って、ヒョウはそれを受け取る。

 

 

「ペンはあるか?」

 

「ここにありますが」

 

「借りるぜ」

 

 

 封筒の裏に文を書く。それを見た学園長は、目を飛び出さんばかりに見開いていき、パンと口元を両手で押さえる。

 

 そんな学園長を、ヒョウは細くした瞳で見据えた。

 

 話したらお前を殺す。そう暗に訴えた。

 

 校章が入ったその封筒に、脅迫状を入れることなく、別ポケットにしまう。 

 

 

「釣るってつまり、どうするの?」

 

 

 あごに指先を添えて、小首を傾げるミーティア。 

 そんなミーティアに、ヒョウがさも何でもないことのように、言った。

 

 

「要するに、擬似的に彼氏彼女の関係になるってことだ。ただし一日だけな」

 

 

「なるほどーって、ええええええええええええ!!」

 

 

   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ガチャリ。

 

 扉を開く。

 

 扉の外で、リンが壁に背をつけ待っていた。

 

 

「兄様!!」

 

 

 顔を上げてリンが言った。

 

 

「あのなあリン」

 

 

 待っててもらって悪いなと、ヒョウが言おうとした時、手をとられた。

 

 とった相手はミーティアである。その瞬間、リンが目を見開くのが見えた。

 

 

「ゴメンね、リンちゃん!!」

 

 

 何しやがるとヒョウが口にするより早く、ミーティアが口を開く。

 

 そして、続けた。

 

 

「ボクとヒョウさんは、本日をもって、付き合うことになってしまいました!!」

 

「え」

 

 

 リンの目が点になる。

 

 そして。

 

 

「ええええええええええええ!!」

 

 

 リンの滅多に聞かない大音声が、響き渡った。

 

 

 

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